表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第3章 第四・第五のアンナユニット編
63/226

 第23話【混戦】3/4


 一方、パワージグラットで異世界に移行したアンナローグ・ウィザード・ミスティックの三人は、二体のXENOとの戦闘を始めていた。



“Completeion of pilot's glottal certification.

I confirmed that it is not XENO.

Science Magic construction is ready.MAGIC-POD status is normal.

Execute science magic number M-001 "Magical-shot" from UNIT-LIBRARY.”

  

「マジカルショット!」


 アンナウィザードの詠唱と共に、彼女の傍に発生した光球から、無数の光の矢が射出される。

 ターゲットは、巨大ゴキブリ――後に「UC-04:ジャイアントローチ」と呼称される個体。

 ジャイアントローチは素早い動きでそれを回避しようとするが、光の矢は全弾自動追尾する。

 連発する炸裂音に混じり、金属が激しくこすれ合うような鳴き声が響いた。


「ローグ、手を貸してっ!」


「はいっ!」


 もう一方のムカデ型XENO――同じく、後に「UC-05;ジャイアントセンチピード」と呼ばれる個体は、みるみるうちに肥大化し、いつの間にか全長10メートル程の長さに膨れ上がった。

 上体を持ち上げ、無数の脚を伸ばして攻撃してくるが、アンナミスティックがこれを次々に弾いていく。

 マジカルロッドを巧みに操り、しかして防戦一本槍になっている状態を見て、アンナローグはアサルトダガーを構え、がら空きになった腹に思い切り飛び込んだ。


「や、やぁーっ!」


 ミスティックの側面から、一気に腹部を刺し貫く。

 と同時に、突き立った刃が展開し、内部から光の粒子が噴霧される。


 ギャアアアァァァァ!!


 鋭い悲鳴が、上方から響く。

 光に包まれた胴節はみるみるうちに溶解し始めるが、次の瞬間、想像もしていなかった事態が起きた。


 ぶちっ



「えっ?」


 ジャイアントセンチピードの上体が、もげた。

 どさり、と大きな音を立てて落下し、続けて、アンナローグが刺している胴節部分の下も、同様にポロリと外れてしまった。

 いわばアンナローグは、巨大ムカデの胴節の一つだけを持った状態になっている。


「な、何これぇ?」


 異様な状況に、アンナミスティックも動きを止める。

 やがて、上体部分がぶるぶると大きく振るえ出し、切り口から、猛烈な勢いで「胴体」が伸び始めた。

 同時に、頭を失った方の胴体からも、上体と頭部が生える。


 ジャイアントセンチピードは、あっという間に、二体に分裂してしまったのだ。


 じゅわじゅわ音を立てながら溶けていく胴節を持ったまま、アンナローグは、ただその様子を呆然と見ているしかなかった。


「危ない、ローグ!」


「えっ――きゃあっ?!」


 ブシュッ、という気味の悪い噴射音と共に、紫色の液体が吹き掛けられた。

 顔にまともにかかったため、視界が一瞬封じられる。

 その直後、間髪入れずに、ジャイアントセンチピードがもたれかかってきた。


「ひえっ?!」


「ローグ!」


 慌てて救出に向かうアンナミスティックの脚に、もう一体のジャイアントセンチピードの脚が絡みつく。

 転倒こそしなかったが、出鼻をくじかれ、大きく体勢を崩してしまった。


「しまっ……」


 次の瞬間、ジャイアントセンチピードは大きく振り回した身体を、横殴りに叩きつけてきた。

 アンナミスティックは、そのまま廃墟の壁を突き破って吹っ飛ばされてしまった。


「きゃあ――っ!」


 何かが破壊されていく音が、連続で聞こえてくる。


「ミスティックっ!」


 ブラウスの胸元をはだけると、アンナウィザードは、胸の谷間からカートリッジを取り出した。

 それを、右上腕に嵌められた腕輪の溝に、差し込む。


“Water-cartridge has been connected to the MAGIC-POD.”


 アンナウィザードの青い部分が、ほんの一瞬、鮮やかな水色に染まった。


“Execute science magic number M-027 "Jet-deruge" from UNIT-LIBRARY.”


 科学魔法の詠唱と共に、アンナウィザードは、右人差し指の爪にそっとキスをする。

 その途端、爪の色が濃い紺色に変化した。

 左手でVサインを作ると、指の間を左目で覗くように構える。

 人差し指と中指の間に空間投影型のモニタが表示され、照準が作成された。


「ジェット・デルーグ!」


 アンナウィザードの右人差し指の先から、レーザーのような“水流”が射出される。

 一直線に空間を切り裂く超高圧水流が、ジャイアントセンチピードのボディを捕らえた。

 腕の動きに合わせて動く水流は、まるでメスのように、容赦なく切断する。

 ジャイアントセンチピードの頭部を捉えた水流は、そのまま縦にスライドし、真っ二つに切り裂いた。

 身体の半分ほどの長さを分断された「後半」のジャイアントセンチピードは、あっという間に身体を崩壊させ始めた。


 しかし、もう一体はいまだ健在だ。


「ど、どいてください!」


 手の中でクルクルとダガーを回転させると、アンナローグは刃をジャイアントセンチピードの側面に突き立てた。

 再び刃が展開するが、それより速く、またも上下の節で身体が千切れ、分裂してしまった。


「ええっ?! またぁ?」


 覆い被さっていた巨体が退けられた形になり、ようやく起き上がれたアンナローグの背後から、何かが突然体当たりをかます。

 

「きゃあっ?!」


 アンナローグはそのまま前のめりに倒れ、庭の石床の一部を派手にぶち割ってしまった。


「あたたた……って、アレ、痛くない」


 背後から聞こえる、金属の擦れ合うような鳴き声。

 なんと、マジカルショットを受けた筈のジャイアントローチは、まだ健在だった。


「ひえっ?!」


「これじゃ、きりがありませんね」


「ど、どうしましょう、ま……ウィザード?」


「ひとまず、あのゴ……から対処しましょう。

 ムカデの方は、ミスティックが戻ってから」


「は、はい!」


 背中合わせで、アンナローグとウィザードが構える。

 ブラウスの胸元をはだけると、ウィザードは、胸の谷間から更に黄色のカートリッジを取り出した。

 背中越しにその様子を見たローグは、思わず自分の胸と交互に見比べた。


「どどど、どうなっているんですか、それ?」


「実は、私もよくわかってないんです」


「えぇ?」


 黄色のカートリッジを腕輪に差し込むと、また一瞬だけ、アンナウィザードが黄色に変色した。


“Thunder-cartridge has been connected to the MAGIC-POD.”


 続けて、右太もものリングを外し、2メートルほどの長さの杖に変形させる。


「ウィザード・ロッド!」


 アンナウィザードの呼称に反応するように、なんと杖はひとりでに滞空し、何もないところで直立、静止した。


「ひえっ?! お、お化けですか?!」


 アンナローグの驚きには反応せず、アンナウィザードは科学魔法詠唱の体勢を取った。


“Execute science magic number M-031 "Plasma-ball" from UNIT-LIBRARY.”

 

「プラズマ・ボール!」


 両腕をX字型に交差させ、手の甲の間に、青白く輝く光の玉を発生させる。

 時折、バチバチと激しい音を立てる光球が、20センチくらいの大きさになると、ウィザードはそれを手で押すような動作で、そっとジャイアントローチの方に押しやった。

 光球は、ゆっくりとジャイアントローチに接近していく。


「あの球は何ですか?」


「それに決して触らないでください! アンナユニットでも破壊されかねません!」


「えぇっ?!」


 再び腕を交差状態に戻すと、アンナウィザードは目を閉じ、そのまま静止した。


『ローグ! 今、ウィザードは動けないから、XENOの動きに注意してね!』


「えっ?! メグさ……じゃなくてミスティック?!」


 突然、アンナミスティックの通信が飛び込む。

 と同時に、廃墟の方からドカンという破裂音と共に、マジカルロッドを構えたグリーンのコスチュームが見えた。


「じゃーん! アンナミスティック復活だよーっ!」


「ミスティック! 大丈夫で……すね」


「うん! これくらいじゃあびくともしないよ!」


 えっへん! と胸を張るその健気な姿に、「さっき吹っ飛ばされたじゃないですか!」というローグの突っ込み台詞は、引っ込んでしまった。


 二体のジャイアントセンチピードには、アンナローグとミスティックが。

 そしてジャイアントローチには、アンナウィザードが対峙する。


 様子を窺うように止まっていたXENOで、最初に動いたのはジャイアントローチだった。

 素早い動きでアンナウィザードに襲い掛かろうとするが、そこに、側面から光の球が急接近して来た。


 先ほどまでゆっくり滞空していた球が、まるで意志を持ったかのように、一気に急降下してきたのだ。

 ジャイアントローチの身体に接触した瞬間、周囲が一瞬真昼になったかのような、激しいスパークと破裂音が発生する。


 アンナウィザードが科学魔法で生み出したのは、「球電」と呼ばれる、現実でも存在する特殊放電現象。

 球型の「雷」は常軌を逸したエネルギーを内包したまま地上を移動し、触れたものを瞬時に焼き尽くす恐るべき存在となる。

 アンナウィザードは、それを遠隔操作で操っていたのだ。


「わぁっ?!」

「きゃあっ?!」


 その衝撃は、ローグとミスティックも一瞬怯むほどだった。

 光球は、接触した地点の半径十メートルほどを真っ黒に焼き尽くし、ジャイアントローチの身体も、五分の三ほどを焼失させてしまった。

 そこに、更なる攻撃が加わる。

 なんと、滞空していた杖「ウィザードロッド」の先端から、先ほどアンナウィザードが放った「マジカルショット」と同じ光弾が放たれ、残ったジャイアントローチの身体に全弾命中した。

 激しい爆発音と共に、ジャイアントローチの身体は粉々に吹き飛んだ。

 その場には、巨大な眼球のような部位が残留し、やがて、溶けた。


「すご……一瞬で」


「こっちも行くよ、ローグ!」


「はい!」


 アンナミスティックの掛け声で、二人は一斉に飛び出した。

 まだ状況が良く呑み込めていなかったが、今はとにかく、このXENOの動きを止めることに集中するしかない。

 難しいことは後回しにする精神で、アンナローグは、前方に翳したアサルトダガーをぐっと握り締めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ