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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第2章 アンナウィザード・ミスティック登場編
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 第12話【現実】2/3


 改めて、パンケーキ屋の店内を見る。

 先程、ジャイアントスパイダーの突進を食らった影響で、入り口付近は原型を留めないほど破壊されており、その影響は踊り場全体、そして上下の階段にまで及んでいる。

 このままでは、まともに昇降するのも困難だ。

 店内は、無数の「糸の束」によって柱状になったものが四方八方に張り巡らされている。

 先程店の照明が点けられたので、視認はたやすいが、そのせいで外からでは想像もつかなかった惨状を目の当たりにする羽目になった。


「うっ……」


 突然、アンナミスティックが呻いた。


「どうされたのですか?」


「ミスティック、もしかして」


「う、うん……これ、血痕」


 恐る恐るアンナミスティックが指差したのは、糸柱のところどころに見られる黒いシミだった。

 その上に手を翳しており、微妙に掌が光っているように見える。

 どうやら彼女には、何かがわかるようだ。


「ルミノール反応があるの。

 やっぱり、犠牲者が居るみたい……酷い」


 悲しそうな表情で、黒いシミを見つめる。

 その様子に、ローグは胸を打たれた。

 一方、アンナウィザードは、ジャイアントスパイダーが飛ばされた先へと移動し、入り口の反対側にある窓を調べている。


(あっ、桃……)


 窓枠から下を覗き込むアンナウィザードの後ろ姿を見て、アンナローグは、思わず自分のスカートの後ろを手で押さえた。


「二人とも、こっちに来て下さい」


「どうしたの?」


 呼ばれて窓の方へ移動した二人は、アンナウィザードに促されて外を見た。

 すると、隣に建っている別な雑居ビルとの隙間にも、びっしりと糸が張り巡らされていることがわかった。

 それは二つのビルの合間をしっかり繋いでおり、更に上下の階の窓が開かれているようにも見える。

 それを見たアンナローグとミスティックは、激しい悪寒を覚えた。


「これ、まさか」


「このビルと隣のビル、行き来していたっていうこと?」


「ということは、上の階や下の階もこの店と同じように、ってことでしょうか?」


 アンナローグの呟きに、二人の表情が更に引き締まる。

 先ほどまでの優しげな雰囲気は消え、とても真剣な表情だ。

 それにつられ、アンナローグも思わず表情を強張らせた。



 その後、三人は分散して、周辺を調べることになった。

 アンナローグとアンナミスティックはこのビル、アンナウィザードは隣のビル。

 二人は階段側から昇り、アンナウィザードは窓から飛び移ることになった。

 少しずつ、ビルの周囲に人が行き来し始める。

 彼らに気取られないように、三人は慎重に調査を続けることにした。


「ごめんね、ローグ」


 五階に辿り着いた瞬間、不意に、アンナミスティックが囁いた。


「えっ、どうしてですか?」


「だって、私が誘ったから、こんなことに巻き込まれて」


 一瞬、アンナミスティックの表情が、酷くせつなげになる。

 アンナローグは、両手を振って否定した。


「いえ、そんな事は!

めぐm……ミスティックは、全然悪くありませんよ!」


 その言葉に、再びアンナミスティックの表情が明るくなる。


「ありがとう!

 帰ったら、頑張って美味しいご飯作るから、みんなで一緒に食べようね!」


「は、はい……」


 アンナミスティックは、精一杯明るい声で話しかけてくる。

 しかし、アンナローグは、とてもそれに同調出来る気分ではなかった。


 先程、ジャイアントスパイダーの糸に巻き込まれた時の恐怖が、まだ抜け切っていない。

 視界を塞がれ、全身を圧迫され、その上アンナユニットをまとっているのも関わらず、一切の行動が出来なかったのだ。

 幸い死にはしなかったものの、もし気付いて貰えなかったらと思うと、身体の奥底から言い様のない怖気が迸る。

 アンナローグは、もしかして血痕の主も同じような目に遭っていたのではないかと考え、戦慄した。


 アンナミスティックが、踊り場から五階のドアを調べる。

 ここはどうやら商社の営業所のようで、金属製のプレートのようなものがドアの上に見える。


「あ、鍵かかってる! う~ん、どうしよう?」


 ドアノブをガチャガチャ言わせながら、アンナミスティックが困った顔を向けてくる。

 はじめは意味がわからなかったが、


「あの、もしかして、私に?」


 自分を指差すと、笑顔で頷きを返す。


「そ、そんなこと、出来るのでしょうか?」


「う~ん、多分大丈夫だと思うよ。

 そういう機能があるって、前によっしーさんに聞いたことがあるもん」


「あの、あっきーさん、では?」


「あうっ?! え~ん、どうしても慣れないよぉ!」


「どうして、お名前を間違えて?」


「うんとね、最初に名前を字で知ったの。

 それで、そのまま“よしもと”って読んじゃって。

 実際に会うまで結構時間かかったから、ずうっと“よっしー”って呼ぼうって決めてたの!」


「ああ、それで慣れちゃったんですね!」


「え~ん、ふり仮名振っといてくれなきゃ、“あきちか”だなんてわかんないよぉ~」


「た、確かに」


 アンナローグは、かろうじて苦笑いを返した。


 とにかく、どうやらこういう状況で、何か自分に出来ることがあるらしい。

 ひとまず、以前のようにアンナローグのシステムAIに尋ねてみることにした。


「あの、閉められた鍵を開けることって、出来ますか?」


“Is possible.

Use the ring on the upper right arm.

Perform the operation here.”

 

 よくわからない文字が視界の端に表示された途端、右腕から何かが外れ、ゴンッ! という重い音を立てて足元に落下した。


「あ、ローグ。

 その腕輪を持って」


「これをですか?

 わ、わかりました」


「“転送兵器”って言ってね。

 その部品と、“地下迷宮ダンジョン”にある装備を交換して、いろんな事に使うのよ」


 そう言いながら、自分の右太ももに嵌っているリングを指差す。


「て、てんそう……そ、そういうものなんですね、わかりました!」


 重そうな音を立てたのは、腕輪リングだった。

 アサルトダガーは左上腕のリングから変形したが、今回は反対の腕に嵌っていた物だ。


(これ、また違う武器になるのかな?)


 恐る恐るリングを取ると、以前のように一瞬閃光を放ち、また変形した。

 今度はアンナローグの左前腕に合体し、鋼鉄の手甲ガントレット型になった。

 手の甲にダイヤル、前腕部に複数のスイッチが並んだプレートが装着されている。


「こ、これは何ですか?」


 アンナローグの質問に、またもAIが回答する。

 新装備「ロック・アナライザー」を装着したアンナローグは、またも視界に表示されるAIの案内に従って、恐々動き出した。

 アンナミスティックが、興味深そうにその様子を眺める。


 鍵のかかったドアに掌をつけると、人差し指から小指までの隙間に、何やら文字や記号のような細かな表示が現れる。

 それが全て消えると、前腕のプレートのスイッチの一部が点灯した。


「えっと、これを」


 慣れない手つきでスイッチを操作し、最後に手の甲のダイヤルを回す。

 キリキリ……という微かな金属音の後、やがてカチリ、と何かが外れたような音が響いた。


「え! これで開いたの?」


「わかりませんが、開けてみますね」


「すっごーい、ローグの道具ってとっても便利なんだね!」


「わ、私自身ビックリです……」


 驚きと感動が入り混じった妙な気持ちに陥るが、いつまでもこのままではいられない。

 アンナローグは、ガントレットを外し腕輪に戻すと、アンナミスティックと中の様子を窺う事にした。


 ドアを少し開けた途端、中から、得体の知れない「何か」を感じ取った。

 その途端、二人の視界の端に、警告メッセージが表示される。


“WARNING!

WARNING!

Detected poisonous gas.

Never unimplement.”


(警告! 警告!

 人体に有毒なガスが検知されました。

 絶対に実装を解除しないでください)


「えっ?! どういうこと?!」


「あ、あの、なんて言ってるんでしょうか、コレ?」


「危ないガスが見つかったんだって!

 でもローグ、アンナユニットを実装している間は大丈夫だから、このままでいてね。

 ――中に、入るよ」


「? ? は、はいっ!」



“Science Magic construction is ready.MAGIC-POD status is normal.

Execute science magic number C-018 "fairy-light" from UNIT-LIBRARY.” 


「フェアリー・ライトっ!」



 アンナミスティックが、またも科学魔法を使用する。

 右手の平からテニスボールほどの大きさの光球が発生し、浮遊する。

 やがてそれは勝手に宙を漂い始め、天井の中央辺りで静止した。

 真っ暗だった室内が照らし出され、内部の様子がようやくはっきり分かってきた。


 だがそれは――見てはいけない光景だった。



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