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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
INTERMISSION-02
73/226

 第26話【引越】3/4


 凱がありさの部屋の鍵を開ける。

 まだ慣れないアンナブレイザーの力では、鍵をねじ切る危険もあるからだ。

 

「お邪魔しまー……うっわ」


 ドアを開けた凱の目に飛び込んできたのは、とても女の子の部屋とは思えないほどに散らかりまくった、無残な“一人暮らし”の光景だった。


「ブレイザー! せっかくあんなに掃除したのに、もうこんなに?!」


 プシュー、と湯気を吹きながら、アンナローグが“あの時の”表情になる。

 さすがにヤバイと思ったのか、アンナブレイザーは頭を掻きながら陳謝した。


「ご、ごめ~ん……つい。アハハハ……」


「どうしよっか、まずお掃除からするぅ?」


 腰に手を当ててちょっと困った顔をするアンナミスティックに、アンナパラディンが応える。


「待ってミスティック。

 ひとまずゴミ袋は脇に避けて、動線を作りましょう」


「うん、わかったー」


「ウィザードは、部屋の中で小物をまとめてちょうだい。

 そうすれば……見られないでしょ?」


「は、はい! わかりました!」


 アンナパラディンの提案に、思わず笑顔で元気に応えてしまったウィザードは、ミスティックに口を押さえられた。


 アンナセイヴァーの五人は、全員「フォトンドライブ」という反重力浮遊装置により、ごく僅かながら浮かんでいる状態にある。

 これの影響で、それぞれ2~3トンもある重量は実質ゼロになり、床を踏み抜くことはない。

 アンナブレイザーの指示を受け、アンナローグはテーブルやテレビなどの家具を運び出す。

 それを、部屋の外で待っているミスティックが受け、階下で待機する凱とパラディンに渡す。

 二人は、それを次々にトラックに乗せていくという、所謂バケツリレー方式だ。

 アンナウィザードは、食器棚や本棚、ワードローブから内容物を取り出し、それを丁寧に梱包し、ダンボールに詰めていく。

 その様子を見て、アンナブレイザーは口笛を吹いた。


「何かありましたか?」


「いやぁ、なんか、凄く似合ってるなあと思って」


「似合ってる、ですか?」


「なんつーのかな、そのお皿片付けてる仕草が綺麗っちゅうか、色っぽいっちゅうか。

 いいとこの若奥様って雰囲気出ててさー」


「わ、若奥様!」


 ボンっ! と音がして、ウィザードの顔が瞬時に赤熱化した。


「舞衣って、いい奥さんになれそうだよねー」


「そ、そそそ、そんな!

 あ、ありがとう……ございます……」


 真紅に染まったアンナウィザードの手が、完全に止まってしまう。

 本棚に押し込まれていた漫画本をまとめながら、アンナブレイザーはそんな彼女をニヤニヤしながら眺めていた。


「あれ? この本、3巻が抜けてる」


「どうされたのですか?」


「いんやぁ、この本、てっきり全巻揃えてたつもりだったんだけど、買い忘れてたのかなあって」


「これ、“二人はブルジョワ”の単行本じゃないですか!

 ブレイザー、お好きなんですか? “ブルジョワ”シリーズ」


 アンナウィザードが、突然、目をキラキラさせながら飛びついて来た。


「おっ、もしかしてあんたも?」


「はい、私はテレビから入って、後から原作を知ったのですが」


「そうなんだ! これ面白いよねー。

 あたしはね、これと、続編の“二人はブルジョワ・ナックルパート”と、“スプラッタ・ホラー”が好きでさー」


「ああ、判ります!

 あんまり人気ないって言われてますけど、面白いですよねスプラッタ・ホラー!」


「そうそう! あたしさ、主人公達が別なタイプのブルジョワになるのがツボでさー!」


「同感です!

 あと私は、その後の“Yes!ブルジョワ皆無”も好きでして」


「ブルジョワ皆無! いいよねアレ!

 5人編成ってのが、親近感湧くしね。

 続編の“Yes!ブルジョワ皆無同様”のせいで、忘れられがちになってるけどさ」


「そうですよね! そうですよね!

 後のブルジョワ大集合シリーズでも、もっとこう、しっかり触れて欲しいんですが――」


「お姉ちゃん達、何やってるのー?」


 弾む会話は、突然のアンナミスティックの乱入で遮られた。

 




 アンナブレイザーとアンナウィザードが、新しい本やDVD、ブルーレイを見つけ出す度に、趣味の話で盛り上がるため、遅々として進まない梱包も、痺れを切らしたアンナローグとアンナミスティックの補助で、何とか終わりが見えてきた。

 本や衣類、食器や雑貨はあらかたダンボールに詰め込まれ、一旦アパートの庭に置かれた。

 ごみ出しも終了し、掃除機がけは明日以降に持ち越しとし、いよいよ大型家具運搬の段取りとなった。


 時刻は既に22時を過ぎており、ローグ、ウィザード、ミスティックはあくびが出始めている。

 それを見た凱は、「アンナユニット実装してても、あくびで涙出るんだ……」と、衝撃の事実に驚愕していた。


「ねーねー、結構頑張ったし、そろそろ一旦休憩しなーい?」


 アンナブレイザーが、あくび混じりで提案してきた。


「何言ってるのよ、ただでさえこんなに遅くなってるのに」


「そうですよ、アンナユニット実装してても、してなくても、大して変わりなかった感じですよ?」


 異論を唱えるアンナパラディンとアンナローグに、ブレイザーは笑顔が硬直する。


「あ、あはは……でもさ、お腹空いてこない? こんな時間になると」


「え、ええまあ、言われてみれば確かに」


「何言ってるのよ! 午後8時以降に食事なんて、考えられないわ」


「はいはい、なかなか成功しない努力家のダイエットオタクは、ちょっと黙っててね~」


「ぬぐっ」


 自分の身体と、スマートなブレイザーの体格を見比べて、アンナパラディンは歯軋りして悔しがる。

 それを見つめていたアンナローグは、不思議そうにウィザードに尋ねた。


「あの、未来さんて、最近その、キャラクターが変わって来ていませんか?」


「実は、私もそう思い始めていたんです」


「ありさちゃんが仲間になってから、ちょっと吹っ切れた感じになったよね」


「個人的には、昔の未来にちょっと戻った感じかなあ」


 いつの間にか横に並んだアンナミスティックと凱が、コメントを差し挟む。

 四人は、腕を組んで揃ってウンウンと頷いた。



「つーわけで、ラーメン食いに行こうよみんな!

 この近くに、美味しいラーメン屋さんが」


 話の脈絡をぶった切り、アンナブレイザーがとんでもない提案をする。


「ヒィッ! ら、ラーメン怖いですぅ!!」


「えっ?! ラーメンですか?」


「わぁーい! 行きたい行きた~い☆」


 怯えるローグに、意外と食い付いてくるウィザードとミスティック。

 そして、それを見て頭を抱える育ての兄。


「あ、あのさ、ちょっと」


「そんなに遠くないとこだからさ、このまま行っちゃう?」


「え? こ、この格好のままでですか?!」


「そ、それはちょっと……恥ずかしいです……」


「私は全然いいけどぉ、アンナユニットって、そのままご飯食べられるの?」


「あ、そうか! あたしら重機に乗ってるようなもんだったっけ。

 あんまり軽いから、すっかり忘れてたよ」

 

 オレンジ色の約一名を除き、四人のカラフルメイド達は、なんだかんだで話に花を咲かせ始める。

 だがその中に入らないアンナパラディンは、黙々と大物家具の運び出しに精を出していた。


「あ、未来! 俺も手伝うよ!」


「お構いなく、凱さん。

 全然重くありませんから」


「あ、そか。そうだよね……」


 普通なら、大の男が二人がかりでようやく運べそうな木製の洋服ダンスを、軽々と持ち運ぶ。

 しかし足元が見えないので、階段はホバー移動で飛び降りた。

 着地した途端、アパートの入り口の辺りで、奇声が上がった。

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