表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
INTERMISSION-03
93/226

 第34話【千鶴】3/4


 中学校のグラウンドで展開される、ネコマタとの戦闘。

 巨体に似合わず、素早い移動と空間を越えて攻めて来る攻撃に、アンナパラディンとアンナブレイザーは、決め手を放てず翻弄されていた。

 ホイールブレードは宙を切り、ファイヤーナックルは虚空に炎を撒き散らす。

 

「ぐわぁっ?!」


 突然足元をすくわれたブレイザーは、前のめりに倒れ、アンナパラディンを巻き込んだ。

 女性二人が倒れたとは思えないような、重厚な激突音が夜空に響く。


「ちょ、離れてよブレイザー!」


「ま、待てって! ちょっとこの……うわわ!」


 バランスを誤ったブレイザーは、ゴン! と大きな音を立てて、顔から地面に倒れ込んだ。


「痛ったぁっ!」


 フニャアァァァァ――


 こちらをバカにしているような鳴き声が聞こえてくる。


「動きが特異すぎるわね、どうすればいい?」


「仕方ねぇ、場所を変えよう!」


「って、何故?」


「さっき、ここに連れて来る時に思ったんだ。

 地に足が着いてなきゃ、コイツは慌てるってな。

 付いて来い! でやあぁぁぁ――っ!」


 気合の声を上げ、アンナブレイザーは、背面のブースターを全開にしてネコマタへ突進した。

 しかし、直前で急速旋回し、周りをぐるぐると回転し出す。

 予想外の動きに惑わされ、、きょろきょろ見回し始めたネコマタの隙を突いて、アンナブレイザーは背後から掴みかかった。


「よっしゃあ! 捕まえたぜ!」


 ギニャ?!


 間髪入れず、今度は一気に上昇する。

 爆発するように散らばる光の粒子の中から、真っ赤な閃光が垂直上昇していく。

 それを追うように、オレンジの光も飛翔した。



 上空一万メートルまで上昇したアンナブレイザーとアンナパラディンは、目配せすると、協力してネコマタを更に上空へ投げ上げた。


「うおりゃあぁ――っ!」

「せやぁ――っ!」


 ギニャアァァァァ――……



 アンナブレイザーは、両足首に装備したファイヤークラッシャーから、爆炎を噴き上げる。

 アンナパラディンは、ホイールブレードの柄に装着されたホイールをMAXまで回転させ、刃に青白い電光をスパークさせる。

 互いに上空を睨みながら、まるで地面に踏ん張るように、宙に立つ。


 しばらくすると、情けない鳴き声を上げながら、ネコマタが落下して来た。


「今だ、行くぜ!」


「OK!」


 掛け声を合図に、二人は垂直にジャンプし、急加速した。


 途中、いきなり空間が歪み、ネコマタの凶悪な顔だけが手前に出現する。

 だが、もう関係ない。

 二人の攻撃は、顔を突き破って更に突進した。



「パワースライド!」


「ファイヤー、キィ――ック!!」


 二人の技の掛け声が重なり、夜空に炎と雷の矢が放たれる。

 一直線に天空を目指す二本の輝きに、ネコマタは顔ごと縦に斬り裂かれた。


 ギャアァァァァァ……


 星降る夜空に、まるで花火のような爆発が一瞬だけ煌いて、消えた。

  







『コロシテ――』





「えっ?」


 突然、アンナローグが不自然な軌道を描き、XENOの直前で着地した。

 エンジェルライナーの硬度が失せる。


「ど、どうしたの、いったい?」


「ろ、ローグ?」


 状況を見守っていたアンナウィザードとミスティックは、異様な雰囲気と強烈な不安を覚える。

 アンナローグは完全な無防備状態で、XENOの真正面でただ立ち尽くした。

 その表情は、驚愕と動揺が入り混じっている。



『イヤ、オネエチャンヲ……コロシタクナイ』


『たべたいよぉ』



『オネエチャンヲ、コロスクライナラ……』


『早く食べさせてよぉお願いだからぁぁぁぁぁ』



『オネエチャン、ダイスキナ、オネエチャン』

『ぐぼげええええええええええええ』


 声が、重なって響いている。

 千鶴の声が、同じ声が二つ、それぞれ全く違う事を呟く。

 まるで、善意と悪意のぶつかり合いのように。


 グオォォォォ……


 XENOが、身をよじって苦悶する。

 何が起きているのかわからないが、すぐ目の前にいるアンナローグを再び捕らえようともしない。


(ああ、ちづるさん。

 あなたは、あなたの心は……)


 そして、アンナローグも、次の行動が取れずにいる。

 

 だがその時、アンナローグの耳に、千鶴の声が届いた。

 これまで以上に、更にはっきりと。


 


『 千 鶴 ヲ、 殺 シ テ 』





「そんな……」


 がくん、と膝を折る。

 アスファルトが割れ、両手を着く。

 アンナローグの眼から、光が消えた。


「そんな……私は、あなたを……千鶴さんを! 救いに来たのに!

 そんなこと、出来ません!!

 出来るわけ、ないじゃないですか!」


 アンナローグの身体から、ピンク色が消失する。

 全身がグレーに染まり、まるで石になってしまったかのような、重苦しい姿に変わった。


 そこに、アンナパラディンとブレイザーも駆けつける。

 アンナローグを挟み、XENOとアンナセイヴァーが対峙するも、戦局は完全に停止してしまった。



「アイツ、何やってんだ!

 おいローグ! 何をボヤッと――」


 そこまで吼えた所で、アンナパラディンが制止する。

 一瞬何か言いかけたが、彼女の横顔を見て、止めた。


「せっかく、せっかく、お友達になれたのに……

 たとえあなたがXENOでも、私は、私は……本気で、あなたのことを、お友達だと信じたのに。

 ……どうして、どうして、こんなことになってしまうのですか?!」


 大粒の涙が、砕けたアスファルトを点々と濡らして行く。

 アンナローグの、身を切るような切ない慟哭に、アンナセイヴァーの誰もが動けなくなっていた。

 XENOもいつしか動きを止め、アンナローグを見つめている。


 しかし、やがてXENOの腕がゆっくりと動き、灰色に染まるアンナローグの首を掴み上げた。


「ローグっ!」


 真っ先に身を乗り出したのは、アンナミスティックとウィザードだった。

 だが、信じ難いほどの高速で、アンナパラディンが二人の進路を塞ぐ。


「パラディン! 何故――」


「ローグ! 聞きなさい!」


 戸惑いのアンナローグに、アンナパラディンが呼びかける。

 その声は、厳しいながらも、どこか温かみを感じさせる気がした。 


「ここは、あなたがやるべき所よ」


「パラディン、私は……私は、どうしたらちづるさんを……」


 装甲が軋む音が響き、メキメキという破砕音に変わっていく。

 だが、そんなアンナローグを、パラディンは救おうとしない。

 それどころか、真っ向から彼女を鋭い視線で射抜いている。


「ちっ、何やってんだ! このままじゃ愛美が!」

「待ってください!」


 辛抱溜まらず飛び掛ろうとするアンナブレイザーを、今度はアンナウィザードが止める。


「なんでだよ! このままじゃ、アイツ死んじまうじゃねぇか!」


「ここは、お二人に任せましょう」


「二人に?」


「ご覧ください、お二人を」


 XENOの握力は、徐々に強まっていく。

 アンナローグの装甲が上げる悲鳴も、益々高まる。


 だがそれでも、アンナパラディンは助けようとしない。


 額に、頬に、大粒の汗を掻きながらも。

 両足首がアスファルトにめり込み、ひび割れを広げているにも関わらず。


 その様子に気付いたアンナブレイザーとミスティックは、思わず息を呑んだ。


 

「ローグ!」


 アンナパラディンが、再び呼びかける。


「私はさっき、大切な友達なら、あなたが救ってあげなくちゃ、って言ったわね。

 でも、あなたはその意味を、取り違えているわ」


「……?」


 薄れかけた意識の中、パラディンの声が、何故かはっきりと聞こえてきた。

 耳だけではなく、心に――




「命を救う事だけが、助ける事じゃないのよ!」




 その言葉が、ローグの胸に、深く突き刺さった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ