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9話:ラランチアの勝負服

 眠れません。すでに空が白み始め、寝ていられる時間は極わずかです。寝ておかないと夜のお仕事に差し障ります。それなのに、胸のドキドキが収まらないのです。寝返りをすると部屋の反対側の壁際に寝ている信夫様が見えます。


「はぁ・・・」


 昨夜信夫様に握られた手を見つめます。熱くて大きい男性の手でした。わたしを見つめるその眼差しは力強く、思わず引き込まれそうでした。そして実際あと少しで・・・。唇を指でそっとなぞります。色んなことを想像してしまいドキドキが増々ひどくなりました。これでは眠れません!いっそ初日みたいに気を失えたらいいのに・・・


 わたしが産まれた時、目を開けて最初に見えたのは鼻血を吹いて倒れる信夫様でした。


「ご主人様!?」


 不思議な事に「この方がご主人様だ」と心で理解しました。そして倒れた信夫様の鼻血を拭い、怪我がないと分かるとわたしが裸であることに気づきました。服は見当たりませんし代わりになりそうなものはベットのシーツしかありません。しかしご主人様が寝るベットのシーツを勝手に使ってしまうわけにもいきませんし、今から信夫様をベットに寝かさなければなりません。片手で胸を隠し、残った手で信夫様を引っ張りますがピクリとも動きません。仕方なく信夫様の背中から脇に腕を入れて引っ張ると少し動きました。両手で信夫様に抱きつきベットまで引きづり持ち上げると、藁で足を滑らせて倒れ込みました。


「きゃ!」


 倒れた拍子に信夫様がわたしの方を向いて、わたしの左腕が信夫様の下敷きになり抜けなくなりました。


「くうぅ・・・抜けません・・・どうしましょう」


 どんなに力を入れても腕が抜けず困っていたら信夫様がブルッと震えました。夜は冷えるのでシーツを掛けて差し上げないといけません。右手でなんとかシーツを引き寄せて信夫様にかけると、身じろぎをした瞬間に腕が抜けました。


「良かったこれで・・・え!?」


 ベットから降りようとしたわたしを信夫様が引き寄せて抱きしめました。え!?え!?なんですかこれは!?力強い腕に抱きしめられた私の顔の目の前には信夫様の寝顔があります!あとちょっとで唇が・・・わたしは目をギュッとつむってその瞬間に身構えます。すると信夫様はわたしの首筋に顔を埋めて首筋にキスをしました!


 ちぃううううううううぅ・・・


 あああああああああああああっ!!


「たまごアイスぅ・・・」


 信夫様は夢の中で何かと勘違いしているようで、夢中で首筋を吸ってきます。

 信夫様が、わたしの身体に、キス!?信夫様が信夫様が信夫様が・・・!!


 わたしは顔に火が点いたように熱くなりそのまま気を失ってしまいました。



 チチチチ・・・


 明かり取り用の窓辺に小鳥がとまっています。結局一睡もできませんでした。このままではお仕事に支障をきたします。信夫様にお願いしてお昼まで寝かせていただきましょうか?そう思っていると信夫さんが身じろぎをして眠そうな目をこすりながら起きてきました。信夫様もあまり眠れなかったのでしょうか?わたしも身を起こすと信夫様から声をかけてくださいます。


「お・・・おはよう、ラランチア」

「おはようございます信夫様。あの・・・「ラランチア!」あ、はい!?」


 信夫様にお願いしようと思いましたが、突然名前を呼ばれました。信夫様は頭を掻きながら何か言いにくそうにしていますが、わたしの方を見ずに天井を見上げてぽつりといいました。


「今日、一緒に出掛けないか?その、昨日言っていた洋服の店とか・・・」


 これは!?デートのお誘いでしょうか!?少し寝ておきたかったのですがお断りするわけにはいきません!


「ダメ、かな?・・・」

「い、いえ!ご一緒しますね」


 返事が遅れたせいで信夫様を不安にさせてしまいました。きっと大丈夫です!徹夜の一晩や二晩・・・


「そ、そうか!それじゃさっそく・・・」

「あ、あの信夫様!」


 すぐにでも出かけようとする信夫様に一つだけお願いをします。


「せめて湯あみをさせていただけませんか?」





 俺は気が利かないなぁ・・・昨夜は仕事で疲れた上に色々あったせいで湯あみもさせられずにいた。納屋の外で体育座りをしてラランチアの湯あみが終わるのを待つ。


 パチャ


 窓ガラスもはまっていない納屋なので湯あみをする水音が聞こえた。扉も古く木の板の間に隙間があるかもしれない。


 ゴクリ・・・


 いやいや!何を考えてるんだ!そんなのダメだろう!


 魔使「何を躊躇してるんだ?覗きたいなら覗いちまえばいいじゃないか」

 天使「何を言ってるんですか!ラランチアさんの信頼を裏切るおつもりですか!絶対覗いてはダメですよ!このゲスがっ!」


 ああああっ!頭の中で天使と悪魔がせめぎ合っている!この壁の向こうには全裸のラランチアがいるんだ!想像しただけで鼻血が出そうになる・・・チラッと扉を見ると板の隙間から光が漏れていた。隙間がある!?・・・身体が少し扉の側に傾く。ちょっと・・・ちょっとだけなら?・・・


 天使「言った側から何をやっているんですか!バカなんですか!?死ぬのですか!?ラランチアさんから軽蔑の眼差しを向けられたいのですか!?」


 そう・・・だな・・・ラランチアからそんな目で見られたら心が死んでしまいそうだ・・・。俺は再び壁に背中を預けて大きく息を吐く。


 魔使「はぁ、腰抜けだな」


 言ってろ。とゆーか・・・なんだよ魔使って!?天界に対して魔界だから魔使なのか!?俺の頭ん中はどーなってんだ?俺はこの後、ラランチアと生まれて初めてのデートをするんだ!邪魔すんな!


 それからしばらく待つと扉が開いてラランチアが出てきた。


「信夫様、お待たせしました」

「いや、全然待ってない・・・よ・・・おぉぅ・・・」


 ラランチアが買った服は1着だけではなかったようだ。薄い水色のワンピースで胸の部分に大きなリボンがついてる。袖やスカートの裾部分は広めに白くなっており清楚さを醸し出している。しかし一点!肩が丸出しだ!これは花屋のバイトの時に女子大生のお姉さんがよく着ていた肩だしルックってやつか!?自己主張の激しい胸が服がずれ落ちるのをうまく防いでいる。


「いかが、でしょうか?」


 はにかんだラランチアがスカートの裾をちょっとつまんで上目遣いに聞いてくる。服を褒めればいいの!?ラランチアのかわいさを褒めればいいの!?


「か!かわいいよっ!!」

「あ、ありがとうございます」


 照れたラランチアが横を向いて小さくガッツポーズをしていた。そのしぐさがさらにかわいくて俺は完全にノックアウトされてしまった。こんなかわいい子とデートできるなんて異世界に来て本当に良かった!!


 その後すぐに出かけたかったが朝食を食べていないことを思い出し、ラランチアと一緒にまかないを頂いてから出かけたのだった。

 ホールの隅っこの席に座っていたペオーニアさんが大きなため息をついていたけど、何に対してのため息なんだろう?かわいい服なのか?胸の大きさなのか?まさか俺に対して・・・なんてことはないよな?

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