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31話:ゴンザエモンちゃん

 わたしの名前は・・・ゴンザエモン・・・。奴隷商でつけられた名前で本当の名前は知りません。

 物心ついた頃にはわたしは人間の国で暮らしていました。なぜ人間の国にいるのかも分かりません。

 わたしは狐人族。人間じゃないことはすぐに気づきました。この耳としっぽがあるからです。人間と獣人はずっと昔から争っていますがほぼ獣人の完勝らしく、そのため狐人族のわたしは人間から憂さ晴らしで迫害されていました。

 獣人は成長速度が早く、約2年で成人になります。わたしも2年で成人にはなったのですが、幼少時の栄養不良のせいか身体が大きくなりませんでした。そして3歳になるころに奴隷商に捕まり奴隷になりました。

 獣人は動きが素早く力も強いのですが、小柄なわたしは本来の獣人とは比べるべくもなく弱かったのです。肉体労働に向かないわたしは、ある日年老いた貴族のご婦人の身の回りの世話係として買われました。髪が伸びっぱなしで小柄なわたしを見て女の子と勘違いしたご婦人は、屋敷のメイドに命じて女の子の服をわたしに着せました。


「まあかわいらしいわ。とても良く似合ってますよ」

「そう・・・でしょうか?・・・」


 似合っているとは思わなかったけれど、綺麗な服を着るのは初めてだったので少し嬉しかったのを覚えています。


「あなたのお名前は・・・そうね・・・エモちゃんでいいかしら?」


 わたしには名前がありませんでした。奴隷商で名前を付けられたようですがわたしは知りません。ご婦人が机の上の書類を見ておっしゃったので、エモ?がわたしの名前なのでしょうか?

 そしてわたしは女の子としてご婦人の身の回りの世話を始めたのです。最初は女の子の服に抵抗があったのですが、初めて鏡に映る自分の姿を見て驚きました。とてもかわいかったのです。ご婦人もわたしのかわいさを褒めて下さりとてもやさしくして頂きました。そしていつしかご婦人の期待を裏切りたくないと思い、自ら女の子になりきるために努力を始めたのです。成人していたため少しづつの太くなる声は裏声を鍛えて高くし、体臭を隠す為に肉は食べずに野菜中心の食事をし、筋肉を付けずに肌と髪の手入れを欠かしませんでした。

 元々高齢であり徐々に目が悪くなられたご婦人は、ある日わたしに大きな鈴を下さいました。


「これをつけていてくれるかしら?もう目があまり見えないので音で誰か分かる様にね」


 わたしだけでなく他のメイドさんにも音の違う鈴を渡しました。かわいらしい音の出る鈴ばかりでしたが、わたしの鈴だけやたら大きく低い音でした。

 やがて奴隷として長い年月が過ぎ解放される日が近づいたある日、ご婦人が亡くなられました。まだ奴隷契約の10年は過ぎていませんでしたが、ご婦人の遺言でわたしは奴隷から解放されたのです。


「今までご苦労だった。これで君は自由の身だ。もうその女装はしなくても良いゴンザエモン君」


 ゴン・・・ザエモン・・・。え?え?わたしの名前ってエモじゃなかったんですか!?

 ご婦人は勘違いをしていたわけではなかったのです。わたしを男だと知っていて女の子の服を着せていたのです。後で知ったことですがご婦人にはお子様が4人いましたが、全員男性だったのです。ご婦人は女の子が欲しくわたしを娘のように扱っていたのです。

 複雑な気分でした。

 わたしを自らの娘と思うほど愛してくださったことは嬉しかったのですが、男と知っていて女装をさせていたのはどうなんだろう、と。


「良く働いてくれたし、このままこの屋敷で働いてくれても良いが?」


 ご婦人の長男の方がそう言ってくださいましたが、なぜかこのままここで働く気が起きずお暇することにしました。幾ばくかの慰労金とわたしのためにと生前ご婦人が作らせていた変わった服を頂き、最後に形見として大きな鈴も頂きました。

 わたしは男・・・です。でも、女の子になりきるためにした努力の結果、いつの間にか性自認は女になっていました。


 先日登録していた執事組合を通して、とある商家の家政婦として雇っていただくことが出来ました。男なのに家政婦として雇っていただけるか不安でしたが、まだ若い旦那様もお綺麗な奥様も快く迎えてくださいました。初めてのお仕事で旦那様の起床のお手伝いに行って、裸で抱き合うお二人を目撃してしまう失態を犯しましたが、特にお咎めもなくホッとしました。


「ゴンザエモンちゃん。ちょっと休憩にしない?」

「あ、はい!ロリさん」


 一緒に旦那様に雇っていただいたレッサーヴァンパイアのロリさんがお茶に誘ってくださいました。


「コレ奥様からですって。休憩の時に食べていいっていただいたのよ」

「わあ!クッキーですか!」


 休憩室で紅茶を飲んでいるとロリさんが小さな袋に入ったクッキーを広げました。甘いものは希少なのでクッキーを食べられるなんて今日はラッキーです。わたしがクッキーに手を伸ばしてリスのようにカリカリ食べていると、ロリさんが面白いものを見るように微笑んでいました。


「ロリさんは食べないんですか?」

「食べられないことはないけど、味覚がないからね~。ゴンザエモンちゃんはおいしそうに食べてくれるから見ているだけでいいわ」


 なんだかわたしだけ食い意地が張っているようで少し恥ずかしくなりましたが、ロリさんが包みをわたしの方に押しやってくださったので頂くことにしました。


「そう言えばゴンザエモンちゃんは呼び方を変えたりしないの?」

「え?」

「せっかく外見がかわいらしいんだからもっとかわいい名前にすればいいのに」

「そうなんですが・・・」


 わたしもそうしたいと思って他の名前を考えたことがありました。ところが獣人族の本能なのかどうなのか、一度決まった名前を捨てることが出来なかったのです。亡くなった貴族のご婦人には「エモ」と呼ばれていました。愛称をつけていただくことは出来ますが自ら他の名前を名乗ることは出来ないようです。


「ご主人様に何か愛称をつけていただければいいのですけど・・・」





「おはようモエちゃん」

「おはようご・・・え?」


 いつものように起床のお手伝いに行くとご主人様がわたしのことを「モエ」と呼ばれました。


「ゴンザエモンちゃんじゃ呼びにくいから短くして「エモ」、それをひっくり返して「モエ」ちゃんってどうかな?・・・いや、だったかな?」

「い、いえ!そ、それで!それでお願いします!」


 うれしいです!わたしに新しい愛称ができました!「モエ」いい響きですね。でも急にどうしたのでしょう?昨日ロリさんとお話ししたばかりです。ロリさんがご主人様にお願いしてくださったのでしょうか?


 朝食後、お部屋に戻るロリさんを呼び止めてお礼を言います。


「ロリさん、ありがとうございました。おかげでご主人様に素敵な愛称をつけていただけました」

「わたしは何も言ってないわよ?ご主人様もかわいい呼び名を考えていらしたのね」


 ご主人様がわたしのために自ら考えて!?うれしくて尻尾がブンブンと大きく動きます。


「よかったわね、モエちゃん」

「はいっ!」


 信夫様がご主人様で良かった!あんな綺麗な奥さんがいるのにわたしみたいな家政婦にまで気を使ってくださるなんて!掃除の為に持っていた箒をギュッと握りしめます。


 今日もご主人様の為にお掃除をがんばります!

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