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33話:鍛冶師ダマス

 ラランチアの頭に出来た六色の種を植えてから6日が過ぎた。ようやく大きくなってきた実が地面に到達し、直径50cmほどになっている。ラランチアの時には4日目には地面について7日目に産まれたのでかなり遅い。それもこれも最初の肥料不足が原因だと思うがこの分だともう2、3日はかかりそうだ。


「信夫様、本当に今日でお仕事を辞めてしまわれるのですか?」


 ラランチアの妹の実を眺めているとラランチアが部屋の入り口から顔だけ覗かせて声をかけてきた。ラランチアの頭には6枚の葉と大きな蕾が出来ている。発情期が近いため昼間は俺から距離を取っているのだ。近づくと理性が崩壊しちゃうからな・・・。


「ペオーニアさんが完全復帰したしね。酒場は辞めるけど家政婦さんたちの給料も払わないといけないし、すぐに次の仕事を始めるよ」

「それでは今日も執事組合のビルに行かれるのですか?」

「ああ、頼んでいた酒場用の制服ができたらしいしね」





 屋敷から馬車で20分ほどの所に執事組合のビルはある。ラランチアとは今日は別行動で俺は一人で執事組合のビルにやってきた。執事組合のビルと言っても専用のビルではなく、元の世界のテナントのように執事組合があるだけで他にも色々な受付がある。ビルに名前がないからそう呼んでいるだけなのだ。今日の目的はそのビルの受付の一つの仕事依頼所だ。


「こんにちわ。以前頼んでいた仕事が終わったと聞いたのですが」

「いらっしゃいませ。縫製の依頼の方は完了していますよ。こちらになります。ご確認ください」


 カウンターに出された白いブラウスとチェック柄のコルセットに同じ柄のミニスカートを手に取って確認する。ゴブリンさんの輸入服に比べると材質もあまりよくないし出来もいまいちだ。しかし人間王国の技術ではこれが精一杯らしく今はがまんするしかない。それでも元の世界のファミレスの制服デザインを参考に作ったエプロンドレスは、この世界では斬新でちょこっとエロく絶対に客の目を引くはずである!同じものを4セット受け取ると代金の銀貨8枚を支払った。


「ありがとう。それでもうひとつの方はどうですか?」

「そちらは鍛冶師の方も頑張っているようなのですが、もう少しお時間がかかりそうです」


 こちらの世界は元の世界に比べて技術がそれほど発展していない。便利な物が欲しい、生活を楽にしたいという発想から技術というものは発展すると思うんだけど、この世界には魔法がある。困った時に発展するのは魔法なのだ。しかし人間は魔法が使えない。そのため他種族が開発した魔道具などに頼っているのだが、当然革新的な技術の魔道具は他種族に売るはずもなく、1世代、2世代前の魔道具を使っている。それを使えるのも貴族などの一部の者に限られるようだが、当然そんな状態では武器開発も他種族頼りで人間は負け続けている。

 俺は銃器をこの世界に持ち込む気はない。俺が開発したいのは生活をちょっと豊かにする程度の商品だ。


「あの~鍛冶師の方にお会いすることはできますか?」

「可能ですが、ちょっと気難しい方なので気を悪くされるかもしれませんよ?」


 少し前に武器屋を見つけて剣や弓を見たことがある。初めて見る本物の武器に興奮したのだが、よくよく見るとおかしなことに気づいた。剣に刃がないのだ。いや、刃はあるにはあるのだがテレビや映画で見た日本刀とは大きく違い、刃文もなければ光沢もなく、所謂鋳型に鉄を流し込んで作られた鋳物の鉄剣だった。刃は後にやすりで研いで鋭くしたものなのだろう。

 鉄と聞くと堅いイメージはあるが錆びやすく脆い印象もある。はがねの方がいいはずなのだがなぜか鋼の知識を持っている人がいない。おそらく鉄の弱点は魔法か何かで強化するとかでカバーしているのだろう。そのために鋼がこの世界にはないのだ。


「確か鉄に木炭なんかの炭を混ぜて叩けば鋼になるんじゃなかったかな?」


 思い付きだったけど試しに仕事の依頼として「鋼」制作を開始した。依頼を受けてくれたのは最近鍛冶場をクビになったという鍛冶師で、名前はダマスさん。鍛冶場をクビになった理由はわからないけど、受付嬢の人が言っていた「気難しい方」というので何となく察しはついた。

 教えてもらった鍛冶場は執事組合のビルから徒歩5分ほど山側に向かった崖の手前にあった。簡素な柵で囲まれた畑があり、その中に小さな掘っ立て小屋がある。ここで合っているのか一瞬迷ったけど鉄を打つ音が響いており鍛冶場であるのは間違いなさそうだ。


「ごめんください~・・・」


 扉を叩いて声をかけたけど鉄を打つ音は途切れることなく返事もない。少し扉を押してみると鍵はかかっておらずギィっと錆びた音を立てて内側に開いた。


 カンカンカンッ!


「お邪魔しますよ・・・」


 中に入って再度声をかけるもハンマーを振り下ろす動きに変化はない。鍛冶仕事は熱した鉄をすばやく叩いて伸ばすとかなんとか聞いた気がする。出来上がるまで待つしかないかな?俺が来たことにも気づいてないっぽいし。

 鍛冶師と聞くとドワーフをイメージするけどダマスさんは人間だ。ゆるくウェーブした金髪で歳は30手前、それほど筋肉質でもなく、いい服を着せれば貴族っぽく見えるかもしれない。

 見た目通りの小さな掘っ立て小屋の中には所狭しと鉱石の入った樽が置かれている。部屋の隅には鋳型に流し込んで作られたと思われる剣や盾などが無造作に置かれ、唯一ある家具のテーブルには金属で作られた小物類が山となっていた。整理整頓とは無縁の人っぽいな。ふと視線を仕事をしている鍛冶師の方に向けると、鍛冶台の横に転がっている剣が目に入った。アレはもしや!?


「刀!?」

「うおっ!!だ、誰だ!?」


 鞘も無く柄もないが緩く弧を描く刀身は鋳型に流し込んで作られた剣とはまったくの別物だった。刀身自体が放つ光沢、刃文もあり俺の元いた世界で見た刀とそっくりだった。唯一違うのはその刀身に木の木目のような模様が入っていることだろうか。


「え、ああ、すみません。俺は田中信夫といいます。今回依頼を受けてくれたダマスさんであってますか?」


 今回の依頼は鋼を作る事。仕事依頼所の受付嬢の方によると製作が難航しているという話だったが、刀が出来ているということはもう完成しているのではないのかな?


「そうだ。あんたが依頼人か。悪いがまだ【鋼】は完成していない」

「この刀は完成してるんじゃないですか?どうみてもただの鉄には見えませんし」

「それは試しに作ってはみたが完成には程遠い。武器としては優秀だろうがあんたが望む薄く小さな刃にするには硬すぎる」


 確かに俺の依頼は【鋼】を作る事だが、包丁より薄くて小さな刃を頼んでいる。まだ改良が必要ということなのだろう。


「そうですか。それじゃ試作品が出来たら依頼所に連絡をいただけますか?」

「試作品ならいくらでもあるよ。ほら、机の上に」


 あれ?もう試作品はできていたのか。先ほど机の上をチラッと見てはいたけど金属の小物が山となっていただけで・・・。


「これ全部試作品!?薄い!刃も小さいし完成してるじゃないですか!?」

「いや、小さくしてもこの変な模様が消えなくてな・・・。何か余計な物が混ざっているのかもしれん」


 いやいや!むしろこの模様が美しく感じる!実用に問題ないならむしろこの模様はあったほうがいい!

 土台として作っていた木の板に試作品の刃を取り付け、ダマスさんの畑から抜いてきた大根をその上で滑らせる。


 シュッ!シュッ!


「おお!いける!これは立派なスライサーだ!」

「ほお、そんな使い方をするための物だったのか」


 酒場で働いている時、大量の野菜の下ごしらえに苦労したことを思い出す。ラランチアの手作りサラダが好評でそれに使う野菜の処理で手が痛くなったほどだ。

 スライサーが成功すれば次はピーラーだな。家庭でも毎日使う物だしこれは売れるはずだ!


「ダマスさん!次はこんな形にできませんか!?」


 俺はその場でざっとピーラーのイメージ図を描きダマスさんに見せる。


「作るのは可能だ。だがこの模様が消えなければ依頼を達成したとは言えん!」


 なぜ模様にこだわる・・・。この頑固さが鍛冶場をクビになった原因なのだろう。しかし試作品の製作は請け負ってもらえたので、ピーラーが完成するのに時間はかからないと思う。


 俺が始める新しい仕事、田中雑貨店の最初の商品が完成した。

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