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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第6章 アンナスレイヴァー編
224/227

●第135話【 杖 】


 シカゴピザは、本当に出て来た。

 未来の前には、直径こそ大きくはないものの、それなりのボリュームがある分厚いピザが置かれている。

 笑顔でそれを切り分ける愛美の様子を窺いながら、未来は顔に縦線を引いていた。


「こ、これ、本気で食べさせる気なの?!」


「おうよ!」


「はい、これは是非未来さんに召し上がって頂きたくて♪」


「鬼なの、あんた達は?」


 痩せにくい体質を常に呪っている未来にとって、ハイカロリー食品は最大の敵。

 それが分かっているにも拘らず、よりによってカロリーの王様みたいなのを用意する悪友・ありさの所業に、未来はピキピキとキレかけていた。

 しかし、恐らく悪意など全くない愛美の前で、激怒するのもはばかられる。


 やがて、八等分に切り分けられたピザが皿に盛られて提供された。

 断面からは、チーズの滝がとろ~りと流れている。

 それが無性に美味しそうに見えるのが、更に腹立たしい。


「恨むわよ……」


 腹の底から絞り出すような声で呟く。


「なんだよ、せっかく皆で考えて作ったのにぃ」


「そうですよ、どうぞご安心して召し上がってくださいね」


「安心て……まあそりゃあ、美味しいことは美味しいんでしょうけど」


 観念した未来は、熱々のピザを持って先端部分から齧りついた。

 濃厚なピザソースとチーズの味が、口内に拡がり……


「――あれ?」


 ピザは、思ったよりも軽い食感と味わいだ。

 確かにトマトソースだが、ピザソースというには軽めでトマトそのものの味と風味が素晴らしい。

 チーズもあの鼻孔を真っ先に突いてくるような香りがなく、味わいもライトだ。

 それに、とろけたチーズと思ったものの大半は、どうやら別なソースのようだ。

 中の具は細かく刻まれた複数の野菜と、恐らく細かく裂かれた鶏肉のようで、その味の濃さは決してきつくなく、むしろあっさりめだ。

 それなのに濃厚な味わいもあって、思わず唸り声が出そうになるくらい美味しい。

 未来が今まで食べたピザの中でも、これはかなり上位に入る食べやすさと美味しさだ。


「え、ちょ……これ、美味しい」


「やったぁ!」

「やりましたね♪」


 ハイタッチする二人をジト目で見ながら、未来は頭の上に大きなハテナを浮かべていた。


「ねえこれ、本当にシカゴピザなの?」


 疑いの眼差しに、二人はほくそ笑む。


「うひひ、そろそろネタバレいくか?」


「そうですね。

 未来さん、実はそれ、未来さん用に考えたダイエットピザなんです」


「え?」


「こちらはですね、本当はピザじゃなくて自家製のブリトーなんです」


「ぶ、ブリトー?」


「鶏むね肉と刻み野菜を使ったトマトソース、アボカドを練って作ったワカモレを合わせて、モッツァレラチーズと豆腐ペースのホワイトソースを加えて、トルティーヤの生地でまとめたものです。

 出来るだけ炭水化物を減らして、食物繊維とタンパク質を多く摂れるようにって考えました」


「え、じゃあこれ、ダイエット料理なの?」


「はい、そうです!」


「へへー、驚いたか!」


 ドヤ顔で肩を組み、何故か楽しそうに身体を揺する二人に呆れながらも、改めてピザを口にする。

 やはり、旨い。


「ありがとう、とっても美味しいわ。

 凄く手か込んでるのね、さすがは愛美だわ」


「こちら、舞衣さんとメグさんもご協力くださったんですよ♪」


「え、そうなの?」


「そうそう、あたしがど~してもシカゴピザを未来に食べさせたい! っていったら、色々調べてくれてね」


「……ねえ、ちょっと待って」


「え?」


「なんであんた、そこまでして私にシカゴピザ食べさせたかったの?」


「え、あ、いやぁ」


「視線を逸らさない!」


「ひぃ」 


 




 美神戦隊アンナセイヴァー


 第135話【 杖 】

 




 

 おおよそ一週間程前。

 まだ死人還り事件が進行中だった頃、未来とありさは向ヶ丘家で、未来の両親と再会した。

 既に亡くなっている筈の二人に。


 再会の瞬間こそ感動的だったものの、そこは向ヶ丘一家。

 三人ともすぐに気持ちと話題を切り替えた。

 その割り切りの素早さに、ありさは舌を巻くしかない。


「未来、私達は、君にどうしても伝えなければならないことがある。

 時間がない、話を聞いてくれるか」


 少しグレーがかった髪の、品の良い紳士が優しく語り掛ける。

 もう涙を拭った未来は、静かに頷きを返す。


「ええ、パパ。

 私も、知りたいことがあるの」


「もうあなた達は、アンナユニットをまとって闘っているのね?」


 続けて、上品ないで立ちの夫人が尋ねる。

 その言葉に、未来とありさは目を剥いて驚いた。


「えっ?!」


「なんで、アンナユニットのことを知っているのママ?!」


 向ヶ丘夫妻が亡くなったのは、アンナユニットが開発されるずっと前だ。

 当然、未来が搭乗者に選ばれたことなど知る筈もない。

 まして、本来部外者であった筈のありさまで搭乗者になっていることなど、知る由もない筈だ。


 驚く二人に、未来の父・向ヶ丘博士は静かに目を閉じた。


「その事も含めて、君達に伝えたいんだ。

 君達“アンナセイヴァー”を取り巻く、本当のことを」


「アンナセイヴァーの名前まで……どうして……」


「おいおいおい、どうなってんだよ?

 もしかして、とっくに蘇ってあたしらのこと見てたんですか?」


 ありさの質問には答えず、夫妻は二人を応接間に導いた。




「私達は、XENOとアンナセイヴァーの闘いのことを、以前から……そうだな、今だと十三年前になるのかな。

 その頃には既に知っていたんだ」


 応接室のソファに座ったと同時に、向ヶ丘博士が衝撃的な話を切り出した。


「ど、どうして?!

 その頃にはまだ、ANNA-SYSTEMすら開発されていないでしょう?!」


「そうだね、その通りだ」


「あの、もしかして仙川って博士の未来予知みらいよちだっけ?

 それで知ってたってこと?」


「それを伝える前に、先に話すことがあるのよ。

 あなた、あの資料を――」


 母の言葉に席を立とうとする博士を、未来が止める。


「それってもしかして、本棚に隠してた資料のこと?」


「なんだ、もう見つけていたのか。

 なんだか恥ずかしいな」


「あなたの一番お気に入りの写真をキーにしてたものね」


「ほら、やっぱり」


「ありさ、黙って。

 ――あの資料の中にあった“グレイスロッド”って何?」


 その単語を聞いた途端、夫妻の表情が引き締まる。

 一度溜息をつくと、博士はとても真剣な態度で静かに語り出した。


「そのグレイスロッドが、そもそもの根源なんだ」


「根源?」


「そうよ、あの杖がこの世界にやって来てしまったせいで、全ての事件が起こったの」


「え、ちょっと待っておばさん!

 何……“この世界”って?」


「意味が分からないわ。

 いったい、十三年前に何が起きたの?!」


「ああ、詳しく説明するよ。

 だがね未来、ありさちゃん。

 これから話すことは、しばらくは二人の胸の中にしまっておいて欲しい」


「どうして?」


「事情は、いずれわかる。

 そして誰かに話すタイミングも、未来、君なら察することが出来る筈だ」


「……」


 何やら意味深な言葉に、未来とありさは大いに困惑した。











 今から十三年前。


 とある山奥で、突如爆発事故が起きた。

 それによる山火事や死傷者は発生しなかったものの、爆心地と思われる場所には相当な深さの大穴が発生した。


 その穴を調査したところ、およそ十数メートルの深さに達した「底」から、驚くべきものが発見された。


「それがその、グレイスロッドという杖だったの?」


「ああ、だがそれだけじゃない」


「他に何が?」


「二人の人間よ」


「「――ええっ?!」」


 大穴の底には、一本の大きな宝玉を付けた杖と、男女の子供が発見された。

 幸い、子供達の命に別状はなくすぐに保護されたが、問題は杖の方だった。


「この杖には、誰も触れることが出来なかったんだよ」


「触れられない? どういうこと?」


「一番最初に杖を見つけた調査員は、触った途端――消滅してしまったわ」


「「えっ?! し、消滅?!」」


 思わず声をハモらせる二人に、未来の母は更に説明を続ける。


「後でわかったんだけど、その杖は常軌を逸した高エネルギーを無制限に噴出し続けている状態だったの」


「だ、だからって、人を消滅させるほどって……」


「そんなおっそろしいもの、なんで突然出て来たんだよ?!」


「この杖の放出するエネルギーはあまりにも強大でね、機械でも運搬出来ないことが判明した。

 とにかく、触れたものが蒸発するか破損してしまうんだ」


「ど、どんだけとんでもない杖だよ!

 つうか、触ったら消えるんじゃ、いったい誰が作ったって話じゃね?」


「じゃあその杖は、どうやって運搬するの?

 そのままにしておくと危険じゃない」


「私達も、そこがとても気になった。

 だが、それは意外な方法で解決したんだ」


「意外な方法?」


「ああ、そうなんだ。

 一緒に発見された男の子……彼だけは、その杖を問題なく持つことが出来たんだ」


「「ええっ?!」」


 人が消滅する程の不思議で圧倒的な力を持つものを、難なく持てる存在。

 次から次へと驚く話が出て来て、二人は益々困惑していく。


「いったい何者なんですか、その男の子は?!」


「彼の正体は不明だ。

 しかし、彼の協力があったおかげで、私達はグレイスロッドの研究に移ることが出来た。

 今でも彼には感謝しているよ」


「そのグレイスロッドは、結局どんなシロモノだったんですか?」


 ありさの質問に、未来の母は「よくぞ聞いてくれました」と言わんがばかりの表情で答える。


「無限のエネルギーを発する、未知の宝珠を抱える物体、といったところかしら」


「無限の……エネルギー?」


 そこまで呟いたところで、未来は何かに気付いて思わず口許に手を当てる。

 その仕草に、博士が反応する。


「未来は気付いたかね。

 それが、今どのように利用されているかを」


「えっ?! どういうことだよ未来?!」


「――グレイスリング」


「えっ?」


「アンナユニットや、ナイトシェイド、地下迷宮ダンジョンなどに使われているフォトンサーキットよ」


「ふぉと……な、何それ?」


「分かりやすく言えば、エネルギー源ってことね」


「!」


 未来の呟きに、両親は大きく頷いた。


「そして私達は、グレイスロッドの研究に没頭した。

 だが、私達には見落としがあった。

 グレイスロッドと子供達の他に、まだ他にもあったんだ。

 その存在に、気付くのが遅れたせいで――」


「え、まだ他にも?」


「おいおい、それってまさか……」


 思わず身を乗り出すありさに、博士は辛そうな表情を浮かべて反応する。


「そう、それがXENOだったんだよ。

 奴らは、あの子達を狙ってやって来たんだ」





 ミーティングルームでの食事を終え、満足した未来は、ふと窓を見つめる。

 あの日、両親から伝えられた話は、何度も頭の中でリフレインする。


 両親との約束は、ありさと共に今も守り続けている。

 否、とてもではないが、今の状況で皆に話せるような内容ではないと、彼女自身も思っていた。


 あの後、父が言った言葉が脳内で再生される。




『いいかい、未来、ありさちゃん。

 君達が所属している“SAVE.”は、決して正義の集団ではない。

 それどころか、組織としてはXENOを研究する吉祥寺達と変わらない、非合法の集団に過ぎない。

 いずれ君達は、“SAVE.”の手から離れなければならない。

 それも、そう遠くないうちにだ』


『パパ、それは誰か言ったことなの?!

 どうしてパパが、そんな事を私達に言えるの?』


『この先の顛末を聞いたからさ』


『誰に?! まさか、仙川博士?』


『いや違う』


『じゃあいったい、誰?』


『さっき話した男の子だよ』


『何者なの……その子は?』



『――鷹風ナオト、という名前を名乗っている』





(“SAVE.”も一枚岩ではない……パパがそう言っていた。

 けど、今まで“SAVE.”の保護下で生きて来た私には、信じられない話だわ。

 その裏付けを取るなら、私はどうしても彼と話をしなければならない。

 鷹風ナオトと――) 


 思い立った未来は、勢いよく席から立ち上がろうとして……挫けた。


「あ、あうう……お、お腹が……」


「あ~もう、あんなに食べるから」


「未来さん、もう少しゆっくりされた方が」


 心配そうに様子を窺う愛美の横で、ありさは呆れた声で呼びかける。


「あんたの悪い所は、カロリーがーとか言ってるくせに、一度食べ始めると止まらなくなることだよ」


「そ、それを言わないで……」


「基本的に食いしん坊な癖に、無理矢理押さえつけるからだよ。

 本気で痩せたいなら、こっちも本気で付き合ってやっからな!

 おじさんとおばさんにも、あんたの事頼まれたんだし」


「おじさん、おばさん、ですか?」


「ああ、愛美は知らなくていいのいいの」


「?」


「あ、あい……わかりました」


 未来は、素直にありさに従うことにした。


 



 同じ頃、新宿警察署の一角・XENO犯罪対策一課では、司を中心に全メンバーが集結していた。

 

「XENOの出没に関する情報の一部が判明した」


 司の言葉に、場の空気が一瞬で引き締まる。

 いつもはどこかおどけた感じの青葉台も、さすがに表情を引き締める。

 司と向かい合うように座っている高輪は、何処か怒っているような顔つきで、真剣に見つめて来る。


「君達に既に見せた資料にある通り、今後はXENOを使役して犯罪行為を行うグループを“XENOVIAゼノヴィア”と呼称する。

 XENOVIAは、闇バイトという形でXENOの幼体と呼ばれる杯を都内に無差別散布。

 これが覚醒し、動物や人間を捕食する事で急激な変化を遂げたものが、これまでの事件を起こして来たXENOであると考えられる」


「まさか、普通の人間がXENOをばら撒いていたというんですか?!」


 真っ先に声を上げたのは、普段は物静かな金沢景子だった。

 彼女の言葉に、司ははっきりと頷く。


「そうだ、高額の報酬をちらつかせ、食いついて来た者にXENOの幼体が入った冷凍カプセルを渡し、これを都内の様々な場所に配置していたようだ。

 冷凍から解放されたXENOは手近な者に襲い掛かり、そこから事件がスタートするって寸法だな」


「な、なんてことを!」


「課長! じゃあその闇バイトの元締を、一刻も早く特定しなくては!」


 目に見えて憤る高輪に、司は制止するように掌を向ける。


「その件に関してだが、上と相談し、作戦を立てることになった」


「作戦、ですか?」


「そうだ。

 この作戦は、XENOの幼体の確保を目的としたものだ」


「ええっ?!」

「は、犯人逮捕じゃないんですか?!」


 驚く青葉台と高輪に、金沢が先駆けて回答する。


「二人とも落ち着いて。

 仮に売人を現行犯逮捕したって、その者も事情を知らない雇われ人の可能性があるでしょう?」


「え、あ」


「金沢さんのいう通りだ。

 それに、配布しているものがXENOであることが立証されない限り、この情報が真実であるか確証も得られない」


「そ、そんな」


「もう一つ、これは科警研からの要望でもある」


「科警研?」


「そうだ、正確には、栃木県警の科捜研の仇討ちみたいなものだがな」


 以前、栃木県警は吉祥寺研究所の予備施設と思われる“金尾邸”を調査中、XENOワイバーンの襲撃を受けて大勢の犠牲者を出した。

 その中には科捜研メンバーも大勢含まれており、科警研はその際に入手するべき貴重なサンプルを手に入れ損ねた遺恨があるのだ。


「もしこの作戦でXENOの入手が叶い、XENOの研究を実施出来れば。

 警察も、対XENO用の装備を持つことが可能になる。

 ……とまあ、上の連中の考えはこういうことらしいな」


 そう話しながら、司の脳裏に桐沢大の事が浮かび上がる。


 高輪と青葉台は、何処か不満そうな態度だったが、それでも司の話を無理矢理納得することにしたようだ。


「それで、作戦の具体的な内容は?」


 金沢の質問に、司は咳払いを一つして答える。


「所謂おとり作戦だな。

 誰かが闇バイト応募者を装い、カプセル配布者に接近する。

 カプセルを無事回収し、それを持ち帰る。

 内容自体は単純だが、非常に危険を伴う作戦だ。

 現在、あらゆる可能性を考慮して作戦を熟考している段階だが――」

「私が、やりますっ!」


 話が終わるよりも早く、高輪が大きな声と共に挙手した。


「えっ、高輪さん?!」

「何を言い出すのよ、危険だわ!」


「いえ、これは是非私にやらせてください。

 お願いします!」


「高輪さん……」


 あまりにも勢い良く名乗り出た高輪の態度に、三人は動揺を隠せない。

 しかし本人は、引く様子もなく気合に満ちた表情を司に向けて来た。


(ここで、課長にいい所を見せないと!

 だって、そうじゃないと私は――)






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