20話:ラランチアの能力
「おつかれっしたぁ~」
「お疲れさまでした。マスター様、ペオーニア様おやすみなさい」
困った。ラランチアから漂う魅惑の香りが媚薬レベルにまで高まって来た。今日から酒場の仕事は通いにしてもらい丘の上の屋敷に帰るのだが、一緒に歩いているだけで襲いたくなってしまう・・・ラランチアの香りが強まったのはやはり頭の蕾が原因のようだ。最初の3日で3枚の葉が出て、4日目には葉っぱが4枚と小さな蕾が出来た。そして5日目の今日は葉っぱが5枚になり昨日出来た蕾が大きくなっている。この分だと明日か明後日には花が咲くんじゃないだろうか?花が咲いたら一体どうなってしまうのか。理性を保てるんだろうか・・・
「信夫様、いよいよお屋敷での生活ですね。楽しみです!」
「そ、そうだね」
緑色に染まった夜の村を手を繋いで歩く。人気のない深夜の村の中なら恥ずかしくないのか、楽し気にブンブンと繋いだ手を振っている。
「ぶんぶん、えへへ」
くぁあああっ!ぶんぶんと口に出しているのもかわいいし!その後照れているのもかわいい!!ヤバイ!繋いだ手が緊張ですごい手汗だ!!気持ち悪がられてないかな?・・・そっと手を離して手を拭おうにもギュッと握って来て離してくれない。結局屋敷に着くまでそのままで、扉を開ける時まで手を離すことはなかったのである。俺だって離したかったわけじゃないけど、ラランチア相手に緊張してるのがバレたくなかったのだ。ラランチアの握ってくれていた手を見つめる。ラランチアの手はあんなに綺麗なのになんで俺の手はこんなにガサガサなんだろう・・・ん?あれ?確か一昨日指を切ったはずなのに・・・傷口がない!?結構ザックリ切ったはずだ!傷口が塞がってるならともかく傷口が消えるって!?念のため逆の手も見てみるがやはり傷がない。
「どういうことなんだ?・・・」
「どういうことなんでしょう・・・」
「ラランチアが何かしてくれたんじゃないの!?」
ラランチアにも心当たりがないようだ。広々とした食堂で隣り合わせで座って食事を終えたところで傷の事を聞いてみた。思い当たることと言えばラランチアが舐めてくれたことくらいなんだけど。魔法のある世界だしラランチアが回復とか治癒の魔法を使ってくれたのだと思っていたのだが。
「いえ、わたしにそんな力はない・・・と、思うんですけど」
「試してみようか?」
「え?」
俺は元の世界から持って来た剪定ばさみの刃を手の平に当てて・・・
「信夫様!!」
痛って~・・・切れ味の悪い鋏だからちょっと力を込めて引いてみたら思った以上に切れてしまった。ドクドクと血が溢れていく。
「すぐ止血を!!」
「いや、ラランチア。舐めてくれないか?・・・」
立ち上がろうとしたラランチアを怪我してない右手で引き留める。舐めると言うかすでに飲むレベルで血が出ているけど、せっかく実験で切ったのだし試してみないと。椅子を引きラランチアの方を向いて座り直すと、ラランチアは俺の前に膝まづいて血の滴る手の平を取った。
「し、失礼します・・・」
ペロペロ
くすぐったい。必死に舐めてくれるラランチアの頭が目の前で揺れている。舌の動きに合わせて前後に動くさまはあることを連想させた。ヤバイ!この体勢は失敗だった!しかもラランチアの頭の蕾から魅惑の香りが漂ってくる。俺の手の平の下にいる息子がむくむくと起き上がり手の平を押し上げる。鎮まれ!鎮まれ息子よ!!このままでは・・・!
「信夫様!!」
「え!?」
手の平を舐めていたラランチアが顔を上げて俺を見ている。俺の血がついた唇が赤く染まりいつにも増して魅力的に見えた。ラランチア・・・俺は、俺はもうっ!!
「信夫様!これを見てください!傷口が!」
「え?・・・あれ?」
ああ、そうだった。傷口をラランチアに舐めてもらって・・・何してたんだっけ?
「傷が・・・消えました」
「えええええええええええええっ!?」
驚きで素に戻ってしまった。手の平をまじまじと見つめるが傷口がない・・・どこを切ったのかわからないレベルで治ってしまった。やはりラランチアには治癒の力があるんだ!
「驚きました。わたしにこんな力があるなんて・・・」
「これは魔法なんだよな?」
念のため確認してみたがラランチアは小首を傾げた。うん、その仕草もかわいい!
「ど、どうなのでしょうか?魔法を使うには詠唱が必要なはずですけど、わたしは詠唱をしていませんし・・・」
「詠唱か」
最近のアニメを見ていないが、確かに魔法を使う時何か呪文のようなものを唱えていたな。この世界の魔法というものがよく分からないから何とも言えないけど。
「どちらにしろ結果が出てるんだ。これはすごいことだよ!怪我が治せるなんて夢のような力・・・」
「信夫様?どうかなさったのですか?」
怪我が治せる!?・・・俺の肘も治せるんだろうか?・・・治せたらもう一度、弓が引ける。
「なあラランチア。俺の右肘を舐めてくれないか?」
「は、はい!」
ラランチアは何も聞かずに丹念に肘を舐めてくれた。肘だけでなくそこに繋がる筋に沿ってゆっくりと時間をかけて舐めてくれた。特に傷口はないけど肘が治るなら・・・
結果から言うと肘は治らなかった。傷じゃないからなのか、怪我してから時間が経ちすぎているからなのかはわからない。一縷の望みに賭けたのだがそんなにうまくはいかないようだ。
「信夫様、ごめんなさい治せなくて・・・」
「ラランチアが謝ることはないよ。古傷だし治ればめっけもんくらいのつもり・・・だったし・・・」
ポロ・・・ポロポロ・・・あれ?なんで涙が・・・いやいやおかしいだろ!?俺ってこんな泣き虫じゃないぞ!なんだって怪我が治らないくらいで・・・こんなことくらいで・・・涙が出てくるんだよぉっ!!確かに俺にはアーチェリーくらいしか取り柄はないけど!怪我した時だってなんとかなるさって笑い飛ばせていたのにっ!なんで今頃!・・・
「信夫様」
いつの間にか立ち上がったラランチアが俺の頭を抱きしめてくれた。頭の後ろにラランチアの両手が、頭の上にラランチアの頬が、顔にラランチアの胸が、全身で抱きしめられた。いつもの俺なら興奮でどうしようもなくなるはずなのに、なぜか心が安らいだ。甘い香りに包まれ、頭を撫でてくれるラランチアの手から優しさが流れ込んでくる。ああ、そうか。俺は綺麗でかわいくて優しくて、全てを包み込んでくれそうなラランチアに釣り合うようになりたかったんだ。俺には人に自慢できるものはアーチェリーしかなかった。それを馬鹿なケンカなんかでふいにしてしまった。でも、肘が治ればって思ったんだ。たった一つでもラランチアに認められる力が欲しかったんだ。
「ん~んんんん~♪」
天使の歌声が聞こえる。これは夢なのか?ゆっくりと目を開けるとラランチアの服とスカートが見えた。俺はいつの間にか眠ってたのか?身体は床に横たわり頭だけやわらかいラランチアの腿の上にある。ゆっくりと揺れるラランチアの身体はまるでゆりかごのようだ。
「信夫様は~とてもかわいいね~♪んんんん~♪」
なんだこの恥ずかしい感じは!?俺みたいなむさい男のどこがかわいいんだ!?ラランチアには悪いが、眼が腐ってんじゃねえのか!?
「天使様と~魔使様に~導かれし稀人~この地に降り立ち~世界を救う~♪」
!?なっ!なんだその歌は!?俺はがばっと跳ね起きラランチアを見る。
「きゃ!?」
「ラランチア!今の歌は!?」
「の、信夫様!?起きてたんですか!?恥ずかしいです」
恥じらっているラランチアはかわいいが、今はそれより歌が気になる!
「いえ、なんとなく頭に浮かんだフレーズを歌っただけなんですけど、わたし何て歌ってましたか?」




