表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第3章 第四・第五のアンナユニット編
48/226

 第18話【拉麺】3/3


 ――五分後。


 「ご馳走様」


 そう言い残し、男は、勝利の笑みを湛えて席を立った。

 それとほぼ同時に、他の客も店を出ようとする。

 いまだに席に座っている“入れ替わり前の客”は、ありさと愛美のみだ。

 しかも愛美は、あるものを箸で摘み、呆然としていた。


「ありささん、これは――」


「豚。所謂“チャーシュー”」


「ええ、これ、もう五個目なんですけど」


「おお……あたしもだ」


「まだ、入ってますよ。

 いったい幾つ、入れて頂けたのでしょう?」


「無だ、愛美。

 無になるんだ。

 考えたら、負けだ」


「はい」


 既に、二人の言葉に感情はこもっていない。

 脳に背脂が回り始め、意識は朦朧とし始めている。


 だが、ラーメンは、まだ半分も減っていない。

 一方のありさは、三分の二程度を食べ終え、既にうんざりといった顔つきになっている。

 ジト目が、愛美に突き刺さった。


「愛美ぃ~、あんたぁ、全然食べてないじゃないかあ」


「た、食べてます! 食べてるんですけど、どんどん増えてくるんです!」


「んなわけあるかい……

 このままじゃ、あたし達この店に、もう来れなくなっちまうよ」


「な、何故ですか?!」


「お店のサービスを無にする行為は、絶対に許されざることなのよ。

 頼んだ以上、責任取って全部食う。

 これが絶対の掟なんだよ……」


「な、何故そんな過酷な掟のあるお店に……」


「あんたがマシマシマシなんか頼むからだろうがぁ!」


「あ、ありささんだって、同じの頼んだじゃないですかぁ~!」


「お客さん、すみませんが、静かにしてもらえませんか?」


「「 ご、ごめんなさい…… 」」


 もはや、それは勝負にもなっていなかった。

 ありさが完飲したのは、それから五分後。

 そして愛美は、七枚目の豚を平らげた時点で――ギブアップした。


 宇宙が、見えた。

 

 




「よぉ今川っち」


 ここは地下迷宮ダンジョン

 もう結構遅い時間にも関わらず、各部署ではオペレーター達が詰めているようだ。

 今日何個目かわからないハンバーガーをパクつきながら、今川は無言で手を挙げ、凱に挨拶した。


「ありゃ、もう食ってたか。

 そりゃ残念」


「モグ……え、なんかあったんですか?」


「いやさ、勇次も誘ってラーメンても食いに行かないかって、誘いに来たんだが」


「あ~! 大丈夫っすよ!

 俺、まだ全然入りますから!」


 そう言うと、飛び跳ねるような勢いで立ち上がる。

 そんな態度に苦笑いを浮かべると、凱は、上のフロアに居る勇次に大きな声で呼びかけた。


「んで、今日はどこ行きます?

 せっかくなんで、現場確認兼ねて中目黒の“アレ”とか?」


「いやー、あそこは車ではちょっとなあ」


「いいじゃないっすか、ナイトシェイドに、その辺適当に周回してもらって」


「ああ、それもいいなあ。

 って、この時間から“次郎”って、随分濃すぎじゃねえか?」

 

「そうっすかね?

 あ、でも凱さんや勇次さんみたいに、お年を召した方には辛いっすか? ワラ」


「だからさ、そういうの口に出してわざわざ言うか?」


 笑いながら、今川の鼻を摘み上げる。


「いやーしかし、アイツらと一緒に居ると、どうしてもこう、俗っぽいもんが無性に食べたくなることがあってさ」


「ああ、舞衣ちゃんとメグちゃん、めっちゃ凱さんの世話焼いてくれますからねー」


 ゲス顔で凱を見つめる今川に、凱は顔を赤らめて咳払いをする。


「まあ、でもそうなんだよなあ。

 毎食、手の込んだ料理作ってくれるし、これまた美味いから文句はないんだけど」


「もうすっかり、どこにお嫁にやっても大丈夫って感じじゃないっすかー」


 今川のその言葉に、凱は一瞬ムッとしたが、すぐに持ち直す。


「まー、でもまだ高校生だしなあ。

 それよりまず、彼氏作れやって話だわ」


「凱さん居るんだし、当分彼氏作る気にならんでしょ、あの二人は」


「かもなあ…。いったい、いくつになったら兄貴離れしてくれるんかなって」


「ノロケっすか、ノロケっすね!

 彼女イナイ俺には、羨まけしからん話っすよ、ソレ」


「妹の話でノロケ扱いされちゃたまんねぇな!

 まあでも……」


「妹ったって、血のつながりないんだから、結婚だっていけ……って、あっ」


 そこまで言って、今川は思わず口を手で塞いだ。


「す、すみません凱さん! 俺……」


「気にすんな。俺も気にしてない」


 ぺこぺこ頭を下げまくる今川の頭をとんとんと叩き、凱は苦笑した。


「でもホント、妹さん達にめっちゃ愛されてますよね、凱さんてば」


「ははは……」


 今川の冷やかしに、凱は頭を掻いて照れる。

 そんなこんなしているうちに、勇次が上のフロアから降りてきた。

 帰り支度をしていたようで、トレードマークの白衣を身に付けていない。


「すまんが、ついでに送ってくれないか」


「ああ、いいぜ。

 それで、何処行く? ラーメン屋行きたいんだけど、どうよ」


「うむ、構わん。

 俺もしばらく食ってなかったからな」


「この前、カップ麺食ってましたけどね」


「そうだ、あのコラボ麺、ハズレだったぞ。

 今川、注意しろ。味が違いすぎるにも程があった。滅茶苦茶しょっぱいしな」


「げっ! マジっすか!

 俺、明日買おうと思ってたのにぃ!」


「んで~、どうすんだ?」


 先の事件の緊張が解れたせいか、三人はくだらない雑談をしながら、エレベーターへ向かっていく。

 通り道の端末に座っているオペレーター達の、冷ややかな視線に気付くことなく。


 なんだかんだと議論を重ねた結果、やはり三人は、目黒にある黄色に黒字の看板の某有名店に向かうことにした。


「凱さん、どんだけ行きます?」


「俺は……そうだな、大に豚Wかな」


「やるじゃないっすか! 俺、大盛にマシマシかましますよー?

 勇次さんは?」


「アブラカラメ野菜全部マシマシマシ」


 エレベーターの中に、凱と今川の笑い声が響いた。









「い、生きてる?」


「……ふぁい……」


「だから、忠告したやん。

 なんで、あんな注文を……」


「す、すみません……何がなんだか、わからなくなってしまって、つい」


「アンタ、あたしが居たからいいようなものの……ゲップ」


「こ、このお詫びは、いつか必ず……ゲップ」


「あ、歩ける?」


「すみません、もう少しだけ、休ませてください……」


「り、了解」



 ここは、先程とは違う最寄の公園。

 すっかり暗くなり、街灯の光も届かないベンチで、愛美とありさは転覆していた。


 そびえ立つ“塔”。

 大海に沈む古代遺跡を思わせる、屈強で巨大な“塊”。

 うねりを上げ、必死の攻略をも拒み胃袋を攻め立てる“太きもの”。

 更に、そんな猛者達に無限のバフ効果を付与する“白きもの”。

 そして、そんな物達を包み込み、塩辛い衝撃を容赦なく加えてくる“暗き海”。


 愛美は、当分、もやしを見たくないと思った。


「こりゃあ、明日の朝ごはんは要らないかも、ね。タハハ」


「も、申し訳ありませ……うっぷ。

 後始末まで、お願いしちゃって……」


「あの、愛美の隣に座った奴の、勝ち誇った顔がムカついたからさ……」


「ま、またそんな……」


 酒に酔ったわけでもないのに、まともに身体を動かすことすら出来なくなった二人は、その後もしばらく公園の一角に留まり、アパートに帰り着いたのは二時間後だった。


 

 もはや完全に、あの公園で交わした話のことなど、頭から消え失せていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ