7話:ラランチアちゃんの・・・
「ありやしたあっ!」
よし、これで大体材料がそろったぞ!材木屋があって本当に助かった!ダメ元だったけど頼めば以外に端材とかくれるもんだな。俺が住んでた町では田舎にもかかわらず手の平サイズの端切れでも値段がついてたぞ・・・それはともかく、手に入った材料は大小様々な木の板と錆びだらけの釘。トンカチはないけど石で打ち付ければなんとかなるだろう。あとはゴブリンさんに貰ったロープで固定すれば間仕切りが出来そうだ。まだ午前中だし夕方までになんとか完成するだろう。
「そう言えばラランチアはどうしてるかな?ペオーニアさんに預けっぱなしにしてきちまった・・・」
ラランチアと暮らす部屋を作ることで頭がいっぱいになり、朝に迎えに行くのを忘れていた。急いで酒場に戻るとマスターが厨房で料理の仕込みをしていた。
「マスター、ラランチアを見ませんでしたか?」
「おう信夫戻ったのか。ラランチアちゃんならペオーニアと一緒に買い物に行ったぞ。なんでも服を買うとか?」
え?ラランチア、お金持ってるのか?ペオーニアさんと一緒なら借りたのかな?でも助かった。あんな丈の短い服で歩かれたらこっちの身がもたない!あと数cm短ければお尻が・・・ゴクリ・・・
よ、よし!それなら今のうちに部屋の仕切りを作るかぁ!さすがに今夜もペオーニアさんにラランチアを預かってもらうわけにはいかないからな。うん、決して壁を作ることを言い訳にして一緒に暮らしたいわけじゃないのだ。
その後、紆余曲折を経てなんとか壁・・・らしきものが完成した。板と板の間の隙間は決してわざと作ったわけじゃないのだ!俺のDIY力が足りないだけなのだ・・・
ふと外を見るとすでに日が傾いて夕方になっていた。そろそろ開店の時間だ。ラランチアとペオーニアさんはまだ戻ってないのかな?
「マスター、ラランチア戻ってきましたか?」
「おお信夫、ついさっき戻って来たとこだ。着替えてから来るそうだから看板出しておいてくれ」
良かった。まだ戻ってなければ探しに行こうかと思ってたとこだ。
「わっかりましたぁ!」
看板を出しに外に出ると驚くべき光景が広がっていた。
「開店はまだかい?」
「もう入ってもいいか?」
「ラランチアちゃんは今日もいるんだよな?」
「ここでいいのか?ラランチアちゃんのお店って」
ざわざわざわ・・・なんだこのお客さんの数は・・・見た感じ全員が店に入ることができないくらいの人!人!人の山だ!
「マスター!すごい数のお客さんが開店を待ってますよ!!」
「お、そうか!10人くらいいるのか!?」
「いや・・・100人はいるんじゃ・・・」
「なんだとっ!?」
ざわめきが店内まで聞こえてきた。そのざわめきの中には必ずと言っていいほど「ラランチア」の名前が入っている。
マスターと二人してオロオロしていると、
「遅くなって申し訳ありません!」
「ごめんねお父さん。さあ、開店しましょ!」
ラランチアとペオーニアさんがエプロンを付けておくから出てきた。
「ラランチア!?」
「あの、信夫様いかがでしょうか?」
おおうっ!?こ、これは!清楚な白いフリルのついたブラウスに、膝上の黒いプリーツスカートってやつか!?その上からつけたエプロンが家庭的な雰囲気を醸し出し、黒いスカートに対する白い足が艶めかしい!!いかん!鼻血がでそうだ!!
「ああ、えっと、その・・・」
ぐあああっ!こんなときに咄嗟に誉め言葉が出てこねえっ!!女慣れしてない弊害だ!!頑張って絞り出せ!!
「い・・・いいんじゃない・・・「信夫っ!!開店するぞ!」」
ようやく絞り出せたってのにマスターの怒声にかき消された。そしてペオーニアさんが開けた扉から津波のように客が押し寄せてきた。
「ラランチアちゃん!エール2杯にキジの香草焼きのピクルス抜き、猪の煮込みとキノコ炒めを!」
「ラランチアちゃん!こっちもエール2つにクジラの竜田揚げとジャガイモのポトフに焼き鳥盛りを!」
「ラ、ラランチアさん、僕もエールとウサギのシチューに枝豆と季節の野菜サラダをください」
「ラランチアちゃん!!エール3杯とゴブリンの地獄煮と魔王炒めを!」
「ラランチアちゃん!エールとハンバーグセットと君と君が欲しい!!」
どいつもこいつもなんでラランチアの名前を知ってるんだ!とゆーか同時に注文すんな!覚えきれねえ!しかも最後二人の注文変だろっ!?
「ご注文繰り返しますね。4番テーブル様エール2杯にキジの香草焼きのピクルス抜きに猪の煮込みとキノコ炒め。2番テーブル様エール2杯にクジラの竜田揚げとジャガイモのポトフに焼き鳥盛り。1番テーブル様エールとウサギのシチューに枝豆と季節の野菜サラダ。6番テーブル様エール3杯とイナゴの地獄煮とキクラゲ炒め。5番テーブル様エールとハンバーグセットですね。かしこまりました」
ゴブリンの地獄煮と魔王炒めどこいった!?イナゴとキクラゲじゃねえか!
「マスターエールと野菜サラダ作りますね」
「おおう!頼む!!」
ラランチアが2日目とは思えない手際でジョッキにエールを注いでいき、野菜を手でちぎってサラダを盛り付けていく。
「ラ、ラランチアちゃんが自らの手でちぎって・・・」
それを凝視していた客たちが一斉に喉を鳴らした。ゴクリ・・・
「「「「野菜サラダを追加で!!」」」」
こいつらっ!これ以上ラランチアの仕事を増やすんじゃねえ!
「ラランチア、俺も手伝うよ」
「そんな、信夫様の手を煩わすわけには」
ラランチアの横に行き一緒に野菜をちぎっていくと。
「「「「お前は引っ込んでろっ!!」」」」
次の日からメニューの名前が変わった。野菜サラダは「ラランチアちゃんの手作りサラダ」に・・・
戦場のような営業時間が終わりようやく酒場に静寂が訪れた。あのマスターが床に座り込むほどに疲れ果てている。会計をしていたペオーニアさんもテーブルに突っ伏しているというのにラランチアはピンピンしている。皿洗いメインだった俺でも疲れているというのに・・・。閉店間際まで注文が途切れることが無く、最後の方では売り切れが続出していた。エールが切れたあとはむさいおっさん連中全員がミルクを飲んでいた。当然ミルクもラランチアが注いでいたが、さすがに「ラランチアちゃんのミルク」と言うメニューはペオーニアさんに却下された。
「そ、それじゃあマスター上がらせてもらいます」
「マスター様、ペオーニア様、お疲れ様でした」
二人とも返事をする気力も無く、テーブルとカウンターの向こうからヒラヒラと手を振って来た。裏口から外に出て納屋に向かうと、俺の後ろにはラランチアが当然のようについてくる。だ、大丈夫だ!ちゃんと間仕切りも作ったしラランチアも安心して眠れるはずだ!(覗けるほどの隙間はあるけど・・・)
「部屋の仕切りを作ったから、あ、安心してくれ」
「いえ、わたしは・・・」
俺が1畳でラランチアが2畳。これで完璧だろ!
「さあ、入って・・・」
扉を開けると目の前に俺のベットがある。というか1畳ではベットしかない。横には仕切り用の壁があって・・・
「え?あ、あの・・・信夫様・・・これって・・・」
仕切りに扉をつけるのを忘れていた・・・これじゃ1畳のベット部屋だ!!
「すまん!ラランチアはここで寝てくれ!俺は外で・・・」
そう言って回れ右をして部屋を出ようとするとラランチアが俺の服の裾をつまんで引き留める。
「あの・・・わたしは一緒でも構いませんので・・・」
地面を見ながらもじもじとそう言うラランチアの顔は真っ赤になっていた。