表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第3章 第四・第五のアンナユニット編
67/226

 第24話【炎雷】3/3

 アンナパラディンの横に並ぶと、ANX-05B“アンナブレイザー”は、ドヤ顔で相棒を見つめた。


「へぇ、なんだ。

 思ってたより、全然あっさりじゃん」


「油断しないで、ブレイザー。

 “コア”を見つけて破壊しない限り、XENOは死なないわ」


「えぇ~、頭狙っても意味ねぇってかよ!

 最初に言ってくれって、そういうの」


「そんな暇、なかったじゃない」


「あんたが要領悪いだけだろ?」


「じゃあ明日、講習会を開いてあげるわ。

 ノート持参で参加しなさい」


「へっ、あたしは実践で覚えるから、いらねーよ!」


 ドン! と凄まじい音を立て、アンナブレイザーは右拳を左手に叩きつける。

 まるでそれを合図にしたかのように、頭を失ったワーベアは起き上がった。

 立ち上がったのとほぼ同時に、胴体の中から黒い塊がせり上がり、あっという間に頭部を復元してしまった。


「うわぁ、なんだコイツ、グロいなあ」


 素直な感想が述べられる。

 ワーベアは、まだ視点の定まらない眼をぎらつかせながら、尚も猛烈な勢いでダッシュしてきた。

 それを寸前でかわした二人は、ホバーで後方に移動し、更に距離を取る。

 アンナパラディンは、腰から伸びている三本のリボンの一つを手に取り、外した。


「ホイール・ブレードっ!」


 掛け声と共に、リボンが光を放ち変形する。


 黒鉄色の柄と、刃渡り150センチはあろうかという二枚の刀身。

 そして、それを繋ぐ位置にある、直径10センチ程の特徴的なホイール。

 その中心部が赤く発光するのと同時に、ホイールが高速回転を始めた。

 二枚の刃が微振動を起こし、ぼんやりと光を放ち始める。


 それを頭上で大きく振り回すと、アンナパラディンは、姿勢をやや落とし、ワーベアへと突き進んだ。

 大剣が振り下ろされる!


「とぉっ!」


 アンナパラディンの剣は、ワーベアの巨大な左手に、あっさり受け止められた。

 しかし、その途端刃の振動が、爪ごと手を粉々に破砕する。

 刃は、そのまま前腕、上腕を切り裂いていった。


 ホイールブレードは、ワーベアの左腕を付け根まで一瞬で粉砕する。

 そのまま剣を再度振り上げると、アンナパラディンは再度、左肩から袈裟懸けに斬りつける。


「たっ!」


 唸りを上げるホイールの振動により、刃に触れた肉体の部分が、連爆を起こすように爆ぜていった。


「おおっ、すげぇ!」


 後ろで、アンナブレイザーが感想を漏らす。

 だが、大剣の動きは途中で不自然に止まった。


「!」


 呻き声を上げながらも、姿勢を戻すワーベア。

 なんと、剣が斬り進んでいく端から治癒が進み、肩の傷を塞いでしまったのだ。

 更には左腕まで復元し、アンナパラディンは、武器をワーベアの身体に押さえ込まれた形となった。


「未来!」


 状況に気付いたアンナブレイザーが、援護に入る。

 その時、構えた右手の方から、何かがカチリと嵌る音が聞こえた。


 アンナブレイザーの右拳から、真っ赤な炎が噴き上がる。


「でやぁっ!」


 気合と共に、真っ直ぐ撃ち込まれるパンチは、まるで火球の如き迫力だ。

 しかし、ワーベアは反応することなく、その攻撃を背中で受け止める。

 拳は僅かにめり込みはしたものの、周囲の剛毛を焦がすだけで、大したダメージは与えていないようだ。

 次の瞬間、横殴りに飛んできた右手と爪が、アンナブレイザーに炸裂した。


「ぐあっ?!」


 金属の塊に高速で鉄球をぶつけたような音が響き、アンナブレイザーが吹っ飛ばされる。

 

「ありさ?!」


 思わず声を上げるアンナパラディンにも、同じく右の爪が襲い掛かった。

 だが――



「プリズマティック・イージス!」

 


 叫びと共に、アンナパラディンの左前腕のガントレットが光り輝く。

 と同時に、七色の光を放つ円形の「盾」が現れ、ワーベアの爪を弾き返した。

 怯んだ隙に、アンナパラディンはホイールブレードのグリップを握り直す。

 すると、剣は再びリボンに戻り、ワーベアの胴からするりと引き抜かれた。


「風よ!」


 アンナパラディンが、気合の声を放つ。

 すると、猛烈な突風が彼女の背後から吹き始め、ワーベアの巨体を軽々と吹き飛ばしてしまった。


「無事? ブレイザー」


『ああ、なんとかな!』


 通信に即答が返り、ふっと頬が緩む。

 しばらく後、前方の森の中から、一本の火柱が立ち上った。


「うりゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」


 激しい叫び声が響き、続けて重い打撃の連打音が聞こえてくる。

 暗闇の向こうから、再びワーベアが吹っ飛んできた。

 体中の至る所に火が点いており、それが徐々に燃え広がる。

 よろよろと立ち上がった巨体に向かって、彼方から、ジェット機のような音と共に、赤色の塊が飛んで来た。


「でやあっ!」


 炎の軌跡を描きながら、キックやパンチの連撃が襲い掛かる。

 滞空したままで、四回の打撃!

 締めの回転蹴りで、ワーベアの巨体はきりもみ状態で宙に舞い上がった。


「なんだコイツ、やっぱりみかけ倒しじゃねぇか」


「最後まで油断しちゃだめよ。

 このまま一気に畳み掛けるわ」


「オッケー了解!

 んでさ、必殺技って、どうやって出すん?」


 飄々とした態度で尋ねるアンナブレイザーに、アンナパラディンは目を丸くした。


「今日初めて起動したばかりのユニットのことなんか、いくらなんでもわからないわよ」


「んだよ、だっせーな!

 そーいうのは、あらかじめ調べといて教えてくんないとさー」


「だったら、あなたのユニットのAIに尋ね――」


 そこまで言った時、メキメキという激しい音と共に、ワーベアが再び立ち上がった。

 しかし、なんだか様子が変だ。

 なにやら、しきりに身体を震わせている。

 やがて、その震えは明らかに異常なレベルに達し、遂には身体のあちらこちらがぼこぼこと、不気味に膨らみ始めた。


「な、なんだコイツ?!」


「凱さん! 危険です、離脱してください!」


「お、おう!」


 アンナパラディンの呼びかけに応じ、今まで静かに状況を観察していた凱は、急いでコクピットに戻った。


 浮上するナイトウィングの真下では、全身が奇妙に膨れ上がり、先ほどまでの二、三倍程に膨張したワーベアの姿があった。

 その形状は、既に原型を留めてはいない。

 まるで、真っ黒な風船を無理やり押し固めたような、不定形な物体になっている。


 ぼこぼこ、ごぼごぼという耳障りな音が、益々大きくなっていく。


「どど、どうすりゃいいんだ?!

 なんか、めっちゃ気持ち悪いんだけど?!」


「迂闊な攻撃は禁物ね。

 ――蛭田博士、聞こえますか? 何か分析できそうですか?」


 アンナパラディンは、即座に地下迷宮ダンジョンに通信を繋ぐ。

 待ってましたとばかりに、間髪入れずに勇次の声が返ってきた。


『もしかしたら、XENOの体細胞がまだ固定化していないのかもしれん。

 だとしたら、用心しろ!

 そのXENOは、お前達の攻撃に備えて、更に変態する可能性がある!』

 

「なんですって……」


「おおいぃ! どんどんでかくなってるじゃん!」


 アンナブレイザーの言葉通り、ワーベアはどんどん膨張を続け、遂には十メートルほどの高さにまで大きくなった。

 それと同時に、不気味な膨らみは収縮を始め、形状が先程の体格に近づいてくる。


 呆然と見つめる二人の眼前で、ワーベアは、完全に元の体型を取り戻した。

 ――先程までの、三倍以上の高さだが。



 ゴオオオオォォォォォ!!


 大気を劈くような、激しい怒号。

 巨大化したワーベアは、両腕を振り上げて威嚇すると、その巨体に見合わないスピードで一気に距離を詰めてきた。

 反応が遅れた二人に、先程の十倍以上はあると思われる巨爪が、高速で叩きつけられた。


「うわぁっ?!」


「くっ!」


 咄嗟に後方にジャンプし、衝撃を軽減させるブレイザーに、先程発生させた光のシールドでなんとか防ぎ切るパラディン。

 再びホイールブレードを取り出すと、アンナパラディンは足元に光をまとい、ホバー移動でワーベアに突進した。

 それを追うように、アンナブレイザーも木を蹴り飛ばして反転、攻撃に移る。

 その連携ぶりは、まるで初めて共闘するとは思えない程だ。


「てりゃあっ!」

「とぉっ!」


 二人の攻撃が、巨大ワーベアの腹部に命中する。

 だが、相当強力な打撃にも関わらず、何のダメージにもなっていないようで、簡単にあしらわれる。

 その直後、下方向から、猛烈な勢いで蹴りが飛んで来た。


「ぐっ?!」


 その攻撃をまともに食らったアンナブレイザーは、そのまま真上に打ち上げられてしまった。


「ブレイザー!!」


 パラディンの声が、空しく響く。

 舞い散る木の葉のようにくるくると回転しながら、アンナブレイザーは放物線を描き、彼方へ飛ばされた。


「参ったわね……まさかこんなことになるなんて」


 胸元に垂れるカールされた髪を手で払いながら、アンナパラディンは尚も巨大ワーベアと対峙する。

 ホイールブレードのグリップを強く握ると、ふぅとため息を吐いた。





『大丈夫か、ありさちゃん?!』


 今川の声に、一瞬途切れた意識が回復する。

 アンナブレイザーは、何本もの木をなぎ倒し、地面に大穴を開けて倒れていた。


「あたた……な、なんとか大丈夫。

 ひええ、えらい攻撃食らったはずなのに、あんまりダメージないみたい!

 すごい!」


 自分の腕や脚を見て、全く問題がないことに歓喜する。

 しかし、今川の声にはかなりの焦りが感じられた。


『あのさ、ありさちゃん。

 君のそのアンナブレイザーはさ、実はまだ調整が完全に済んでないんだ』


「えっ! 何それ?!」


『まあ聞いてよ!

 調整は完了してないし、君のパーソナルデータとも関連付けを行ってない』


「今更そういうこと言う?!」


『だけど、ここまでの君の動きは驚異的だ!

 他の誰よりも、アンナユニットを上手く操っていると言っても間違いじゃないね!』


「え~? えへへ、それほどでも~♪」


 誰も居ない夜の森で、不気味に身体をくねらせる。

 そんなアンナブレイザーに、今川の声は、更に説明を続けた。


『そんな君なら、オレが作ったばっかりのプログラム、使いこなせるような気がするんだ。

 待ってて、今インストールするから』


 いきり立つ今川の様子に異様さを感じたブレイザーは、慌てて制止する。


「ちょ、ちょちょちょ!

 ちょっと待ってよ、あっきー!」


『君までその呼び方!』


「その、プログラムって何さ?!

 あたしが、いきなりそんな訳わからないの、使いこなせるわけが――」


 戸惑うアンナブレイザーの言葉を遮り、今川は、明らかにドヤ顔で唱えただろう元気な声を差し挟んだ。


『“Annihilation attack training program”。

 手っ取り早く言えば―― 必 殺 技 エ デ ィ タ だ!』   

 


「よっしゃ来いやあぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 アンナブレイザーの士気が、100ポイント上がった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ