40話:二人の秘密
「「いらっしゃいませ~!」」
開店から30分と立たずに満席になりました。テーブルが8つでそれぞれに4席。カウンターに8席あるので40人が飲食できる酒場です。この規模の村にしてはかなり大きな酒場だけど、あたしの魅力にかかればざっとこんなもんです!
「ラランチアちゃん!注文いいかい!?」
「はいただいま~!」
「ラランチアちゃんおかわり頼むよ!」
「少々お待ちくださいね~!」
「ラランチアさん!好きです!」
「ありがとうございます!」
・・・ま、まあ、お姉さまは素敵な方ですから、あたし以上の魅力があるのも当然ですね。決してあたしに魅力がないわけではありません!それから、どさくさ紛れにお姉さまに告白したゴミは後で抹殺です!
「リメッタさん、お皿回収お願いしますね!」
「あ、はいです!」
彼女はこの酒場の娘さんでペオーニアさんです。
先ほどお姉さまと一緒に酒場を訪れ、マスターさんにしばらく働かせてほしいと頼みました。見上げるような巨漢のマスターさんは強面でとてもカタギには見えませんでしたが、二つ返事でOKしてもらえました。意外にいい人なのかもしれませんね。
さっそくお姉さまが持ってきた制服に着替えました。制服は決して露出が多いわけではないけど、肩ひもが左右から胸をよせて、コルセット部分を持ち上げることで胸も持ち上がる形になります。ただでさえ大きなお胸のお姉さまの魅力が爆上がりです!
「お、お姉さま!ステキすぎますぅ!」
「ちょ、ちょっと・・・恥ずかしい制服ですね・・・スカート丈も短いですし」
あたしの発情期までまだ6日もあるはずですが、すでにお姉さまにメロメロです。制服を着たお姉さまにではなく、恥ずかしがるお姉さまにです!
「かわいい服なんだけど、わたしには残念なだけの服だわ・・・」
寄せて上げるだけの胸がないペオーニアさんはがっくりと肩を落とすけど、あたしはそれ以上に残念な状態です。自らの胸を見るたびに信夫に対する怒りがこみあげてくる。
気持ちを切り替えてテーブルの間をスルスルと抜けてお皿をサクサクと回収してくる。小柄な身体がこんな時だけ便利だわ。
「お嬢さん見ない顔だね。新人さんかい?」
「君もかわいいね。名前教えてよ!」
「はい。ラランチアお姉さまの妹でリメッタといいます。よろしくお願いします!」
お皿を回収したテーブルのお客さんたちがあたしに声をかけてきた。男に興味はないけれど褒められて悪い気はしません。ついでに注文も受けてカウンターに戻ります。
「マスターさん、注文お願いしま~す!」
「おうよ!」
お姉さまには敵いませんがあたしにもそこそこファンがついたようで、閉店間際にはあちこちから呼ばれるようになりました。初日にしてはまあまあではないでしょうか?
「二人ともお疲れ!おかげで今日も大繁盛だよ!」
「ありがとうございます、マスター様」
「ざっとこんなもんよ!」
「リメッタ」
腰に手を当て、ない胸を張って返事をするとお姉さまにたしなめられました。
「でもラランチアさんの妹さんにしては似てないわね」
ペオーニアさん、どこを見て似てないって言いました?・・・あたしとお姉さまは当然本当の姉妹ではありません。あたしの母であり、仲間であり、別種なのです。
あたしもお姉さまも「植物」ですが、あたしはダイムトレントであり、お姉さまはオランジドライアドです。ニンゲンの基準で言えば「魔物」なのでしょう。魔族領では普通なのですけどね。
あれ?なんでこんなことを知ってるのでしょう?そう言えば「信夫」の名前も産まれた時から知っていたし、信夫が異世界人なのも知っています。いくつか知らないはずの記憶があるけど、これはどういうことなのかしら?
「正確には親戚で、実の妹ではないのです」
「ああ、そういうことなのね」
「それでは明日からもよろしくお願いします!」
酒場からの帰り道、お姉さまに抱きついて歩いていたら「歩きにくいから」と言われ、手を繋いでくれました。これはこれでいいものですね。
「お姉さま。ゴミ・・・信夫には本当のことを言わないのですか?」
ゴミの部分でお姉さまがむっとしたので信夫と言い直します。さすがに「様」まではつけないけど。
「信夫様は優しくて繊細な方なので、わたしが本来の姿に戻ったら悲しまれるでしょう・・・」
オランジドライアドであるお姉さまの本来の姿は「木」です。大地に根を下ろし光を吸収し生きて行けます。他の魔物のように他者を喰らわないと生きていけない不完全な生き物ではないので、寛容であり優しさに満ち溢れています。あたしも別種ですが同じく「木」なので今の状態が不思議でなりません。歩いてしゃべって、他者を喰らって生きているなんて・・・。
わたしたちは誰かに姿を変えられたのでしょう・・・おそらく「魔法」で。あたしの中に黒いマントを羽織った男の記憶が微かにあります。そこは石壁に囲まれた小さな部屋。テーブルの上に置かれた7つの種に手を伸ばす男の記憶が。
「あの黒い男があたしたちを作ったのでしょうか?」
「黒い男?・・・」
「お姉さまは覚えていませんか?生まれる前の記憶ですが、黒いマントを羽織った男がオレンジ色の種に何かの薬品をかけていました」
お姉さまは驚いて足を止めました。
「リメッタは産まれる前のことを覚えているのですか?」
「微かにですけど、他にもいくつか断片的な記憶があります。信夫が異世界人なのも知っています。コレってお姉さまの記憶なんでしょうか?」
「!?」
お姉さまがあたしを見つめてきます。あたしもお姉さまを見つめます。あああ、なんて綺麗な目なのかしら!吸い込まれてしまいそう!あたしはつま先立ちでお姉さまに顔を近づけそっと目をつむります。お姉さまと初めての・・・。
「わたしたちが・・・魔物かもしれないことも、知っているのですか?」
あたしの両肩を掴んだお姉さまは少しかがんであたしと目線を合わせてきました。魔物かもしれない?
「・・・お姉さまは気づいてなかったのですか?あたしはダイムトレントですし、お姉さまはオランジドライアドですよ?」
お姉さまは絶句して2、3歩後ずさるとよろよろと座り込んでしまいました。そんなに衝撃的だったのでしょうか?
あたしとしてはニンゲンみたいな姿で生きている方が衝撃的ですけど。
それもあと少しで元の姿に戻れますからしばらくの辛抱です。




