28話:心の童貞
ラランチアにゴンザエモンちゃんとロリさんを紹介して朝食を頂いた後、俺の部屋にラランチアがやって来た。アメリーさんにお茶を用意してもらい、やっとゆっくりと話が出来る。
「それにしても男の娘とレッサーヴァンパイアを雇うなんて、信夫様はさすがですね」
紅茶を一口すすってラランチアが笑顔を向けてくれる。
「さすが、なの?かなり珍しい人種みたいだけど?」
「そうですか?獣人族も不死族も普通にいますけど?」
「男の娘なんてかなり珍しいんじゃないの?」
「そうですね~確かに実際にお会いしたのは初めてですけど、一般常識として知っていましたし」
こっちでは一般常識なんだ・・・。道行く女の子のうち何人かは男の娘だったりするのかな?・・・。うかつに声はかけられないな。そんな勇気もないけど。
「不死族は飲食不要で働かない種族ですけど、ドロレスさんは元人間の為働く意欲が残っていたのですね。そういう意味では珍しいですけど」
ん?ドロレス?ああ、ロリさんの名前にそんな単語も入ってたな。
「あれ?ロリさんのフルネームは教えてないのになんでドロレスって分かるの?」
「なんでと言われましても、ドロレスと言う名前の愛称がロリですし。一般常識ですよ?」
どこの一般常識なんだ!?こっちじゃそんなにありふれた名前なのかな?
「ちょっと俺の一般常識とズレがありすぎて分からないことだらけだ・・・。そうだな、この際だから俺の事やラランチアのこと、この世界の一般常識なんかも聞いておきたいな」
「この世界ですか?」
ラランチアが小首をかしげて不思議そうな顔をしている。
「俺は、この世界の人間じゃないんだ。異世界から転移してきた、いわゆる異世界人なんだ」
「信夫様が、異世界人!?」
ラランチアがテーブルに手を付いて慌てて立ち上がった。あれ?なんだかラランチアの目がキラキラしてる。未知の者に出会った驚きというより、憧れの人に出会ったような驚きに見える。
「存在は知ってましたけど出会ったのは初めてです!本当にいたんですね!」
あれ?存在は知っていた?確か魔使と天使は「この世界で初めての汚物」・・・いや、「異物」って言ってたな。異世界人は俺が初めてのはずだ。それなのにラランチアはなんで存在を知ってるんだ?
「ラランチアはなんで異世界人を知ってるんだ?おそらく俺がこちらの世界で唯一の異世界人のはずなんだけど」
「・・・そう言えばなぜ知っているのでしょうね?魔族の一般常識なのですけど?」
「魔族!?ラランチアって魔族なのか!?」
衝撃の事実!人間でないことは知っていたけどまさか魔族だったとは・・・魔族ってなんだろな?
「・・・わたしって魔族なんでしょうか?」
「俺に聞かれても・・・」
魔族の一般常識は知っているけど自分自身のことはよくわかってないようだ。
「魔族ってどんな種族か分かるの?」
「そうですね、この大陸には妖魔族、妖精族、不死族、獣人族、人族、そして魔族がいます。魔族は肉体的には強くないですが、魔力量が高く魔法を得意としています。他種族もわずかに魔法を使えますが人間は使えません。魔力を持ってないので」
人間は魔法を使えないのか・・・。せっかく魔法のある世界に来たからちょっと期待してたのに。
「それじゃやっぱりラランチアの癒しは魔法なんじゃないの?」
「わたしにも魔力があるのは分かるのですが、無詠唱で魔法が使えるなんて知識はありません。魔物は無詠唱で使ってきますけど」
ふむ。魔法が得意な魔族でも無詠唱は無理なのか。ラランチアが魔物なわけはないし結局謎のままか。もしかしたらラランチアの体液に癒し効果でもあるのかな?舐めて治せるんだからそれが正解かもしれない。ラランチアがカップに手を伸ばし紅茶を一口飲む。白いカップに触れた桜色の唇から一瞬だけ舌が姿を現す。唇より一段赤いその小さな舌が、昨日の夜俺を求めてきたのか・・・。ゴクリ・・・。そ、そうだ、そのことも聞かないといけないな。
「その、ラランチア・・・」
「はい、なんでしょう?信夫様」
「昨日の夜の件なんだけど?・・・」
ブフッ!
再びカップに口をつけたラランチアが紅茶を噴き出した。元々この話を聞くための時間だったんだけど、ラランチアもすっかりそのことを忘れてたみたいだ。「ごめんなさい!」と言いながら慌ててハンカチを取り出してテーブルを拭いていく。
「えっと、あの、その、なんと申しますか・・・」
ハンカチをしまったラランチアは下を向いたままゴニョゴニョと言い淀んでいる。理由は後で聞くとしてまずは結論だ!
「結局・・・ど、どこまでその・・・しちゃったの・・・かな?・・・」
ビクン!とラランチアの肩が跳ね上がった。顔は完全にテーブルを凝視していてその表情を伺うことは出来ない。この反応はやはり・・・。
「ご、ごめんなさい!!あ、あの!花が咲いてしまうと理性が押さえられなくなってしまって!!必死に抵抗はしたのです!で、でも!あの時のわたしはわたしじゃないみたいで!が、我慢ができなくて!信夫様にはなんとお詫びすればよいか分からないのですがっ!わたしは!わたしは!!・・・」
ラランチアが俯いたまま一気にまくし立てた。そこには看板娘としての朗らかな姿はなく、俺の秘書としての冷静な姿もなかった。ただの同年代の女の子の慌てふためく姿があった。酔った勢いで男を押し倒してキスをしてもこんな反応をするだろう。ほとんど裸の状態で夜這いに来て、その大きな胸で男を誘惑してもこんな反応になるかもしれない。まだ結論には至っていない。
「結局・・・どうだったのかな?・・・」
「き・・・気持ちよかった・・・です・・・」
感想きたよっ!!最後までしちゃったのかどうか聞きたかったんだけど、もうその一言で全てを物語っている!あああ、さようなら童貞!こんにちは心の童貞!・・・俺は、何も覚えてないまま卒業してしまったようだ・・・。
いや、経験と言う単位が足りていないのだ。これは卒業じゃなく中退か・・・。




