1話:七色の種
新連載です。現在連載中の
【子爵令嬢付与魔術士】一人じゃ何もできないけど、仲間のドーピングは得意です♪
が完結するまでは週1ほどの掲載になると思いますが、長い目で見ていただけると幸いです。
「ふはははははっ!!ついに!ついに完成したぞぉ!」
夜の闇の中に雷鳴が轟く。
深い森に囲まれた小さな川のほとりに古城がそびえ建つ。高い城壁に囲まれた石造りの城は、建築からゆうに100年は経過しており所々崩れかけている。高い尖塔が幾つも林立し、その中でもひと際高い尖塔に明かりが点いている。
その部屋には一人の男がいた。襞襟シャツに黒いマントを羽織り、腰には細剣を佩いている。少し長めの黒髪を油で固めて撫でつけ、目は鋭く痩せ型でかなりのイケメンだ。
その手には・・・
「お父様!!いつまで起きてるんですか!明日は諸王国会議なんですよ!早く寝てください!」
「あああ、フィオリトゥーラ。今ナレーションのいいとこなんだ。あと少しだけ・・・」
その手には・・・
「何がナレーションですか!明日は『人間どもにガツンと言ってやるのだ!』って言ってたじゃないですか!遅刻したら人間の方々にまた笑われてしまいますよ!」
「でも・・・」
その手には・・・
「でもじゃありません!さっきから聞いてたら何です!ナレーションってウソばっかりじゃないですか!!少し長めの黒髪って、少ししか残ってない髪を伸ばして横に撫でつけてるだけでしょう!?」
「あああ!やめて~やめて~!心を抉らないでええええっ!!」
娘の言ったことはカットしてください!!
「目は鋭く痩せ型!?糸目のガリじゃないですか!!」
「いいいいやあああああっ!!」
太ってるよりはいいじゃないかあああああっ!!
「あまつさえ・・・自らイケメンって・・・」
「言い訳させてくださいっ!!魅惑のゴブリンバーのお姉ちゃんに「イケてる~綿棒みたい」って言われたことがあるんですぅううううっ!!」
ほんとですぅううううっ!!誉め言葉じゃなかったけどおおおおっ!!
「なっ!?なんてとこに行ってるんですかお父様!!お小遣い3か月なしですからねっ!!」
「あああっ!!来月ソフィーちゃんのフィギュアが発売されるのにぃいいいっ!!」
わたしは精神力をすべて削られて地面に突っ伏した。滂沱の涙を流すわたしの手の平から、2cmほどの一粒の種が転がり落ちる。
「何も泣かなくても・・・ごめんなさい言い過ぎましたわ、趣味はともかくお父様のことは大好きですから」
娘から「大好き」をいただきましたっ!!わっはっはっは!わたしに怖いものなど何もない!!娘の着替えを覗いた時に言われた「死ねっ!!」以外は・・・
「ところで何ですか、その気持ち悪い色をした種は?」
わたしは種を拾ってスクッと立ち上がりマントを翻した!
「よくぞ聞いてくれた!!これこそは長年の研究でついに完成した・・・」
そう言って娘のフィオリトゥーラの目の前に、七色のまだら模様の種を突き出した。
「ハ・・ハ・・・クシュン!!少し冷えてきましたね。どうかしましたかお父様?」
娘のくしゃみでわたしの手の平から種が飛んで行った。
宙を舞う七色の種は掴もうとしたわたしの手をすり抜け、
ガラスのはまっていない窓を通り過ぎ、
偶然吹いた突風に乗り、
城壁の側の防風林を突き破り、
キャッチしようとしたリスの頭を踏み台にして、
口を開けて待ち構える魚をあざ笑うように水面を跳ね、
川下に流されて行った。
「あああああああああああっ!!長年の研究でついに完成した【女の子の種】がああああああっ!!」
「女の子の・・・たね?・・・キモッ!!」
その日、怖いものリストに「キモッ!!」が追加された。