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29話:接近遭遇

 室内に妙な静寂が訪れた。

 気を失っている間に童貞を奪われた俺。

 気を失った男を襲って処女を失ったラランチア。

 普通逆だろ!!いや、逆ならいいと言うわけじゃないが・・・。


「それで、結局あの花のせい?なのかな?」

「そうですね・・・。あの花と言うか、わたしの体質のせい・・・ですかね」


 ラランチアは七色の種から育った植物から産まれた。本質は植物なのだろう。花は次世代の種子を作るために咲く。受粉させるために花粉や蜜をエサに昆虫や小鳥をおびき寄せるのだ。さながらあの頭を麻痺させる香りが蜜で、俺はおびき寄せられた虫なのだろう。


「ラランチアの体質か。それってどういうものか理解出来てるの?」

「大体のことは。産まれてから毎日一枚づつ頭の葉っぱが増えていきます。四日目には蕾が出来始め七日目に花が咲きます。蕾が出来始めた頃から気持ちを押さえられなくなってきて、花が咲くとその時はその・・・ご存じの通りです・・・」


 花が咲くと発情しちゃうってことか。確かに蕾が出来始めた頃からラランチアのフェロモンのようなものを感じてはいた。ああやってオスをおびき寄せて種子を作るのか・・・。あれ?それって俺じゃなくてもいいってことなのか?・・・。


「ラランチアの媚薬のようなフェロモンは、俺以外にも通用するってことなんだよな?・・・」

「確かに信夫様以外にも効果がある方はいますが、人間には効果はありません。あれは魔力に反応するみたいですので」


 人間には効かないのに俺には効くんだね。という事は俺にも魔力があると。俺も人間のカテゴリーからはずされたのか。


「それじゃ昨日の朝から俺を避けていたのは?」

「えっと、信夫様が近くにいると気持ちを押さえられなくなってしまって・・・い、言っておきますがわたしがその・・・欲しい人はご主人様の信夫様だけです・・・」


 ズキュン!


 はうっ!!腰が抜けそうになった!キューピッドの矢とはよく言ったものだ。本当に胸が痛い。

 そうか、そういう事か。ラランチアは花が咲くまで我慢していたのか。俺はフェロモンにやられ、ラランチアは本能に負けそうになったから避けていたんだ。そういえばラランチアの頭にあった花が無くなっている。役目を終えて散ってしまったのか。そのせい、というかおかげで昨日まであったラランチアに対する肉欲のようなものが落ち着いている。当然今でもラランチアはかわいいと思うしドキドキもするが、理性が崩壊するような感じはなくなった。


「それじゃ花が散った今、ラランチアは普通に戻ったってことなのかな?」

「それなんですが・・・これから子供が出来ます」

「子供!?」


 やっぱり最後まで致しているのか!?まったく記憶がないのにこの年で父親になるなんて!ラランチアとの子供は嫌と言うわけではないが、せめて記憶!記憶をくださいっ!!

 ラランチアが耳の上の髪をかき分けると、そこには1cmほどの緑のふくらみがあった。これって?


「子供と言うのはちょっと違うかもしれません。見ての通り種ができるのです」


 種・・・。植物の子供ということか。人間みたいにお腹から産まれるわけじゃないのね。


「種ができるまではおよそ1週間くらいでしょうか。それで1サイクルが終わります」


 産まれてから1週間で花が咲いて、それから1週間で種が出来る、と。それが1サイクルということは・・・。


「もしかしてその後1週間で?・・・」

「はい・・・。また花が咲いて・・・そして」


 2週間に一度ラランチアが発情する・・・。


 ゴクリ・・・


 という事は、意識を失わなければ2週間後こそラランチアと・・・。リベンジだ!リベンジのチャンスだ!!次こそはラランチアと甘い夜を過ごすんだっ!!


「そして、わたしの寿命は・・・」

「ん?ラランチア、何か言った?」

「いえ!何でもありません」


 妄想で頭が一杯でラランチアの話を聞いていなかった。何でもないって言ってるし大したことじゃないのかな?

 こっちの世界に来てまだ1週間なのに色んなことがあったな。一文無しで住む所すらなかったのに、今ではこんな屋敷に住んで家政婦さんも3人雇って、何よりラランチアという「奥さん」がいる。種が出来てそれを植えれば子供が生まれるってことなんだよな。すぐに子供が出来たりしたらアメリーさんたちに不審がられるかな?できれば5人でも10人でも子供が欲しいんだけど。・・・何か方法を考えないと。


「あの、信夫様」

「ん?どうしたんだ?」


 おや?ラランチアが少し不安そうな顔をしている。ここまでの話で何か不安になるようなことがあったかな?


「その・・・お願いがあるのですが」


 ラランチアからお願いだなんて珍しいこともあるもんだな。もちろんラランチアのお願いなら何でも叶えてやるよ!


「今日は一日、一緒にいていただけますか?」

「そんなことでいいならいくらでも付き合うよ!今日は一日デートしよう!」

「は、はい!」





「それじゃ夕方まで出かけてきますので、後はお願いします」

「お願いしますね」

「はい、いってらっしゃいませ旦那様、奥様」


 アメリーさんに見送られて俺とラランチアは手を繋いで丘を降りて行った。

 中学の頃、学校のフォークダンスで女子が伸ばした手を握れなかった過去がよぎる。陽の高いこの時間、未だに手を繋いで歩くのは照れてしまうが、恥ずかしがり屋のラランチアが自ら手を伸ばして来たのだ。ここで手を取らなかったら男がすたる!ラランチアの手は柔らかく暖かく、そして小さかった。この手を離したくない。一生守って行こうとあらためて誓う!


 酒場の仕事は夕方からだ。それまでの半日ラランチアとデートだ。前回はゴブリンさんの輸入服専門店を見て、甘味処であんみつを食べた後デートはお開きになった。ラランチアに疲れが見えたからだ。今日はその続きをしよう。

 ラランチアと手を繋いで村を散策する。少し先にひときわ高い建物が見える。まるでお城のような尖塔が建っていて、まるで元の世界のラブホテルのようだ。こっちの世界にもあーゆー建物の需要があるのかな?

 こうして手を繋いで散歩するだけでも楽しいけれど、どこかのお店でも入ろうかな?


「ラランチア、どこに行きたい?」

「信夫様の行きたい所へ連れて行ってください」


 俺の行きたい所?俺の行きたいところと言えば今は一つしかないのだけど、あそこはデートで行くところって感じじゃないしなぁ。


「ラランチアは行きたいところはないのか?」

「今日は信夫様について行きたい気分なんです」


 笑顔がまぶしい!!ラランチアが握っていた手の上から空いていた手の平を載せて俺の手を挟み込む。両手で握られた手が幸せで跳ね上がりそうになる。


「それじゃ、乗合馬車を探そう」

「はい」





 むぅ・・・。さすがに人間の国で小さな種一つを探すのは難しいな。夕べの酒場でも何の情報も手に入らなかった。もしかしてすでに誰かに植えられて産まれてしまっているとか!?いや、人間の国で植物から女の子が産まれるなんて大事件だ。植物から産まれる種族などいない。魔物が現れたと噂くらいたつだろう。


「そんな噂もないんだよなぁ・・・。植物から女の子が生まれても大騒ぎしないなんて、異世界人にでも拾われたのか?」


 そんな訳もないか。


 ドンッ


「おっと」

「おわっ!」

「信夫様!」


 ついつい考え事をしていて人にぶつかってしまった。人に化ける偽装をしつつ考え事までしているとさすがに注意力が散漫になるな。


「すまないな少年、大丈夫かね?」


 尻もちをついている15歳くらいの少年に手を伸ばす。


「いえ、こちらこそすいま・・・せん・・・」


 ん?少年がわたしの顔を見て一瞬動きが止まった。まるで人間じゃない者に出会ったかのように。偽装は解けていないし・・・ああそうか、イケメンに見える偽装をしているんだったな。人間の貴族にでも見えたのだろう。


「安心してほしい。わたしはただの平民だよ」

「あ、ああ、そうなんですね。驚いてすみません」


 手を引っ張って助け起こすと同伴している女性が心配そうに少年に声をかける。


「信夫様、お怪我はないですか?」

「大丈夫だよラランチア」


 ほう、人間にしては中々の美人だ。オレンジ色の髪に色白の肌。目は大きくまつ毛も長い。人間じゃなかったら娘の友達にちょうど良いのだが。胸は・・・でっかっ!!何コレ!?こんな爆乳見たことないんですけどっ!?わたしの脳内スカウターの故障でなければ93・・・いや95か!?・・・ダメだ!胸にコンプレックスがあるフィオリトゥーラには紹介出来ない・・・。隠しているようだが毎夜バストアップ体操をしているのは知っているのだ。


「あの?・・・何か?」

「いや、すまない。こちらのことだ。それではこれで」


 軽く頭を下げ少年たちと別れた。胸はともかく容姿はフィオリトゥーラに負けず劣らずだったな。七色の種にはフィオリトゥーラの情報も入っている。産まれる女の子もきっと美人になることだろう。ないとは思うが一応聞いてみようか?


「少年、その娘は・・・」


 振り返ったが二人はすでに人ごみに紛れてしまっていた。

 まあいいか。そんなはずもないしな。他の村を探してみるとしよう。

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