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プロローグ
巨大な石造りの城壁を前にセシリアは息を呑む。
旅立つ前に住んでいた王都にもこれ以上の城壁があったが、そちらは優雅さや美しさを兼ね備えていたのに対し、今目の前にあるのはそういった装飾を全て排した堅牢という二文字がよく似合う、まさに防壁だった。
壁には最上部以外にも所々に矢を射るための穴が多数空いていて、常に壁の外に対して威圧感を放っている。さらに壁の周りには深い堀が掘られ、そこを流れる水の中にいったい何があるのかをセシリアは想像したくなかった。
城塞都市ベイスト。そこに通じる2つしかない跳ね橋を渡り、巨人でも通れそうなほどの巨大な門をくぐり抜けた先には、王都とはまた別種の賑やかさが広がっていた。
「しばらくはここでの生活になるんだ」
セシリアは自分に言い聞かせるようにそう小声で呟いた。その声に新天地に来た歓びのようなものは感じられない。
王都から持ってきた地図を眺めながら、セシリアは冒険者組合へと歩みを進めた。