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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第1章 アンナローグ起動編
8/219

●第4話【探索】1/3

 外の雨は、先程より更に強さを増している。

 もはや傘は役に立たず、二人は雨合羽を羽織って臨むことにした。




 美神戦隊アンナセイヴァー


 第4話 【探索】



「いい? どどど、泥棒を見つけたら。

 まず脚を攻撃して動きを封じて、それから頭を狙うの!

 下手に躊躇うと反撃されるから、仕損じないようにね!」


「そそそ、そんな物騒なこと、しなきゃならないんですかぁ~??」


「非力なあたし達に出来ることっていったら、それしかないよ!

 って、何その長ネギ?!」


「だ、だってもえぎさんが、何か持っていくから……」


「置いてきなさい! その辺に置いときゃ、勝手に伸びるわ」


「ほ、ホントですかぁ?」


 お馬鹿な会話を交わしながらも、二人は完全に脚が震えていた。

 それでも、勇気を振り絞って館の側面に回りこむ。

 雨がレインコートを激しく叩き、だんだん歩き辛くなってくる。


 しばらくすると、北東部の角の辺りで、二つの影が並んでいるのが見えた。

 だが、次の瞬間。


「――えっ?!」


 突然、足下が光ったと思った途端、二つの影はふわりと空中に浮かび、一気に屋根の上まで飛び上がってしまった。

 ジェット噴射のようなものではない。

 雨音でよくわからなかったが、特に噴射音のようなものは聞こえなかった。


 予想外の事態に、二人はしばらくその場で立ち尽くしていた。


「ナニアレ。……魔法?」


「追いかけられませんね、あれでは」


「も、戻ろう!」


「ええっ?!」


「だって、中に入ったじゃん!」


「そ、そうですけど……」


「こっち、東の棟の中から回り込もう!」


「で、でで、でもこっちの棟は、梓さんや理沙さんから、立ち入り禁止って」


「そんなこと言ってる場合じゃなーい!」


「は、はいっ!!」


 変に興奮状態のもえぎの勢いに圧され、愛美は小走りで館に戻った。

 勝手口で濡れたレインコートを脱いだ二人は、東棟の方へ向かってまた走り出す。

 少々息が切れてきた辺りで、突然、誰かが目の前に立ち塞がった。


「あんた達、何してるの?」


 青山理沙。

 よりによって、二人が最も苦手とする先輩だった。

 背の高い理沙は、まるで蔑むような目線で二人を見下ろす。


 愛美は、押し黙るもえぎをよそに、先程見た事態を理沙に説明した。


「泥棒? この館の中から? で、また中に?」


「は、はい!

 ですので、東棟に行きたいのですが……」


「ダメよ。

 あそこは今は使っていないところだから、入ることは絶対禁止よ」


「で、でも――」


「あんた、私の言うことが訊けないの?」


「う……」


 有無を言わさぬ圧力に、二人はこれ以上言い返すことが出来ない。

 フン、と鼻を鳴らすと、理沙はもえぎに命じた。


「あんた、夢乃を捜して」


「は?」


「さっきから居ないのよ。

 すぐ捜しに行きなさい」


「で、でも、泥棒――」


「あんた、ここに来て結構経つのに、私の指示が最優先だって、まだわかってないの?

 ぐだぐだ言わないで、とっとと行きなさい!」


「……はい」


 この館では、先輩メイドの命令は絶対だ。

 明確なヒエラルキーがあり、一番長の梓と二番目の理沙には、誰も逆らえない。

 それが、たとえ不条理な命令であっても、だ。

 悔しそうな顔で二階に向かって走っていくもえぎを一瞥すると、理沙は残された愛美に向き直った。


 きょとんとする愛美の顎を、理沙はいきなり乱暴に掴み上げた。

 声が、詰まる。


「アンタは、本当に使えない子だったわね」


「……っ?」


「何を教えてもちゃんと出来ない、やっても中途半端。

 夢乃達のフォローに、何度助けられたかしらね」


 冷ややかな口調で、突然侮辱的な言葉を吐く。

 そんな理沙の表情は、嘲笑っているような、それでいて怒っているような、なんとも表現し難いものだった。


「も、申し訳ありません!

 これからは、もっと充分に注意して――」


「もう、これからは、ないから」


「え?」


 口元を吊り上げると、理沙は愛美の顎から手を離した。

 そして耳元に口を近づけると、囁くように呟く。


「今夜限りで、あんたはここのメイドじゃなくなるの」


「!!」


「短い付き合いだったわね。バイバイ」


「……」


 突然の、解雇宣告。

 愛美は、あまりのショックにその場から動けなくなった。

 青ざめて立ち尽くす愛美をよそに、理沙は西側に向かって歩き去っていく。


(そうか――じゃあ、この後の集まりは……私の……)





「防犯用電子ロックかよ。

 ――ナイトシェイド、頼む」


“了解”


 カチャリと音がして、窓の鍵が解除される。

 素早く窓を押し開くと、凱は素早く身体を滑り込ませる。

 続いて、もう一人の影も。


「なんだこりゃ?

 いつからここは、ホテルになったんだ?」


「ホテルっていうより、洒落がきつ過ぎるアパートって感じね」


「はは、違えねぇな」


 二人は、廊下の向こうにずらりと並ぶドアの数を見て、呆気に取られた。

 井村邸・東棟二階。

 そこは夕べ凱が宿泊した客室と同じように、沢山の部屋が並んでいるようだ。

 しかし、それぞれのドアの感覚が、圧倒的に狭い。

 これでは、それぞれの部屋の大きさは、あの客室の半分以下しかないだろう。

 よく見ると、ドアにはネームプレートの跡らしきものまである。


「この館には、相当な人数が住み着いていた……ってとこか」


「私が来るずっと前の話でしょうね。

 見てよこの埃」


 そう言いながら、もう一人の影は、足元を靴で払う。


「さしずめここは、宿舎ってとこか」


「問題は、“何の”ってとこね」


「ここまで来た以上、ソイツも突き止めて手土産にするか。

 これからどうする? 夢乃」


「そうね、多分下の階もこんなでしょうから。

 早速北棟に行きましょ」


「いい判断だ」


 二人は、素早く北方面に向かう。

 東棟二階の最北端は行き止まりで、共同トイレや浴室、ランドリーなどがあるだけだ。

 即座に二人は、階段から下に飛び降りる。

 音もなく着地すると、一階の奥を凝視した。

 そこには、高さ2メートル半はある巨大な漢音開きのドアが設置されている。

 木造建築の建物の中に、突然現れる金属製のドアと、その横のセキュリティキーは、異様なほどの違和感を漂わせていた。


「いよいよ、ラスボスへの回廊にたどり着いたって気分だな」


「もしかしたら、アイツらに気付かれるかも」


「だろうな。

 もし俺があいつらの立場だったら、ここが開いたら気付くようにシステム構築するわ」


「いいの? それでも行く?」


「やるだけやってみよう」


 凱は、再び腕時計を扉に向け、次にセキュリティキー部分に接近させる。

 しばらくの沈黙の後、女性の音声が聞こえてきた。


“通報システムを偽装データで作動妨害します。

 5分前後の準備時間を要します。”


「やったぁ♪

 さすがはナイトシェイド!」


「じゃあ早速頼む。

 さて、と」


 ドアに背を凭れると、凱は、もう一人の影に話しかけた。


「お疲れ。

 ――四年になるか?」


「そう、丸四年。

 通信も出来ない、郵送もいちいちチェックされる環境での諜報活動は、さすがにきつかったわ」


「だろうな。

 しかし、まさかお前からはがきが届くとは思わなかったよ。

 季節外れの、しかも二年も前の年賀状」


「仕方ないじゃん! それしか使えるものがなかったんだから。

 あれ書くのだって、一週間もかかったんだからね」


「いや、でもそのおかげでここが分かったんだし、助かったよ。

 そうそう、愛美のデータ、ありがとな。

 あと、セキュリティコード」


「忘れて来てないでしょうね?

 あれ、探し出すのにすっごく苦労したんだから、なくしたら泣く」


「あいあい、大事に使わせてもらいますよ」


 そこまで言った時、腕時計から作業が完了したとの反応があった。

 凱は、スマホで撮影したセキュリティコード……先程、夢乃から渡された袋に入っていたメモの写真をピックアップし、それをゆっくり入力する。


 ガコン、という鈍く大きな音が鳴り響き、扉が自動的に開いていく。

 その向こうに広がる光景に、凱ともう一人は思わず息を呑んだ。


 そこは、もはや木造建築の館ではない。

 壁の色も、廊下も、そして天井やそこからぶら下がる様々な機器・パイプ類・配線類などは、近代的な造りの研究所のようだった。

 アイボリーの壁の色が、次々に点灯していく照明に照らし出される。

 黴臭かった空気の匂いもいきなり変わり、まるで病院のような、消毒臭を思わせるものに変化した。


「ビンゴ、かな」


「ビンゴね」

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