38話:ダマスの刀
「特許?」
ラランチアとリメッタが買い物に出かけた後、俺は乗合馬車で執事組合ビルの仕事依頼所に来ていた。スライサーをアメリーさんに使ってもらったところ、すごく使いやすいと好評な物が一つあったので、量産の相談に訪れた。すると仕事依頼所の受付嬢の女性に、スライサーの特許を取ってはどうかと勧められたのだ。
「ええ、画期的な商品ですが模倣が難しくないので販売製造の独占特許です」
元の世界にあった特許とほぼ同じものなのかな?特許については詳しくはしらないけど、この場合の特許権は誰のものになるのだろうか?アイデアを出した俺なのか、作ったダマスさんなのか?
「基本的には作り出した方に特許権がありますが、こちらの仕事依頼所で発注した商品なので、作った方は製作のお仕事を請け負っただけとなります。つまり、ご依頼主であるあなたに特許権があります」
なるほど。それなら追加で頼んだピーラーの特許はどうなるんだろう?
「追加で直接頼まれた物はアイデアが誰の物かの証明が出来ませんので、製作された方の権利になります」
しまった。ここで依頼してないから作ったダマスさんの物になるのか・・・。以前ゴブリンさんがハンガーと女性用パンツの権利を買ったのはかなり親切なことだったんだ。お金など払わず勝手に特許を取ることもできたのに、契約書を作ってお金を払ってくれた。本当は特許を取っておかないといけなかったんだ・・・。ゴブリンって人間以上に理知的なんだな・・・。
とりあえずスライサーの特許だけ申請してダマスさんを訪ねることにした。やはりピーラーも商品としてほしいので特許の買取の話をするためだ。
申請に思ったより時間をとられたので、ダマスさんの所へ着いたのはお昼を少し回った頃になった。
「こんにちわ!ダマスさん!!」
金属を打つ音と空気を送る鞴の音がうるさすぎて、大声を出さないとダマスさんに気づいてもらえない。
「おお、あんたか!少し待っていてくれ!」
それからしばらくハンマーを振り下ろす音が響き、30分ほど経ってようやく作業が一段落した。
「ふむ、こんなもんか」
「ダマスさん、それってもしかしてピーラーの刃ですか!?」
ペンチに挟んで目の高さに持ち上げていたのは、幅10cmほどの薄い金属の板だった。ピーラーとしては大きすぎる気もするけど、小型化には何度か作ってみないと難しいのだろう。
「そうだが、あんたの言う使い方をするには角度が難しくてな。いくつか試作品は作ってはみたがいまいちしっくりこない」
試作品は出来てたのか。たぶんスライサーの時みたいに机の上にあるかな?
「うおっ!」
そこには大小様々なサイズ、形のピーラーが山と積まれていた。元の世界のピーラーと瓜二つの物まで。
急いで外の畑に行くと手ごろな人参を数本引き抜く。水で洗って小屋に戻ろうとすると森の端で一瞬キラリと光った。
「ん?今何か光ったような?・・・気のせいかな?」
ちょっと気になったけど、ピーラーを早く試してみたかったので小屋に戻った。結果は上々!刃の角度によって実まで削るものや、ほとんど皮が削れない物もあったけど、ほとんどは実用に耐えるだった。
「ダマスさんいいよ!特にこの角度のやつが使いやすい!」
ダマスさんはいまいち納得してないようだったけど、他にも頼みたいものがあると言うと興味はそちらにむかったようだ。その後ダマスさんにピーラーの特許権を買い取りたいことを伝えると「権利になど興味はない」と言って無償で譲ってくれた。それではあまりに申し訳ないのでダマスさんの作った物でも買い取ろうと部屋を見回すと、一本の剣が目についた。
「ダマスさん、これって?」
「ああ、先日作った鋼鉄を使った試作品だな。模様が気に入らんが切れ味はいいのでな、柄と鞘も作ってみた」
以前見た鋼鉄の刃は柄と鞘が出来たことで完璧な日本刀になっていた。鋳型に鉄を流し込んで作る剣が主流のこの世界において、鍛造で作られた初めての剣かもしれない。ゆっくりと鞘から抜いてみると、あの独特な緑の縞模様が入った刃が現れる。なんて綺麗な刀なんだ・・・。
「ダマスさん!これを譲ってもらえませんか!?言い値で払いますよ!」
「まあ実用には耐えるものだがな・・・失敗作だ。材料費で銀貨1枚でいい」
「分かりました!金貨1枚ですね!」
お金には執着していないダマスさんは「ふん」と鼻を鳴らすと、再びハンマーを振り下ろし始めた。
これ以上は仕事の邪魔になるので、ピーラーの試作品とダマスさんの作った刀を持ってお暇する。歩きながら背嚢にピーラーを収めると刀を腰に結び付ける。歩みを止め腰を落とし刀を抜き放つ。
「おおおおっ!カッコイイ!!」
光に反射した刀は美しく、武器と言うよりまるで芸術品だ!刃こぼれがいやなので出来れば使いたくはないけど、野盗や魔物が現れたら迷うことなくコレを使おう。命の方が大事だ!
森に入りしばらく進むと突然前方の木の陰から一人の男が現れた。いった側から野盗!?胸部分にだけ金属を使った鎧を着て、腰には剣を差している。堀の深い顔立ちをした30代後半くらいの戦士って感じの男だ。剣には手をかけておらず現れた場所からこちらをじっと見ている。目の前にいるのに気配のようなものが希薄で森の一部のような自然な感じがする。そういえば足音もしなかったなこの人・・・。
こらあかん!絶対なんらかのプロだ!騎士か傭兵か・・・暗殺者か・・・。しかしはいそうですかと殺されてやるわけにもいかないので腰の刀を抜き放った。一か八か突っ込むか!?それでびびって去ってくれればいいんだが・・・。
「!?待て、争う気はない。お前たちも剣から手を離せ」
争う気はないのはいいけど、お前たち?ちらっと後ろを向くと二人の男がいつのまにか立っていた。腰の剣に手を添えて・・・。気づかなかった!!目の前の男が止めなければ俺って死んでたんじゃ・・・。冷や汗が一気に噴き出してシャツを濡らす。少し弓が使えるからってただの競技しかしたことない俺だ。生きるか死ぬかの世界で暮らすこちらの世界の人とは心構えからして違う。ガクガクする膝を押さえて立っているのが精一杯だ。
「すまない。驚かすつもりはなかったのだが君が剣を抜いたのでな。少し話を聞きたいだけだ」
柔和な表情になった目の前の男は近くにある岩に腰を降ろすと、側の岩に座るよう促して来た。戦っても勝ち目はないし、前後を挟まれているので言う通りにするしかない。刀を鞘に納めると向かいの岩に腰かける。背後にいた二人は少し離れた所で周囲の警戒をしていて話に加わるつもりはないようだ。
「あらためて詫びよう。驚かせてすまない。わたしはとある貴族様に仕える騎士で、セルジョと言う。君は?」
「お、おれ、わたしは田中信夫・・・です」
騎士だって!?この村では碌に兵士の姿もみないのにさらに強い騎士様の登場だ。一か八かで突っこまないで良かった・・・。
「タナカ、ノブオ?君は苗字があるのか?王族以外に苗字を持つ人間はいないのだが、君は人間ではないのかな?」
ああああ!!そう言えばそんなことを聞いた気がする!確かに俺はこの世界の人間ではないけど、話がややこしくなるので誤魔化しておく。
「い、いえ!タナカノブオが名前です!苗字なんてありません!」
「そうか、ではタナカノブオ君。すまないがその腰の剣を見せてもらえないかな?」
一瞬武器を渡すことに迷ったけど、どのみち持っていても勝ち目はないのだ。話し合いで済むなら見せても構わないだろう。ついさっき結んだばかりの紐を解くと両手で持って刀を渡す。
「こ、これは!?」
セルジョは渡した刀を少しだけ抜くと驚愕の声をあげる。職業軍人の人が見ても、いや、普段から剣を使い慣れている人の方が驚くだろう。この刀の美しさは。
「これは・・・ダマス様が作られた剣なのか?・・・」
ん?
ダマス・・・様?・・・




