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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第6章 アンナスレイヴァー編
216/226

●第127話【過去】


 破壊され煙が立ち上るビルの一角を眺めながら、司はとても無念そうに瞼を閉じた。


 目の前に立つ滝が、不思議そうな顔をしている。

 そんな彼に、司は思い切ったように尋ねた。


「お前が、ここを訪れた理由は」


「どうしたんだ、司?

 さっきも言ったが、俺は買い物に」


「何を買いに来た?」


「え」


 言葉に詰まる。

 二人の間に、重たい沈黙が漂った。


「滝よ、言い当てよう。

 お前の目的は買い物じゃない――相模恵に逢うことだ」


 司の言葉に、滝が一瞬怯む。

 その僅かな仕草を見逃さず、反論の隙を与えずに更に続ける。


「お前は、彼女が特殊な立場にある存在だと知っていた。

 そうでなければ、あの状況でジャケットで顔を隠させたりはすまい」


「いや、それは、あの飛行機に乗るのかと思って」


「どうして、それがわかった?

 普通の人間なら、彼女がまさかあんなものに乗るなんて分かろう筈がない」


 滝の顔色が、はっきりと変わる。

 司は悲しい気持ちを抑えながら、容赦なく更に詰め寄って行く。


「お前は、彼女がどういう存在なのかを、予め知った上で近付いた。

 そこにたまたま俺が居合わせたので、目的が果たせなかった。

 そうだな?」


「ちょっと待て、司。

 俺が初対面のあの子に、いったい何をしようとしていたっていうんだ?」



「――殺すつもりだった、とかな」



 真正面から、冷静で鋭い眼光を向けられ、滝が息詰まる。

 右眉を指先で掻く仕草を見て、司は溜息混じりの煙を吐き出した。


「なんでそんなことを言う?」


「さっき、SNSを確認した。

 今アンナセイヴァーのピンク、赤、オレンジ、黒のメンバーが、個別で刺客と闘っているのが報告されている。

 恐らく、青のメンバーも同じような状況だろう」


「それが、俺とどういう関係がある」


「だが、彼女の所にだけは、刺客らしき者が一向に現れない。

 不思議だと思っていた」


「すまん司、お前が何を言っているのかさっぱりだ」


「いや、お前はわかっている筈だ」


 司はそう言うと、右手の人差し指で自身の右繭を掻く真似をする。


「昔からの、お前の癖だ。

 嘘をつくと、こうして眉を掻く」


「……!!」


「お前が現役だった頃から、島浦も良く知っている。

 滝は嘘がつけない、素直ないい奴だとよく話していたもんだ」



『――さすがは司だな』



 滝の口調が、変わる。

 一段階オクターブを下げたような、重苦しさの漂う声色に、司は無意識に身構えた。


『いつ、俺に違和感を持った?』


「最初に遭った時からだ」



 あの日、二人で飲んだ晩の会話を思い返す。


 

『今日は、少し良いことがあってな。

 それで、久しぶりにお前の顔が見たくなった』



 その日は、滝の家族の命を奪った犯人が、拘置所で自殺を遂げた当日。

 一般には公開されていないこの情報が、一部の警察関係者に伝えられたその日に、よりによって滝が逢いに来た。

 しかも、とても嬉しそうに。

 司は、そこがずっと気になっていたのだ。


「それともう一つ。

 さっきの店での会話だ」


 滝と恵が話し込んでいた時の言葉も、司の心に引っ掛かっていた。



『うん、そうだね。

 でも、もう――終わったんだ、全てが終わった』



 目を閉じ、煙草を指で弾き飛ばす。

 司は、瞳の色が金色に変化した滝の顔を、これ以上見たくはなかった。


『そんな些細な言葉から、お前は』


「いや、最初は正直よくわからなかったさ。

 だがな、ここで出会ってから疑問が確信に変わった。

 滝……あの男の自殺も、本当はお前が関わっているんだな?」


 質問はするものの、その答えは聞きたくない。

 自分の推理が、全て外れていて欲しかった。

 あの人懐っこい笑顔で、肩を叩きながら「何を言ってるんだ」と否定する事を、心の底から望んでいた。


 だが、滝の答えは



『その通りだよ』


「……」


『俺はとうとう、積年の恨みを晴らせたんだ。

 あの憎んでも憎み切れない外道を、とうとう地獄に送り込むことが出来た!

 そりゃあ、お前と飲みたくもなるというものさ』


 彼の周囲に、濃い紫色のオーラが漂い始める。

 あまりの不穏な気配に、周囲に居る客が何事かと不安げに見入って来る。

 司は、そんな彼らに大声で怒鳴った。


「逃げろ! 早く逃げろ!!」


 その叫び声を合図にするように、滝は変身した。


 全身を黒いローブで覆い、尖った頭部、ずんぐりとした丸っこい胴体。

 背後から四本の脚のようなものを生やし、肩からも一対の細い骨のような腕が伸びている。

  顔の位置には真っ白い円形の仮面が着けられており、そこには不気味な表情を感じさせる模様が刻まれている。

 あまりにも不気味なその様相に、さすがの司も言葉を失う。


吾輩わがはいは、ネクロマンサー。

 XENOVIAの幹部であり、死人還りの力を司る存在である』


 滝とは違う、しわがれた不気味な声。

 あまりの展開に冷静さを失いそうになるも、司は必死で堪え続ける。


「お前が、滝に化けていたというのか」


 目にも止まらぬ早業で銃を抜き、構える。

 しかしネクロマンサーは微動だにせず、狼狽えもしない。


『違う。

 吾輩が滝であり、ネクロマンサーそのものである』


「なん……だと?!」


『司よ、よく見るがいい。

 恨みを晴らすために人を辞め、XENOを受け入れ、異形の姿となった者の有様を。

 これこそがXENOであり“XENOVIA”なのだ』


 滝の変身を見て、さすがの野次馬達も悲鳴を上げて逃げ始める。

 屋上の端、誰も居なくなった空間で、二人は対峙し続けた。 


 

 




 美神戦隊アンナセイヴァー


 第127話【過去】

 





(そうだ、俺は幼い頃、ここで親父と暮らしていた。

 特に何もなく、変わったことも起こらない、平凡で退屈な毎日の繰り返しだった。

 だが……それが一番幸福だったんだなって、今では思う)


 大きな山、眼下に広がる田畑、そしてまばらに散らばる人工建造物。

 昔よく眺めていた牧歌的な光景。

 もう記憶の彼方の、忘れかけていた日常。


 凱は、かつての実家を見つめていた。

 今はもうない、失われてしまった筈の懐かしい家。

 彼が七歳の頃まで、亡き父と二人で住んでいた場所だ。

 辺りには誰もおらず、凱はいつしか庭先に入り込んでいく。


 古い和風の造りで、庭に面した部分には大きな軒先がある。

 夏の夜はここで父と座り、西瓜を食べながら語り合ったのを思い出す。


 幻覚だと分かっている筈なのに、圧倒的な懐古感が彼の緊張を麻痺させる。

 しばらくすると、玄関の方から何者かが敷地に入り込んで来るのがわかった。


「凱――」


 囁くような声に、凱は思わずブラスターキャノンを構えた。


「何のつもりだ。

 俺にこんな幻覚を見せて」


 瞬時に蘇る緊迫感。

 そこに立っているのは、アンナイリュージョナーではない。


 凱の良く知る、普段着姿の元町夢乃だった。

 少しサイズの大きいTシャツに、ショートパンツ。

 休みの日に良く着ていたルームウェアだ。


「待って、凱。

 話を聞いて欲しいの」


「今更お前の話を聞く気などない」


「冷たいのね」


 一歩前に踏み出したのと同時に、トリガーを引く。

 しかし、何故かブラスターキャノンは作動せず、弾も発射されなかった。


「な!?」


「ここは、あなたの記憶の中。

 物理的な常識は通用しないわ」


「それはお前の術中にいるからだろう」


「そうだけど、同時に私も、あなたに何も手だし出来ないのよ」


「?」


「話があるのは本当よ。聞いて」


「そんな時間はない」


「心配はいらないわ。

 ここは実際の時間の流れとは無関係だから、現実では一秒も経ってないわ。

 幻覚から覚めれば、あなたはナイトウィングの操縦席に座ってるわよ」


 夢乃の態度が、どこかおかしい。

 先程までの殺気のこもった雰囲気はまるでなく、まるで本物の夢乃と話しているような穏やかな雰囲気すら感じられる。

 凱は奇妙な感覚が拭えないまま、使い物にならないブラスターキャノンを懐にしまった。


「いいだろう、話ってなんだ?」


「座りながら話しましょう。

 ――懐かしいわね、この軒先。

 このおうちが取り壊される前に、一度だけ連れて来てくれたことがあったよね」


「要件だけ話せ」


「……少しくらい、想い出に浸らせてくれたっていいじゃない」


 夢乃は軒先に腰かけ、横の板間に手を置き、座るように促す。

 だが凱は一歩も動かず、一定の距離を空けたまま夢乃を睨みつけ続けた。

 そんな態度に残念そうな顔をすると、夢乃は夜の帳が降り始めた空を見上げた。


「ねえ、凱。

 XENOVIAの目的って、なんだと思う?」


「それが話か?」


「そうよ。凱はどう思う?」


「知らんな」


「そう……。

 多分今の“SAVE.”は、ただ人間を捕食して被害を拡げようとしているだけなんて思ってるんじゃない?」


「……」


 図星ではあったが、表情に出さずに耳を傾け続ける。

 そんな凱を一瞥すると、夢乃は少しせつなそうな表情を浮かべた。


「でもね、それだけじゃないの。

 彼らの目的には“段階”があるわ」


「段階だと?」


「そう。

 最初の無差別殺人は、第一段階。

 これは、XENOをばら撒いた時の世間への影響を調べる実験よ」


「実験、だと?」


「研究施設のやることだからね。どんな事もそこに通じるのよ。

 そしてその中から、高い知性と理性を持つXENO……XENOVIAがどれだけ生まれるかも観察されたわ」


 平然とした態度で、恐ろしい話を告白する。

 だんだん興味が湧いて来た凱は、思わず一歩踏み出して彼女の言葉に耳を傾けた。


「そして、今行われているのが第二段階。

 第一段階でXENOVIAの誕生率が想定を下回る結果だったから、まずは余計なXENO達を整理。

 それと同時進行で、より確実にXENOVIAを生み出す試作を行っているわ」


「より確実に、だと?」


「そうよ。彼らは精神的に追い詰められた人間……色々な意味で限界に達している者を誘惑して、自らの意志でXENOになるよう勧誘しているのよ。

 水道橋の件、渋谷ぱるるや四谷の件、それと今起きている死人還りの件。

 これらは全てキリエ主導で行われている実験の結果、生まれたXENOVIA達によるものなのよ」


「な……」


 夢乃の発言は、これまでの“SAVE.”では絶対に知りようのない情報だ。

 凱は、彼女の会話に出て来た疑問について尋ねる。


「キリエとは、いったい何者なんだ?」


「キリエはね――」


 夢乃は、キリエのことを話し始めた。

 吉祥寺研究所のナンバー2的な位置に居た研究員・桐沢大が転じたXENOVIAで、非常に独善的で自我が強い個体。

 XENOVIA達のリーダーを気取り、今ではあらゆる作戦の指揮を半ば強引に取っている。

 そして、XENOVIAの駆るアンナユニットを作り上げた張本人であることも。


「じゃあ、舞衣やメグ達は、今そいつのせいで……!!」


「そうよ、イリュージョナーもそれで力を得ているわ。

 彼女達“アンナスレイヴァー”は、アンナセイヴァーの数倍の攻撃力と防御力を持っている。

 まともに正面からぶつかっていったら、到底勝ち目はないわ」


(ちょっと待て……こいつの話は、いったい何処に向いているんだ?)


 夢乃の会話内容が、だんだんおかしく感じられて来る。

 これではまるで、敵の情報をリークしているようなものではないか。


 真実かどうかはまだわからないが、その内容は非常に興味深く、また重要そうだ。

 彼女の態度の奇妙さに疑問を抱きながらも、凱は出来るだけ感情を出さないようにしつつ、話を聞き続けることにした。


「ねえ、凱。

 私の任務の内容、覚えてる?」


「井村大玄の息のかかった研究施設へ潜入し、彼らの組織の規模及び目論みの確認と報告。

 そして“千葉愛美”の存在確認と、可能であれば奪取――だな」


「そうよ。

 でも、私は結局、それを何一つ果たせなかった」


 夢乃は俯き、どこか悲しそうな表情で庭先を見つめる。

 そんな彼女の横顔に、凱は胸が締め付けられるような気持になった。


(そうだ……夢乃はたった一人で、誰の手助けも得られないまま井村大玄の組織に潜入したんだ。

 どれだけ心細かっただろう、どれだけ危険な目に遭っただろう。

 それなのに、俺は……俺達は、結局夢乃を助けることなんか、何一つ出来なかった)


 夢乃が相模邸から旅立って行く時の、せつなそうな顔が思い浮かぶ。

 そして今、軒先に腰かける彼女もまた、その時と同じ顔をしていた。


「私、悔しかった。

 せっかく愛美に接近出来たのに」


「だが、お前の報告のおかげで、俺達は彼女に巡り合えた」


「そうだけど――結局、私は殺されてしまったのよ。

 あいつらの素性を、何一つ把握する間もなくね」


 やはり、会話の方向性がおかしい。

 これではXENOVIA夢乃ではなく、まるで本物の夢乃と話しているようだ。


「夢乃、お前はいったい―-」


「最後のお願い、聞いてくれる? 凱」


 そう呟くと、夢乃は立ち上がって凱に抱き着いた。

 不思議と、振りほどく気が起きない。

 凱は戸惑いながらも、なすがままになっていた。


「実はね、私の願いを叶えてくれる人が居るの」


「願いを?」


「そうよ、その人が、近いうちにある行動を起こすわ。

 そうしたら、その人がもたらしたものを、皆で共有して欲しいの。

 そうすれば、私は――ようやく任務を完了出来る」


「おい、いったい何を言って……」


 夢乃の肩を掴み、強引に問い質す。

 そんな態度に、彼女はふと微笑みを浮かべた。


「やっと、私の話を信じてくれたね」


「え?」


 ふと、以前のような優しい声に驚く。

 共に過ごしていた頃の、あの懐かしい声。

 アンナイリュージョナーとは違う、あの……


「凱がお屋敷に来てくれた時ね。

 本当は、抱き着きたかった。

 胸に顔を埋めて、思い切り泣きたかった。

 だから、二人で調査活動をした時、本当に嬉しかったのよ」


 夢乃の笑顔に、儚さを覚える。

 目に一杯の涙を溜めながら懸命に微笑むその顔に、凱の胸がうずく。


「お、お前は……」


「凱……愛してる。

 私には、あなただけなの。

 あの時から、そして今も、ずっと。

 でも――」


「おい、何を言って」



「こうしてあなたと直接話すのも、これが最後」


「夢乃、夢乃なのか?

 お前は本当の……」


「凱。

 舞衣ちゃんとメグちゃんを、大事にしてあげてね。

 私の分まで」


「ゆ、夢乃っ?!」



「最期に、あなたと話せて――嬉しかった」



 夢乃の姿が、掠れるように消える。

 と同時に、実家も、庭も、懐かしい風景もぼやけ始める。


「おい! 夢乃! 夢乃ぉ!!」


 どんなに大きく叫んでも、もう何も帰って来ない。

 完全な真っ暗闇に包まれたと思った次の瞬間、凱はハッと意識を取り戻した。


 ――ナイトウィングの、コクピットの中。


(い、今のは、いったい……?)


 現在位置から、さほど時間は経過していないことを察知する。

 夢か幻か判断がつかなかったが、ひとまず今はアンナセイヴァーのフォローが最優先。


 凱は歯を食いしばり、操縦桿を強く握りしめた。





 炎に焼かれる相模邸。

 家屋は完膚なきまでに破壊され、中庭も原型を留めていない。

 まるで巨大な爆弾が直撃したかのような焼け跡の中に、アンナウィザードとミスティックは倒れていた。


 立て続けに放たれる、アンナイリュージョナーの科学魔法。

 二人はそれを避けることもせず、なすがままになっていた。


 愛する姉を――凱と共に、長年自分達の面倒を見てくれた存在を傷つけることは、彼女達にはどうしても出来ないことだった。


「お、お姉ちゃ……もう、やめて……」


「み、ミスティック! しっかり!」


 ウィザードの腕の中で、ミスティックが遂に意識を失う。

 全身の装甲は各所に破損が起き、一部はバチバチとスパークしている。

 涙を流しながら目を閉じ、絶望に歪む妹の顔を見た途端、ウィザードの……否、舞衣の中で何かが弾けた。


『全然反撃する気ないの?

 じゃあそろそろ終わりにしようか』

 

「――お姉さまっっ!!」


 ミスティックを横たえると、アンナウィザードは、今まで見せたことのないような怒りの表情を浮かべる。

 左腕を伸ばし、前腕を百八十度反転させる。

 前腕部の矢印型の紋章が肥大化し、その一部が変型してウィザードの手の中に収まる。


 長い後ろ髪の中から、金色に輝く「矢」を取り出すと、ウィザードはそれを左手の「弓」につがえた。



“Execute science magic number M-009 "Angelic-arrow" from UNIT-LIBRARY.”


「エンジェリック・アロー!!」



 アンナウィザードが、科学魔法を詠唱する。

 初めて披露する大技に、アンナイリュージョナーは目を剥き硬直した。


『それは……さすがに私には使えそうにないわね』


 右手には金色に煌めく矢が、そして左手には黄金の巨大な弓が。

 真っすぐに伸ばした左の人差し指、その爪から光の粒子が迸る。

 エネルギーの余波が、彼女の周囲の瓦礫を巻き上げていく。

 

「この科学魔法は……あなたには、使いたくない!」


 怒りの表情は乱れることなく、アンナイリュージョナーをまっすぐ睨みつけている。

 片膝をつき、限界まで弦を引くその姿は、まるで戦いの女神を彷彿をさせるようだ。


 しかし、ウィザードの手は震えている。

 頬には涙も流れている。


 そんな彼女の様子に、アンナイリュージョナーは不敵に微笑んだ。 


『撃てるの? あなたに、私が?』


 見下すような視線で、煽る。

 アンナイリュージョナーの右腕のブレスが展開し、科学魔法発動の条件が整う。



“Execute science magic number M-010 "Fire-ball " from UNIT-LIBRARY.”


『ほら、撃ってごらんなさい?

 舞衣、あなたが撃たないのなら、またさっきみたいな特大のが飛ぶわよ?』


 イリュージョナーの右腕に、照準器のように小さな魔法陣がいくつも並ぶ。

 科学魔法「ファイヤーボール」の射出準備。

 あとほんの僅かで発射される、そんな状況になっても尚、ウィザードは弓を放てずにいた。


 手が、腕が、先程以上にがくがく震えている。


「お、お姉さま……夢乃お姉さま……っっ!!」


『いくつになっても変わらない、甘ったれな娘。

 もういいわ、二人とも……この幻覚の世界で、焼き払ってあげる』


 イリュージョナーの右手が、科学魔法を発射する体勢になる。


『ファイヤー――』


 その瞬間、緑色の閃光が二人の間を駆け抜けた。


「てやあぁ―――っ!!」


 それは、アンナミスティック。

 剣の形に変型させたマジカルロッドを構えながら、低空ダッシュで突っ込んでいく。

 アンナイリュージョナーは、完全に虚を突かれる形となった。


『メグ……?!』


「もう、駄目だったらぁ――っ!!」


 ミスティックのマジカルロッドが振り降ろされ、アンナイリュージョナーの右手首を打ち砕く。

 メキッ、という鈍い音がして、手首に嵌められたブレスレットが歪む。

 行き場をなくした科学魔法のエネルギーが、アンナイリュージョナーの腕の中で渦を巻き始めた。


『こ、この――』


 咄嗟に左手でミスティックを打ち払おうとする。 

 だがその瞬間、彼女は突然身を伏せた。

 

 ミスティックの身体で見えなかった向こう側から、激しく輝く何かが飛来する。


 それがアンナウィザードの「矢」だと気付いた時には、もう遅かった。


「フォトンディフェンサぁ――っっ!!」


 ミスティックが、転がりながら科学魔法を詠唱する。

 半球状のフードが出現し、それが姉妹を包み込んだ。



 矢が、アンナイリュージョナーに命中し、激しい爆発を起こしたのは、次の瞬間だった。




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