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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第3章 第四・第五のアンナユニット編
31/225

●第13話【迷宮】1/2



 ここは、“地下迷宮ダンジョン”。


 東京都内のとある場所の地下深くに存在する、高さ最大100メートルにも及ぶ巨大な人工洞穴要塞。

 向ヶ丘未来むこうがおか みき今川義元いまがわ あきちかは、その中の「開発班ブロック」と呼ばれるエリアでミーティングを行っていた。 



「アンナウィザードとミスティックのデータも、やはりアンナローグとほぼ同じ上がり幅ですね」


「そうだねぇ。

 調べてみたんだけど、やっぱり実装の際にOSのアップデートが行われたことになってたよ」


「と言うことは、予想通りブラックボックスが直接干渉を?」


「それでほぼ結論だねぇ。

 何だよ、結局、アンナローグからコピーとか考える必要すらなかったってことかよ!

 まったく、これじゃオレ達の出る幕ないじゃんかって話だよ?」


「そんな事ないですよ。

 今川さんの分析がなかったら、今何が起きているのかも、わからなかったんですから」


「ううっ、ありがとう、未来ちゃん!

 その優しさが、身に染みるぅ!」


「まあまあ。

 それにしても、あのブラックボックスって、いったい何なのでしょう?」


「さあ。

 こればっかりは、オレ達凡人にはわかりっこないわ。

 なんせ、 あ の 仙川博士が特別に作ったもんらしいからなあ」





 美神戦隊アンナセイヴァー


 第13話 【迷宮】







 先日、渋谷ランプリングストリートで発生した、XENOによる大規模殺害事件。

 三名のアンナユニット搭乗者の活躍により、その恐るべき全貌が判明した。

 あの後、現場となった雑居ビルとその周辺は警察に封鎖され、数日間に及ぶ調査が行われたという。


 しかし、一週間が経った今も尚、その事件を取り扱ったニュースは一切報じられていない。


 一部、インターネット上で「とある有名政治家の息子がビル内で連続殺人をした」やら、「ビルを不法占拠していた外国人犯罪者達が殺し合った」などというデマ情報が拡散されたりもしたが、どれも噂話の粋を出ず、真相に迫ったものがないのは幸いだった。

 もしこれが、数年前まで続いたSNSブームの真っ只中だったら、もっと真相に迫る考察や憶測、はたまた噂話が拡散されていたことだろう。


 被害者規模で考えた場合、日本史上屈指の大事件になるのは間違いない程だが、それでも世の中は

何事もないかのような、偽りの平静さを装っている。


 そしてこれは、今回が初めてのことではない。


 XENOが絡む事件は、明らかに緘口令が敷かれ、隠蔽されようとしている事が証明されている。

 だがそれは、“SAVE.”のメンバーにとっては周知の事実であり、同時に「都合の良い」ことでもあった。

 


「ざっくり調べた感じだと、SNS上には、アンナユニットの存在を言及するような書き込みは特にないねえ。

 まあ、現場の監視カメラまではわからないけど」


「運が良かった、ということでしょうね。

 あの二人、建物の前で実装してたから、よもやと思ったのですが」


「まあ、あの二人も愛美ちゃんのピンチに焦っていたんだろうし、結果オーライでいいじゃん!」


「そうかもしれませんが、今後は充分対策を講じた上での実装をしていかなければ」


「ホント、どこまでも真面目だよなあ、未来ちゃんは」


「……」


 ふう、と息をつき、未来は遥か彼方の天井を見上げた。

 いったい、どのようにして、いつ造られたのかもわからないこの巨大な空間。

 その一角で、様々な事案を検討し、訓練を繰り返した来た。

 次は、いよいよ自分も出陣しなければならないだろう。

 そう考えると、気合が入るのだが……


 未来は、自分の胸を見下ろした。


「ところで、今川さん」


「ん?」


「あの、新しいアンナユニットの外観についてなんですが」


「ああ、あの際ど……か、可愛らしいメイド服?」


「ギロッ」


「ね、ねえ、最近そういうの口に出して言うの、流行ってるの?」


「あの外観、ANX-04Pだけ従来の形で、と言うわけにはいかないんですか?」


 眼鏡のブリッジを指で摘みながら、上目遣いで尋ねる。

 対して今川は、「ああ、やっぱし」といった表情を返す。


「それは、わかんないよ。

 なんせ勝手に、しかも瞬時に書き換えられるみたいだから、こっちじゃ予見や対応のしようがないし」


「そうですよね……困った」


「確かに、未来ちゃんがあの格好になったら、かなり迫力ある気がするもんなあ」


「ギロッ」


「だ、だからぁ~」


 175センチの長身に、100センチを超える大きな胸、そしてそれに釣り合う体格。

 今川の言う通り、未来はちょっとした外人女性クラスのボディを持ち合わせている。

 同時に、それが本人にとってのコンプレックスでもあるのだが。

 普段から身体の線や肌が出にくい服を着ていることもあり、いざこの姿になれと云われたら、かなりの抵抗があるのは当然だろう。

 それが分かっているから、彼女の周囲のスタッフは、この事にあえて触れずにいたのだが。


「と、と、とりあえず、性能向上だけ貰って見た目は元のままでいけないものか、出来る限り検討はしてみるよ。

 でも、確約は出来ないから、その時はごめんな!」


「わかりました」


 それだけ答えると、未来は立ち上がり、手すりの向こう側に広がる暗黒空間を見つめた。


「アンナパラディンの本格稼動が適ったら、次は“ANX-05B”の問題だね」


 横に並び、今川も同じ方向を見つめる。

 五体のアンナユニットが並ぶドック。

 その一番端にストックされている、黒地に赤のラインが入った機体「ANX-05B」に、二人の視線が集中する。


「まだ、候補者は見つからないんですか?」


 未来の呟きに、今川は力なく頷く。


「諜報班が――凱さんが頑張ってくれてはいるんだけどね。

 でも、何もとっかかりがないから、手の出しようがないってボヤいてたよ」


「ですよね。

 でも、早くしないと、訓練も必要になるし」


「オレは、むしろ四人までよく集められたと思ってるくらいよ」


「……」


 ANX-05B……五体目のアンナユニットの搭乗者は、まだいない。

 つまり、彼女達の対XENO戦力は、まだ揃い切ってはいないのだ。

 未来の胸中に、不安がよぎる。


「ところで、今日は蛭田博士は?」


 ふと思い出し、辺りを見回しながら今川に尋ねる。

 

「今日は、凱さんと一緒にアークプレイスに行ってるってさ」


「珍しいですね。

 蛭田博士、あのマンションあまり行きたくないって仰ってたような」


 小首を傾げる未来に、今川はやれやれといったジェスチュアをしながら応える。


「あの人、ビンボー生活長かったからなあ。

 ああいうお金持ち御用達みたいなとこ、雰囲気が苦手なんだって。

 でも、ホラ、今回は彼女の」


「ああ」


 その言葉に全てを察し、未来は眉間に皺を寄せた。


「み、未来ちゃん?

 もしかして、なんか怒ってる?」


「どうしてですか?」


「いやさ、最近時々、凄く怖い顔するようになったからさ」


「そうですか? 気のせいですよ」


 それだけ返すと、未来は開発班エリアを離れる。

 日課である、アンナユニットの訓練をこなすために。


 今川に背を向けた後、未来は、自分の眉間を指でなぞった。






 事件から、一週間。

 その間、愛美はマンションから出ずに生活していた。


 ジャイアントスパイダー事件で受けた精神的衝撃が未だ抜けず、部屋に引き篭もっている状態が続いている。

 その間、この広いマンションの掃除を何度もしたり、先日購入した物を配置したりと、家のことはかろうじてやっていたが。


 人に逢うのが、怖かった。


 渋谷の雑居ビルの中に散らばる無惨な死体が、フラッシュバックすることがある。

 それが、出会う人と重なり、言い知れない程の恐怖感に繋がってしまうのだ。


 あの後、舞衣と恵、そして凱はこのマンションに泊まっていったようで、翌朝は精一杯元気に振舞っていた。

 しかし、相模姉妹の顔色はやはり悪く、相当無理をして自分を元気付けているだろう事が窺い知れた。

 それがとても申し訳なく、また辛い。


 それ以降、たまに舞衣と恵が交代で様子を見に来てくれたが、それに対応するも正直厳しかった。


(でも、いい加減、なんとかしなくっちゃ)


 そう自分に言い聞かせ、今日はまず洗濯から始めようと思い立つ。

 そんな矢先、突然、チャイムが鳴った。




 玄関に姿を現したのは、北条凱と、もう一人の男性。

 凱より少しふけ顔で、目つきがやたら鋭い。

 だが愛美は、この男の顔に見覚えがあった。

 

「やぁおはよう、愛美ちゃん」


「お、おはようございます。

 あ、あの、初めてお目にかかります! 私は――」


「挨拶などいい。

 通信で何度かやりとりしているからな」


「ああ、やはり、あの時の!」


 ようやく、記憶が繋がる。

 初めてアンナローグになった時、通信でアンナユニットの使い方を教えてくれた男性だ。

 二回目の時も、実装のコードを連絡してくれたおかげで、死なずに済んだ。

 いわば、彼は命の恩人ともいえる存在だと、愛美は即認識した。


「その節は、何度も助けて頂きまして、本当にありがとうございました」


「う、うむ……」


 目つきの鋭い男は、愛美の挨拶に一瞬表情を緩めるが、すぐにまた元に戻った。

 それを横目に、凱は少しだけ微笑む。


「愛美ちゃん、今日はとても大事な話があって来たんだ。

 悪いけど、あっちの部屋で、ちょっといいかな」


「い、今からですか?」


「そうだ」


 有無を言わさぬ迫力で、男が真正面から睨みつける。

 愛美は、つい気圧されて頷いてしまった。

 本当は、まだ誰とも逢いたくなかったのだが――

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