36話:ロリさんの秘密
昨夜からご主人様のお部屋が騒がしいです。
枕を抱きしめてご主人様の寝室に向かう奥様を見かけたので、あまり寝室に近づかないように気をきかせたのですが、時々お二人以外のお声が聞こえてきます。
「きゃああああああっ!ご主人さまなんですの!?このゴミ虫は!?」
女の子の声?ご主人様の寝室から奥様以外の女の子の声が聞こえます。まあご主人様もお若いですから側室でもいらっしゃるのでしょうか?女性二人のお相手なんて信夫様も意外に精力旺盛ですわね。しかしゴミ虫が出るなんて、モエちゃんがお掃除をサボってるとは思えませんけど?
わたしの名前はバンビーノ・グスタフソン・シュルツ・ニエミネン・ヴァン・ドロレス。人間だった頃はただのドロレスでしたが10代の頃にバンビーノ男爵に見初められ嫁いだ・・・ような気がします。何せ300年以上前の事なのであまりよく覚えてないのです。そして25歳の頃、人間同士の争いに巻き込まれバンビーノ男爵領は滅ぼされました。わたしは共の者に連れられ追手から逃げ延び、不死族の国に入った所で何らかの事故か事件に巻き込まれ亡くなったのです。突然記憶が無くなったので死因は分かりませんでした。次に目が覚めた時はすでにレッサーヴァンパイアになっていたので。
ヴァンパイアは不死族の一種で、俗に血を吸うことで眷属を作ると言われていますがそれは勘違いです。無理やり血を吸うと相手から攻撃されてしまうので、「魅了」の魔法で抵抗しないようにして血を吸うだけです。しかし魔法の効果が高いため「魅了」効果が数年から数十年に及ぶので、まるで眷属になったようにみえるのです。
ヴァンパイアは鉄分を含む食材が苦手で、その為いつも血が足りずフラフラしています。唯一摂取できる鉄分が血液の為、貧血予防で吸うようです。血を吸われた生き物は病気のように感染し鉄分不足に陥りますが、多くの場合は普通の食物で鉄分補給が出来ます。わたしもレッサーヴァンパイアになって300年経ちますが、血液を頂いたことはありませんもの。
ヴァンパイアも一々「魅了」の魔法を使うとその後の面倒を見なくてはならなくなるので、慣れたヴァンパイアは死体から血を吸います。そしてごくたまに死んで間もない生き物から血を吸うとヴァンパイアの不死の病気が感染し蘇生してしまいます。
ヴァンパイアの不死は突然変異の病気なのです。
わたしが目を覚ました時、馬車は破壊され護衛をしてくれていた者たちは全員焼け死んでいました。わたしも同じく焼死したようなのですがなぜか火傷一つない姿で目を覚ましました。なぜ焼死したか分かるのかですって?ドレスが炭になっていたからですわ。
それからの数年はとても大変だったことは覚えています。目を覚ました時は夜でしたが、翌日の朝日を浴びた時灰になってしまいました。次に目が覚めたのは再び夜になってからです。そこでやっとわたしがヴァンパイアになっていることに気づきました。昼間に活動できないので夜に森で野草を食べて飢えをしのぎ、時には村の畑から野菜も失敬しました。ついでに衣服も。
少し落ち着いた頃これからどうするかの2択の選択をする時がきました。ヴァンパイアとして不死族の国に行くか、人間の国に戻るかです。わたしは後者を選びました。理由はよく覚えていませんが・・・。
昼は森の中の影で眠り、夜は街道を歩いて町を目指しました。ようやくついた町で、わたしは住み込みの娼婦として働きました。夜しか働けないので他に選択肢はなかったのです。それでも数年働くと歳を取らないことと、昼間に一切外出しないことを怪しまれ別の町に移りました。そんなことを数十年繰り返していると時々プロポーズをしてくる人が現れます。皮膚が弱く日光を浴びれないこと、味覚がないので料理が出来ないこと、その条件を告げると大抵の人は諦めますが、それでも300年の間にはごくたまにそれでも身請けしたいという奇特な方もいました。それがわたしの名前にあるグスタフソン、シュルツ、ニエミネン、ヴァンの4人です。最後の夫であるヴァン以外はもう顔も思い出せませんが。せめて名前だけでも覚えておこうと最初の夫のバンビーノから結婚した順に名前として名乗っているのです。
そして時代は移り、現在では他種族もわずかではありますが人間の国で暮らしています。最後の夫のヴァンが亡くなり独り身になったわたしは、ようやく人間の国でヴァンパイアとして暮らしていくことにしたのです。
300年が経過しヴァンパイアの事も少し分かってきました。ヴァンパイアから病気が感染した人を「レッサー」と呼ぶことを知り、それ以来レッサーヴァンパイアと名乗っています。昼間は働けないのでやはり娼婦しか仕事はないかと思いましたが、偶然仕事斡旋所で見かけた信夫様の家政婦募集要項に、「就業時間は応相談」と書いてあったので無理を承知で応募してみたら雇っていただけました。応募しておいてこういうのも何ですが、よくレッサーヴァンパイアを雇う気になりましたね。
ご主人様の信夫様と奥様のラランチア様は変わったお方ですね。わたしを快く雇っていただいたこともそうですが、お二人は人間ではありません。わたしもレッサーとは言えヴァンパイアなので魔力があります。魔法が使えるのです。そして魔力を感じることもできます。初めて信夫様にお会いした時は驚きました。身体から魔力が噴き出していたのです。長年人間の国で暮らしていましたがこんな強大な魔力を持っている人に会ったのは初めてです。人間には当然魔力はないので信夫様は人族ではありません。しかし見た目は人族です。一体何者なのでしょう?奥様のラランチア様も魔力を持っています。毎日頭の葉っぱが増え花も咲いていらっしゃったので、ドライアド族かトレント族の血を引いていらっしゃるようですが、見た目が人間なので奥様の正体も不明ですわね。不思議な方々ですがわたしのような者を雇っていただけましたし、悪い方ではないので精一杯働くとしましょう。
毎朝ご主人様の起床のお手伝いをするのはモエちゃんのお仕事ですが、二人の女性が寝室にいるのでしたらモエちゃんには少し刺激が強すぎるかもしれませんわね。
「今日はわたくしが起床のお手伝いをいたしましょうか」
コンコン
「ご主人様、起床時間でございます。失礼いたしますわね」
娼婦として長年働いていたので男女の秘め事には免疫があります。信夫様がベットの中でお二人の女性と抱き合っていても驚くことはありません。しかし、扉を開けると予想外の光景が広がっていました。
股間を押さえたご主人様が床を転げまわり、水色の髪をした女の子が座り込んで泣いていて、その真ん中で奥様がオロオロしていました。
「ロ・・・ロリざん・・・お、おはよう・・・」
涙目のご主人様が顔だけ私に向けて声をかけてくださいます。
「一体何があったらこんなことに?・・・」




