●第21話【意志】1/3
ミーティングルームでの一時間以上に及ぶやりとりの末、愛美とありさは、勇次・今川・相模姉妹とそれなりに会話が弾むようになった。
だが、ありさの抱く疑問は全て晴れたわけではない。
XENOという危険な生命体と、その暗躍を知ってしまった以上、それと闘わされる者達が危険に晒される。
それを容認して、あまつさえ戦闘を強要する“SAVE.”という組織に対する疑念は、未だに残っている。
また愛美も、未来の本意を知りたいという気持ちは拭えずに居た。
彼女と話すことで、XENOとの闘いにおける自身の考え方が、変わるような気がしたのだ。
同時に、一度は拒絶したXENOとの闘いに対しての認識も、少しずつ変化し始めていることに、本人は気付いていなかった。
「ねーねー、ありささーん」
「何? えっとメグ、だっけ?」
「うん♪
あのねぇ、メグ、やっぱりありささんとお友達になりたいのぉ。
ねえ、ありさ“ちゃん”って呼んでもいい?」
「な、何だよそれ!」
「だぁーってぇ、さん付けだと、なんかよそよそしくって、お友達って感じがしないんだもーん」
「ったく、わーったわーった、好きにしな」
「やったー! じゃあ、今からありさちゃんって呼ぶね!
あ~りさちゃん♪」
そう言うと、恵は席を移動して、ありさの横に座った。
彼女の腕に両手を絡ませ、まるで甘えるように身を寄せた。
「な、な、何なんだこの子はぁ?!」
「えへへ☆ にゃあにゃあ♪」
「申し訳ありません、メグちゃんは、誰とでも仲良くなりたがる子なんです」
「よ、幼稚園児並の積極性?!」
「メグちゃんは、元からそういう娘だから!」
「それで説明済んじゃうの?!」
舞衣と今川が、フォローになってないフォローを放つ。
困り顔ながらも恵を引き剥がせないありさを見て、愛美はクスクス微笑んだ。
「お前達、これから少し移動をして欲しい。
地下迷宮へ向かう」
突然、勇次が立ち上がり皆に告げる。
その言葉に、全員の視線が勇次とありさの間を行き来した。
「あの、ありささん、問題ないのでしょうか?」
「大丈夫なの?」
「石川ありさ。
お前は先程、愛美と向ヶ丘を逢わせる為に付き添ったと言ったな」
「ああ、そうだよ」
「ならば、これから行く場所を見ておくといい。
その方が、向ヶ丘と愛美の話にも理解が及び易い筈だ」
「なんだかわかんないけど、あたしにも深淵を覗けって事か?」
「その通りだ。
XENOと遭遇した時点で、もう運命は変わったと思った方がいい」
「へぇ、面白そうじゃん。
いいよ、付き合ってやるさ」
まるで喧嘩上等な雰囲気で、勇次に反応する。
そのやるとりを見守っていた愛美と相模姉妹は、どこか不安そうな表情だ。
「だ、大丈夫でしょうか。なんだか不安です」
「ありさちゃん、アンナユニットに興味持ってたみたいだから、見たいってのもあるんじゃない?」
「だといいのですが……」
美神戦隊アンナセイヴァー
第21話 【意志】
エレベーターからの移動で、勇次達六人は、早速地下迷宮へ移動した。
「うわおぉぉぉぉぉおおおおお!! 何これナニコレぇ♪
すっげえぇぇぇぇ!! これ、映画のセットですか?! ねぇ、セット?!」
「落ち着いてください、ありささん!
ここは、私達“SAVE.”の本拠地になります」
舞衣の説明も、絶賛興奮状態の猛獣の耳には届かない。
「うええええええ! マンションの地下に、こんな巨大要塞とか!
こんなん、男の魂揺さぶられまくりじゃん! ヤバいじゃん!!」
「ありささんは、女性じゃないですか」
「何言ってんだ愛美!
たとえ女でも、心に男の魂は宿るものなんだ」
鼻息をフンス! と吹かしながら、何故か胸を張る。
愛美には到底理解出来ない論理だったが、その発言に、意外な人物が反応した。
「それ、わかります!
熱き魂と正義の血潮が漲れば、そこに性別なんか関係ないんですよね!」
「おぉ?! なんだ、あんた意外に話せるね!」
呼応したのは、まさかのまさかだった。
相模舞衣。
こちらも、鼻息をフンスフンスさせ、目に星がキラキラ煌いている。
「人知を超えたスーパーメカ! そしてロボット! 操縦!
そして、基地!
こんなん見せられたら、嫌でも燃えるってもんだわさ!」
「そうなんですよ、そうなんですよ!
戦士が操縦するメカが変形、合体して、巨大な姿になって悪を討つ!
これが、これこそが! 真理です!
ああ、嬉しい! この想いを共有してくださる方が、こんなお傍におられるなんて!
私、感激しています!」
「おお、心の友よっっ!」
「ありささんっ!!」
ありさと舞衣は、熱い握手を「ガシッ!」という効果音付きで交わした。
「ま、舞衣……さん?」
「あっちゃ~、お姉ちゃんの悪い病気また出たぁ」
「ハハ……最近は発作出てなかったけど、やっぱ相変わらずだなぁ……ハハハ」
呆れた目で見つめる恵と今川、そしてきょとんとする愛美。
一番先を歩く勇次は、そもそも相手にすらしていなかった。
「おーい、次のエレベーター乗るから、おいでー」
あ今川の呼びかけで、二人の戯れが強制停止させられる。
「愛美ちゃん、ありさちゃん、一緒に行こー!」
恵に手を取られ、二人は次のエレベーターに乗る。
これは、下層部に向かうためのもので、以前愛美も乗ったことがある。
透明の壁の向こうに広がる広大な空間に目を奪われ、ありさは、まるで小学生のように夢中になった。
しばらくして最下層部に降り立った一同は、アンナユニット五体が並ぶメカニックドックにやって来た。
またも、ありさの目が恒星のように輝く。
「うっほー♪ やっべぇ! 巨大ロボが五体もあるぅ♪
ねーねー、これ合体すんの? 合体すんの? ねぇねぇ!!」
もはや完全に小学校低学年男子並の思考になっているありさは、勇次の袖を引っ張り尋ねる。
「合体なんかするわけがないだろう!」
「えー!
今からでもいいから、巨大ロボに合体出来るように改造すりゃあいいじゃんかー」
「やってどうする!」
「なんでー! 巨大になった方が強いしカッコイイじゃん!」
「同感です! 実は私も、前から同じ事を思っていましたっ!」
途中から、誰かが加わった。
「二人とも、妄想の中で好きなだけ合体させてろ!」
呆れた勇次は、いまだに目をキラキラさせてる二人を、適当にあしらうことにした。
「ねー見て見てありさちゃん!
こっちのね、緑のがメグの“アンナミスティック”なんだよー♪」
「え、メグの? ってことは」
「はい、こちらの青いラインの機体が、私の“アンナウィザード”です」
「魔法使い(ウィザード)? 女の子が乗るんなら、魔女じゃなくて?」
「アンナウィザードという名称は、あくまで機体名だから」
「へ?」
「考えてみてよ。
例えば女性パイロットが操縦していても、戦闘機自体の名前が変わるわけじゃないでしょ?
そういうことだよ」
ありさの疑問に、今川が「待ってました」とばかりに回答する。
「あー、そういうことか。完全に理解した」
「ほ、本当にわかった?」
「それであんた達も、未来みたいにこれに乗って操縦すんの?」
「ええ、そうです。
愛美さんをはじめとして、私達二人、そして未来さんの四人が搭乗します」
「って、ロボット五体あるじゃん!
もう一体は誰が乗るの?」
「ありさちゃん、乗ればー?」
今川が、両手の人差し指でありさを指しながら呟く。
「え! マジで?!
いいの? いいのぉ♪」
まさかの超ノリノリに、愛美は「いいんですか?!」という顔を勇次達に向ける。
その視線をわざとらしくかわすと、今川は赤色のラインが入った機体を紹介した。
「コイツの機体名は、ANX-05B“アンナブレイザー”」
「うお、なんか、すげぇかっこいい名前!」
「搭乗者まだ決まってないから、ありさちゃん、乗りたきゃマジ乗ってもいいよぉ~」
「マ、マ、マジで?! うほほほほ♪
乗ります! 乗らせて頂きまぁす!」
「え~っ? ありさちゃん、アンナユニットに乗るのぉ?
わーい! 仲間が増えるね! やったぁ!」
今川と恵の言葉に、ありさが顔面崩壊レベルでデレている。
だがそんな彼女達の傍に、何者かが駆け寄ってきた。
「どういうことですか、これは?!」
一同に緊張感を漲らせる、鋭い一喝。
気付くと、いつの間にか戻っていた向ヶ丘未来が、憤怒の表情でありさ達を睨みつけていた。




