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5話:ラランチア

 まずいっ!!彼女を隠さないと!ってこの狭い納屋のどこにっ!?


「と、とりあえず隠れて!」

「え!?え!?」


 彼女もまわりを見回して一体どこに隠れれば!?って顔をしている。


「こっちに!」


 彼女の腕を引いてベットに寝かせシーツを上から!


「あっ!ご主人様!」


 彼女をベットに押し倒した反動で麻の服がめくれ・・・


 ブハッ!


 盛大に鼻血を吹きだした。その瞬間扉が開かれマスターが納屋に入って来た。


「おい!信夫!!・・・」


 マスターから見ると、下半身を脱がせた彼女をベットに押し付け、これから襲い掛かろうとしている鼻血を出した俺って図式だ。


「あの、マスターこ、これは・・・ですね・・・」


 彼女は裾を思いっきり引っ張って下半身を隠している。


「ほほぉ、信夫もやるじゃねえか。まあ納屋は好きに使えといったんだ別に構わねえが、ペオーニアには刺激が強すぎたようだな」


 マスターはニヤッとしながら彼女を見下ろす。真っ赤になった彼女は俺からシーツをひったくると頭からかぶって包まった。


「まあ、ほどほどにな」


 そう言うとマスターは後ろ手に扉を閉めて納屋を出て行った。

 た、助かった・・・

 俺は四つん這いで地面にうずくまり冷や汗をダラダラと流す。


「あ、あの、ご主人様?今の方は・・・」


 シーツの隙間から顔を出した彼女が質問をしてきた。


「ご主人様って、やっぱり俺のことか!?」


 逆に質問をし返すと「何とお呼びすればよろしいですか?」っと聞いてきた。

 そう言えば突然のことで混乱していたが、彼女はあの七色の種から育った植物から産まれたのだったな。・・・人間じゃないのか?まあ異世界だしそんなこともあるのか?


「俺は田中信夫、15歳だ。君は一体?」

「では、信夫様とお呼びしてよろしいですか?」


 信夫様!?・・・信夫様!?・・・女の子に下の名前で呼ばれたのは初めてだ!!ちょっとうるっときてしまった・・・

 彼女はベットから降りると俺の前に正座して、三つ指をついて頭を下げた。


「わたしの名前はまだありません。生後一晩です。どうぞよろしくお願いいたしますね、信夫様」


 この笑顔は反則だ!!もう彼女が植物だってなんだって関係ない!!


「名前がないのか、名無し・・・撫子・・・いや、こっちの人は日本人っぽくない名前だしな・・・髪もオレンジ色だし」


 そう言えば花屋のバイトの時に見たオレンジの木の実と同じ色の髪だな。あれはたしか・・・『L'arancia・・・ららんしあ?ラランチアかな?』


「・・・ラランチア・・・そうだな、君の名前はラランチアでどうかな?」

「ラランチア。ありがとうございます!かわいいお名前ですね!」


 笑顔がサイコーにかわいいな!もう!





「おう!信夫来たか。ん?さっきの商売女の子じゃないか?どうしたんだ一体」


 なっ!?さっきの女を連れてきたの!?裏口から帰しなさいよ!なんでこっちに・・・

 今日は信夫さんを誘って一緒に買い物に行こうと思ったから、がんばっておしゃれしてみたのに・・・なんだってこんな日に女の子なんて買っちゃうのよ!!


「商売女って・・・彼女はそんなのじゃないですよ。実は俺の仲間で・・・」

「さきほどは失礼いたしました。ラランチアと申します。よろしくお願いいたします」


 仲間!?さっきは裸で信夫さんに抱きついて寝てて、超短い破廉恥なワンピースを着た女が仲間!?


「なんだ信夫、お前彼女とはぐれていたのか?それじゃ仕事を辞めて出ていくのか?ペオーニアが治るまでもう少し働いて欲しかったんだが・・・」


 え!?え!?信夫さん辞めちゃうの!?


「いえ、それなんですがマスター、彼女も、ラランチアも雇っていただくことは出来ませんかね?」


 なんですって!?こんな女がうちの店で!!絶対ダメ!反対!


「おお!そりゃ願ってもない!看板娘が多いに越したことはないからな!なんだったら信夫と交代でもいいぜ」

「マ、マママママスター、冗談きついですよぉ!」


 お父さん!!なんで反対してくんないのよ!!わたしの怪我なんてあと1週間もすれば・・・


「ペオーニア、いいよな?」

「まあ、いいんじゃない・・・」


 わたしのバカバカ!!正面切って反対できないこの性格がうらめしい!!


「あ、ペオーニアさんもいたのか。さっきはあの・・・その・・・変なとこ見せちゃって・・・」


 一番奥の隅っこに座っていたので今気づいたみたい。


「別に、女の子を買うなんてみんなやってることだしね」

「いや、買ったわけじゃなくてですね・・・」


 頑張って平静を装ってるけど、ついつい信夫さんの隣に立っている女の子に目がいっちゃう。


 わたしと違って日焼けひとつしてない真っ白できめ細やかな肌。変わった色だけど肩まで伸びたふわふわで、光を反射してキラキラ輝くオレンジ色の綺麗な髪。長いまつ毛に目は二重で大きく、それに反して小さな唇は血色がよく、まるで紅を引いているよう・・・

 そして・・・自らの物と比較するのも馬鹿らしいほど大きな胸・・・勝てる要素が何もないわよ!

 でも!いくら見た目が良くてもお貴族様じゃないんだし!働いてなんぼ!その華奢な身体で酒場のお仕事ができると思ったら大間違いよ!



「いらっしゃいませ~!2名様ですね、こちらのお席にどうぞ~」

「ラランチアちゃん!エールおかわりくれ!」

「はい!ただいまお持ちしますね~」


 てきぱきとお客さんを案内し、重いジョッキを片手に3つ持って、もう片方は料理を運ぶ。短いワンピースから覗く足が眩しい。


「注文いいかい?」

「はい!お伺いしますね~」

「君、かわいいね~名前はなんて言うの?」

「ラランチアと申します。今日からこちらでお世話になっています。よろしくお願いしますね~」


 狭い店内をすいすいと淀みなく歩き、ついでに空いたお皿を回収してカウンターに戻ってくる。


「マスター様、エール2杯に焼き飯大盛2つとイノシシの香草焼き1つ、焼き鳥の盛り合わせと魚介スープ1つとオニオンサラダ1つお願いします!」

「おうよ!」


 大量の注文にもミスなく応じ、笑顔と色気を振りまく彼女はたちまち人気者になった。超ミニのワンピースにエプロン姿が妙に艶めかしいです・・・


「エールはわたしが用意しますね」

「頼んだぜ!」


 悔しいけどわたしより仕事出来ています・・・


「信夫様、洗い物追加よろしいですか?」

「それは構わねえけど、店内一人で大丈夫か?」

「わたしは平気です。それより信夫様にまで働かせてしまって申し訳ありません・・・」


 信夫・・・様!?お二人はどういう関係なんでしょう!?って裸で一緒に寝てたし!そーゆー関係ってことよ!!


「いや、元々俺が働いてたんだし」


 今日は彼女の人気でお客さんがいつもの倍以上来ている気がします。片手しか使えないわたしは会計だけしていますが、売り上げなんていつもの3倍いくんじゃないかしら?・・・それなのに軽々と仕事をこなすなんて・・・完全にわたしの負けね・・・


「マスターえらくかわいい子が入ったな」

「ああ、ラランチアちゃんって言ってな、おかげで大繁盛だよ!」


 お父さんは最後にお世辞で「娘には負けるがな!」って言うけど、どこからどー見てもわたしの完敗!


「なんだか張り合ってるのがバカみたい・・・」

「ペオーニア様。3番テーブルのお客様がお帰りです」

「あ、はい!」


 ラランチアさんがニコッと笑って伝票を渡してくれる。思わず顔が赤くなった。女のわたしでも照れてしまうくらいキレイな子ね。


 あ~あ、やってらんないわよまったく!恋する前に失恋した気分です。

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