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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第3章 第四・第五のアンナユニット編
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 第16話【掃除】3/3

 ありさは、続けて愛美から話を聞くことにした。

 だが、凱が井村邸に潜入し、オークが出現した辺りの話を聞いて、ありさの表情が露骨に変わって来た。


 XENO・オークの出現、アンナユニットの実装、戦闘、火事――

 東京に来て、アークプレイスで受けた接待のこと、相模姉妹のこと。

 そして、“SAVE.”のこと。 


 話が進むにつれ、ありさの表情がどんどん怪訝になっていく。


「あのさ、愛美」


「はい」


「なんか途中から、アニメか特撮番組の話に、切り替わってない?」


「あに……な、なんのことでしょうか?」


「ごめん、いいわ続けて」


「承知しました」


 愛美の話は、更に続く。

 内容は、勇次達から“SAVE.”に入ることを指示されたことや、地下迷宮ダンジョンに行った際、向ヶむこうがおか未来みきに逢い、その時に告げられたことへ続いていく。


 だが、未来の名前が出た途端、突然ありさの顔つきが険しくなった。


「未来?!

 それって、もしかして背が高くて、丸眼鏡かけてて、胸がバスケットボールみたいなアイツ?!」


「ば、ばすけ……?

 それは良くわかりませんけど、確かに眼鏡はかけておられますし、背も高い方です」


「なんかエラそーな口ぶりで喋っててさ、いっつもいけすかない態度で、自分何様ぁ? みたいな奴でしょソレ?!」


「え、えっと……」


 言葉に詰まる愛美だったが、それがそのまま答えだと、ありさは認識したようだ。


「それにしても、なんでそこで、あの爆乳大元帥の名前が出てくんの!」


「ば、ばk……ええっ?!」


 眉間に皺を寄せ、まるで怒り心頭状態のようなありさ。

 そんな彼女の態度に、愛美はただうろたえることしか出来なかった。


「あいつが、今回の件に絡んでるんだね!

 よぉし、わかった! だったら話は早い!

 あたしが、アイツをぶっ倒す!」


「は、はい?!」


 背中に炎を背負い、ゴゴゴと効果音まで付けて、何故かありさが燃え上がり始める。


「あ、あの失礼ですが、未来さんとはどのようなご関係で?!」


「アイツは、あたしの敵! 宿敵!

 いつかは倒さなきゃならない、因縁の相手なんだよ!」


「え、えええええええええっ?!」


 ありさの願いで、愛美は未来のことから“SAVE.”について、知っている限りの話を伝えた。

 彼女は、誰からも口止めをされていない。

 尋ねられれば話してしまうのは、当然のことだった。

 まして、今の彼女にとって、“SAVE.”とはあまりにも理不尽な要求を突きつけて来る正体不明の組織でしかない。

 躊躇いなど全く感じず、愛美は包み隠さずにありさに話をしてしまった。


 ――渋谷の、ジャイアントスパイダーの件までも。


「以上です。

 ご静聴頂きまして、ありがとうございます」


「いや、全然静聴してたつもりないけどね。

 それにしても愛美、アンタさぁ……それ、色々騙されてるわ」


「どういうことでしょう?」


「その渋谷の事件? この前SNSとかでも見たけどさぁ。

 確かにヤバい事件だけど、アンタがいうようなバケモノのことなんか全然出てなかったよ?

 それさ、あのバカ未来が適当なウソこいただけじゃね?」


「それはありません!

 何故なら、私も当事者ですから」


「と、当事者?」


「はい! 現場に居合わせましたから」


「それ、証拠ってなんかあるの?」


「はい、あります。

 これが――あっ」


 愛美は、胸元に手を当て、ハッとする。

 パーソナルユニットは、マンションに置いて来たのだ。


「どしたの?」


「あ、え、え~と……実装するための道具、マンションに置いてきてしまったので」


「あ~」


 ありさの目が、どんどん怪しいものを見る目になっていく。

 どっこいしょ、とおっさんみたいな声を上げて立ち上がったありさは、自分のスマホを愛美に見せた。

 それは、渋谷ランプリングストリート事件を巡る、SNSの反応やネットニュースの記事だった。

 どの書き込みにも、ジャイアントスパイダーはおろか、蜘蛛の糸や繭状に包まれた死体の件には触れられていない。

 愛美は、目を見開いて、その記事内容を何度も読み返した。


「これは……なんで、あの事が全く書かれていないのでしょう?!」


「う~ん、だからさ。

 よくわかんないけど、あの未来に何か吹き込まれただけなんだって。

 あたしから、ちょっときつめに言っておくよ」


「えっ?」


 そう言うが早いか、ありさはスマホで何処かに連絡を取り始めた。



「もしもし! ――あたし。

 今、ちょっといいか?

 あぁ? ダメ? ふざけんなそっちの都合なんか関係あるか」


 物凄い荒っぽい口調で話し出すありさに、愛美は驚いた。


「あんたさ、愛美って娘知ってるだろ?

 ――え? ああ、そうだよ。

 今、ここにいるけどさ。

 ――そんなん、どうでもいいだろ。

 それより、愛美から話聞いたよ。

 愛美ちゃんに、何アヤシイ話吹き込んでんだお前?!」


 まるで男同士の喧嘩口調の如き会話。

 それは、先程までのありさの優しげなものとは、全く違う。

 愛美は、だんだん怖くなってきて、思わず身を縮めた。

 

「え? ――いや、代わる必要ないだろ。

 あんた、今日少しツラ貸しな。

 ちょっと言いたいことあるからさ。

 ――は? 予定? 訓練?

 知るか! いいから絶対に来いよ、あの場所に13時に! じゃあな!」


 通話を終えると、ありさは、ちょっと強張った笑顔を向けて来た。


「昼過ぎに呼び出した。

 あんたの目の前で、ガツンと言ってやるから、もうあんな奴のことは気にしなくていいよ!」


「え、ええええ……未来さん、いったい何を言ってらしたのでしょう?」


「ま、いいじゃん♪」


「ええ……」


 青ざめた愛美と、妙に明るい表情になったありさの耳に、先程からつけっぱなしのテレビから、ニュース報道が聞こえてきた。


『次のニュースです。

 先日、JR東京駅八重洲北口の改札付近で、動画配信サイト“YOUTUV”への投稿を目的としたゲリラ撮影が行われた影響で、一時駅構内が騒然とする出来事が起こりました。

 情報によりますと、怪物のマスクを着用した人物が駅構内を走り回り、その様子を撮影していたグループが――』


 テレビ画面には、SNSに投稿された“走り去る一つ目の男”の短い動画が流れている。

 その映像を観て、ありさは爆笑した。


「ね、見た?!

 今の奴、すげーリアルなマスク被ってたよね! よーやるわ」


 “迷惑系YOUTUVER”と紹介されたこの一連の珍事を、テレビはメイン報道の合間を繋ぐミニニュース的に紹介する程度に留めたようだ。

 だが、その内容を注視していた愛美の表情は、深刻だった。


「愛美、どした?」


「今の、走っていった人の顔……あれ、本物じゃないでしょうか?」


「は? あれ、ただのドッキリ用のマスクでしょ?」


「そうでしょうか。

 私には、なんだか目が動いていたように見えたもので」


「はは、そんなバカな!

 でもだとしたら、よっぽど凝った造りなんだろうね。よーやるわ!」


 ハハハと笑い、ありさは居間を出て行った。

 映像が別なニュースに切り替わっても、愛美は納得がいかないといった表情で、尚も画面を見つめ続けていた。


 ――報道内容に、一つ目男に殺された駅員の話は一切出なかったのだが、それは愛美達の知る由もないことだった。



 



「愛美の居場所が、判明しました」


「えっ、もう?」

「本当ですか?!」

「えー! どこどこ? どこに居るのぉ?」


 ここは、SVアークプレイスのミーティングルーム。

 未来の言葉に、その場に居合わせた凱と舞衣、恵が反応する。

 

「私の幼馴染のところです。あの後、偶然知り合ったようですね」


「せ、世界って狭いんだな。

 おっけ、じゃあ俺が迎えに行って来るよ」


「お兄様、ここは私達が」

「そーだよ! メグ達が行った方がいいよきっと」


「いえ」


 三人の申し出を拒み、未来は少し呆れ顔で自身のスマホを見つめた。


「私が参ります。先方の指名なので」


「指名? 愛美ちゃんの?」


「幼馴染の方です」


「な、なんか、顔が怖いよ、未来ちゃん?」


「大丈夫よ、心配ないわメグ」


「……」


 恵の指摘した通り、未来は、どこか険しい表情を浮かべている。

 だが、当の本人はそれに気付いていないようだった。





 その頃、インターネット上では、奇妙な話が流れていた。

 都内各所で、奇妙な風体の男が歩いているのを目撃したという内容で、やはりSNSや匿名掲示板を中心に情報が広まっていた。

 日中はかなり気温が高まっている昨今において、その男は黒っぽい毛皮のようなものを上半身にまとっているという。

 空ろで焦点の合わない目で、とぼとぼと街中を歩くその薄気味悪い様相に、人々は遠巻きに様子を眺めるだけだった。



 そして、その中には水色のワンピースを着た、麦藁帽子の少女の姿もあった。




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