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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
INTERMISSION-03
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 第34話【千鶴】4/4

「命を救う事だけが、助ける事じゃないのよ!」


 その言葉が、ローグの胸に、深く突き刺さった。




(……どういう……事?)


「千鶴さんの友達なら、彼女の声を聞いたのなら、助けてあげなさい。

 本当の意味で……解放してあげなさい。

 それが、友達としてあなたが出来る事よ』


「……!」


 灰色のボディが、再びピンク色に染まり始める。

 失われた眼の輝きが、再び蘇る。

 次の瞬間、エンジェルライナーがXENOの手を振り払い、両肩のアクティブバインダーを作動させ、アンナローグはありったけの力で飛翔した。


 XENOの腕が届かない上空で、ホバーリングする。

 四本のエンジェルライナーが一つに重なっていく。

 アンナローグは、両腕を真横に真っ直ぐ伸ばし、、息を深く吸い込んで目を閉じた。


「ローグ、わかってくれたのね」


 夜空に浮かぶアンナローグの姿に、アンナパラディンは、ホイールブレードを収納する。


 彼女の姿は、まるで空中に浮かんだ“十字架”のようだ。



 アンナローグは、理解した。

 XENOは、捕食した者のあらゆる情報を吸収し、擬態する。

 普通の人間の目には、区別がつかないくらいに、このXENOも千鶴の姿を借りていただけだ。

 だから、ここにいるのも、本当の千鶴じゃない。


 千鶴は、もうとっくに……自分が出会うよりもずっと前に、死んでいる。

 ここにいるのは、千鶴の肉体を蝕み、彼女の存在を貶めた忌まわしき存在。


 だがその中に、千鶴の、本物の千鶴の悲しみが閉じ込められている気がした。


 XENOの本能の叫びに混じる声は、千鶴という少女が遺した心。

 本来そこにある筈のない、千鶴自身の、無垢な魂。


 ならば、それを――解放する!


 

『オネエチャン!』


 再び、千鶴の声が聞こえた。

 悲しい声、悲しい想い……すべてが、あまりにもリアルだった。

 もう、疑う余地はない。

 アンナローグの心に、さらなる決意が生まれた。



“待っていてください、ちづるさん。

 今、貴方を助けます!!”




 身体を伸ばし、上半身を後ろに思い切りのけぞらせる。

 束ねられたエンジェルライナーは背後に回り込み、一枚の大きな“刃”のように広がった。

 月光を全身に浴び、妖艶な青白い光をまとわせる。


 その姿に、四人は、思わず目を奪われる。


(この技は、あなたには使いたくなかった――)


それは、今まで誰一人として、見た事のない技のモーションだった。


 次の瞬間、アンナローグは垂直に落下した。

 否、正しくは、落下ではない。

 背面からの推進力を全て上方に向け、全力で“下に”飛んだのだ。


 落下加速に凄まじい推進力が更に加わり、上半身を思い切り前に振り下ろす。

 背後でまとまっていたエンジェルライナーが、綺麗な半円を描き、まるで巨大な“鉈”のように叩き付けられていく。

 



「ライジング・ヘブン!」




 上空から垂直に振り下ろされたエンジェルライナーは、青白い光の軌跡を描き、XENOの真芯を的確に捉えた。



 ほんの僅かな静寂の後、XENOの身体が真っ二つに裂け、アスファルトに倒れた。

 破壊音が、微妙に遅れて聞こえて来る。

 それと同時に、XENOの肉体が次々に崩れ始めた。


 エンジェルライナーの“鉈”は、XENOだけでなく、アスファルトをも深く斬り裂いていた。


「核が、破壊された?」


「い、一撃で?」


「いつのまに、あんな技を」


 驚愕するアンナブレイザー達の前で、アンナパラディンだけは、複雑な表情でその光景を見つめていた。



 全てが、終わった。




「ちづる……さん」


 止めどなく、涙が溢れてくる。

 これしか方法はなかったと、さんざん自分に言い聞かせたのに、それでも、自分の心を納得させる事は出来なかった。



「あああああああああああああぁぁぁぁぁ―――っ!!」



 崩れ落ちていく肉隗の前で、アンナローグは、号泣した。

 何度も路面を叩き、砕く。

 もう、それしか、出来なかった。 



「よくやったわ」


 優しい声と共に、肩に手が置かれる。

 顔を上げなくても、それが誰かはすぐにわかった。


「さあ、もう行きましょう」


「……」


「お別れの場は、この場所ではない筈よ」


 腕を掴まれて、ゆっくり抱き上げられる。

 姿勢を上げた瞬間、視界に入れたくなかったXENOの残骸が見えた。


「……ごめんなさい、ごめんなさい……」


「……」


「もっと早く……もっと早く、ちづるさんの苦しみに気付いてあげられたら」


 アンナローグは、パラディンの胸の中にすがり、尚も号泣する。


 無言で見守る三人を前に、アンナパラディンは、そっとローグの頭を撫でた。

 とても、優しく。








「結局、向坂千鶴の母親はどうなる?」


「さぁな。

 夫の失踪についていずれ警察から追求されるだろうけど、あの取り乱し方じゃ、上手く隠し通すなんて到底無理だろな」


「ということは、夫殺害と死体遺棄の罪を被せられる可能性が高いというわけか」


「そういうことだ。

 だが、それも報いだろう。

 娘のために、赤の他人を犠牲にしていたんだからな」


「その件だが、恐らく向坂千鶴が捕食したのは、結局のところ父親だけかもしれん」


「えっ?」


「今回はサーベルタイガーとネコマタ、そして向坂千鶴と、三体ものXENOが暗躍していた。

 だがその割には、被害数が妙に少ない。

 サーベルタイガーの件は言わずともかな、ネコマタのトラップの件や今回の戦闘を合わせて考えると、目白で起きた事件には、恐らく彼女は殆ど関わっていまい」


「そうなのか?

 まあ、だからって、全く罪がないわけじゃないけどな」


「待て凱。

 重要なのは、そこじゃない」


「ん? どういうことだ?」


「お前も、アンナローグの記録映像を観ただろう?

 向坂千鶴は、人間と全く変わらない姿に擬態していただけでなく、人としての理性を維持し続けていたんだ。

 他のXENOが、あの短期間であれだけの捕食行動を行っていたにも関わらず、だ」


「おい、それってつまり……」


「ああ、今回の件で、恐ろしい可能性が露呈したのかもしれん。

 もし、向坂千鶴のように、高い理性と擬態能力を併せ持つXENOが、この人間社会に紛れ込んでいるとしたら――」


「可能性は、ゼロではないな。

 もし本当にそうだったら、あの子らの闘いは、もっと過酷になるんじゃないか……」


 SVアークプレイスの、ミーティングルーム。

 深夜に二人だけで交わされた会話は、ここで途切れた。









 それから、三ヶ月ほど経ったある日。


 突き刺さるような陽光、むせ返るような暑さ。

 残暑とはいえ、まだまだ暑さが続く中、愛美は、都内の小さな墓地を一人で訪れていた。


 千鶴の墓は、墓地の端の方に、こぢんまりと佇んでいる。

 正面に立つと、まるで墓所と一対一で向かい合っているように思えた。


 愛美は、道中で買ってきた花束をそっと供え、線香に火を灯す。

 そして、作ってきたクッキーを数枚、小皿に並べた。


「こんにちは、ちづるさん」


 どこか寂しそうな墓石に、か弱そうな千鶴のイメージが重なる。


「私、ちづるさんとの想い出は決して忘れません。

 ええ、決して。

 あの時出会ったあなたは、本当の千鶴さんだった。

 私は、そう信じています」


 どこか寂しげな、蝉の鳴き声が聞こえてくる。

 不意に、涙腺が緩みそうになった。


「私がまた泣いたら、ちづるさん、きっと笑われるでしょうね、みっともないって。

 だから私は、もう泣きませんよ」


 右手の小指を差し出し、そっと墓石の表面をなぞる。


「ゆーびきりげんまん、嘘ついたら、ハリセンボン呑ーます。

 ――指切りしましたからね、約束です」


 また涙が溢れそうになったが、無理に押し留めた。




 愛美の心の声に反応するように、一陣の風が、前髪を巻き上げる。

 蝉の声に混じり、誰かが微笑む声が、聞こえたような気がした。


「ありがとう、ちづるさん。

 ――さようなら」


 そう呟き、愛美は空を見上げる。

 突き抜けるような青空と白い雲が、目に飛び込んで来た。







 ちづるさん 


 天使だったのは、私ではなくて


 貴方だったのかもしれませんね――





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