表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第3章 第四・第五のアンナユニット編
38/226

 第15話【邂逅】3/3


「そりゃあさ、お金持ってなきゃ何にも乗れないってば」


 ショートカットの少女は愉快そうに微笑むと、ずびーと音を立てて丼のつゆを啜った。


「すみません、世間知らずで……」


「もしかして、あんたってどっかのお嬢様?

 なんか、服装もそれっぽいし」


「ととと、とんでもありません!

 私は、使用人の立場です」


「使用人? なんだかよくわかんないね。

 まあ、とにかく今は食べよう」


「もぐ……ふ、ふぁい」


 口の中の熱い天ぷらを転がしながら、少し慌てて返答する。

 そんな愛美の様子を愉快そうに見つめながら、少女は小皿に置かれたおいなりさんを、一口でほおばった。


 場所を大きく移動し、二人は駅の近くの立ち食いそば屋に入っていた。


 中年男性やくたびれた若者達が集う場に、ちょっとそぐわない少女二人。

 しかし、さも当然といった風に注文を済ませると、少女は慣れた態度で食べ始めていた。

 愛美は、少女のおごりで天ぷらそばを食べていたが、店内や周囲人々、そして雰囲気の珍しさに目を奪われ、かなり遅れて食べ始めてしまった。


「……っんぐっ、と。

 ホイごっそさん!」


「まいどー」


 店員の声に嬉しそうな笑顔を浮かべると、少女は愛美に尋ねた。


「で、えーと、あんた名前は?」


「は、はい! 千葉愛美と言います」


「うん、愛美ちゃんか。

 最近まで、何処に居たの?」


「はい。SVアークプレイスという所におりました」


「それって、あのバッカでかいマンションがいっぱいあるとこ?

 なんだ、そんなに遠くないじゃない」


「そ、そうなんですか?

 私、地理とか良くわからないものでして」


「ふーん、田舎から出てきたの?」


 愛美の態度に少しの疑問も抱いた様子を見せず、少女はカウンターに丼を返却する。

 

「ね、おそばおいしい?」


「は、はい! 初めて戴くのですが、とっても美味しいです!

 私、心の底から感動しております!」


 周囲の客が思わず視線を向けるほど、元気な声で答える。


「良かったね、大将!

 感動モンだってよ!」


 照れ笑いする店長と思しき男性に、少女が冷やかしの声をかける。

 愛美は、少女の元気で明るい態度に、今まで出会ったどのタイプの女性とも違う何かを感じていた。


「ここの店ってね、実は結構穴場なんだよ」


「そうなんですか?」


「うんそう。

 あたしが生まれるずっと前からやってるお店なんだけどねー」


 少女の話に頷きながら、愛美は天ぷらそばを食べ続ける。

 よほどお腹が空いていたのか、気が付くとつゆも残さず完食していた。


「ご馳走様でした!

 本当に、素晴らしいお味でした! ありがとうございました!」


 愛美の礼に、店長は顔を赤らめ、照れまくる。

 彼女に丼の片付け方を教えた後、少女は先に店の外に出た。


「あの辺は、もう一人で行き来しちゃいけないよ。

 ああいうのがごろごろしてるからさ」


「は、はい!」


 突然の少女の言葉に、面食らう。

 

「あんた可愛いから、またすぐ狙われるって」


 少女は微笑みながら呟くが、どこか抗し難い迫力がある。

 そんな彼女の態度に、愛美は少しだけ恐縮した。


「わかりました、今後は気をつけます。

 あの、ええと、ところで」


「ん、どしたの?」


「そういえば、お名前を伺っていませんが」


「あ、そうだったっけ?

 ごめん! 全然気が回らなかった。アハハ!」


 女の子にしては豪快な笑い声を立てると、少女は改まって愛美を見つめた。


「あたしはね、石川ありさ。

 よろしくっ!」


 ぐっ、と親指を立て、屈託のない笑顔を咲かせる。

 清々しさすら感じさせるその表情と態度に、愛美は憧れのようなものを感じ始めていた。





 同じ頃、ここはJR東京駅。

 各路線を走る電車の中に置き忘れられた忘れ物は、ここ「お忘れ物承り所」に集められる。

 数々の遺失物が運び込まれ、係の男は、いつものように呆れ顔になっていた。


「ったく、なんでこんなものを忘れるかな~?」


 傘やスマホ、携帯ゲーム機、かばんならまだわかる。

 中にはオムツ、入れ歯、掃除機、薙刀、こいのぼりなんてものもある。

 また、明らかに家に持ち帰る途中で忘れたのだろうという、食品関係も数多い。

 今日も、様々な食品が入れられた袋が届いている。

 規則により、日持ちのしなさそうなものは即処分となるのだが、面倒なのは、それをいちいち確認しなければならないことだ。


 ぶつぶつ文句を言いながら、職員の男は、袋の中身の確認作業を続けた。


「ん? なんだこりゃ?」


 とある白い紙袋を開けると、その中には奇妙なものが入っていた。

 既に冷気を失い、常温で軟化している保冷剤が詰め込まれた、小さな紙製の箱。

 更にその中央には、まるで昔のフィルムケースを思わせる白い蓋つきのカプセルが収められていた。


「何が入ってんだ?」


 男はカプセルを取り出すと、蓋を外して中を覗き込む。

 だが次の瞬間、短い悲鳴を上げ、男はカプセルを取り落としてしまった。


「な、な、なんだありゃ?!」


 落としたカプセルの中から、何かがドロリと零れ出た。

 それは、半透明なゼリー状の物体。

 しかも、その中には血管のようなものが無数に走っており、更に――


「ひぃっ!」


 “目が合った”。


 ――その謎の物体には、目が付いていたのだ。


 正しくは、目というよりも「眼球」。

 いわばその物体は、眼球に血管を持ったスライムのようだ。


 それは、滑るような素早い動きで床を這い、あっという間に何処かの隙間に潜り込み、姿を消した。


「なな、なんだ?! 今の……い、生き物か?」


 今まで見たことも聞いたこともない、謎の生物のようなもの。

 その、あまりにもグロテスクな見た目は、作り物には到底思えなかった。

 男は、仕方なく懐中電灯を持ち、棚の下や隙間などを覗いて調べようと考えた。


「疲れてるからかなあ、何かの見間違いだといいがなあ」


 ぶつぶつ言いながら、男は床に這い蹲って、遺失物を置いた棚の下を覗き込む。

 そして――再び、目が合った。


「あ」


 男が最期に見たのは、視界いっぱいに広がる血管のようなものだった。






「あれ? おーい、北園!」


 関係者専用通路を移動していた駅員は、奥の方でよたよた歩いている男の姿を見つけ、声をかけた。


「何やってんだよお前? まだ交代時間じゃなかったろ?」


 駆け寄り、肩に手をかける。

 ゆっくり振り返った男の顔には――


「――うぎゃあぁぁぁぁあああ!!」


 駅員の悲鳴が、木霊する。

 男の顔は、巨大な“一つ目”になっていた。

 まるで、昔の怪談に登場する一つ目小僧のように。

 そしてその口には、大きな鼠の下半身が覗いている。

 更にシャツの胸元とズボンは、血で真っ赤に染まっていた。


「ひ、ひいい! ば、バケモノぉ!!」


 駅員は、必死でその場から逃げようとする。

 だが異常に素早い動きで、男は彼の腕を掴んだ。

 メキメキメキ……と、骨が軋む音がする。


「痛ぇ!! う、うわぁぁぁ!!

 や、やめびゃ……」


 ぐじゅっ、という、何かが潰れたような水音が響く。


 一瞬で頭を潰された男の亡骸が、崩れ落ちる。

 一つ目の男は、口の中の鼠をゴクリと飲み込むと、駅員の死体に覆い被さった。




 不気味な租借音が、誰も来ない通路に鳴り響いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ