第26話【引越】2/4
共用ミーティングルームとされている部屋へ移動した三人は、リビングでくつろぐ事にした。
会話の切り出しは、ありさだ。
「アンナユニットってさあ、すっごいパワー出せるじゃん?
あんなでっかいXENOを吹っ飛ばせるくらいなんだから」
「その力で、ありささんのアパートの荷物を運び出そうというお話なんですよー」
「あの格好で? あなた達、正気?」
「いいじゃん、はたから見たらただのコスプレだよ?
“メイドさんがやる引越しサービス”みたいなのを偽装すればさあ」
「箪笥やベッドを一人で持ち運ぶメイドなんか見たら、普通の人は腰抜かすわよ」
「あ、うち布団だから大丈夫!」
「そこ!」
ANX-05B「アンナブレイザー」の正式なパイロットとなり、アンナセイヴァーに加わった石川ありさは、先のような事情でSVアークプレイスの物件の一部を専用の宿舎として与えられた。
その為、今まで住んでいたオンボロアパートから越して来なければならなくなったのだ。
「いやぁ、それにしても、まさかこんな高級マンションに住めるようになるなんてねぇ♪
しかも、家賃とかないんだよ?
ああ~、長生きってするもんだわ♪」
「ありささん、まだ18歳だった筈では?」
能天気なありさの態度に、未来の眉間がピクリと反応する。
「それを、今から? 午前中に、堂々と?」
「ダメかな」
「ダメですかね」
「ダメに決まってるでしょ!
むやみにアンナユニットを人前に晒したら、混乱が起きるわ」
「そうかなー。
ちょいエロコス風味の女の子達が集まってるだけだしー」
「エロコスって」
「まあ、未来が恥らうのはわかるけどね!
あ、そうだ!
その恥じらいを払拭するためにも、どばーんとだな」
「却下!」
その後も、あーでもないこーでもないと、やたら回り道な交渉が続けられる。
結局未来が折れる形になり、アンナセイヴァー全員で手伝うことに決まってしまった。
凱が引越し用トラックを用意し、積み下ろしは各アンナユニットで行うことにした。
人目を少しでも避けるため、実行時間は夜。
あの極端に短いスカートに、付け根付近まで露出した両脚と、胸周りを強調したブラウスを思い浮かべ、未来jは改めて身震いする。
「トホホ……私、今日の運勢最悪かも……」
「未来さん、元気出してください」
そう言いながら、アンナローグは紅茶を準備してくれる。
器用に紅茶を淹れる動作を見つめながら、未来は感嘆の声を漏らす。
「ねえ、まな……ローグ?」
「はい、なんでしょう?」
「その格好で、特に問題ないの?」
「ええ、特にこれといった問題はありませんよ。
あ、そうそう!
私、ちゃんと卵を綺麗に割ることが出来るようになりました!」
そう言いながら、アンナローグは卵を割る真似をしてみせる。
それが両手で同時に割る仕草だったので、未来は目を剥いた。
「意外に器用なのね……」
「あは♪ ありがとうございます!」
アンナローグが淹れてくれた紅茶を、一口すすった未来は、驚きの声を上げた。
「すごく、美味しい……」
「ありがとうございます! 大変光栄です!」
「さすがは本職のハウスメイドね、驚いたわ」
「な、なんか照れちゃいます~」
顔を紅潮させて照れるアンナローグを見て、ありさは、何故か得意げに語り出す。
「でっしょ~?
愛美がうちに泊まってた時、あたしもご馳走してもらったんだ~」
「だから何よ」
「え? だ、だから……えっと」
「あの、と、とりあえず、紅茶のお代わりもありますので、お申し付けくださいね!」
唐突に険悪になる二人の間の空気に耐えられなかったのか、アンナローグはそう言い残すと、ささっとキッチンの方へホバー移動していった。
その日の夜。
凱は、中型トラックを運転してありさのアパートに辿り着いた。
日中のうちに、アパートの大家には話をつけてある。
しばらくすると、無人のナイトシェイドもやって来た。
『お待たせいたしました』
「よぉ、五人はどうだ?」
『全員実装を行いました。
もうまもなく、こちらに到着すると思われます』
「そうか。
じゃあ俺は、お前の中で待機するわ」
『了解――ですが、そのまま待たれた方が、皆様が気付き易いのでは?』
「ああ、それは」
空を飛んでくるということは、あのミニスカメイド軍団のスカートの中身が、丸見えになるということだ。
それを優雅に眺めていたら、後々の人間関係に悪影響が及びかねないと、凱は考えていた。
……が、面倒なのでナイトシェイドへの説明は省く。
しばらくすると、五色の光のラインが夜空に現れた。
優雅に夜空から降りて来た五人は、ゆっくりと着地すると、周囲をきょろきょろ見回した。
幸い、この時間は出歩いている人も少ない為、目立つことはなかったようだ。
「お疲れ、みんな」
タイミングを見計らって、凱が姿を現す。
その途端、アンナウィザードは顔を真っ赤にしてアンナミスティックの背後に隠れてしまった。
そしてアンナパラディンも、態度こそ堂々とはしているが、やはり顔が赤い。
凱は、アンナユニットを実装しても赤面しているのがわかるもんなのか、と、おかしな所で感心した。
「凱さん、鍵預かってくれてありがと!
よーし、じゃあとっととはじめましょー」
アンナブレイザーが、妙なハイテンションで指揮を始める。
「はーい!がんばりまーす♪」
こちらもハイテンションなアンナミスティック。
「よろしくお願いします!」
何故か深々と頭を下げるアンナローグ。
「二階の玄関から放り投げて、それをキャッチして積んで、でいいわよね?」
投げやりな態度のアンナパラディン。
「に、二階なんですか……やだ、降りる時、見えちゃう」
相変わらず、ミスティックの後ろから動けないアンナウィザード。
「と、とりあえず、騒ぐと周りの人達が見に来るからな。
静かにやろう、静かに」
「はーい!」
満面の笑顔で、元気に返事をするアンナミスティックは、その直後にウィザードに口を押さえられた。




