寝取られクエスト
『・・・あぁん♡ そ、そこ♡らめぇ~♡ んっ♡ごめんね・・・かみと君 私・・・堕ちちゃった♡』
「な、なんだこれは・・・」
道に捨てられていた本を拾い、中身を覗いてしまった僕はその内容に驚愕する。それは黒髪ロングの清楚な雰囲気の美少女が、彼氏がいるのにも関わらず屈強な先輩と体の関係を持ってしまう。といった内容のものだった。そして、僕は一ヶ月前に勇気を出し告白した実川鈴という彼女がいる。―――黒髪ロングの清楚な雰囲気の美少女の―――
似ているのだ。名前は違うがこの本に書かれているヒロインと僕の彼女は異常なほど容姿が似ている。そこで僕は重大なことに気づいてしまう。もしかしたら、鈴も同じような境遇を送ってしまうかもしれないということに。僕は鈴が寝取られないようにするために徹夜して対策を考えた。
早速僕は筋トレを始めた。
いずれきたる屈強な先輩に負けないフィジカルを見せつけることができれば、鈴は僕の元から離れることはないだろうと考えた。体を鍛えるのは初めてなので少し不安はあるがとりあえず腕立て伏せと腹筋と背筋を千回ぐらいトレーニングすればいいだろう。
トレーニングを始めてから3ヶ月が経った。
「まこと・・・すごく大きくなったね・・・」
「鈴っ! どうだい、この体は?」
「うん・・・すっごくかっこいい・・・」
鈴は顔を少し赤くさせながら、僕の体をまじまじと観察している。
やはり僕の推理は正しかったんだ。あの本に書かれていたヒロインはとにかく大きいモノが好きだった。その結果、彼女は最終的にあの先輩に体を許してしまったのだろう。そこで僕は、もしかしたら鈴も大きいモノが大好きなのではと仮説を立てた。その仮説通り鈴は僕の体に夢中だ。この調子で寝取られないように対策を練っていこう。
僕と鈴は同じ高校の一年生で、初めて鈴を見て一瞬で一目惚れしてしまった。その次の日に僕は告白を実行した。彼女はなんと告白されることが初めてだったらしく、すごく慌てていた記憶がある。それから4ヶ月経った今日僕はさらなる山場を迎えることになる。
「私ね・・・テニス部に入ろうと思うの・・・」
それは放課後のことだった。突然鈴が意を決したような表情で僕にそう言った。
僕は失念していた。鈴とあの漫画のヒロインは酷似している。そのことに気づいていたのに、なぜこのことを想定できていなかったんだろうと。
これだけ慌てているのには理由がある。それは、あの漫画のヒロインもテニス部に入っていたからだ。屈強な先輩というのも実はテニス部の先輩だった。つまり、鈴が何らかの理由でテニス部に吸い込まれてしまうことぐらい想像することは可能だったということだ。
「な、なんでだい?なにか理由でもあるのか?」
「私も何か頑張れるような人になりたいって思ったの・・・」
「頑張る?」
「う、うん・・・」
少し恥ずかしそうな顔をしながら、僕を見る鈴。『私も』ということは他にも頑張っている人がいるということだ。・・・・・僕か?僕なのか鈴っ!僕がトレーニングに励んでいる姿を見て、憧れてくれたのか!
確かに、僕が筋トレをしていたこの3ヶ月間鈴はずっと僕のことを見守ってくれていた。そのおかげで、僕は今こうして強靭な肉体を手に入れることができた。もしかしたらその時に僕にあこがれてくれていたのかもしれない。
「わかったよ、僕は応援する」
「まこと・・・♡」
「僕もテニス部に入る!」
「ええっ!? 本当に?」
「ああ!」
逆に今テニス部に入らない手は無いだろう。もしこのまま本当に応援だけしていたら、それこそ本当に寝取られてしまう。僕はそんなことはさせたくない。よって僕は―――
早速テニス部に入部した。
「よろしくお願いします!」
「おおー テニスプレイヤーとは思えないほどデカいあんちゃんが入ってきてくれたなあ」
体が僕よりもずっと大きいテニス部の顧問である増田先生が僕を熱く歓迎してくれた。増田先生はすごくぼんやりしている人で、よく授業をほっぽりだしてどこか遠くに行ってしまうことで有名だ。今日はテニスコートに存在しているので幸運だ。
「は、はじめましてっ!実川鈴です!よろしくお願いします!」
「おおー これまたべっぴんさんだあ 今年は豊作だな~」
部活動の挨拶を終え僕たちは早速練習に参加した。この学校は、まあまあの強豪校でたまに全国大会に出場している選手がいた。そのこともあってか、部活が終わる頃には部員全員がへとへとになっていた。
「皆さんお疲れ様です!」
僕は少し前からトレーニングの一環としてランニング50キロを毎日走っていたので、初日でも練習に追いつくことができた。
「はあ・・・はあ・・・やっぱり、まことはすごいね」
「いやいや、そんなことはないよ 鈴に惚れ直してもらいたいからね」
「っ!・・・んっ♡」
こうやって僕は思ったことはすべて鈴に伝えるようにしている。そうすることによって鈴に自分の気持をしっかり理解させることで寝取られへ派生してしまうかもしれない誤解を解いていっている。というのも、漫画の主人公は非常に奥手で大人しい性格をしており、付き合ってからなかなか自分をアピールすることができなかった。そんな態度を見て、ヒロインは自分は飽きられてしまったのではないかという勘違いをしてしまい、その後大きなすれ違いとなってしまっていた。
僕はそんな失敗をするわけにはいかないと思い、自身がいかに鈴のことを思っているかを伝えるようにしている。そのこともあって、鈴は最近僕のことを自慢の彼氏だと友達に自慢しているようだ。そのことは鈴の友達からこっそり教えてもらった。
だが、まだ足りない。僕の不安は屈強な先輩を直々に倒すことができるまで消えることは無いだろう。倒すというのは、物理的な意味ではなく、完全に鈴から守れたという何かしらの実績を意味する。それまで、僕は気を緩めるつもりはない。これから始まるかもしれない先輩との戦いに備えるため鈴の好感度を更に高める必要があるのだ。
早速僕は鈴をデートに誘った。
「えへへ、楽しみだね!」
「そうだね」
うちの高校の部活動は比較的強豪校なので休みがほぼ無い。今は夏休みで部活動では一日練習がお多かった。だが今日は数少ない半日練習だったので、帰ってから少し休みそれから出かけることにした。なので、時間があまりないから最近話題になっている映画を見に行こうという話になった。
映画館は少し離れたところにあるので、電車に乗って移動する必要がある。だが、どの時間帯でもこの駅には人が多いので、電車の中には人がギュウギュウ詰めになっていた。時間もあまりないので、仕方なくその電車に乗ることにした。
案の定僕たちは窮屈な電車の中を押し合いながら乗ることになった。鈴が少し苦しそうにしている。
と、そこで僕は重大なことに気がついてしまった。電車の中は痴漢ができるということに。実はあの漫画を読んでから僕はさらに寝取られを対策するため他の参考書を読破していた。その中には、電車通学している女子高生を身なりの汚いおぢさんが痴漢をしてしまうという話もあった。もちろん、黒髪ロングの美少女だ。もしかしたら、鈴も痴漢をされてしまうかもしれない。電車には長いこと乗る予定は無いが、もしかしたらという可能性もある。
早速僕は彼女をドア側に移動させることにした。
謝りながら人の壁を突き進み道を作る、なんとか鈴をドア側に移動させることに成功した。そしてさらに防御を強化するために鈴の顔の横に手を置き、自分自身をも壁にした。
「大丈夫?」
「う、うん♡ありがとう・・・♡」
すこし苦しそうにしていた鈴は、ドア側に移動し小さな隙間で深呼吸をしたことで、落ち着きを取り戻したようだ。
「お、大きい♡」
余裕を取り戻した鈴は僕の胸板に顔を埋め何やら呟いている。
しばらくして、目的地に到着した僕たちは電車から降り駅から出る。その際にも人が多かったので、鈴と手を繋いで完璧に防御を固めていた。いつどこで黒髪ロングが寝取られるかわかったもんじゃないのだ。
「すきぃ・・・大好きだよぉ♡」
その際も鈴は何かを呟いていたが人が多くてあまり良く聞こえなかった。
映画館に着いた。今日見る映画は感動系のラブコメだ。鈴はこの類の映画は大好きなのでちょうどよかった。
「鈴、ポップコーンはいる?」
「いるっ!キャラメルがいいな」
「わかったよ」
そうして僕たちはポップコーンを買い、暗い劇場へと移動する。だが僕はもちろん気を抜くことはない。そう、僕が勉強した知識によると基本的に黒髪ロングは一人になるところや身動きが取れないところ、そして暗くそういう雰囲気になりやすい場所は非常に危険だということが分かっている。つまりラブコメを薄暗い場所で見るといことは実は危険なのではないか、僕はそう考えた。もしかしたら、暗く見えづらいということを利用して鈴の体を触ろうとする者が現れるかもしれない、そう考えて行動することが要求されるだろう。
席へ座った僕はすかさず隣に座った鈴の手に自身の手を重ねる。
「あっ♡」
鈴はくすぐったそうな、嬉しそうな吐息を吐きそのまま抵抗せず、じっと上映されるのを待っている。
僕はこっそりと息をつく、もし手を重ねた時に拒絶の意志を見せられていたら、すでにチェックメイトだったということだ。そのため、抵抗されなかったことにすごく安心することができた。
映画が上映されてから1時間程度が経過した。その間、僕は鈴へ意識を向けることを忘れずに映画を適度に楽しんでいた。たまに、鈴の方を向くと目が合うときがあったので。鈴も僕のことを気にしてくれていたのだろうか。安心してほしい僕は鈴一筋だという気持ちを込めて微笑むと、鈴は顔を隠して足をばたばたさせていた。
「面白かったね~」
「そうだね」
映画を見終わって帰り道を歩いている時、僕たちは、映画の感想を言い合っていた。
「鈴、最後はずっと泣いていたもんね」
「もう!恥ずかしいからやめてよっ」
「ごめんごめん」
「・・・ねえ」
「ん?」
「なんでそんなに頑張ってくれるの?」
ずっとこの時間が続けばいいのに、そんなことを考えているとふいに鈴がそんなことを聞いてきた。
「なんでって・・・」
「わたし、何も返せないよ?こんなに人を好きになったことないし・・・どうすればいいか分からないの」
鈴は申し訳無さそうに、でも少し嬉しそうな表情を浮かべ上目遣いで僕を見上げる。僕はもちろん自責の念に駆られていた。
なんということだ、まさか寝取られ回避のため鈴を守ろうとするばかりに彼女を苦しめていたなんてっ。僕はなんて愚かな彼氏なのだろう。与え続けているだけでは恋愛は成立しない、二人で支え合いながら続けていくのが恋愛だと言うのに、そんな当たり前のことを僕は忘れていた。鈴を寝取ろうとする奴らから守るためにだけ行動してきた天からの罰なのだろう。
早速僕は鈴に甘えまくることにした。
「ごめんね、鈴・・・僕が不甲斐ないばかりに・・・」
「え? そ、そんなことないよ!真は・・・か、かっこいい彼氏だよっ!」
今必要なのは、鈴も僕に与えられるものがあるということを自覚してもらうことだ。そのため、僕は鈴にもっと甘え、お互い平等な関係であるということをアピールする必要がある。今までは僕だけが行動して来たが、それではだめなのだ。
「・・・じゃあ、僕からお願いしたいことがあるんだけど いい?」
「っ! うん!なんでも言って!」
「目を閉じてほしいんだ」
「・・・・わかった♡」
僕の要求に素直に答える鈴、目を閉じた鈴の頬に手を添え、徐々に顔を近づけていく。耳まで真っ赤になっている彼女を見て胸の奥から愛情が溢れ出してくる。僕もドキドキしていのだろうが、そんなことはどうでもいい、今は、僕には鈴が必要なんだということを伝えることが重要だ。
僕はそっと鈴の唇を奪った。すごく柔らかくて、暖かかったのが印象的だった。そっと唇を離すと先程よりもさらに顔を赤くし目を少し潤ませていた。
「僕は・・・鈴が大好きなんだ」
「・・・うん♡ いっぱい伝わったよ♡」
「これからは僕もたくさん甘えるね」
「そうだよっ もっと私に甘えてくれていいんだからねっ!」
こうして最初の甘えを実行したのだった。
それからしばらくして二学期が始まった。僕は宣言通り鈴にたくさん甘えていた。ちょっと声が聞きたくなった時は、通話で話したり、少し時間があれば軽いスキンシップを要求していた。
「えへへへへへへへへへへへへー♡」
「なんだか機嫌が良さそうだね」
「えへへっ そうかな?まことのことを考えているからかな?」
「かわいい奴めっ」
嬉しいことを言ってくれる鈴の頭を僕はすかさず撫で回す。僕が甘えるようになってから鈴は、見るからに笑顔になる回数が増えた。今までが少なかったというわけでは無いが、それでも、以前より楽しそうにしているのは事実だ。
だが一つ気になることがあった。鈴は夏休みの宿題を全くしていなかったのだ。理由を聞くと「集中できなかった」と鈴は恥ずかしそうこちらを伺いながら言っていた。
もしや・・・寝取られの手に嵌まろうとしているのでは無いだろうか?参考文献にはイカした格好をした家庭教師のテクに堕ちた女性もいた。―――もちろん、黒髪ロングの美少女だ―――鈴は家庭教師を雇ってイなかったはず。だがもし僕に言うことができない状況まで進んでいたら・・・僕はすでに詰んでいることになる。とりあえず、鈴にはもう少し事情を話してもらうことしよう。
「鈴?最近勉強はどんな調子だい?」
「べ、べんきょうっ!?だ、だだだ、大丈夫だよっ!?」
「夏休みの宿題もほとんどやっていなかったじゃないか」
部活帰りの帰り道、僕は鈴の勉学の状況を確認すべく質問責めを行っていた。
結論から言うと凄まじく怪しかった。少し勉強に関する質問をしただけで鈴はびっくりするほど動揺していた。このことから察するに少なくとも僕に隠していることがあるのは目に見えている。これは非常事態だ。ただでさえ部活動で自由な時間は限られくるというのに、勉強に集中できないということは異常事態であろう。もしこのまま、成績が下がってしまい勉強が嫌になってグレるようなことになれば、それこそ怪しいチャラ男にそそのかされ鈴も金髪にさせらてしまうかもしれない。
早速僕は勉強会を開いた。
「ううっ ううー」
昼休みや部活が早く終る日を使って、鈴と一緒に勉強することにしたのだが・・・この通り鈴はずっと唸りながら勉強している。
「どうしたの?何かわからないことでもあった?」
「違うの・・・そうじゃないの・・・・」
「?」
「・・・・・・まことがっ! かっこよすぎてっ! 集中っ! できないのっ!」
「・・・」
鈴の集中力が散漫になっていた原因は僕だった。あまりにも予想外だった結果に僕は困惑を隠せない。てっきり最近雇った家庭教師が鈴にいたずらを仕掛けようとしているのだとばかり考えていたが、実際はそうではなかったのだ。
「・・・イカした家庭教師とかは?」
「?家庭教師って?」
「いや、なんでもない・・・」
僕は戦慄した。鈴は真面目な性格で提出物を忘れたことは今までなかった。それなのにも関わらず、今回の夏休みの宿題を完全に忘れてしまっていた。これは寝取られの運命が導き始めたのではと考え、あらゆる対策を講じる予定だったが、完全に的はずれだったようだ。鈴はずっと僕のことを考えてくれていたのだ。家庭教師なんて最初からただの妄想だったんだ。それなのに僕と来たら・・・
そこで僕は非常につらい現実を突きつけられる。僕は鈴のことを信用できてないということに。確かに、鈴が寝取られそうな場面に無意識に突っ込んでいく事はあるが、結局一度も寝取られていない、そもそも、最近は他の男子と喋っているところもあまり見ない、そして、鈴はすでに一日の殆どを僕と過ごしている。一緒に学校に行くため待ち合わせをし、お昼休みには一緒にご飯を食べ、一緒の部活動で汗をかき、限界まで一緒に帰宅し、家に帰ってからはどちらからともなくおやすみの通話を始める。僕が甘え始めてからはずっとこんな生活をしており、しかも勉強に手がつかないほど僕のことを考えてくれている。
「鈴」
「なに?」
「僕はずっと君のことが大好きだよ」
これだけしても僕はこの先、鈴を疑うのだろうか。いや、そんなことはもうしない。鈴は僕のことを大事に思ってくれている。そんな自身芽生えるほど鈴は僕のために行動してくれていた。あとはそれを僕が信じるだけ。
「ふぇっ!?」
「鈴は僕のことどう思ってる?」
「そんなの決まってるでしょっ ・・・・愛しているわ♡」
愛をささやきながら鈴は僕に体を寄せてくる。その小さな体を抱きしめながら頭を撫でる。
これからも僕は鈴の寝取られを阻止するために全力で対抗するつもりでいる。でも、それは鈴のことを信じていないわけではなく、これからもずっと好きでいてもらうための努力をするつもりだ。だから、鈴にはもっと更に僕のことしか考えられないようにしよう。
そう決心して僕は腕の中にいる鈴に口づけをした。