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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第3章 第四・第五のアンナユニット編
45/226

 第17話【衝突】4/4


 中目黒川の一角に、水飛沫が上がる。

 川沿いの道を行き交う人々は、何事かと覗き込むが、そこに更に大きな水飛沫が上がった。


『危険です! 周辺の皆さんは、速やかに離れてください!』


 川に飛び込んできたのは、巨大な人型のロボットだった。

 スピーカーから女性の声で、警告が伝えられる。

 最初に飛び込んだ「それ」はゆっくり身を起こし、その異形を白日の下に晒した。


 更に体格が太くなり、巨大ネズミXENO“ジャイアントラット”は、敵意を剥き出しにしてロボット――アンナユニットを睨みつける。

 逃げる人々と、一斉にスマホのシャッターを切る人々。

 そこに、二つの巨体が巻き上げる水飛沫が、容赦なく降り注いだ。


 アンナユニットの太い腕が、ジャイアントラットの顔面にストレートパンチを放つ。

 数メートル後退させると、更に水飛沫を上げ、アンナユニットが水面に浮上した。

 3メートル強の大きさ、ちょっとしたトラックを思わせるほどの巨体が、そうとは思えないような素早い動きで、ジャイアントラットに襲い掛かる。

 滞空したまま接近し、ローリングソバット。

 更に吹っ飛ばされたジャイアントラットは、野次馬や避難者が少ない方向へ飛ばされた。


 シャギィィィ!!


 ジャイアントラットが怒りの鳴き声を立て、アンナユニットに襲い掛かろうとするが、川の水、水深が仇となり、その敏捷性は失われている。

 その怒りの形相を浮かべた顔に、アンナユニットは容赦ない連撃を叩き込む。

 鋼鉄同士を高速でぶつけ合うような音を立て、三発の打撃が炸裂した。

 これにより、ジャイアントラットの頭部は完全に破壊されたが、まだ息の根は止まっていない。

 


「マジかよ! これ、特撮の撮影現場……じゃないよね? CGじゃないよね?」


「え、え~と、げ、現実です!」


「愛美も、こういうのに乗って闘ってたの?」


「いえ! 私はもっと、こう」


 そう言いながら、自分の身体を両手でなぞるようなポーズを取る。

 気のせいか、アンナユニットとジャイアントラットの闘いを見つめるありさの目は、キラキラ輝いているようだった。


「行っけー! 未来! ミサイル発射だぁ! ぶちかませぇ!」


「あ、ありささん! 危ないですからっ!!」


 両手を振り上げるありさと、それを必死で抑える愛美。

 それをモニター越しに見た未来は、コクピット内で頭を抱えた。


『二人とも! 近付いちゃダメよ! 離れて!』


「わ、わかりました!

 ありささん、さぁ、早く!」


「ま、待って! こんな凄い所、もう二度と観られる気がしないしぃ~!」


「そんな事言ってる場合じゃありませんよ!」


「あっ! 未来危ない!」


 ありさが指差すと同時に、ジャイアントラットが、アンナユニットに飛び掛った。

 頭は、既に半分ほど復元されている。

 それどころか、先程より口腔内の牙が大型化しており、まるで無数の剣が生えているかのうようだ。

 勢い良く飛び掛る牙が、アンナユニットのボディに突き立つ!


 ――が、その攻撃は、全て重装甲に遮られた。


 唸るような機械音が響き、ジャイアントラットの身体が凄まじい勢いでぶれる。

 良く見ると、アンナユニットの両肩基部のハッチが開き、そこから一対のドリルが露出していた。

 これが、ジャイアントラットの体表を貫いていたのだ。

 飛散した肉片は、すぐに溶解、蒸発していく。

 幸いにも、距離を取り始めていた愛美達に降り注ぐことはなかった。


(未来さん、もしかして、周りの状況を確認しながら、被害を最小限に食い止めているの?)


 川沿いの堤防で、直接的な人的被害を防ぐ。

 川の水で、相手の動きを鈍らせる。

 攻撃時の破片が周囲に被害を及ばさないよう、最小限の動きだけで攻める。


 愛美には、未来の動きが、全て計算されたもののように思えてならなかった。


(凄い……勢い任せで、周りのものを壊してばかりだった私とは、闘い方が全然違う)


 愛美は、いつしかありさを遠ざけることを忘れ、アンナユニットの戦闘に見入っていた。

 しかし、同時にある事に気付いた。


(いけない、私達や他の人が、いつまでもここに居たら――)


 我に返った愛美は、再度、ありさを公園内に遠ざけようとした。


「ありささん! 早く向こうへ!」


「え~、もう少しだけ! お願いっ!」


「私達がここに居たら、未来さん、決め手の攻撃が出来ないんです!」


「えっ! それって、必殺技が撃てないってこと?!」


「ひ、ひっさつ……? た、多分、そうです!」


「そりゃあまずい! じゃあ逃げなきゃ!」


「え?! あ、はい! お分かりいただけましたか」


 なんだか良く分からないが、いきなり納得してくれたありさに安堵し、愛美は公園内に戻る路へ向き直った。

 その時――



「パワー・ジグラットぉ!!」



 どこからか聞き覚えのある声が響き、同時に、周辺の景色が一瞬青白い光に包まれた。


「へ? あ、あれ?! 消えたぁ?!」


「アンナミスティック! 来てくださったんですね!」


 川の手すりに駆け寄るありさを追い、愛美はまた戦闘現場に戻った。

 だがそこにはもう、アンナユニットも、ジャイアントラットの姿も消失していた。

 周囲にたむろする野次馬達も、何が起きたのかわからず戸惑っているようだ。

 あまりにも唐突に、中目黒川に日常が戻った。


「何が起きたの? ねえ愛美?

 あんた、何かわかるの?」


「ええ、一応ですけど」


「教えてよ! やっぱさっきのは、CGだったの?」


「え?! そっちですか?!

 って、そもそもCGってなんでしょう?」


「……そこから??」





「パワージグラット、施工完了」

「現場周囲半径500メートル範囲内を封鎖。

 UC-03及び、AXN-06P、同じく02W、03M共にデュプリケイトエリアへの移行を完了しました」


「わかった。

 ――向ヶ丘! もう遠慮はいらん!

 ホイールブレードが使えるぞ!」


『了解!』


 オペレーターの声に重なり、勇次の指示が届く。

 未来は、コクピット脇のコンソールボックスを展開し、目も向けずに指だけで操作を行う。

 両肩のハッチが展開し、大型のサーキュレーターのようなものが露出した。


「ウォール・ウィンド!」


 両肩から、凄まじい勢いで突風が噴き出す。

 それは目視出来るほどの渦を巻き、まるで生きているかのようにジャイアントラットへ襲い掛かる。

 巻き込まれたジャイアントラットはみるみるうちに空中に持ち上げられ、完全に動きを奪われた。


『パラディン! XENOのコアは、延髄の辺りにあるよ!

 データ送るからね』


「不要よ、ミスティック」


『えっ?』


「情報さえあれば、後は充分よ!

 ――ホイール・ブレード!!」


 未来の叫びと共に、アンナユニットの後部から光に包まれた棒状の物体が射出される。

 それを右手で掴むと、棒は更に光を増し、一瞬のうちに変形した。


 刃渡り3メートルを超える、大型のブレード。

 それが左右に展開し、柄部分に備えられた巨大ホイールが回転を始め、高速振動が刃を揺さぶる。

 刃の隙間部分にプラズマの閃光が迸り、まるで“電光の剣”のように変貌した。


「はぁっ!!」


 気合の声を共に、アンナユニットの巨体が宙に舞い上がった。

 背面から吹き上がる、炎のような光のブースト。

 両手で剣を握り、頭上に思い切り振りかぶると、アンナユニットはそれを一文字に振り下ろした。


 真っ向両断!


 ジャァァァァ――……


 空中に固定されていたジャイアントラットは、激しい雷の刃を受け、脳天から真っ二つに斬り裂かれた。


 肉片は、地上や川に落ちるよりも早く、プラズマのエネルギーに焼き尽くされ、霧散する。

 血糊を払うように剣を一振りすると、アンナユニットはしばし残心し、やがて公園へと向かって移動を開始した。




 アンナユニットの許に、二人の少女が降り立った。

 青色と、緑の衣装をまとった少女達が。


「さすがです、パラディン!」


「でもぉ、なんでパラディンだけ、元の姿のままなのかなあ?」


 青の少女・アンナウィザードと、緑の少女・アンナミスティックが、顔を見合わせる。

 アンナユニットの前面部が展開し、コクピットに収まったままの未来が、笑顔を向ける。


「理由はわからないけど、アップデートは行われなかったようね。

 二人には悪いけど、私はやっぱり、長年乗ってきたこのままの方がいいわ」


「そうですか。

 私、最初は意識してなかったんですけど、改めて考えると……その、スカートの丈が……」


 アンナウィザードが、顔中真っ赤にして裾を引っ張る。

 一方で、アンナミスティックは全然気にしていないようで、その場でくるくると回っている。


「そう? 私、この格好大好きだよ♪

 だって可愛いじゃん! お兄ちゃんもカワイイって言ってくれたしぃ☆」


「えっ?! お、お兄様、私達の格好、見たんですか?!」


「うん、見てるよ!

 お姉ちゃんの格好も、綺麗で素敵だって言ってたよ」


「そりゃあ、“SAVE.”の全員が見てると思うわよ、あなた達の格好は」


「いや~ん! そんなぁ!」


 更に顔を真っ赤にして、頭から湯気まで出し、アンナウィザードはその場でうずくまってしまった。


「でも、その気持ちわかるわ。

 私だって、いきなりそんな格好で闘えって言われたら、その……ね」


「未来ちゃんは、カワイイっていうより、カッコ良くなりそうな気がするよ!」


「そ、そう。

 ありがとう、ミスティック」


 再び光の渦が巻き起こり、アンナユニットの巨体が消滅する。

 霧散した渦の中から、襟元を正しながら未来が姿を現した。


「帰りましょう。

 ミスティック、パワージグラットの解除をお願い」


「うん!

 ジグラット・オープン!」


 その言葉と同時に周囲の景色が一瞬ぶれる。

 と同時に、舞衣と恵も実装を解除した。

 光の渦が消えるのと、三人が現世界に戻ったのは、ほぼ同時だった。



 そして、その様子を遠くから窺う、一人の少女の姿があった。


 

「もしもし――はい。

 東京駅の個体ですが、想定通り、新型のアンナユニットにより殲滅されました。

 ――ええ、計三体のみですので、未達成に終わりました」


 通話先の相手が、しばらく話し続けているようだ。

 少女は慎重な面持ちでそれを聞き取り、更に続けた。


「仰る通り、この度の個体も、明らかに“育成生体”を目標に移動しておりました。

 ――はい、ええ。

 私も、この度の件で契約内容の再考が必要になるかと考えておりました。

 ――はい、規約違反者はただちに処罰いたします」



 通話を終え、携帯をしまうと、麦藁帽子に水色のワンピースの少女は、山手通り方面に向かって歩き、やがて姿を消した。



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