14話:ラランチアの魂
「お疲れっしたぁ~」
「マスター様、ペオーニア様、お疲れ様でした」
今日も満員のお客さんで店は大繁盛だった。マスターもペオーニアさんも疲労困憊でテーブルに突っ伏している。昨日新たにできたメニューの「ラランチアの手作りサラダ」が好評過ぎて、酒場なのかサラダバーなのか分からなくなった。しかもペオーニアさんには却下されたが、客の間では裏メニューの「ラランチアの手絞りミルク」が密かにブームになりつつある。ラランチアに声を掛けたいがために料理も大量注文が入り、今日の売り上げは5日分ほどいったらしい。会計だけしていたペオーニアさんも貨幣の受け渡しで腕がつったそうだし。俺?俺は疲れてなんかないよ。だって。
「信夫様、洗い物が多くて大変そうでしたけど大丈夫なんですか?」
「ああ、平気平気。その・・・ララン、チアの、え、笑顔を見たら、疲れなんて・・・」
頑張ってくさいセリフを吐くと、ラランチアはうつむいて真っ赤になり「えへへ」と頬に人差し指をつけてはにかんだ笑顔を見せてくれた。くそう!くそう!かわいすぎるぞぉっ!!なんだこのかわいい生き物はっ!!・・・おや?ラランチアの頭の葉っぱが3枚になってるな。相変わらず・・・いい匂いが・・・
魔使「それなら抱きしめて・・・」
「ラランチア!」
「きゃ!」
納屋の目の前まで帰ってきた俺は迷わずラランチアを抱きしめた。
「の、のののの信夫・・・様!?」
ラランチアは両手を口元に寄せて小さくなっている。抱きしめると弾力のある柔らかさで、髪からは甘い果実の匂いがした。
「はぁはぁ・・・」
「の、信夫様、や、やめてください!こんな場所で・・・」
はっ!?お、俺は何を!?ラランチアの肩に手を置いて身体を離す。なんだ今のは?一瞬意識が飛んでいた。俺はラランチアを抱きしめたのか!?
「な、中にはいりましょう。ね?湯あみの用意をしますから」
「え、ああ。そう・・・だね」
ラランチアが怯えている!?俺は何をしたんだ!?ラランチアのかわいさに我を忘れたのか!?いや、いくら何でもそんなことは・・・おい、魔使。見てたんだろ?俺はどうしたんだ!
魔使「どうしたと言われても、我を忘れて抱きついていたな」
天使「ケダモノめ!わたしのラランチアちゃんになんてことすんのよ!」
いつからお前の物になったんだ!人間を超越している二人なら何か分かるかもと思ったけど、使えねえなぁ・・・確か、ラランチアの頭の葉っぱが増えていて・・・それから、記憶が飛んでるな・・・あの葉っぱは何なんだ?あのいい匂い。あの葉っぱから出ているのか?ラランチアからはいつもいい匂いがするけど意識を失くすほどってよっぽどのことだろ?
今夜、俺は眠れるんだろうか?・・・そう思いながら納屋に入るのだった。
びっくりしましたっ!!いきなり信夫様に抱きつかれるなんて・・・心臓がバクバクいっています。肩で息をしていたので大きく深呼吸をします。
「すぅ~~・・・はぁ~・・・信夫様、急にどうしたのでしょう・・・」
お疲れで気が高ぶっていらっしゃるのでしょうか?厨房からお湯を張った桶を手に持ち納屋に向かいます。水面を覗き込むといつもと変わらないわたしの顔が映っています。いつもと言ってもまだ生後3日ですけど。
「この顔は信夫様の好みなのでしょうか?」
顔を左右に動かし水面に映る姿に眉をしかめます。わたしの産まれた時から持っている常識からすれば、何の変哲もないこの世界の平均的な顔だと思うのですが。顔じゃないとすると・・・この胸・・・でしょうか?確かにやや大きいとは思いますがそんなに見たい・・・のでしょうか?牛のお乳の方がよっぽど大きいですのに。まさか肩出しのこの服装と言うわけではないでしょうし。一体何が信夫様を興奮させてしまったのでしょう?あ、急いで戻りませんと。お湯が冷めてしまいます。
「信夫様、お待たせしました」
「ああ、お、おかえりラランチア」
笑顔で戻って来たラランチアは輝いて見えた。ランプの光に照らされたラランチアの髪が炎の揺らぎに応じて煌めく。白く長い首筋と肩のラインが滑らかで、服の中に消えていくのが惜しい。
「お背中お拭きしますね」
「え?あ、ああ」
上半身の服を脱ぎラランチアに背中を向ける。ラランチアの姿が見えないことが少し残念だが、この距離で正面から向き合う度胸はない・・・。向き合ったらまた抱きついてしまいそうだ。タオルを絞る音が聞こえ背中に暖かい布の感触がする。ゆっくりと上下するラランチアの指が微かに皮膚に当たる。
「痛くありませんか?」
「いや、大丈夫だ。気持ちいいよ」
「良かったです」
少し振り向いた目の前にラランチアの笑顔がある。あ~なんてかわいいんだろう。ラランチアさえいれば他に何もいらない気がしてくる。俺のたった15年の人生においてだが、ラランチアほどかわいい女の子は見たことがない。そんな女の子が俺の背中を拭いてくれている。これを幸せって言うのかな?そんな事を考えているとラランチアの鼻歌が聞こえてきた。
「ん~んんっん~♪」
俺の背中を拭くのがそんなに楽しいのかな?声を掛けると歌が止まってしまうのでそのまま目を閉じて聞き惚れる。
「ん~んんんん~♪・・・あ!・・・」
鼻歌が止まってしまった。チラッと後ろを見ると真っ赤になってうつむいている。どうやら無意識に鼻歌を歌っていたみたいだ。
「やめちゃうの?もうちょっと聞いていたかったんだけどな」
「は、恥ずかしいです・・・」
そう言ってゴシゴシと力を入れて背中をこする。ちょっと痛い・・・でもラランチアの鼻歌は子守歌みたいに心が安らいだ。さっきまでの興奮はなんだったんだろう。これなら安心して眠れそうだ。ラランチアは不思議な女の子だな。妖艶な魔女のようで、清らかな聖女のようで。そうだお礼にラランチアの背中も拭いてあげよう。
「ありがとうラランチア。代わるよ」
「え!?」
天使:魔使「「え!?」」
・・・え?・・・しまった!!これじゃまるでエロオヤジのようじゃないか!違うんだラランチア!決してそんなつもりじゃなく、純粋にお礼のつもりで!・・・
「そ、それでは・・・お願いします・・・」
天使:魔使「「えええええええええええええっ!?」」
えええええええええええええっ!?天使と魔使うるせえっ!!それにしてもラランチアどうしちゃったんだ!?夕方のひざ枕といい、今回の事といい・・・ずいぶんガードがゆるくなってないかっ!?ラランチアは背中を向けると肩出しの服を下にずらしていく。さすがに胸は隠しているが、それにしてもこんな、こんなっ!?腰までが露わになったラランチアの背中は美しかった。傷一つなく、シミ一つない。
魔使「ヤバイ・・・鼻血が出てきた」
天使「なんで貴方が興奮してるんですか!?それより、ラランチアちゃんの魔力の流れおかしくないですか!?」
ゆっくりと指先で背中に触れる。
「ひゃ!」
「あ、ごめん!じゃ、じゃあ・・・拭くよ」
「は、はい・・・」
魔使「魔力の流れ?う~ん・・・これはドライアドに似てるかな?ラランチアちゃんは植物みたいだし、こんなもんじゃないの?」
天使「これだから3級悪魔は・・・よく見てください。魔力が1種類じゃないです」
魔使と天使が何か言っているが今の俺には周りが何も見えない。ただ背中だけ。ラランチアの美しい背中から目が離せない!!タオルを背中に当てるとビクンとラランチアの身体が跳ねる。一瞬だけ待って背中を拭いていく。無心で!!
魔使「・・・魔力が6・・・いや7種類ある!?」
天使「そうです。これは普通の生き物じゃありえませんよ?魂が7つあるようなものです」
魔使「ラランチアちゃんを創造したのは魔族の王だっけ?下界の魔族ごときにそんなことができるのか?」




