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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
INTERMISSION-02
74/226

 第26話【引越】4/4

 着地した途端、アパートの入り口の辺りで、奇声が上がった。


「ひぇっ?!」


「え、誰?」


 このアパートの住人だろうか。

 四十代後半くらいのサラリーマン風の男が、大口を開けて驚いている。

 どうやら、今のトンデモ運搬を目の当たりにしてしまったようだ。


「あ、あれ? なんで?

 さっきまで誰もいなかったのに……」


「やべぇ、見られた!」


「見られた以上は仕方ねぇな、消すか」


「ちょ! 待ってくださいよブレイザー!」


「冗談だよ冗談!

 ありゃあ、隣に住んでる高梨さんだ。ばわー!」


 高梨と呼ばれた男は、酔っ払っているのか、赤い顔を手でごしごし擦ると、目の前の光景を再度見直した。


「あ~、ありさちゃん?

 どうしたの、こんな夜中に」ヒック


「いやあ、実は急に引越しすることになっちゃいまして~」


「えぇ、そうなの? 夜逃げ?」ヒック


「んなわけないじゃないっすか~! 埋めてやりましょうか?」


「ははは、メンゴメンゴ。

 でも引越しかぁ、寂しくなるなぁ~……って何なのそのカッコ? 風俗?」


「何言ってんですかもお~!

 頭ふっ飛ばしますよ!」


「あはは! でもさ、なんか向こうにも、コスプレキャバ嬢みたいの娘がいっぱい居るしさぁ」ヒック


「キャバ嬢?!」


 高梨の心無い発言に、凱はあんぐり口を開け、思わず妹達を見た。


「そ、それって、私も含めて?!」


 タンスを抱えたまま、アンナパラディンが硬直する。


「ええ~……普通の高校生なのにぃ」


「そ、そんな風に見えているのですか?! 私達って……」


「い、いや舞衣、そんな事はないぞぉ」

(つか、派手なのは認めるけど、どう見てもキャバ嬢っぽくはねぇだろ! 何言ってんだあのオヤジ?!)


 ショックを受ける妹達に、兄は必死でフォローする。

 その傍ら、一人だけ意味がわかっていない新人は、小首を傾げていた。


(キャバ嬢って何でしょう? ――あ、AIさんご回答ありがとうございます)


 

 アンナブレイザーは、酔っ払いセクハラ発言親父をなんとか言いくるめ、自室へ帰っていくのを見守った。


「気にしないでね! あのセクハラ親父、普段からあんなんだから」


「どうしようもないヤツだな……」


「ごめんね凱さん、アイツ、いつか山に埋めてくるわ」


「それはいいけど、このままじゃ目立つし、ご近所にも迷惑だから、早く済ませましょう」


「いいの? 埋めちゃっていいの?!」


 アンナローグは、この世のモラルの在り方に疑念を抱いた。




 23時を回った頃。

 ようやく、トラックに荷物を載せ終えた。

 結局、家具の運搬はパラディンとローグ、ミスティックと凱が行い、残る二人は殆ど役立たずだった。

 

「二人も居れば充分だったね、アンナユニット」


「一番働いてない、あんたがそれ言うの」


「まーまー、今度ラーメンおごるから、許してよw」


「それ、絶対皮肉で言ってるでしょ!」


「そんなに怒るなってば。

 だってさー、埋め合わせったら何かおごるってのがセオリーじゃない?」


「そ、そうかもしれないけど、あんた、カロリー高いものばっか好きだから……その」


 ブレイザーとパラディンのコントめいた会話を眺めていたアンナローグは、パラディンの態度に、ちょっとだけ“カワイイ♪”と感じた。


「よっしゃ、みんな実装解除して、それぞれ車に乗ってくれ。撤収だ」


「「「「 はーい! 」」」」


 少女達の元気な声が返ってくる。

 凱は、「もうちょっと声を抑えてくれないかなあ?」と思った。




 実装を解除した五人は、それぞれナイトシェイドとトラックに分乗して、SVアークプレイスに帰還した。

 トラックからの積み下ろしと運搬は明日本格的に行うことにして、今夜は駐車場に置いておくことになった。


 車を降りた愛美は、ふと疑問を覚えた。


「さっきの引越しの時、アパートの傍を結構人が通ってたみたいですけど、良かったんでしょうか?」


 愛美の言う通り、作業中、アパートの前の道路を結構な人が行き来しており、車やバイクも通過した。

 明らかに、アパートの敷地内を見て行った人もいた筈だ。


「あ、それあたしも気になってたんだ。大丈夫なの?」


「今更それ言う?」


 呆れ顔で反応する凱に補足するように、ようやく私服に戻れて余裕が出たのか、舞衣が得意げに話し出した。


「その点なら、ご心配なく」


「何か対策をされたのですか?」


「はい、科学魔法です」


「えっ?」


 アンナウィザードの科学魔法の中に、「ハルシネーション」というものがある。

 これは、任意の場所に光学スクリーンを展開し、そこにアンナウィザードのAIが作成した擬似映像を投射することで、実際にはない光景を他者に見えることが出来る。

 アンナウィザードは、現場に到着する寸前にこれを始動し、アパートの周囲から敷地内を覗いても、自分達の姿が見えないように細工していたのだ。 


「えへへ、少しはお役に立てましたでしょうか?」


 ぺろっと舌を出しておどける舞衣に、愛美は感動し、ありさ達は感嘆の声を漏らした。


「素晴らしいです! さすがはアンナウィザード!」


「すっげぇ! そんなことしてたんだ!」


「舞衣が事前に考案してたんだよ。舞衣、良くやった。えらいぞ」


「お兄様……♪」


 凱に頭を撫でられた舞衣は、またも顔を紅潮させて、思わず彼の胸に顔を埋めた。

 胸板に頬ずりしながら、うっとりした表情を浮かべて陶酔する。

 二人の背景には、でっかなハートマークがぷかぷか浮かんでいた。


「もぉ、お姉ちゃん! わきまえなさいっ」


 恵が頬をパンパンに膨らませて怒る。

 その後ろでは、ようやく肩の荷が下りたといった表情で、未来が呆然と佇んでいた。


「じゃあ、私はこれで……」


 手を軽く上げて帰宅しようとする未来を、誰かが呼び止める。


「何言ってんの未来! あんたも行くの!」


「……へ?」


 力なく振り返る未来に、いまだに元気が衰える兆しのないありさが、ニヤリと微笑んでいた。


「打ち上げだよ、打ち上げ!

 ラーメン行くぞラーメン!」


「えええっ?! さっきの話、冗談じゃなかったの?!」


「ひえええ! 本当に行く気なんですかぁ?!」


「わぁーい♪ ラーメンやったぁ!」


「ラーメンは久しぶりなので、とても楽しみです♪」


 のけぞる未来と愛美をよそに、相模姉妹とありさは妙な盛り上がりを見せ、凱は呆けている。


「明日も手伝ってもらうんだから、今のうちに力つけておいてもらわないとねっ!」


「明日もこき使う気満々やんか……」


 変な盛り上がりを見せ始めた面々をよそに、凱は、頭を抱えた。



『マスター、最寄のオススメのラーメン店十選のデータをまとめましたので、転送します』


「ちょっと待て、誰もそんなの頼んでないぞ?!」


 突然のナイトシェイドの報告に、凱は慌てて返答した。

 だが――


『いえ、先程帰り道の最中に、舞衣様から指示を頂きまして』


「マイ――っ?!」


 夜のSVアークプレイスの駐車場。

 凱の、気の抜けた驚きの声が響き渡る。 




 結局、未来と愛美は「団体行動」という謎の束縛に巻き込まれ、ナイトシェイドに揺られて高カロリーの夜食に付き合わされる羽目となった。




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