●第27話【戦隊】
今回“も”、ギャグ編です…
「必要なのは、やっぱり合体武器だよっ!
ぜーったい、なきゃおかしいって!!」
「し、しかしだな。過剰な重火器は我々の兵器構想には」
「だったら、専用のバイク!」
「ありさちゃん、免許持ってるの?」
「う、うぐっ」
美神戦隊アンナセイヴァー
第27話 【戦隊】
地下迷宮の、研究班エリア。
その一角から、喧々囂々の意見のやりとりが聞こえてくる。
どうやら、ありさの主張に対して今川や勇次が対応しているようだ。
何やら一方的に加熱しているようで、興奮したありさの声が何よりも先に耳に飛び込んでくる。
やってきた舞衣と恵・愛美の三人は、そんな状況に顔を見合わせながら、首を傾げた。
「つまり何か」
「おうよ」
「XENOにトドメを刺すための合体兵器と」
「出来れば、レトロにバズーカとかいいよね」
「五人が専用で使用するバイクと」
「二人バイクで、三人は一台の車でもいいよ」
「巨大変形合体ロボ」
「そうそう。
で、ちゃんと二~三体目も開発しといてね。二体目以降は単体変形だといいかも!」
「これらが、アンナセイヴァーの今後の活動に絶対必要だという事なんだな?」
「そうそう!
あと、全員ブレスレットで別々に変身できるようになれば文句なしだけど、それは無理みたいだもんね。
我慢しとくわ」
ぷるぷると額に青筋立てて、勇次がありさを真正面から睨み付ける。
「あっきーさん、いったいどーしたの?」
たまらず恵が今川に話しかけるが、彼は無言のまま「やれやれ」というポーズを取るだけだ。
何やら沢山の書籍や資料を抱え込んできたらしく、ありさはそれを乱雑に、目の前のテーブルに広げつつ熱弁を繰り広げていたようだ。
「ち、超全集」
その書籍の山を見て、舞衣がボソリと呟いた。
「ありささん、一生懸命ですね。
どうしたんでしょう?」
愛美の、何の気なしに漏れた言葉が耳に届いたか、勇次は眉をピクつかせて立ち上がった。
「石川ありさ! お前は、テレビの見過ぎだ!」
「えーっ」
「第一、そんなもんいちいち開発しとったら、予算がいくらあっても足りんわい!!」
「でもー、せっかく五人揃っているんだから、戦隊としてはそれくらいやらないと」
「どこのどいつらが“戦隊”だっ!」
どんっ! と、強くテーブルを叩く。
何冊かの超全集が、びっくりしたように跳ね上がった。
舞衣は落ちかけた本を手に取ると、それを愛美や恵に差し出した。
「ふえーっ、何これ? 子供番組の奴?」
「スーパー戦隊」
「わーっ、カラフルで綺麗ですねーっ♪」
愛美は、渡された『機動戦隊マグライジャー超全集 上巻』と書かれた本を、パラパラとめくる。
怪人やらメカやらカラフルな写真が一杯掲載されており、恵や愛美は、思わず見入ってしまった。
「ちょっと、そこ!
せっかく来たんだから、まったりしてないで加勢して!」
「ありささん、どうされたんですか?」
舞衣の問いかけに、ありさはフンッ! と鼻息を荒げ、なぜか胸を張った。
「今、あたし達の新兵器について提案してたんよ」
「し、新兵器?」
「そー。仮にも“戦隊”を名乗ってるヒーローなんだから、それなりのものが欲しいじゃない」
「だから、誰が戦隊だっつーた」
勇次のつっこみを、思い切り露骨に無視して、
「あの、私達は女なんですから、どちらかといえばヒロインでは」
「しゃあらっぷっ!」
愛美に掌底をかざして待ったを掛けると、ありさはノンノンノンと指を振り、不気味に微笑んだ。
その光景がどこか珍妙で、恵は思わず吹き出してしまった。
「心に正義があるのなら、それはすべてヒーローの証よ!」
「こ、心に正義?!」
「そうっ!」
ガシッ! と、厚さ五センチはありそうな効果音文字を飛ばしながら愛美の両肩を掴むと、ありさは子供に語りかけるような口調で話し始める。
肩の痛みを訴える事すら許さない勢いである。
「昔から言うだろう。
“君の心に印はあるか”」
「は?」
「私達は、戦う為に選ばれた“ソルジャー”なのよ!」
「……えっと」
「おそれていてはダメだと、心に誰かのメッセージが伝わるの」
「な……?」
「そうでなければ、宇宙の青いエメラルド・地球に悪の手が伸びるのを阻止できないぞ!」
「いったい何と戦うつもりなんだよ、ありさちゃんは」
完全に自己主張に没頭しているありさに、呆れ果てている今川。
そして、もはや反論する気すら失せて座り込む勇次。
なぜか舞衣と恵だけは、彼女達のやりとりをワクワクしながら見つめていた。
「と言うわけで! アンナセイヴァーに欠けているものをゆーじさんやあっきーに提案していたのさっ」
「それでこんなに資料を」
「ふえーっ、これ、みんなありさちゃんの物なの?」
恵の無邪気な問いに、へっへーん♪ とVサインを返す。
唯一話の趣旨が理解できない愛美は、小首を傾げながらもなんとなく面白そうなので、黙って聞き手に回る事にした。
「ありさちゃん、お取り込み中悪いんだけどさ」
タイミングを縫って、今川が落ち着いた声を挟む。
「バイクなんて用意しても、体重が2トン近くもある実装後の君達が乗ったら、走るより先にスクラップだよ?」
今川の言葉に、ありさが詰まる。
「それにバズーカだって、普段どこに待機させるの?
重火器を転送兵器として使用して、誤爆した時のフォローはできるの?」
「うぐっ」
益々詰まる。
「ロボットだって、デザインやギミック考察から始めたら、ものすごい時間がかかるし」
「今川、それはなんか違うだろ」
「第一、そんな巨大なモノを作る予算と施設はどーするの?
それに下手すると、この地下迷宮の場所もバレちゃうじゃない」
「うぐぐぐっ! ど、どこか無人島を改造して」
「全額費用出してくれて、島の周辺住民から文句が出ないように根回しして、地盤や海に影響がないようにありさちゃんが作ってくれるんだったら、活用のしがいがあるかもね?」
今川の理論責めに、反論の言葉を持たないありさは、沈黙せざるを得ないようだ。
すごく残念そうに肩を落とすと、ありさはポチポチと、点在する(自称)資料をかき集め始めた。
「やっとあきらめてくれたみたいっすね」
「まったく……少しは現実的な発言をせんか、現実的な発言を」
「だあってぇ、イマイチ燃えないんだもん」
悲しそうな視線を向けられ、勇次は一瞬言葉に詰まる。
「あ、でも、でも、ヒーロー物って、なんかこう……エイヤーってのがあるでしょ?」
突然、恵が何やら腕を振り回し、オーバーアクションを絡めながら語り始める。
「何ですか、えいやーって?」
「えーっとね、なんかぁ、高い所で自己紹介したりしてなかった?」
「名乗り、ですか?」
ぼそりと呟いた舞衣の言葉に、ありさの目が激しく輝いた。
「それだ――――っ!!
メグ、舞衣、アンタらいい事言った! そう、名乗りだよっ!!」
「は、はい?」
「五人居て、新兵器にも巨大合体ロボットにも期待出来ないと言うなら、後に残された道はそれしかない!」
「期待するだけ無駄だっつーに」
勇次の突っ込みも何のそのといった感じで、ありさは尚も一人でバーニングする。
キッと表情を引き締め、ありさは愛美達の顔を、じっくりと見据えた。
突然、舞衣を指さす。
「青、ブルー! 沈着冷静でキザ担当!」
「き、キザ? 私?」
次に、恵を指し
「緑、グリーン! 意外と万能、たまに怪力、おちゃらけ担当!」
「はえ、おちゃらけ? メグが?」
「そしてっ! ピンク!! 紅一点、ヒロイン! 七変化!」
「七変化って何ですか?」
「ありさ、それはかなり偏見入ってないか?」
愛美を指し示した指をそのまま自身に向けて、今度は少し胸を張りながら、なぜか誇らしげな口調で語り始めた。
「んでもって、赤……レッド! 情熱と勇気の戦士! しかもリーダー!」
「あれぇ、いつの間にありさちゃんがリーダーになったのぉ?」
「そ、そんな訳ないだろう!
アンナセイヴァーのリーダーは、向ヶ丘だ」
勇次の回答に、調子に乗りまくりの赤レッドは、チッチッチッと指を振った。
「ふっふっふーっ、不問! 愚問!
あんな“デブでカレーでお笑い担当”のイエローがリーダーなんて、ガラじゃなぁい!」
この場に居ないのを良い事に、好き勝手言いまくるありさを、一同はシラケた視線で眺めている。
しかし、当の本人はそんな事お構いなしだ。
「黙って聞いてりゃ、誰が“デブでカレーでお笑い担当”ですってぇ?」
エレベーターの方角から、低い声と凄まじい殺気が飛んでくる。
思わず身じろぎする一同の前には、制服姿の未来が立ち尽くしていた。
「む、向ヶ丘? いつ来た?」
「緑の辺りからです。
で、ありさ。誰の事言ってたの?」
「ふ、ふふ……な、なんの事?」
「私には、私の事を指してるように聞こえたんだけど?」
「ふ、ふ~ん。あ~らそぉ?
被害もーそーじゃないのぉ?」
「それに、私そんなにカレー食べないわ。
嫌いじゃないけど」
「とか何とか言いながら、ココイチでライス600グラムのチーズ入りカツカレーに福神漬けどっちゃり乗っけて食べてるタイプだろ? わかってんだから」
「な、な、な、何を根拠に?!」
未来の迫力に押されながらも、無理矢理反抗的な口調でやり返すありさ。
いつしか、二人の間では激しい稲妻スパークが飛び散っていた。
「そうね、きっと気のせいだわね。
まぁありさが、そんな子供っぽい事言うはずないものね。
いくら身体が高校生とは思えないくらい“未発達”だからって、心は“一応”立派な大人ですものね」
未来のメガネが、透過光で激しく輝く。
その鋭い言葉に、今度はありさが過剰反応した。
「未発達って、どこを指して言ったんだ、てめぇ」
「あら、胸の事なんか言ってないわよ」
「言ってるだろーがあっ!!
今、あたしの胸見て言ったろー!!
自分がバスケットボール並だからって、いい気になるなぁっ!」
「だ、だ、だ、だ、誰がバスケットボオォォルですってぇ?! この洗濯板っっ!」
「せ、せ、洗濯板あ~~~っ?!?! 許せねぇ! ここで決着着けてやるっ!!」
激しい閃光がありさを包み、激情の炎が渦巻いて、周囲を焼き焦がす。
鋭いつむじ風が未来の周りに集い、周囲に群がるものすべてを凪払っていく。
……もし二人が実装していたとしたら、多分こんな光景が広がっていたに違いあるまい。
変身せずとも、室内の大気を澱ませまくる二人を見て、他の全員がほぼ同じ事を考えていた。
「あの、ありささん。
水を差すようで恐縮ですが」
二人の千日戦争に割り込んだのは、意外にも舞衣だった。
「な、何だぁ?!」
「まずバイクの件ですが、五人全員のバイクって、もう三十年くらいないと思うのですが。
ゴーバスターズやドンブラザーズみたいに、レッド専用でしたら話は別ですけど」
「……へっ?」
「あと、イエローの方が太っていてカレーばかり食べているというパターンは、シリーズ最初期にたった一度しかなかったんですけど」
「へっ?!」
舞衣の言葉に、ありさが硬直する。
対峙していた未来も、突然の展開に、思わず目を丸くした。
「次の方は甘党であんみつでしたし、それ以降カレー好きな方はいましたが、だいたい皆さんスマートになっていきましたし、女性も沢山いらっしゃいますよ」
「ぬうっ。そ、そりゃそうだけど」
舞衣の、あまり抑揚のない言葉にありさが押されている。
「ですから、イエロー役の方にそういうイメージを抱くのは、偏見だと思います」
反論の言葉を失って、たじたじになるありさ。
舞衣の後ろでは、珍しく未来が右腕を掲げて喜んでいた。
「ガオレンジャーの初期では、イエローが事実上のリーダーでしたし」
「ぬっ、ぬぬぬぬっ!!」
「それに」
「ま、まだあるの?!」
「私、未来さんのユニットは“オレンジ”だと思うんです。
バトルコサックやトッキュウ6号、ジュウオウバード、サソリオレンジくらいしかいない非常にレアなカラーですから、パターンに当てはめるのは無理があるかと」
「ぐわっ!」
ありさは、背後によろめいて倒れた。
予想外の論客の登場に、さすがの未来も、言葉を失う。
「ね、ねぇ、舞衣って。
実は……オタク?」
「きゃあああっ!」
「あははは♪ お姉ちゃん、小さい時から良く観てたもんね、そういうの」
恵の、フォローにならない言葉が追い打ちをかける。
頭を抱えて屈み込む舞衣を見て、未来と恵は思わず顔を見合わせた。
「結構長いつきあいだと思っていたけど、まだまだみんなの知らない一面ってあるもんだね~」
ふと、今川が感想にも似た言葉を漏らす。
だが勇次だけは、なぜか緊張感漂う表情を崩さない。
元々こわばった顔をさらにこわばらせ、ボソリと、それこそすぐ側に立っていなければわからないような声で、勇次は呟いた。
「二代目キレンジャーの好物なんて、知っている奴ほとんどいないだろ」
「はーい皆さん、お茶にしましょう♪」
たった一人、この渦巻く殺気に無関心のまま資料の大全集を読みふけっていた愛美は、いつのまにか人数分のお茶を用意し、持ち寄った手作りケーキを並べていた。
「い、いつの間に?」
「ほえ~っ、愛美ちゃん、素早い!」
「うぬぅ」
甘い物が苦手という今川や未来に合わせて、クリームなどを使わない純粋なシフォンケーキのみ。
紅茶やコーヒーととても合うもので、単純であるからこそ、ごまかしが効かない組み合わせだ。
「う~ん、いい香り♪」
「さあ、お話し合いは一休みして、落ち着きましょう♪」
「い、今までのを“話し合い”の一言でまとめるか、お前?」
愛美の呼びかけに喜んで席に着く舞衣と恵、いぶかしげな表情をしつつも、ちゃっかりいつのまにか座っている勇次、紅茶の香りを1人楽しんでいる今川。
反応は様々だ。
ありさと未来は、最後に
「ふんっ!」
ときついガンを飛ばし合うと、お互い反対側の場所を陣取って座った。
「と、とてもクロス・チャージングを成功させた人達とは思えません」
「ど、同感だよ、お姉ちゃん」
「――という訳で、各アンナユニットのパワーアップ案は順次こちらで考慮する。
お前達は、よりいっそう訓練に力を注いで欲しい。
以上だ」
陽も傾き、いい時間に鳴り始めた頃、場を締める勇次の声が響いた。
ものすご~く不満そうなありさをよそに、皆はホッと息をつくと、ゆっくり帰り支度を始める。
「せーめーてええぇぇぇ、名乗りだけでもぉ」
未練がましく、ありさがすがりつく。
「だーめだっ! そんな無駄な時間を割いてるヒマはない!
今日だって、ホントはもっと実入りのあるミーティングにしたかったんだぞ」
「ううっ、絶対みんなの士気が上がると思うんだけどな~」
「そ、そうなのかな?」
ありさの独り言に、恵が反応する。
だが、未来が背後から肩を叩き、そっと首を横に振った。
「ありさは、つけあがるともうめちゃくちゃだから、たしなめる所でたしなめとかないと」
「ふ、ふーん、さすがよく知ってるね未来ちゃん」
「そ、そりゃあまあ」
「一番の仲良しさんですからね♪」
「ま、愛美!」
愛美の言葉に、く反論の言葉も引っ込んでしまう。
肩を落として出口に向かうありさに、夕食のメニューを相談する舞衣と恵、そして何事もなかったかのような態度で歩みを進める未来。
それぞれの姿で、彼女達はエレベーターの方角へ向かおうとする。
だが、愛美は。
「私、ありささんの仰った事、とっても興味あります♪」
その途端、ギラリと赤い閃光の眼差しが振り返った。
「愛美! あんた、わかってくれるの?!」
「はい、あの資料拝見したんですが、とても素敵だと思います。
私も、地球の平和を守るため、ありささんのやる気を継ぎたいと思います」
「よおぉぉぉぉしぃ! よく言ったあっ!!」
背後で突然上がった奇声に、舞衣達が驚いて振り返る。
ありさが、なにやら複雑な動きを決め始める。
どこから現れたのか、真っ赤な夕日が彼女の背を照らし出した。
「よし、愛美!
それじゃあこれから、あたし達の名乗りポーズを練習するよ!
かなり厳しいから、ちゃんとついてくるように!!」
「はい! よろしくお願いします!!」
そう言うが早いか、二人は唐突に、先ほどの複雑なポーズの連携を繰り返す。
時々何か指示が飛び交うが、二人とも熱中しているようで、他の三人の視線をまったく気にしていないようだ。
「ま、愛美さん……あああ、なんて事を」
「ね、お姉ちゃん……どーしよう?!」
「そこはもっと、大きく脚を開いて……腕は、しっかり力を入れて止めないと!」
「……み、未来ちゃぁ~ん」
「これはもう、放っておくしかないわね」
夕焼けの空に向かって、己があるべき姿を追求する者、そしてそれに共感する者が、新しい可能性に向かって躍進を始めていた。
「んで勇次さん、あの夕日、どっから出てきたんですか?」
「知るか。さしあたり石川のスタンドだろう」
「ありさちゃん、すげぇっすね……」
もう何を言っても無駄だと解釈したのか、勇次と今川も、これ以上は触れないようにそっと場を退出した。
数日後。
江戸川区小島町二丁目団地に、突如、巨大なXENOが出現した。
全長2.5メートルに肥大化した、鶏のような外見。
しかし、その背から尾にかけては鶏のそれではなく、大型は虫類を思わせる禍々しい鱗が覗いている。
今回はたまたま早期発見され、迅速な避難活動が行われた為死傷者は出ていないが、このまま放置していたらどのような被害が発生するか、未知数だ。
勇次により、呼称コードUN-07“コカトリス”を与えられた新型XENOに向かって、五人の少女達は秘密裏に出動した。
奇声を上げ、無人の公園でのたうち回るコカトリスは、突如青い塔のような光によって隔離された。
アンナミスティックの「パワージグラット」である。
気配を感じ取ったコカトリスは、斜め前方上に視線を向けた。
「そう、これよ!
敵を見下ろすこのスタンディング! このシチュエーション!!
くう~っ、燃えるわ!!」
「ブレイザー、早くやらないと」
「あ、そ、そうだったね。
いい? みんな! 昨日渡したコピーの通りに行くよっ!」
一番高い団地の屋上の塀部分に、わざわざフォトンドライブで姿勢制御しながら立ち尽くす五つの影。
「ううっ、これ、は、恥ずかしいよぉ」
「私まで……私まで巻き添えになるの? やっぱりなるの?」
「ごっちゃごちゃ言わない! ホラ行くよ!
“アンナ! ブレイザーっ!!”」
塀の上で鋭く複雑な動きを決め、ここぞという所で決めポーズを定めて固定する。
背後では、“ジャッキーン!”という効果音が響いた……ような気がした。
「“アンナ! ローグっ!!”」
ジャッキーン!(再び)
アンナローグが即座に続く。
あの短時間で結構な練習を積んだようで、ポージングも華麗で表情も真剣だ。
二人は、本気だった。
「ほら、早く、次!」
ブレイザーに肘で小突かれ、アンナウィザードが困った顔で渋々動き出す。
「“アンナ、ウィザード!”」
ジャッキーン!
なんだかんだ言いながら、結構バッチリ決めてみせる。
溜めも引きも完璧な動作に、ブレイザーは満足そうな笑みを浮かべた。
既にポーズを済ませた三人が、ジト目で次の犠牲者を見つめる。
緑色の困惑者は、たははは…という表情を凍り付かせたまま、うろ覚えのポージングに取りかかった。
「え、えーとぉ……“アンナ・ミスティック”……だっけ?」
へにょ。
止めと溜め・引きを知らないため、イマイチ決めが悪い。
「“だっけ?”はいらない! はい、ラスト!」
「あ、ありさ~」
「はーやーくーやーれー!!」
アンナブレイザーの格闘武器・ファイヤーナックルが両拳にセットされたのを見て、一瞬身震いする。
覚悟を決めたアンナパラディンが、おずおずと腕を振るった。
「“あんな……ぱらでぃん……”」
へにょにょ。
ミスティックよりもさらにへにょったポージングが、脱力感を誘う。
「う゛、ま、まあ、今後の慣れに期待するしかないか。
よーし、じゃあ今度は全員で行くよっ!」
「はいっ☆」
「へっ?」
ブレイザーを中心に、五人が放射状に並び直す。
だが、塀の上だという事を何人か忘れていたため、
「「「 美神戦隊! アンナセイヴァーっ!! 」」」
ジャキ――――――ンッ!!
「せ、せ、せいば」
塀の上だという事を、何人か忘れていたため…
「わわっ、きゃ――――――っ!」
ドスン!
タイミングがズレて響く声、そして足場の事を忘れたために団地の内側に倒れてしまう緑とオレンジ。
激しい崩壊音が轟き、団地の棟の一角が崩壊した。
「ば、バカ!」
すべての動作が終わるのを律儀に待っていたコカトリスは、ようやく飛び降りてきた赤いのと青いのとピンクのに向かって、飛びかかっていく。
けたたましい鳴き声と科学魔法・武器の衝撃音が唸り、無人の団地街が僅かに賑やかになった。
しばらくの混戦が続いた後、
「「ダブル・アンナキ――――――ック!!」」
アンナブレイザーとアンナローグの空中急角度キックが、コカトリスの核に炸裂する。
轟音と悲鳴の中で、巨大なチキンが崩壊を始めていった。
「いよっしゃあ! やっぱ、名乗りで士気を高めれば、XENOなんてこんなもんさアッハッハ♪」
「素敵です、ブレイザー!
次回も、これでばっちり決めて参りましょう!」
「そうですね! やっぱり、気持ちを高めて挑むのは、大切なことです。
私も、今度から科学魔法の時、より様になるポージングを考えて参りますね」
「「 いい加減にしなさいっ!! 」」
粉々に崩れた棟の瓦礫の下から、ずっこけ二人組が半泣きで制止した。
「名乗り、禁止!」
「同感」
地下迷宮からモニターを使って監視していた二人の大人達は、同じ結論に達していた。
「第一、美神戦隊ってナニよ?
ありさちゃんのネーミングセンスって、ちょっと理解出来ないっす」
「アレ、相模舞衣の発案らしいぞ」
「なぬっ?!」
今川は、今日の昼飯は豪華なチキンソテーでキメようと、本気で考え始めていた。




