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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
INTERMISSION-03
89/226

●第33話【決意】1/2


 ――工事中――


 そんな看板が、細い小路の入り口と出口に、それぞれ一つずつ置かれている。


「う~ん、自動点滅回路の故障みたいだねぇ。

 でもこれなら、すぐ直せるよぉ!」

 

“Execute science magic number C-001 "Cure-flash" from UNIT-LIBRARY.”


「キュアフラッシュ!」


 アンナミスティックが、右手で印を象り、科学魔法を詠唱する。

 ここは、先日アンナブレイザーが襲われ、犠牲者が出た事件現場。

 アンナミスティックは、現場周辺の、故障して点灯しなくなった街灯に向かって、唱えていた。


 淡い閃光に包まれた数十秒後、消えていた街灯に、光が点った。


「お兄ちゃん、やったよ!」


『よくやった! じゃあ次の手順だ。頼んだぞ』


「うん、任せて!」


 凱からの通信に応えると、アンナミスティックは再度、科学魔法を唱え出す。

 四メートルほど空中に浮かびながら。


“Execute science magic number C-018 "fairy-light" from UNIT-LIBRARY.”


「フェアリーライト!」


 アンナミスティックの手の中に、テニスボール大の光の玉が発生する。

 それはふわふわと漂い始め、弱いながらも小路周辺をぼんやり照らし始めた。


「ふぅ、これでいいかな?」


『よし、上出来だ。

 これで、XENOはここを狩り場にしにくくなるだろう。

 あとは、ウィザードに任せよう』


「うん、じゃあこのまま待機するね」


 ゆっくりと降り立ったアンナミスティックは、向坂家の方をなんとなく見つめる。

 その表情は、どこかせつなげだ。



 夕べ、アンナローグは泣きながら帰還し、“SAVE.”のメンバーに事情を語った。

 彼女が提供した映像データより、向坂千鶴は“最重要注意人物”に指定され、また事件現場の早急な隔離も必要であると判断された。

 警察による再検証が終了し、夜の帳が降り始めた頃から、アンナセイヴァーと凱は行動を開始。

 あとは、出方を待つだけとなった。


 ニャー


「あっ、猫チャンだぁ♪ こんばんはー☆」


 塀の上を歩く子猫を見つけたアンナミスティックは、笑顔で手を振った。





 美神戦隊アンナセイヴァー


 第32話 【決意】






『マスター、アンナウィザードから通信です。』


ナイトシェイドが、車内で待機している凱に告げる。


「動いたか。

 ウィザード、場所は?」


『お兄様、家の前です。

 ドアの向こうに動体反応を確認しました』


「わかった。

 出て来たら、幻覚地形ハルシネーションの効果範囲内で足止めをかけろ」


『了解です』


 続けて、ナイトシェイドに尋ねる。


「もう一度、現在の各人の配置を表示してくれ」


『了解』


 フロントウィンドウが暗転し、3Dで描かれた周辺地図が表示された。

 向坂家の前に、青いポイント――アンナウィザードが居る。

 その横の、例の細い小路には、緑のポイント――アンナミスティックが。

 そして、その二点を繋ぐ上空に、オレンジと赤のポイントが浮かんでいる。


 ピンク色のポイントは、ない。



 数分後、向坂宅の玄関がゆっくりと開き、二人の人影が現れた。

 一人は母親、だがもう一人は、それよりもさらに頭一つくらい背が高い。

 ベージュ色の毛布を被せられ、外観はまったくわからなくない。

 母親は、その人物の背を押しつつ、ゆっくりと外へ出た。


『マスター、アンナウィザードからの映像を表示します』


「やっぱり、外に出て来たか。

 だが、あのデカイ奴は誰だ?

 あの千鶴って少女、じゃないよな……」


 道路に出た二人のシルエットを見て、凱は眉をひそめる。

 その瞬間、更に通信が入った。


『お兄様、次の作戦を実行します。

 フォローをお願いします』


「わかった、ウィザード。

 くれぐれも、注意してな」


『はい』


 何もない空間で、エメラルドのマーカーだけが、ぼんやりと輝いた。




 母親に導かれた千鶴は、毛布の下で、大幅な肉体変化を起こしている。

 それでも母親は、身も凍るような恐怖心に懸命に耐え、千鶴の背をゆっくりと押した。


 どうしてこんなことになってしまったのかと、何度も思い返し、悔やむ。

 愛娘の千鶴が突然の発作を起こし、死亡していることにすぐ気付けなかったあの日から、向坂家の運命は大きく変化してしまった。

 慌て取り乱し、勤務先から父親を呼び戻してしばらく後、死んだと思っていた千鶴が一階に降りて来た。

 大喜びで抱き付いた娘は、突如、巨大な口を開け、母親に噛み付こうとした。

 そこに、たまたま帰宅した父親が制止に入り、代わりに――

 

 千鶴は……否、既に千鶴ではなくなってしまった「者」は、自分の目の前で父親を食い殺してしまったのだ。


 何が起こったのか、全く理解が及ばない。

 何故、千鶴がこんなバケモノになってしまったのかも、知る由はない。

 病院に行くことも、医師を呼ぶことも考えたが、父親を食い殺したという事が世間に知れたら。

 そう考えると、行動に移せなかった。

 たとえ人間ではなくなってしまっても、飢えてさえいなければ、千鶴は今までと同じ仕草と態度を取ってくれる。

 それに気付いた母親は、悪魔の選択を受け入れた。


「千鶴、ホラ、わかる? あの女の人」


 毛布の隙間からギラついた目を覗かせる千鶴に話しかけ、母親は、前方十数メートル先を歩く女性を指差す。

 仕事帰りのOLだろうか、ぴっちりしたビジネススーツに身を包み、ハンドバッグを肩に提げつつ、無防備に歩いている。

 こちらには、まったく注意が向いていない。


「あの人にしようね」


 蚊の鳴くような声で囁く母親に、毛布の下の頭がこっくりと頷く。


 あの女性には申し訳ないが、この子はまたしばらくの間、千鶴のままでいられる。

 彼女の犠牲で、可愛らしい愛娘を取り戻せる。

 ならば、たかが一人の犠牲など、大したものではない筈だ。

 

 母親は、千鶴の背を軽く押し、毛布をゆっくりと取り払った。


 細くしなやかな鞭状の腕が、一瞬のうちに距離をまたぐ。

 先端部の異常に尖った突起部分が、女性の背中に向かって真っ直ぐ飛翔した。



 次の瞬間、金属同士が激突するような鋭い音が、夜の住宅街に鳴り響いた。


「えっ?!」


 何が起きたのかわからず、母親は声を漏らす。

 長さ三十センチはあるだろう鋼鉄のような爪が、女性に、しかもたった一本の指で止められたのだ。

 女性の額に、エメラルドの輝きが灯る。


 爪を弾いた瞬間、第二撃が来るより早く、女性は空高くジャンプした。

 女性の姿は霞のように夜空に溶け、その中から、青いドレスをまとった“魔女”が現れた。


 ガ、ガアアアァァァッッッッ!!!


 獲物を捕らえ損なったせいか、千鶴は……否、もはやほとんど異形の者と化してしまったXENOは、怒りの咆哮を轟かせた。


“Execute science magic number M-021 "Death-fogg trap" from UNIT-LIBRARY.”


「デスフォッグ・トラップ!」


 空中で弧を描き、XENOの背後に降り立つ軌道で飛翔しながら、科学魔法を唱えた。

 アンナウィザードの両の掌の中で、紫色の霧が発生する。

 それを、重ねた指先の隙間から噴霧した。

 紫の霧は、またたく間にXENOを包み込んでいく。


 ギャアアアアアアッッ!!


 大気中の成分から、酸素・窒素などの“生物に必要なもの”を奪い取り、さらに皮膚呼吸を妨害する酵素を噴霧する「デスフォッグ・トラップ」。

 XENOにどれほどの効果があるのか未知数ではあったが、少なくとも、一時的な足止めとしては十二分に威力を発揮していた。

 豪快な音を立て、路面に倒れ伏す。


「逃げてください!」


 アンナウィザードの背後で呆然と佇む母親に向かい、大きな声で呼びかける。

 だがあまりの展開に思考がついていかないようで、口をぱくぱくさせながら、視線を泳がせるのが精一杯だ。

 

 グボオオォォォォォワアアァァァ!!!


 もはや、完全に千鶴のものではなくなった叫び声が轟く。

 それに反応し、やっと状況を把握したらしき母親が、アンナウィザードを避けて千鶴の元へ走り寄ろうとする。


「な、何をするんですか! 危険です!!」


「どいて!!

 千鶴が、千鶴が苦しんでるじゃないのっ!

 アンタ、うちの子にいったいナニをしたのよっ!!」


 必死の形相で怒鳴りつける母親に一瞬気圧されるが、アンナウィザードは表情を引き締める。


「あれは、もうあなたのお子さんではありません」


「あんたには関係ないでしょっ?!

 アレはあたしの子、千鶴なのよっっ!!」


「え……」


「どうしてくれるのよ!? あの子、身体が弱いのよっ!

 あの子に何かあったら、アンタどうする気なのよぉっ?!」


 その言葉で、アンナウィザードはようやく気が付いた。

 彼女が、もう完全に人としての倫理を放棄していることを。


 グボオォォォォォッッ!!!


 千鶴は、科学魔法の“霧”を無理矢理振り払ってしまった。

 即座に体制を整え……ない。

 XENOは倒れたままの姿勢で、その身体を突如変形させ始めた。


 バキ、ゴキ、メキ、という、骨が折れ、軋み、歪む耳障りな音が木霊する。

 横倒しになった身体から、骨が、筋肉が、皮膚が不自然に伸び始め、地面を掴む。

 あばら骨を脚に、腕と足の骨を繋いで多数の関節を持つ“新しい腕”を造り、その先端には足の甲の骨が変形した「刃」を装備する。

 脊髄は、あばらの脚の末端から一直線に伸び、その端に頭――否、頭蓋骨が付く。

 その姿は、まるでカマキリとさそり、蛇を混ぜ合わせたかのような不気味なものだ。


「ひ、ヒィィッ!!」


 あまりにおぞましい様相に一瞬呆気に取られたものの、背後の母親の悲鳴で、アンナウィザードは我に返った。


 XENOの刃が飛び出し、先程とは比較にならないリーチとスピードで、一直線にアンナウィザードの喉笛を狙う。

 だが、アンナウィザードは眉一つ動かさない。


「ユニコーン・ヘッド!」


 伸ばした左手の先端から、鋭い錐状のパーツが飛び出し、XENOの刃をなぎ払う。

 同時に、アンナウィザードは母親を強引に抱き上げ、そのまま飛翔した。


「きゃああああぁぁぁっっ!」


「ミスティック、後は頼みます!」




『よし、今だミスティック!

 出番だ!』


「はぁい☆

 行くよぉっ! ――パワー・ジグラット!」


“Power ziggurat, success.  

Areas within a radius of 200 meters have been isolated in Phase-shifted dimensions.”


 凱からの通信を受け、アンナミスティックの左手が開放される。

 事件現場を中心に、半径200メートル範囲が包み込まれ、異空間へ転移された。

 ただし、今回の対象には、千鶴の母親やナイトシェイドも含まれる。


 アンナウィザードが退避するまではと、今度はミスティックがXENOの前に躍り出た。


「さあ、もう誰も殺させないからねっ!!

 タイプ4・モーニングスター!!」


 そう言うが早いか、アンナミスティックは上体を思い切り捻り、手にしたマジカルロッドをXENOに向けた。

 その瞬間、先端の分銅部分が高速で射出され、まるでミサイルのような迫力でXENOの胴体……蛇の様な脊髄部分を直撃した。


 その一撃は、一瞬XENOを空中に浮かせるほどの破壊力がある。

 豪快に後ろに吹っ飛ばされたXENOは、ものすごい重低音を響かせてぶっ倒れ、近隣の民家の塀を粉々に打ち砕いた。


「トアァ――――っ!!」


 全身に気合いをみなぎらせ、マジカルロッドをスティックモードに変型させ、構える。


 異形と化した友人・千鶴の姿を愛美に見せないうちに粉砕する。

 それが、アンナミスティックの気持ちだった。

 最悪、愛美に憎まれる事になっても、やむを得ない――それほどの覚悟だ。


 姿勢を崩したXENOが、ゆっくりと体躯を持ち上げ始める。

 完全に起き上がり、身体前面が見えた瞬間を狙い、アンナミスティックはすぐに追撃するつもりで体勢を整える。

 だが、そんな彼女に向かって、何かが高速で飛来した。


「えっ?!」


 高速で飛来したものは、そのままアンナミスティックを狙う。

 それらは無数に分裂し、超高速で激突した衝撃は、運悪くミスティックの姿勢がもっとも不安定になっている瞬間にヒットした。


 びしゃあぁっ!!


「きゃあぁっ?!」


 二トンもの重さが姿勢を崩し、すぐ脇の民家の塀に激突する。 

 飛来したそれは、“内臓”だった。

 命中して型崩れしたそれは、ミスティックの外装にまとわり付き、更には徐々に硬化し出した。


「うえぇぇっ!! な、何コレ気持ち悪いよぉ~!」


 崩れた塀の破片と、徐々に硬質化し始める内臓に圧迫され、ミスティックは悲痛な叫びを上げた。

 物理的ダメージこそ殆どないものの、精神的な衝撃は相当なものだ。

 動きが鈍くなったアンナミスティックに、XENOがじわりじわりと迫ってくる。


 だが、今の彼女に助けは来ない――

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