春が遠くても。
空を見上げてほぅ、と吐息をこぼす。
白い吐息が小さく風にゆられて消えた。
空気が冷え切っていてぶるりと身体を震わせる。
冬が来ていた。
景色は白く彩られてとても綺麗な様相を生み出している。
木々は雪の華を咲かせながら寒そうにその幹をさらけ出していた。
春になれば青々としているのに不思議な光景だと思う。
季節と言うのは何故こうも繰り返し同じように繰り返し訪れるのだろうか。
考えてみるけれどあまり頭がよくないのでわからなかった。
「そこの小さなお嬢さん、そんな格好で寒くはないですか?」
コートを着こんでシルクハットを被った初老の男性に声をかけられる。
ついきょとんと首を傾げてしまった。
わたしはこれが普通なのだけど、寒そうに見えるのかな。
「ぼくなんかはこんなに寒いと服をたくさん着こんで来ないと外には出られないのだけどね」
クスクスと苦笑いをする男性にわたしもクスクスと笑う。
だってその人は本当にたくさん着込んでいて着膨れしてしまっていた。
動きにくそうでちょっとかわいそう。
「早く春になるといいね」
わたしも暖かい春が好き。
寒いのが苦手ってわけじゃないけど、お花が大好きだから。
こくこくとうなずくと男性は再び笑った。
釣られてわたしももう一度笑う。
雪の華も綺麗だけれど、やっぱりお花は本物の方が好き。
「また会おうね、素敵なお嬢さん」
少し照れてしまうけれどえへへと笑って、手を振ってくれる男性に手を振り返す。
知らない人だしこの辺に住んでいるわけでもなさそうだからもう一度会うことはないだろうけれど。
「おやおや、こんな季節に珍しいね」
すぐそばに住んでいるおばさんが出てきた。
この人とはよく会う気がする。
わたしはここに住んでいるわけではないから冬にこの辺に来るのは確かに珍しいかもしれない。
おばさんはわたしを見ると嬉しそうな顔をする。
かわいいかわいいとお菓子をくれたりするのでわたしもおばさんが来ると嬉しくなった。
「今はこれしかないけど食べるかい?」
そう言っておばさんはチョコレートを差し出してくれる。
こくこくとうなずくとおばさんはわたしの手にチョコレートを乗せてくれた。
嬉しくて少しはしゃいでいるとおばさんが頭を撫でてくれる。
えへへーと笑顔がこぼれた。すごく幸せな気分。
「お前の元気な笑顔が見れるとあたしも嬉しいよ」
わたしが喜ぶとおばさんも喜んでくれる。
幸せが連鎖して広がっていくなんて、とっても素敵でいいなぁ。
心まで満たされたから今日は満足。
おばさんに手を振ってわたしは家に向かうことにした。
「また春にね」
ぱたぱたと家に向かっていると少年が前から走ってくる。
新雪に足跡をつけるのが嬉しいらしくて下を向いたまま。
道路に出そうになっていたから少年の顔の前で手を振る。
「うわっ、びっくりした!」
ごめんねと手を合わせて謝った。
車も通ってて危ないから前を見たほうがいいと思うし。
「あぁ、そっか。俺が前を見てなかったから危ないって注意してくれたんだな。ありがと」
笑顔になった少年を見てえへへーとまた笑みがこぼれる。
いいことをするとお前にも返ってくるんだよっておばあちゃんが言っていたのを思い出した。
本当だ、ちゃんとわたしに返ってきてくれる。
笑顔は素敵。幸せを呼ぶ魔法だから。
「気を付けるようにするよ。じゃあね」
手を振って駆け出した少年にわたしも笑顔で手を振り返した。
今日はお外に出てよかった。
おうちが見えてきてわたしはそんなことを思う。
冬の間はあまり家を出ないのだけど。
今日はなんとなくお外に出たくなって出てみたら素敵な人たちと出会えた。
ずっと寝てばかりじゃなくて今度から冬の間も少しお外に出てみよう。
冬のお外は素敵な出逢いが待っている。
春の妖精だってたまには冬の空へ飛び出してもいいよね。
こんなに綺麗な空なんだから――