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37話:リメッタ

「あ~みんなおはよう。突然だけど紹介したい子がいます・・・」


 朝食の用意が整った食堂で、ご主人様が食事の前に話があるとおっしゃいました。テーブルの上座に、つまり一番奥の皆を見渡せる位置にご主人様が座っています。その斜め右前に奥様が、そして奥様の向かいに水色の髪をしたツインテールの女の子が座っています。そして5mほどあるテーブルの逆の端にはアメリーさんとロリさん、そしてわたしも席についています。ご主人様は本当に変わった方で、わたしたち家政婦にも一緒に朝食を食べるようにおっしゃいました。例え貴族ではなくても雇われの身でご主人様と同じテーブルにつくなど聞いたことがありません。


「ラランチアと二人だけの食事ってのも寂しいし、後ろで立って見られていると落ち着かないから」


 そういうものなのでしょうか?最後まで抵抗されたのはアメリーさんでしたが、ご主人様が頭を下げて頼むので不承不承受け入れました。それでもご主人様のグラスにお飲み物をついだり、おかわりを持ってきたりと動き回っていますが。


「えっと、この子は、その、ラランチアの妹で・・・昨夜うちを訪ねてきました・・・」


 ・・・(((ウソだ)))


 わたしだけでなくアメリーさんもロリさんも嘘だと分かっています。屋敷に来客があればわたしが気づきますし、就寝後でも夜間警備はロリさんがやっています。それにまだ成人前の女の子が、丘の上のこの屋敷まで夜に一人で来るなんてありえません。


「そ、そうなんです。わたしの妹で、名前は・・・名前は・・・」

「リ・・・リリリ、リメッタ!」


 ・・・(((ウソだ)))


 奥様ももう少し打ち合わせをされればよろしいのに、妹の名前が出てこないなんて準備不足もいいところです。ご主人様が咄嗟に考えたのでしょうか?リリメッタちゃんですか?


「はぁ!?なんであたしがリメッ・・・むぐっ!」

「そうだよな!君の名前はリメッタ!なあ、ラランチア!!」

「え、ええ、そうです!わたしのかわいい妹のリメッタです!そうですよね!?」

「・・・ご主人さ・・・お姉さまがそうおっしゃるなら・・・」


 リメッタちゃんでした。ご主人様は素早い動きでリメッタちゃんの口を塞ぎ奥様に同意を求めます。そんなに無理に隠さなくてもいいと思いますけど。

 わたしの元いた町ではわたしのような奴隷や身売りする女の子もいましたし、どこかで購入されたのでしょうか?


「あの、どちらからいらっしゃったのですか?」

「「えっ!?・・・」」


 あ、質問してはいけませんでした。名前も決まっていなかったのです。設定なんて出来てるはずがありませんよね。案の定、ご主人様も奥様も固まってしまいました。


「「モエちゃん」」

「・・・すみません・・・」


 アメリーさんとロリさんから笑顔のダメ出しがきました。やはりお二人もウソなのはわかってるんですね。するとアメリーさんとロリさんがスッと席を立ちリメッタさんに頭を下げました。


「出過ぎたことをお聞きしました。家政婦のアメリーと申します。よろしくお願いいたしますね、リメッタお嬢様」

「同じく家政婦でレッサーヴァンパイアのバンビーノ・グスタフソン・シュルツ・ニエミネン・ヴァン・ドロレスです。ロリと呼んでくださいませ」


 お二人が挨拶をされたのでわたしも急いで立ち上がります。


「同じく家政婦の・・・狐人族のゴンザエモンです・・・。モエって呼んでいただければうれしいです!」





 なんであたしがリメッタなのよっ!・・・ご主人さま、お姉さまがおっしゃるから仕方なく受け入れるけど、出来ればお姉さまに名前を付けて欲しかったな。ここはお姉さまが暮らすお屋敷だし、迷惑をかけるわけにはいかないから話は合わせるけどさ・・・。

 レッサーヴァンパイアのロリさん?だったかしら?あの人が部屋にやって来てゴミ虫の着替えを手伝っているわずかな時間で、ご主人さまのことを「お姉さま」と呼ぶようにと言われました。あたしとしては姉妹でもあるのでそれでも構わないですけど、あのゴミ虫を「様」付けで呼ぶことだけは頑として拒否しました。

 なんとか食事の時間をやり過ごしたけど、ゴミ虫が話があると言うのでお姉さまと一緒にさきほどの部屋に戻ります。


「さてと・・・。あ~・・・リメッタ・・・」

「くっ・・・」

「リメッタ」


 ソファーに座ったゴミ虫があたしのことを「リメッタ」と呼びました。反論しようと思ったけどお姉さまにたしなめられたので握った拳を緩めます。


「はぁ・・・もうその名前で紹介されちゃったから仕方ないけどさ。リメッタって何よ?」


 ゴミ虫が座っていてあたしが立っていると下に見られてるような気がするので、向かいのソファーにドサッっと腰を掛ける。初恋の人の名前とかだったらお姉さまが何と言おうと殺すわよ!


「え、ああ。花屋でバイトしてた時に見た果樹の名前かな?かわいい名前だなってなんとなく覚えてたんだ」


 花屋?ああ、このゴミ虫は異世界から来たんだっけ?・・・アレ?なんであたしがそんな事知ってるんだろ?そう言えば紹介されてないけどこのゴミ虫の名前が分かる・・・。信夫、か。


「とりあえずリメッタはラランチアの妹ってことでいいのかな?」

「ええ、なんとなく同族なのは分かりますし、何か繋がりのようなものも感じます」


 そう言ってお姉さまがあたしの隣に腰かけました。お姉さまと繋がってる!?あああ、なんて幸せなのかしら!ちらっとあたしを見て笑顔を見せてくれるお姉さまに心がキュンキュンしてきます!


「そうなんだ。ラランチアは七色の種を植えただけだけど、リメッタは半分俺の遺伝子も入ってるのかな?って思ったんだけど・・・そっか」


 キモッ!ゴミ虫のイデンシが半分入ってるなんて考えるだけでもおぞましいです!・・・イデンシって何でしょうか?


「とりあえず今日はリメッタの服を買いに行こうか?その服サイズ合ってないしね」


 服!服は欲しいけどゴミ虫と一緒に出掛けるなんてまっぴら!


「お姉さま!二人だけで行きましょう!ゴミ虫が一緒なんてイヤです!」

「リメッタ、信夫様が稼いだお金で買っていただくのですよ。そんなことを言ってはいけません」

「いや、俺はまあ・・・別に・・・」


 くっ!ゴミ虫と一緒なんて嫌ですが、このままではお姉さまの好感度が落ちてしまいます。かと言ってお姉さまと二人っきりになれるチャンスは逃したくないし、何かいい手はないでしょうか・・・。そうです!!


「い、いえ!決して一緒がイヤなわけじゃなくて・・・その・・・下着も買いたいので男性が一緒なのは・・・」

「え?あ、ああああ!!そ、そうだね!うん!ラランチア、二人で行っておいでよ!俺は新商品の開発をしてるからさ!」


 ふふふ、案の定遠慮してきましたね。これでついて来るなんて言う男はキモいだけです!ビバ!女の子!!今日はお姉さまと買い物デートです!


「そうですか?では行ってきますけど、夕方までには戻りますから」


 夕方と言わず外泊でもいいんじゃないですか?ゴミ虫のいるこのお屋敷よりどこかのホテルにでも。立ち上がったお姉さまにあたしもついて行きます。


「ラランチアは今夜は仕事だっけ?」

「そうですね。信夫様に頂いた制服も着てみないといけませんし」


 扉の前で振り返ってちょっとはにかんだ笑顔を浮かべるお姉さま。なんだか恥ずかしがっている気がします。お仕事!?お姉さまは夜にお仕事に行かれているの!?制服を着るお仕事・・・!?


「まさか・・・!?あんたお姉さまにどんないかがわしいお仕事をさせているのよ!!」

「リメッタ!?ご、誤解です!ただの酒場の給仕のお仕事ですよ!」


 酒場!?いえ、酒場も結構いかがわしい場所なんじゃないんですか!?制服って言ってたし、もしかしてウサギ獣人の恰好とか猫獣人の恰好とか・・・。


「リメッタは産まれたばかりですし、買い物が終わったら信夫様とゆっくり休んでくださいね」


 いやああああああああっ!!ゴミ虫と二人きりでお屋敷に残りたくないです!!例えいかがわしい所だってゴミ虫と一緒よりマシです!何よりそんな所だったらあたしがお姉さまを守らないと!!


「お姉さま!あたしも!あたしも一緒にお仕事に連れて行ってください!!」

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