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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
INTERMISSION-02
76/226

●第28話【廃墟】1/4

またまた今回も、ギャグ編になります。

ついでに、ホラー回でもあります。


 今から、三十年くらい前の話である。


 当時、老朽化が進んだために打ち壊しを計画されたマンションがあった。

 だが、このマンションに住んでいる人達のほ殆どは永住を決め込んでおり、長年かけて払ってきたローン完済を目前としている者も多かった。

 解体・建て直しという展開になれば、当然二重ローン地獄に突き落とされるか、不本意な退去を選ばなければならない。

 そのため、住民と権利者側で大きな言い争いが幾度も行われ、両者の関係は最後まで平行線を辿った。

 だが権利者は、住人達の猛烈な反発に立腹し、怒り任せにそのまま計画を強行してしまった。


 立ち退き勧告が出た直後、在住者の一人がマンション屋上から投身自殺をするという事件が起きた。

 それは後に、権利者側に対する抗議の意味が込められている事、そして凄まじい恨みの念がこもった行為であった事が、遺書によって判明した。


 それから、そのマンションにはまるで呪いがかかったように、様々な怪異が発生した。

 度重なる事故のために工事も中止され、やがて住民もすべて立ち去り、マンションからは人の気配が消え去った。


 しかし、ここにはいまだに住民達の恨みが込められ、自殺者の霊が蠢いていると云われている。



 ――そういった「都市伝説」めいた怪談が囁かれている、とある“スポット”が存在するという。





 美神戦隊アンナセイヴァー


 第28話 【廃墟】





「おかしい」


 それまで続いていた沈黙を破り、突然、勇次が呟いた。


 ここは、地下迷宮ダンジョン・研究班エリア。

 傍の端末で調べ物をしていた未来が反応する。


「どうしたんですか、蛭田博士?」


「ちょっと気になる情報があってな。これなんだが」


 そう言って、勇次はどこかのニュースサイトの記述を開いてみせる。


「“不気味な発見談相次ぐ”

 “周辺から恐怖の声多数”

 ――これは?」


「なんか、ここの辺りで奇妙なモノを見たっていう話が連続で出ているらしいよ。

 今のところ、何か被害が出たとかそういう話はないんだけど、気にならない?」


 唐突に、今川が姿を現し、補足する。


「そうですね、もしかしてXENOが潜んでいる、とか?」


 未来の瞳に、真剣な光が宿った。


「まだ公に事件と認められたわけではないし、被害者が出たわけでもないけど、やたら噂が多いのは気になるよね」


「調べましょうか?」


「うむ。

 向ヶ丘、万が一の事を考えて、状況を確認しに行ってもらえるか?」


「わかりました。

 では、四人を集めます」


 ここしばらく、XENOとの戦闘もなければ、出現報告もない。

 そろそろ、こんな展開になるだろうと睨んでいた事もあり、未来は、意気込んで映像資料をプリントアウトしようとした。

 だが……



「よ、横須賀、××マンション?!?!」


「な、何? 未来ちゃんどうしたの?」


「博士、私、やっぱりパス」


 そこまでの話はどこへやら、未来は、両腕でバツのマークを作り、唐突に拒絶した。


「いきなりどうした?」


「ここだけは、イヤです。

 ダメです、ヤバイです!

 ここ、有名な心霊スポットじゃないですかっ!!」


 背後に思い切りスピード線を引っ張り、未来が地図を指差す。


 『横須賀××マンション』

 そこが、奇妙な発見談の現場とされている場所だった。


「心霊スポットぉ? ププッ!

 未来ちゃん、何言ってんの?」


「えっ?」


「まさか未来ちゃんって、幽霊とか信じているタイプ?

 意外に迷信深いんだね。

 ――幽霊なんか、居る訳ないじゃん」


 あからさまに、嘲謔の笑みを浮かべる。

 どうやら今川は、未来とは正反対のタイプのようだ。


「で、でも! この廃墟マンションは、ずっと昔から心霊現象が多くてですね。

 実際に事故に遭った方とかが」


「そんなの、話を面白く広げようとしている連中がでっち上げた作り話だっつうの。

 心配しないで、行ってらっしゃい」


「ど、どうしても行かなきゃダメなんですか~?!」


「さっき自分から行こうかと言い出したじゃないか」


 珍しく怯えきっている未来の態度が、今川の心に眠るサディズムを僅かに刺激する。

 少し調子にのって、今川は、わざと冷たい口調で言い放った。


「そう、行かなきゃダメだね~。

 隅々まで探索して、必要だったら映像資料も録って来てね」


「ほ、本気ですかあっ?!」


「心配しなくてもいいよ。

 もし、ホントに幽霊が出たって、アンナユニット身に着けていれば絶対安全だから♪」


 自信満々の言葉に、根拠の無さが透けて見える。

 未来は、ため息を吐き出しながら、がっくりとその場に膝を着いた。




 実は心霊・怪談マニアでもあった未来は、当然、この有名な心霊スポット・××マンションにまつわる「噂話」を以前から聞いていた。

 とにかくここは、昔から異常と思えるほどにそのテの目撃例が多い。

 窓に明かりが灯っていたとか、話し声が聞こえたとか、誰かが上の階から手を振っていた、なんてのは良く聞くパターンだ。

 いくら未来が怪談マニアとはいえ、それはあくまで本やネット上で読み、ちょっぴり怖いを楽しむレベルに過ぎず、実際に噂の場所に出かけた事などは、一度もない。


 元来、肝試し的な体験は、大の苦手なのだ。


 たとえ他人が鼻で笑い飛ばすような事でも、自分にとっては洒落にならない事だ。

 幸い、今まで「何か」を見たという経験はないが、未来は


「できれば一生見たくない」


 と常々思い続けていた。



「――で、ここが、その話題のマンション、と」


 暗闇の向こうにそびえ立つ、灯り一つ点らないマンションのシルエットを見つめ、ありさが少しだけ強張った声で呟く。


「夜に見ると、さすがに不気味ですね」


「ううっ、なんか怖いよぉ~。

 メグ、こういうの苦手ぇ~」


 相模姉妹も、この雰囲気にかなり押されているようだ。


 ××マンションは、六階層のコンクリート建築。

 ただし、どう見ても1960年代から70年代にかけての建造物といった雰囲気だ。

 敷地内には二つの棟があり、それぞれ独立している。

 一部では天井部分に穴が開いており、普通に歩くのは危険だとも噂されている。

 推定築五十年以上の、気合の入った心霊スポット。

 更に、このマンションの周囲は広大な空き地で、他の建物は一切ない。

 噂では、周囲の建物は地上げで更地にされたのだが、この建物だけは不気味な事件が多発するために解体が行えず、そのまま放置されているのだという。

 実際のところはわからないが、とにかく、暗黒広がる荒野にポツンと佇む廃墟というものは、それだけで貫禄充分である。



「じゃあ、とっととやっちまおうか。

 未来、マイ、メグ、愛美。行くよ!」


「はい……って、あれ、未来さんは?」


 舞衣の言葉にハッとして、ありさは、辺りをキョロキョロ見回す。

 すると、自分達から百メートルほど離れた国道寄りの場所で、未来が寂しげにこちらを見つめていた。


「だ――っ!!

 てめー、リーダーのくせに逃げてんじゃねーっ!」


「ふえー、未来ちゃんって、ひょっとして臆病さん?」


「そんな事はありません。

 今まで、先頭に立ってあれだけ勇敢に戦ってこられたのですから、未来さんに限ってそんな事は。

 きっと何か別な理由が」


 恵に対する舞衣のフォローが、この時ばかりは皮肉にしか聞こえない。

 今にもブッ殺しそうなほどの睨みを利かせるありさに観念し、未来は、ゆっくり渋々と歩み寄った。

 ふと、先ほどからずっと静かにしている愛美の事が気になる。

 見ると、ありさのさらに向こう側で、じっとマンションの上の方を見つめている。


「あにゃ? 愛美ちゃん、どーしたの?」


「はい、今あの辺りで、何か動いたような気がしたので」


 その言葉に、全員の神経が瞬時に張り詰める。

 舞衣の眼差しに鋭い光が宿り、恵とありさの身体に、力がこもる。

 そして、その雰囲気に煽られ、愛美も、只事ではないと察する。

 だが未来だけは、完全に腰が引けていた。


「おい、未来」


「だ、だめ。だめだめだめだめだめだめやっぱりだめぇぇぇぇっっっ!!!

 心霊スポットなんか、そんな気安く来ちゃいけないのよ!

 絶対、なんかあるんだからあっ!!」


「あらら、未来ちゃんホントに怖がってる」


「い、意外です」


「え、え~と……ど、どうしましょう」


「て、撤退! 撤退よぉっ!!」


 いつもの冷静な態度からは、想像もできないほどうろたえている。

 そんな未来の姿を見て、恵は、愛美に呼びかけた。 


「愛美ちゃーん、未来ちゃん脅かしちゃだめだよぉ」


「いえ、脅かしたわけではなく、本当に」


「きゃああぁぁぁっっっ!! もうイヤ、もうイヤあっ!

 帰る、絶対すぐに帰るっ!!」


「そ、そんな。

 帰るったって、お兄様は私達に任せて、別な所で待機してますし」


「お願いだから、すぐにスマホで呼んでっ!」


 必死に退去を主張するが、なんだかんだで真面目一徹の面々である。

 調査放棄は論外なのか、誰もスマホを取り出そうとはしない。


「あ~、うざい。三人とも、とっととチャージアップしといて」


「はーい。で、ありさちゃんと未来ちゃんはどーするの?」


「こーするっ」


 恵に軽く返答すると、ありさは、未来の身体を支えたまま足払いをかけた。


「きゃあっ?!」


 不意を突かれ、思わず転びそうになる身体は、ありさの片腕にがっしりと受け止められる。

 その状態は、まるで腕の中に優しく抱かれているようだ。


「うわ、なんか、すごくシゲキ的な光景☆」


「ふえ? いったい何が」


「あわわわ、メグちゃん、愛美さん、見てはいけません!」


「未来……」


 腕の中で呆然としている未来に、まるで口付けするかのように顔を寄せると、抵抗の隙すら与える事なく、耳元に唇を近づける。


「えっ? ち、ちょ……」


 気がつくと、いつのまにか、ありさの左手が未来の乳房にあてがわれている。

 力強い腕に身体を固定され、耳元に熱い吐息を感じながら、未来は意識を冷静に保とうと努める。

 だがそれを巧みに阻止するかのように、ありさの左手が、優しくそして淫靡に蠢く。

 まるで、未来の胸の形を、じっくりと確かめるかのように。


「あ、あり……ちょっ……と、ホントに、やめ……」


 拒絶の言葉に反して、未来の頬は、無意識に火照っていく。

 再び熱い息が耳元に吹きかけられた次の瞬間、ありさの囁きが、鼓膜に届く。



「でっけぇ胸っ」



 未来の、人格崩壊スイッチが入った。

 


「△■Я@¶ΨЭヽ(゜Д゜)ノЮ●××〃――――っっっ!!!!」



「あははは、よっしゃよっしゃ。元に戻った」


 大魔神化した未来から離脱し、一人はしゃぐありさに対して、三人は冷たい視線を投げつけていた。


「何をするのかと思ったら、あんなひどい事を」


「よ、良かったぁ。取り返しのつかない展開が始まるかと思っちゃったよ~」


 とかいいつつ、舞衣も恵も、思わず自分のバストを両手で隠していた。


「本当に、お二人は仲がおよろしいのですね~」


 愛美の言葉に、姉妹は思わず目線で突っ込んだ。

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