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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
INTERMISSION-04
97/226

 第35話【食欲】2/3


 十数分後。


「へいお待ち!

 大黒屋ラーメンと、ネギチャーシューラーメン、それにトンコツチーズラーメン、あと餃子ね」


 威勢の良い店員の声と共に、食べ物が素早くテーブルに並べられる。

 すでに小皿でしょうゆとラー油を混ぜて待機していたありさ、ただじっと手を膝の上に置き、ドキドキワクワクしながら待ち続けていた愛美、そして、何だかんだで他のテーブルの客の食べ具合を、興味深そうに眺めていた未来が、自分たちに巡ってきた順番に歓喜した。


「よぉっし! じゃあ、いっただきま~す!!」


「い、いただき……ます」


「ふわあ、ゆ、湯気ですごい事になってます~!」


 被害報告を入れながらも、嬉しそうにラーメンをほおばる。

 どうやらホントに未知の感覚だったらしく、熱いのと美味しいのとで、しきりに目をパチクリさせている。

 未来は、そんな愛美の顔を見て、思わず吹き出してしまった。



「ケケケ、これが楽しみで、今朝から何も食べてなかったのよんよんよん♪」


 一番濃そうなラーメンを頼んだありさは、手馴れた様子でラーメンを具の中から引き出すと、トッピングされた粉末チーズを巧く絡め、大口を開けつつ一気にパクつく。


「な、何よ。なかなかイケるじゃない」


 ニヒルな語り口でありながらも、未来もまんざらでもないという表情である。

 未来は、なぜかキョロキョロと周囲を見まわしてから、ゆっくりと、しかしノンストップで麺をすすり込み始めた。


「ラーメンって、すごいです偉大ですグレートです!

 私、こんなに素晴らしいものを、奥様や先輩方に差し上げる事ができなかったなんて、激しく悔やまれます!

 メイド失格でした!」


 感極まって、愛美はぽろぽろと大粒の涙を流し始めた。

 それでもラーメンを食べる手と口だけは止まらないようで、なんとなく不憫に思った未来は、無言で愛美の肩をぽんぽんと叩いた。


「この前のアレは、きっとただの悪夢だったに違いないです!」


「待って愛美、それはさすがにちょっと言い過ぎ」


「でも、愛美。

 ラーメンを出すメイドって、ビジュアル的にどうかと思うわよ」


「ええっ、そ、そうなんですか?!」


「ここが大食い系のイベントやるなんてやっぱりすごいよね。無謀かもよ?

 こんなにおいしいんだから、結構食べられちゃう人が多いんじゃない?」


 どんぶりの底に残ったスープをぐび~と飲み干してから、ありさがすっかり満足した表情で呟く。二人も食べ終わったようだったが、ありさと愛美は、ちゃっかり替え玉も腹に収めていた。


「おいしいと、いっぱい食べられちゃうんですか?」


「なんとなくわかるわそれ。

 でも、スープまで全部飲み干して最低二杯以上ってのはかなり辛いわよ。

 ここって、かなり量もあるし」


 一つひとつのサブメニューも、それなりの分量があるようだ。

 どうせなら2ポイントくらいにしてもいいのでは? と、未来は隣の客の皿を見つめながら考えていた。


「大好物のメニューを連続で注文して、ポイントを稼ぐという作戦は有効だと思いますが、いかがですか?」


 突然、感動の坩堝から生還した愛美が、意見を加える。


「なるほど! そうね。

 だとしたら、あたしはこの“チーズトンコツラーメン”だったら3杯は間違いなくイケるから」


「うえっ?!」


 ありさの独白に、未来がおののく。


「えーと、私は是非ここの飲茶を制覇してみたいと思いますから、小物ならまかせてください!」


「ち、ちょっとちょっと」


「あーっ、そういえば未来、あんた大好物だったよね、シュウマイ♪」


「ギクッ」


 隣の客が、どう見積もっても直径5センチはある巨大シュウマイを口に運んでいく様を眺めていた未来は、バツの悪そうな顔で振り返る。


「ほ、ほっといてよ!」


「よーし、じゃあ愛美! 綿密な作戦を練るよ~。

 大食いってのはね、ただむやみに食べ続けていればいいってもんじゃないんだ。

 緻密な計算と計画が、勝利への道になるんだよ」


「はい、わかりました!

 じゃあ、まず私が狙うメニューを選別して」


「油モノはなるべく避けた方がいいわよ。おなかがもたれてあとが辛くなるから」


「お、未来! じゃああんたは、あっさり系で行くのね」


「勝手にメンバーに加えないで!!」


 食べ終わったにも関わらず、作戦計画の検討に夢中になり、三人は席を立つ事を忘れていた。

 人気のラーメン屋で、食べ終わってからくつろぐという態度は論外である。

 いつもならばそんな事は常識として身に染み付いていたはずのありさだったが、ついつい楽しい話にかまけてしまっていた。



「おぅ姉ちゃん達!

 終わったんなら、そことっととどきな!!」



 突然野太い男の声が、遥か頭上から響く。

 見上げると、そこには筋骨隆々の大男が三人、下目使いで彼女達を睨みつけていた。


「すわっ」


「姉ちゃん達、大食い自慢かなんか知らないが、生兵法はケガの元だぜえ?」


「な、なんだってぇ?!」


 ありさが睨み返すと、その男達は思いっきり露骨に嘲笑してみせる。

 よく見ると、三人は顔も背丈も特徴も、殆ど同じだ。 

 いずれもガッシリした体格に長い髪、ボウボウと伸びた髭、濃ゆい顔を持っている。

 彼らがいるだけで、周辺温度が2~3度上昇するかのような暑苦しさだ。


「ここの大食いイベントは、俺達三兄弟が制覇してみせる、ぜぇぃっ!

 てめえらシロウトは、ただ俺達の熱い闘いぶりをながめていればいいん、でえぃっ!」


「そこのペッタペタな姉ちゃんみてえなのは、百年がんばったって無理ってこった」


「ペッタペタ?」


 ぶっちん。


 あ、キレた……と未来が思った時には、もう遅かった。


 ありさは、訳のわからない言葉を叫びながら男達に掴みかかろうとする。

 それを、背後から一生懸命に愛美が抱きとめて制していた。



「うぎゃ―――っ! 殺らせろ―――っ!

 こいつらを―――っ! せめて一人だけでも―――っ!!」



「あ、ありささん、ダメですっ!

 落ちついてくださいーっ!」



「ハハハ、女のクセに男みてぇなナリしてんのが悪いん、でぇぃっ!」


 そこへ…


 コン、ゴン、コン!

 ゴン、ゴン、ゴン!



「いてぇっ?!」


「あたっ?!」


 一つのボールが三人の頭をバウンドしながら飛び交う。

 それが2セットで、その場の6人はすべて頭をポテられて停止した。


「な、なんで私まで?」


 巻き添えを食った未来が振り返ると、先程店頭で大宣伝していたオカ……年季の入ったお姉言葉の切れ味も鋭い、店長が佇んでいた。



「はぁい、そこまで。

 あんた達、くだらない事でケンカこいてんじゃないわヨ」


「て、店長?」


「この勝負、あたしが預かるわ。

 話を聞くに、あんた達全員イベント参加希望者みたいじゃない」


「ああ、それがどうかしたん、でぇぃっ?!」


 長男らしき暑苦しい奴が、独特のイントネーションで吠える。

 ついでに筋肉の誇示も忘れない。

 だが店長は、鋭い流し目で「ムサっ」と言い放つと、ビシッと鋭い音を立てて、六人を順に指差した。



「あんた達、明日午後二時、この店で勝負を着けなさい!」


「ええーーっ?!」


「ハハハ、そりゃあ面白い!」


「ふふふ、我が兄弟の恐るべき実態知らぬ者の発言なり。

 後悔しても知らぬぞ」


「よく言った! 俺達三人で、一週間分の仕込み材料まで、すべて食い尽くしてやるん、でぇぃっ!」


 三兄弟は、簡単に承諾する。



「わかった!

 くそぉ~、あんた達、人を侮辱した事を死ぬほど後悔させてくれたるわぁ~!!

 やるよ、愛美! 未来!!」


「はいっ、がんばりましょう!」


「だからぁ、ど~して私まで加えられるのよぉ?!」


 いつしか場は盛り上がり、熱血した視線をビシバシ叩き付け合う六(マイナス一)人だけではなく、その状況を見守っていた他の客達までもが過熱し、大きな声援を飛ばしていた。


「ここまで来たら、もう後へは引けないよ!

 ホラ未来! 明日にむかってトライよ!!」


「そうです、明日はフライです!」


「と、トホホホ……」

 


「よし、これで決まったわね。

 じゃあ、明日の参加を待っているわよ」


 そう言い残し、店長が踵を返そうとした時、



「むわっとぅわぁ!(注・待ったあ!)」


 長男らしき男が、待ったをかける。



「何よ、まだ何かあるの?」


「ただ勝負するだけじゃあ面白くない、ぜえいっ!

 負けた奴には、それなりのペナルティを課すべきだ、ぜえぃっ!!」


「な、なんですって?!」


 突然の暴言に、三人が反応する。



「へへへ、てめぇら負けたら、それぞれ専用の“肉奴隷”にしてやるっぜえぃっ!!」



「に、ににに、肉奴隷?!」


 驚くありさの目の前で、長男は丸く輪にした指の間に、別の指を差しこむ例のいやらしいジェスチュアをしてみせる。

 その姿と、異常にギラついた眼差しは、ありさ達を本気で凍りつかせるだけの不気味な迫力があった。


「ぐへっ、ぐへっ…た、楽しみになってきた、ぜえぃっ!」


「な、なんでそうなるのよぉ~!?」



「面白いじゃない。

 いいわ、それで行きましょう」


 男達の欲望にまみれた申し出を、堂々と受けたのは……店長だ。


「ちょっとぉ、どうしてあんたが受けるのよぉっ?!」


「ニクドレーってなんですか?」


「あなたは知らなくてもいいのよ」


 いつのまにか、そういう事で決定してしまった“勝負”は、思わぬベクトルでの進行が義務付けられた。

 すっかり勝負に勝ったつもりになっている大男達は、全身をバキンボキン言わせて余計にハッスルし、ありさ達をさらに挑発する。

 すっかり圧倒されてしまった三人は、なんとか店を無事に出るのが関の山といった心境だった。


「な、何?

 この疾風のような展開は?!

 何がどうなったの?!」


「ラーメン屋さんってすごいんですねぇ。

 まるで“嵐起こるスタジアムに同じ思い胸に抱きしめ”て立ち向かう闘いのようです」


「どっから覚えたのよ、そんなの?」

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