30話:六色の種
あ~びっくりした。さっきの人、人間じゃないな。顔は青白いし角はあるし牙も見えた。先に狐人族のゴンザエモンちゃんと不死族のロリさんに会ってなかったら、驚いて声を出していたかもしれない。人間の国にも意外に他種族の人もいるんだな。
「なあラランチア、さっきの人ってなんて種族なんだ?」
「え?さきほどぶつかった方ですか?」
「そうそう」
「えっと・・・人間、じゃないんですか?」
は?いやいやいや、いくらラランチアの言葉とは言えあの外見で人間はないだろう。なんてったって角生えてるんだよ角!頭の両脇からこう、ニョキニョキっと曲がりくねった角が!
「この世界の人間には角が生えてる人とかいるの?」
「いえ、そういう人間がいるなんて聞いたことはないですけど。角があるのは大鬼族か魔族くらいのものでしょうね」
あれ?・・・もしかしてラランチアにはさっきの人の角が見えていない?角があるのは大鬼族か魔族・・・か。ラランチアの一般常識も魔族のもの。さっきの人はもしかして魔族なのかな?
振り返って見ても先ほどの人の姿は見えない。あの人はラランチアと何か関係があるのか?
天使「さっきの者は魔族の王。ラランチアちゃんを創った張本人ですよ」
魔使「おい!なんで言うんだ!!」
天使「その方が楽し・・・信夫君が知りたがっていたので」
頭が真っ白になった。
え?天使はなんて言ったんだ?何かの聞き違いか?
はああああああぁ!?魔族の王!?ラランチアを・・・創った?
ラランチアは創られた女の子・・・人間どころか魔族でもない!?どういうことなんだ!?
「信夫様?」
創る・・・造る・・・人型・・・アンドロイド?いや、この世界には魔法がある。魔法か・・・。魔法で魔族の王がラランチアを創った!?何で!?何のために!?
これからラランチアとデートに行こうと思ってたのに、急にラランチアの出生の秘密とか頭が追い付かねえ!!
「信夫様!!」
「うわっ!!」
視界がラランチアの顔で埋め尽くされた。心配そうに覗き込むその瞳には俺の間抜け顔が映りこんでいる。落ち着け俺。ラランチアを不安にさせてどうする!
「まさか!?先ほどの者に何かされたのですか!?すぐに捕えてまいります!!」
「待て待て待て!ちがう!ちがうから!」
踵を返して人ごみに走って行こうとするラランチアの腕を掴んで止める。目が怖いよ!そうだった、ラランチアはかわいいだけでなく俺の秘書のようなことをする時は冷酷にもなれるんだった。面接で二人の女性をバッサリ斬り捨てた時のように・・・。
「では一体?・・・」
さっきの男はラランチアには人間に見えていた。俺にはバケモンに見えたけどな。天使が言うには魔族の王らしいが。魔族の王がラランチアを創った・・・つまり、あの七色の種を創ったってことか。その魔族の王が幻術か何かで人間に化けて人間の国にやってきている。なぜか俺には幻術は効かないみたいだけど。
目的は何か?そんなもんあの七色の種を探しに来たに決まっている。幸い種から産まれたラランチアには気づいていなかった。種は創ったけど産まれたラランチアには気づかない・・・。という事は種は創ったけど植えたことがないのか、創ったのはあの一個だけなのか。それを王という立場の者が一人で探しに来ている。つまりは・・・実験・・・か?
神と悪魔に唯一許された女の子。
俺と同じでこの世界の者ではないと判断されているのか。
不思議そうな顔で俺を覗き込んでいるラランチアの手を握る。
少なくとも魔族の王とラランチアを会わせてはいけない。決して種の事を知られてはいけない。知られてしまえばラランチアは連れ去られてしまうかもしれないんだ。
俺はラランチアの腕を引き寄せ力いっぱい抱きしめた。
「の、信夫さまぁ!?こ、こんな往来で!?」
「そうだな。ここではまずい。どこか身を隠せる場所は・・・」
いつさっきの魔族の王が引き返してくるかもしれない。相手は王だ。他種族の王が入り込めない所となるとこちらも人間王国の城・・・くらいか。
「つ、連れ込み宿はダメですよ!!」
「そうだな。そんな所じゃダメだ。城くらいじゃないと」
「お城!?まさかの最高グレードのラブキャッスル!なぜ信夫様がご存じなんですかっ!?」
魔使「もう魔族の王はこの村にはいないぞ」
そのようだな・・・。
「信夫様!聞いてらっしゃいますか!?一体誰とラブキャッスルに行かれたのですかっ!!」
「だから行ってないって!誤解だよ!」
なぜこんなことになったのだろう?デートは急遽中止になり屋敷に戻った。そして俺はなぜか自室で正座させられラランチアに説教されている・・・。
「ラブキャッスルに行ったこともないなら、なんでそんなに詳しいんですかっ!?一般常識は分からないとおっしゃっていたではないですかっ!?」
「いや・・・だからそれは元の世界の知識で・・・」
ラブキャッスルなるものが元の世界のラブホテルと同じなのかと細かく聞いたのがいけなかった・・・。
「信夫様が異世界から来られたのは信じますが、あんないかがわしい施設が異世界にあるなんて信じられません!」
ラランチアは腕を組んでそっぽを向いてしまった。発情期が来ないとラランチアは基本恥ずかしがり屋なのだ。でも、ここで突っこむのはダメだよな・・・。なんでラランチアはラブキャッスルを知ってるの?・・・。
陽が傾き始めてきた。そろそろバイトの時間だ。とりあえずの脅威は去った。二つの意味で。
それから一週間は何事もなく経過した。ラランチアの頭の種は少しづつ膨らんで2cmほどになり、緑色の外皮はやがて枯れたような茶色になった。
「ラランチアの時と種の色が違うな」
「そうなんですか?わたしの時はどんな感じでしたか?」
「う~ん・・・七色の種だった」
「えぇ~・・・」
種が出来る一週間が経過した深夜、ラランチアが俺の部屋を訪ねてきた。ちなみに首元までしっかり隠れる寝巻姿で露出はまったくない。
「あ!信夫様、種が取れましたよ」
ラランチアの手の平に頭にあった種が乗っている。コレって外皮を取ったらもしかして・・・。
「ラランチアちょっといいか?」
「はい。どうぞ」
手を伸ばした俺の手の平にラランチアが種を乗せる。
「「あ」」
二人の子供でもある種を手渡す際、ラランチアの指が俺の手の平に触れた。手を繋いでデートしてあまつさえ初エッチをしているにもかかわらず、こんなちょっとした触れ合いにドキドキする。エッチの記憶はないけれど・・・。
「んんっ!コ、コレって外皮が取れるんじゃないのかな?」
薄い茶色の皮をめくってみたら案の定あのカラフルな種が姿を現した。
「コレが・・・気持ち悪い種ですね・・・」
「ラランチアの種もこんなだったよ・・・。アレ?なんか違和感が・・・」
似ているけどなんかラランチアの種と違うな?あの時より色の幅が広いような。
「・・・4、5、6。六色の種ですね」
「本当だ!ラランチアの髪の色と同じオレンジ色がなくなってるな」
水色に黄色、紫に白と薄紅色。そして黒の六色だ。
「この種を植えると二人目のラランチアが産まれるのかな?・・・」
「わたしと同じではないですけど。おそらく妹でしょうね」
妹か。ラランチアの妹ならさぞかわいい女の子が産まれるんだろうな。
「植えても・・・いいかな?」
「信夫様がお望みならば」
「よ、よし!」
部屋の片隅に置いていた植木鉢を持ち上げ窓辺に移動した。ゴブリンさんに貰った植木鉢だ。しばらく放置していたのでカラカラに乾いていたが、真ん中の土をかき分け六色の種を埋めて土をかぶせた。如雨露で水をまきしばらく様子を見ると土がモコモコと動き出し小さな芽が生えてきた。
「もう発芽したのですか!?まだ植えて5分も経ってないのに・・・」
「ラランチアの時もそうだったよ。産まれるまでたったの一週間だったし」
これで来週にはラランチアの妹が産まれるのか。楽しみだ。




