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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第2章 アンナウィザード・ミスティック登場編
22/225

●第10話【出現】1/2

 美神戦隊アンナセイヴァー


 第10話 【出現】



 薄暗い空間に、響き渡る駆動音。

 鈍い銀色のボディに、オレンジのラインが走る人型メカ。

 それが、専用に設けられたトレーニングエリアにて稼動していた。

 全高は3メートルをゆうに超え、重量は乗用車二台分にも及ぶ。

 それほどの巨体が、まるで生き物のように柔軟に動き、走り、そして飛び跳ねる。

 

『ホイールブレード!』


 女性の声が響き、それと同時に、右手の中に巨大な剣型のツールが現れる。

 更なる激しい金属音を鳴らし、剣の柄から火花が迸る。

 目前に突然屹立した、高さ5メートル程の鉄柱モノリスに向かい、人型メカは激しく斬りつけた。


『てぇいっ!』


 気合と共に、刃渡り3メートルを超えるだろう大型のブレードが鉄柱に炸裂する。

 鉄柱は見事に一刀両断され、やがて空中に溶け込むように消えた。


 だが次の瞬間、人型メカを取り囲むように、今度は十本以上の鉄柱が姿を現す。

 しかも、今度は移動し、じわりじわりと迫ってくる。

 人型メカは、足元に光の粒子をまとわせながら軽やかに旋回し、再び剣を構えた。




「おー、未来ちゃん、今日も頑張ってますねー」


 暗闇の彼方、エレベーターの方角から、若い男の声が聞こえてくる。

 勇次は、顔を向けず横目で声の主を睨んだ。


「遅いぞ、今川」


「ちーっす勇次さん!

 てか、ここ別に定時とか決まってないんだから、いいじゃないですかぁ」


「待ち合わせ時間に一時間も遅れた奴が、していい言い訳じゃあないな」


「てへぺろ☆」


「それリアルで言う奴、初めて見たぞ」


「えっそうっすか?

 オレ、前に言われたことありますよ?」


「誰にだ」


「メグちゃんっす」


 今川と呼ばれた若い男は、何かのゲームキャラがプリントされたTシャツを指で摘みながら苦笑する。


「んで、未来ちゃんは同意してくれました? アップデート」


「あっさりと拒否された」


「んあー、やっぱりねえ」


 やれやれ、というジェスチュアをしながら、今川は手近な椅子に腰掛ける。

 持ち込んだ茶色い紙袋からハンバーガーの包みを取り出すと、徐に開き、がぶりと噛り付いた。


「食事なら休憩室でしろ。

 匂いが移る」


「いいじゃないっすか。

 “地下迷宮ダンジョン”こんなに広いんだから、匂いなんかこもらないっすよ」


「そういう問題じゃないが……まあ、いい。

 それにしても、相変わらずハンバーガー好きだなお前」


「あ、これ知りません? マックドの新作なんですよ。

 “ダイエットバーガー”!

 とある料理漫画とのコラボらしいんですけどね、ハンバーグじゃなくて牛肉いっぱい入ってるんすよ。

 あと、ソフトクリームまで付いて来て」


「こっちは夕べから何も食ってないんでな。

 その匂いが癪に障る」


「勇次さん、はい、あ~ん」


「いらん!」


 勇次に顔も向けられずに拒否られた今川は、くすくす笑いながらハンバーガーに集中する。

 ものの一分もしないうちに食べ切り、「ちょっとしょっぱかったなー」と感想までのたまうと、今川は柵越しに眼下の人型メカの動きに注目した。

 

「さすが練習の賜物。

 未来ちゃん、かなり鋭い動きが出来るようになりましたねー」


「まあな。

 稼動効率は、初回稼動時の十二倍オーバーだ。

 後は、どこかのタイミングで電送テストを行って、飛行訓練をすれば完璧だ」


「――が、それでも、アンナローグの初稼動時の動きには、到底及ばない、と」


 少し呆れたような声で、ぼそりと呟く。

 それを聴き、勇次はようやく今川に向き直った。


「今川! お前、それは」


「言いませんよ、未来ちゃん達には!

 けどねえ、あれだけの差を見せ付けられちゃうと、さすがに」


「うむ……」


 腕組みをして、唸り声を立てる。

 紙袋をくしゃくしゃに丸めると、今川は手近なゴミ箱にシュートインした。

 端にぶつかった紙袋は、転がって柵の隙間から下に落っこちた。


「勇次さんは、どう思います?

 アップデートのこと」


「未来も言っていたが、導入するにしても、再度の稼動実験が必要だろう。

 迂闊に判断して、不具合を引き起こしては意味がないからな」


「ま、そうですけどね。

 それで、ちょっと導入シミュレーションこさえて来たんですけど、見てもらえないっすか?」


「相変わらず、手が早いな」


「へへ、それだけしか取り得ないんで」


 そう言うと、今川は懐から、やたら古めかしいメディアディスクを取り出した。


「お前、またそんな。

 MOドライブなんか、あるわけないだろ!」


「残念! 今回は、スーパーディスクで持って来たんですよ!」


「そんなメディア知らん!

 というか、どうやって開くんだそんなもの!?」


「安心してくださいよー。

 オレの端末に、外付ドライブ付いてるんですから」


「あの、怪しいドライブ山ほど着けた端末、うっとうしいから片付けろ!

 第一、OSが認識するのか、それ?!」


「へっへー、そこをどうにかするのが、オレの特技って奴で!」


 そう言うと、今川は人差し指の先で、器用にメディアディスクをクルクル回転させた。


「これは、未来ちゃんが戻ってきたら一緒に見ましょう。

 その方が、説得もしやすいと思うんd――」



『わかりました。

 すぐに参ります』



 会話を遮るように、突然、未来の声が響く。

 勇次と今川は、驚いて思わず椅子からずり落ちそうになった。


 なんと、人型ロボが空中に浮かび、柵の外からこちらを見つめていたのだ。

 その右手マニピュレーターには、先ほど今川が捨てた紙袋が載っている。


『演習エリアにゴミを落とさないでください、今川さん。

 ターゲットだと思って、思わず切りかかるところでしたよ』


「ご、ごめん、未来ちゃん!」


 ひょい、と手首を回転させると、人型メカは紙袋を二人の居るスペースに放り投げた。

 見事に、ごみ箱にストライクする。

 今川は、つい口笛を吹いて拍手してしまった。


『練習を終わります。

 着替えたら、そこに戻りますので』


「ああ、ごゆっくり!」


 人型メカは、噴射音を立てながら数メートル下のドックエリアへと降りていった。


「やっぱすごいですね、未来ちゃんの操縦精度」


 ゴミ箱を見つめながら、今川が呟く。

 

「そうだな。

 アイツは――極めようと努力しているからな、常に」


「そうっすね。

 やっぱそれって……アレが原因なんですかね」


「……」


 今川の問いに、答えない。

 静かに目を閉じうつむくと、勇次はため息を吐き出した。


「向ヶ丘も、十数分もしたら戻るだろうから、お前は準備をしておけ」


「あいあい」


 待ってましたとばかりに、椅子から立ち上がる。

 勇次が常駐する場所の反対側にある、壁から伸びているエリア。

 そこが、今川義元いまがわ あきちかがリーダーを努める、開発班の専用エリアだ。


 ここからは、徒歩移動だと5分以上もかかるだろう。

 それだけ、この場所は広い。


 暗黒の空間に構築された、機械の人工地下洞窟。

 高さ100メートル、全幅80メートルを超える巨大な空間のあちらこちらに、壁から伸びる20メートルほどの足場が突出している構造。

 そして、それらを取り囲むように配置された、無数のモニタや精密機器。

 剥き出しの配管、照明、そして無数の垂れ下がったケーブル、鋼材が剥き出しになった無数の柱。。

 そしてその底部には、アンナユニットをはじめそれをメンテナンスする為のドックと、広い演習場が設置されている。


 これが、彼ら“SAVE.”の本拠地。



 ――彼らはここを、「地下迷宮ダンジョン」と呼んでいる。





 



 夕刻間際の、渋谷ランプリングストリート。

 元々、センター街や道玄坂ほどの人通りはないエリアではあるが、それでもこの時間に人が殆ど居ないというのは、かなりの違和感を覚えさせる。

 それに、目の前の雑居ビルからは、言葉では言い表せないほどの不穏な「何か」を感じる。

 それはどうやら愛美だけのようで、すぐ横に入る舞衣や、恵には感じられないようだ。


「どうしようか、お姉ちゃん。

 今日はやめとく?」


 恵の言葉に、舞衣が頷く。


「そうね、それがいいかも。

 ごめんなさい愛美さん、今回は出直しましょう」


 そう呟くと、舞衣はスマホを取り出し、どこかに電話を掛け始める。

 その間に、恵が愛美の傍にやって来た。


「ナイトシェイドを呼んでもらってるからね。

 来たら、すぐ乗って帰ろうか」


「は、はい……」


「代わりに、帰ったらメグが愛美ちゃんの好きなご飯作ってあげるから。

 楽しみにしててね!」


「はい、ありがとうございます……」


 恵の申し出も、半分頭に入らない。

 愛美は何故か、あの雑居ビルに注目していた。

 違和感はある、不安も感じる。

 そしてその感覚は、以前どこかで感じたことがあるような、このままにしておけない「何か」に通じている。

 更なる恵の呼びかけにも応じることなく、愛美はいつしか、その雑居ビルの階段に向かって、歩き出していた。

  

「あっ、愛美ちゃん?!」


「すみません、私、ちょっと見てきます」


「え?

 う、うん……」


 愛美は、呆然とする相模姉妹に見送られながら、雑居ビルの階段へと姿を消した。


「愛美ちゃん、いったいどうしたのかなぁ。

 ねえ、お姉ちゃん。

 メグ、なんか悪いことしちゃったかな……」


「そんなことないわよ、メグちゃん」


 少ししょんぼりする恵の頭を優しく撫でると、舞衣は、もう一度四階の窓を見上げる。

 店の明かりは、やはり点く様子はない。


「あれ?」


 突然、恵が声を上げる。


「どうしたの?」


「お姉ちゃん、今気付いたんだけど」


「うん」


「周り、見て!

 ねえ、なんかおかしくない?」


「えっ?」


 恵に言われ、舞衣は改めて周囲を見回す。

 しばらくは気付かなかったが――


「ね、なんか変でしょ?」


「そう、言われてみれば……」


 舞衣は、思わず恵の手を握った。

 周りを何度も見回しながら。

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