第22話【監禁】2/3
「――やっぱり、トレインの予想通りになっちゃった」
突如、廃墟の中に黒いフードをはおった少女が現れた。
まるで、どこかからテレポートでもして来たかのように、唐突に。
粘液体に全身を覆われ、声もなく不気味に蠢き始めた五人の男達に向かって、黒フードの少女は呆れ顔を向けた。
「さて、と。じゃあ、まあ適当にっと」
少女は、床に落ちている札束の入った袋を指差す。
すると、それは空中に浮かび上がり、ふわふわ漂って少女の手の中に落ちた。
続けて、部屋の隅の暗闇にも手を向ける。
しばらくすると、何匹かの小動物が浮かび上がり、男達の方へと飛んでいった。
「――もしもし、ああ、あたしぃ。
アンタの思った通りだったわ。――うん、そうそう。
ちゃんとお金も回収したったわ。
じゃあ、さっきの段取り通りで、そこらの虫食わしときゃいいよねぇ」
懐から取り出した、折りたたみ式の携帯電話で、少女は誰かと通話した。
何か納得したような態度で携帯を閉じると、少女は満足そうな笑みを浮かべて、ふっと姿を消した。
彼女が、男達に襲われるような様子は、一切なかった。
階下から叫び声のようなものが聞こえ、ありさは思わず倒れそうになった。
(な、なんだ?!)
声は直ぐに治まったが、今度は不気味な静寂が訪れる。
そもそも、四人は居る筈なのに、一人の声しか聞こえてこないのも不自然だ。
ありさの勘が、想像以上にヤバイことが起きていると警告する。
(階段を使うのは無謀だ。別な手段で脱出しなきゃ。
でも、この状態でどうやって?!)
何かないか、何か脱出の助けになるものはないか。
ありさは、必死で自分の身の回りを確認した。
しかし、部屋の中は何処まで行ってもがらくたしかない。
それどころか、中は相当荒らされているため、下手すると再度の転倒の危険すらあるのだ。
階段の反対側に退避したありさは、唯一外に通じる窓に、救いを求めたが――
「ぬ……うぐ、く、くそぉおっ!」
窓の鍵を口で開けようとしたが、身長が足りず届かない。
背伸びしても無理なので、いよいよジャンプするしかなくなったが。
(いや、ここでしくじって倒れたら元も子もない。
どうする、スマホが使えるか?!)
身をよじってポケットの中の感触を確認するが、やはりスマホは盗られているようだ。
万事休す。
そう思っていた時、下の方から、何か大きな物音がした。
(コイツはヤバいな、もう一人だとどうしようもないか……
くっそ、こんな時に、未来みたいにアンナユニットが装着出来たら――)
そこまで思い返し、ありさは、自分がまだサークレットを着けたままだったことを思い出した。
(そうか! これだ! これがあった!!)
ありさは、未来がアンナユニットを装着した時のことを、必死で思い返した。
(えっと、確か、なんか「変身!」みたいなこと、言ってなかったっけな?)
「へ、変身!」
ブレスレットは、反応しない。
上手く行けば、展開するはずなのだが。
「ちゃ、着化! ブラスアップ! 実装! 重甲! 超重甲! 超変身! くぁ~、ダメかぁ!!」
しばらくすると、何やら階下がざわつき始めているような気配がして来た。
ありさの焦りが、徐々にピークに近付く。
「影よ、影よ~、俺に代わって悪を追え~! アノクタラサンミャクサンボダ……
違う、もっとこう、短かった!
って、あ~! なんでこういう時に、そういう変なのしか浮かばないんだぁ!」
みし、みし……と、重たいものが木の床をゆっくり踏みつけるような音が、何処かから響いてくる。
もはや、猶予はない。
必死で記憶を辿り、あの時、公園であった事を順番に思い出した。
愛美との会話、未来との言い争い。
そして、途中で起きたXENO騒動。
その時の会話を、必死で思い出す。
『何してんだ! 早く逃げるぞ!』
『で、でも!未来さんがぁ!』
『侮らないで』
XENOが現れたにも関わらず、冷静に対処した未来の態度。
そう、あの時の呟きは――
「コード・シフトっ!」
記憶が、繋がる。
ようやく思い出せた、サークレットの起動コードを詠唱する。
背後で、カチリ、という音がして、待機音が鳴り響いた。
「あ、あれ?
その後……なんだったっけ?」
この後に、実装を行う為のもう一つのボイスコードがある。
そこまでは思い出せるのだが、具体的に何と言ったかまでは、思い出せない。
(あ、こりゃどっちみち、あたし詰んだかも……?)
階段の方から、誰かが上がってくるのを見て、ありさは覚悟を決めた。
「蛭田リーダー、ANX-05Bの起動コードが確認されましたが」
「何? 何処でだ?」
「あきるの市です。秋川渓谷の付近から反応が出ています。
パーソナルユニットからの情報を確認。
信号発信者は、石川ありささんです」
「あきるの?! どうしてそんな所に――」
たまたま地下迷宮に残っていた勇次は、先程交代で入ってきた女性オペレーターの報告を受け、即座に凱に連絡を取った。
『なんだぁ、こんな時間に?』
少し眠たそうな声で反応する凱に、勇次は極力冷静を保ち、伝えた。
「あきるの市、秋川渓谷。石川ありさの起動コード信号を確認した。
位置情報を送るから、大至急、四人を向かわせて欲しい」
『――わかった。
勇次、ナイトウィングをこちらに向かわせてくれ』
「承知した。ナイトシェイドに誘導させる」
異常事態を察し、余計な問答をせず、即座に行動に移る。
凱の対応力の早さに感心しながらも、勇次は不安を隠し切れなかった。
「松代、ANX-05Bのスタンバイ状況は?」
「しばらくお待ちください。
――確認終了、まだ起動出来る状態にありません」
「そうか。
よし、今川を呼び出してみる」
勇次は、今川に呼びかけるため、素早く通信を繋いだ。




