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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第6章 アンナスレイヴァー編
214/226

●第125話【義姉】


 渋谷の空を駆け巡る、漆黒の小型飛行機。

 そしてその後を追うように飛翔する、青と緑の光。


 その軌跡を視界の端に捉えたアンナパラディンとブレイザーは、猛攻をかわしながらも少しだけ安堵した。


「よし、やっと来たかぁ!」


「頼んだわよ、ミスティック!!」


 R渋谷駅の上空辺りに到着したところで、アンナミスティックが左腕を掲げる。

 前腕の装甲が展開し、光が溢れる。


「行っくよぉ!

 パワージグラットぉっ!!」



“Power ziggurat, success.  

Areas within a radius of 5,000 meters have been isolated in Phase-shifted dimensions.

Checking the moving body reaction in the specified range.

--done.

Motion response outside the utility specification was not detected.”


 一瞬青白い光に包まれた後、渋谷の街から人々の姿が消えた。



 

 




 美神戦隊アンナセイヴァー


 第125話【義姉】

 






 視界が青白い光に包まれたと思った瞬間、突然、外の喧噪が途絶える。

 パワージグラットが施工された事を察した司は、傍に立つ滝を見つめた。


「滝、一つ聞いていいか?」


「どうした司?」


 不思議そうに振り返る滝に、司は酷く深刻そうな表情を向ける。


「お前、あの子とは初対面か?」


「うん? ああ、そうだが。

 それがどうかしたか?」


「――いや、なんでもない」


 何かを言いかけるが、あえて呑み込む。

 破壊され煙が立ち上るビルの一角を眺めながら、司はとても無念そうに瞼を閉じた。





 パワージグラットは、半径五キロという広大な異空間を確保し、そこに敵を含めた九体のアンナユニットを巻き込んだ。

 人が居なくなった為、もう周囲への影響を気にする必要はない。

 アンナパラディンとブレイザーの猛反撃が始まる。


「よっしゃあ行くぜぇ!! どりゃあっ!!」


 先程以上に巨大な炎の塊を拳に宿し、アンナブレイザーのパンチが唸りを上げる。


『はぁっ!!』


 その攻撃を左腕で見事に受け止め、即右腕で掴みにかかる。

 だがアンナソニックの動きを待ち構えていたように、アンナブレイザーは彼女の腕を逆に掴み取った。


「おっしゃ、捕まえたぁ!」


『だから何よ』


「こうすんだよ!」


 アンナブレイザーはその腕をいなし、勢いで前に出たソニックの背後に回り込んだ。

 反撃されるよりも早く、両脇に腕を通してはがい締めにする。

 まだ、拳の炎は消えていない。


『く、くそっ!!』


「お前らの防御力がどんだけ高まったのか、これで試してやるぜ!!」


 そう言うと、アンナブレイザーはソニックを捕まえたまま急上昇し始めた。


『ぬうっ!? な、何するつもりよぉ?!』


「うるせぇ! 今考えてる!」


『な、何だってぇ?!』


「いいから黙って見てな!」


『ソニック!』


 その状況を見て咄嗟に駆け寄ろうとするアンナジャスティスソードの頭上から、超振動の刃が踊りかかる。


「行かせないっ!!」


 だがそれは、突如体を反転させたジャスティスソードの脚で防がれる。

 足首周辺の赤い装甲が、ホイールブレードの剣戟をあっさりといなした。


 と同時に、反対の脚から紫色の光が突然噴き出し、アンナパラディンの左側を掠める。

 あまりにも意外な機転と身のこなしに、一瞬悪寒を覚える。


「これは……アルゴンガス・レーザーブレード?!」


『そうです。あなたと同じキックブレードを装備していますので』


「剣同士の闘いって、そういうのまで含まれるの?」


『そうなりますね。

 元々この装備は、駒沢博士が開発し取り込まれた技術ですから』


「……」


 その名前に、思わず表情が強張る。

 既に分かっている事なのに、やはり現実の残酷さが心に響く。


「はぁっ!」

『ふっ!!』


 全く同じタイミングで、両者が突進する。


 一方、ソニックを捕まえたブレイザーは、


「でりゃああぁぁぁああ!!」


『な、ちょ?! うぎゃああぁぁぁ?!?!』


 なんと、二人の身体は凄まじい速度で回転し、まるで炎の竜巻を生み出した。

 そしてそのまま、道路に一直線に急降下する。


「このまま脳天ブチ砕いてやるぜぇっ!!」


『く、くああぁぁぁっ!!』


 必死で足蹴にするが、この体制からだと殆ど力が込められない。

 それに激しい遠心力が加わり、ソニックの脚が前方に浮いてしまう。


『へっ、もう諦めな!』


 炎の竜巻は突然方向を変え、斜め下に向かって突進する。

 その先には、大きなビルがある。


『うあ――』


 屋上から真っ逆さまに、二つのアンナユニットが落下した。

 大地震のような轟音の後、ビルのあちこちから炎が噴き上がり、あっという間に崩壊が始める。

 濛々と粉塵が立ち込め、ビルが唸りを上げて沈んでいく。


「ブレイザー!!」


 反射的に、アンナパラディンは粉塵の中へ飛び込んで行った。


『この状況で救助ですか?!』


 すかさずアンナジャスティスソードが追いかける。

 だが粉塵の中に入り込んだ途端、どこからともなく高速で回転する巨大な螺旋が襲い掛かって来た。


『くっ?!』


 斜め下から突如襲い掛かる、黄金のドリル。

 咄嗟に避けたものの、今度は反対側からも現れる。

 ドリルが背中の髪の一部を掠め、金属が削がれるような不快な音が響いた。


『なるほど、そういう策でしたか』


 言うほど意外そうではない雰囲気で、アンナジャスティスソードは両腕を交差させると


『システムアウト!』


 と叫んだ。

 と同時に、アンナユニットが解除される。

 空中で実装を解いてしまったジャスティスソードは、そのまま落下し始めた。


「な?!」


 そのあまりにも意外過ぎる対応に、アンナパラディンに一瞬の油断が生じる。

 

 だが次の瞬間、猛烈な風が吹き上がり、粉塵をあっという間にかき消してしまった。

 余りの突風に、何が起きたのかわからない。


 次の瞬間、アンナパラディンの目に飛び込んで来たのは――


「――わ、ワイバーン!?」


 そこに居たのは、以前栃木県警の科捜研を壊滅に追いやった毒竜・UC-13ワイバーンだった。

 銀色に光る鋼のような鱗が不気味に輝き、その巨大な翼が大きな風を生み出す。


「まさか……瞬間的に変態までするなんて!」


『あなた方に勝つために、手段は選びません』


 そう言うが早いか、ワイバーンは大きく口を開くと、喉に巨大な膨らみを作り始めた。

 全身を震わせると、


 ギャボワァァッ!!


 異常なほど大きく拡張させた口腔全体から、濁った液体を大量に吐き出す。

 それがアンナパラディンに直撃した。


「きゃあっ!?」


 回避は間に合わなかった。

 振りかかった液体は、アンナパラディンに直接ダメージを与えることはない。

 だが未来は、その液体が何であるかを瞬時に察した。


「これは――猛毒?!」


 ワイバーンが、ホバリングしたままジャスティスソードの声で話す。


『そうです。

 あなたの身体には、パリトキシンという神経毒が塗布されました。

 あなたが基地に帰還すれば、気化した毒がお仲間の命を瞬時に奪うという寸法です』


「なんですって?!」


『コードシフト――チャージアップ』


 ワイバーンの身体が輝き、再びアンナジャスティスソードの姿に戻る。

 正に一瞬の早業。

 既に勝ち誇ったような笑顔を向け、右腕の剣を構える。


『そして私は、あなたのユニットを適度に攻撃して。

 メンテナンスが必要な状態に仕上げれば良いわけです』


 背筋がゾクッとするような冷たい笑みを浮かべ、アンナジャスティスソードは再びパラディンに飛び掛かった。




 一方、いまだに粉塵を巻き散らしている破壊されたビルでは。


「よし、やったか?!」


 アンナソニックをビルごと叩き潰したアンナブレイザーは、瓦礫を払いのけて外に出ようとする。

 だがその瞬間、とてつもない“音”が周囲に響き渡った。



 Rah――――――――――



「う、うあああああああああ?!?!」


 ブレイザーは、耳を押さえて大きく身体をよじった。

 どこからともなく響き渡る、破壊の音響。

 透明感のある美しい歌声がどんどんオクターブを上げて行き、次の瞬間、アンナブレイザーの視界が大きく歪み出した。

 ビルの窓ガラスは粉々に割れ砕け、コンクリートの壁はひび割れ、砕け、崩れ出す。

 路上に停車していた車は全てのウィンドウが破壊され、次々に横転していく。

 遂にはアスファルトまでひび割れ始め、先程破壊されたビルの一部が粉塵の様に細かく散らばり出した。



 その中から、アンナソニックがゆっくりと浮上する。

 ――全くの、無傷だ。


『ソニックキャノン。

 ――あんた達って、本っ当に学習能力ないねぇ。

 あたしがどんな能力持ってるのか、もう忘れたのぉ?』


 至近距離から音響攻撃を食らってもんどり打つアンナブレイザーに、ソニックは容赦なく音響拳を叩き込む。

 巨大なスピーカーで重低音を鳴らしたような轟音と共に、アンナブレイザーの身体が真横に吹っ飛んでいった。


『このアンナソニックにはね、音響障壁ソニックシールドってもんがあるのさ。

 だから、あんたの小賢しい技ごときでダメージなんか食らうわきゃないのよ』


 見上げた先の光景をズームすると、アンナジャスティスソードとパラディンが剣戟を交わし合っているのが見える。


『さて……と。

 んで、あの黄色いガキの方は今どうなってんの?』


 吹っ飛ばしたアンナブレイザーが起き上がって来ないのを確認すると、ソニックはべろりと舌なめずりをして、空へ飛び立つ。


 だがその瞬間、数百メートル離れたビルの一角が、突如爆発した。






『ま、愛美?!

 あんた、いったい何する気?!』



 アンナデリンジャーの声が、僅かながら恐怖で震えている。

 周囲の大気が振動し、破壊された窓ガラスがビリビリと音を立てる。

 デリンジャーは、目の前で起きている状況が理解出来ず、大いに戸惑っていた。



 アンナローグの全身が激しく発光し、周囲に白銀の光が満ちていく。


 全身を銀色に輝かせながら、破損した部位が次々に修復されていく。

 髪から伸びるリボン・エンジェルライナーが、まるで爆発するような勢いで六本に増殖した。


 額のマーカーが、まるで魔法の紋章を思わせるような形に変化していく。

 そしてその表情は、まるで獲物を狙う獣のような獰猛なそれに変わっている。


 握る拳の隙間からは真っ白な閃光が迸り、足首と背中からは、まるで後光を思わせるようなまばゆい輝きが拡がっていく。


『ど、どうなんてんのよ?!

 こんな情報、貰ってないよ!!』


 狼狽えるデリンジャーをよそに、アンナローグはゆっくりと両手を広げる。

 その動きに沿って銀の光が真横へ伸び、やがて幅広い「剣」の形へと変化する。


 刃渡り三十センチ程の幅広いもので、クリスタルを思わせる半透明の蒼を帯びている。

 銀色に統一された刃の中心、ナックルガードを思わせる大きな鍔、柄は、まるで芸術品のような造形美を誇り、その表面には、美しい唐草模様が浮き彫りで刻まれている。


『や、やばい! なんかヤバいこれ!!』


 アンナローグの放つ闘気に当てられ、デリンジャーは悔しそうな顔でその場を離脱しようと高速離脱する。

 だが、一瞬で追い付かれ回り込まれた。


『いっ?!』


「はあっ!!」


 銀の刃が一閃され、二人の間に光の壁が生み出される。

 その軌道上にあった壁やガラスが、まるで定規で綺麗に測ったように一直線に斬り裂かれた。


 その中には、アンナデリンジャーの右前腕も含まれる。


『あ、あぎゃああああああ?!』


 落下爆散する、デリンジャーハンマー。

 腕を瞬時に切断され、悲鳴を上げて体勢を崩したアンナデリンジャーは、螺旋を描きながら墜落する。

 だが道路に激突するよりも早く、六本のエンジェルライナーを拡げたアンナローグが追い付いた。

 次の瞬間、彼女の身体は常軌を逸した強烈なパワーで掴み上げられ、遥か上空へと投げ飛ばされた。


『い、いぎぎぎぃぃ――っ?!』


 吹っ飛ばされたアンナデリンジャーは、必死で体勢を立て直そうと背面のブースターを全力噴射する。

 しかし、一向に速度は弱まらない。


『な、なんでよ?! なんで――』


 そこに、真正面から銀色の光が突っ込んで来た。


「たあ―――っ!!」


 アンナローグの左腕が輝き、巨大なハンマーを思わせる「手甲」が出現する。

 超高速で接近しながら、銀色の拳が真っすぐに撃ち出された。

 全くの無防備状態で、その一撃を腹部に受けたアンナデリンジャーは、自身の装甲が砕けて行く音を聞いた。

 臓物を捻じられるような激痛が体内に迸り、吐血する。


『ゴフッ!』


 身体の加速が、更に高まる。

 マッハコーンが立ち上り、音速を遥かに越えるスピードで飛ばされたデリンジャーは、もはや何の抵抗も出来ないまま海へと落下していく。

 巨大な爆弾が破裂するような音を立て、数十メートルもの水柱が立ち昇った。






 一方、アンナウィザードとミスティックは、新宿上空をホバリングしながら周囲に気を配った。


 彼女達の周囲を大きく旋回するように、ナイトウィングも偵察飛行を繰り返す。


『夢乃の姿が、こちらでは確認出来ない。

 逃走した可能性があるが、油断するな。

 パワージグラットの世界から逃れられん以上、奇襲を掛けて来る可能性があるぞ!』


 凱の通信が届き、二人の表情がおのずと引き締まる。


「ねえ、ウィザード」


 突然、アンナミスティックが囁くように呼びかけた。


「どうしました、ミスティック?」


「私達……本当に、夢乃お姉ちゃんと闘わなきゃ駄目なの?」


「それは……」


 ミスティックの――否、恵の気持ちは、舞衣には痛い程良くわかる。

 元町夢乃は、二人にとって鉄蔵、凱と同じ大切な家族だ。

 血の繋がりこそないが、幼い時から面倒を見てくれた、かけがえのない存在なのだ。


 生まれてすぐに摩耶を失い、母親が居なかった相模姉妹。

 そんな彼女達の母親代わりになってくれたのが、凱と、夢乃だった。


 物心ついた時には、既に傍に居た。

 凱と共に、相模虎徹と鉄蔵によって引き取られた養子と聞いてはいるが、どういう経緯で相模家に来たのか、詳しい話は知らない。

 それでも、二人は夢乃が大好きだった。

 凱と同じくらいに……そして、女として憧れの存在でもあった。


 だが、そんな彼女が、今では――

 それは姉妹にとって、受け入れがたい現実でしかない。


 背中合わせで空中に立ち尽くす二人は、僅かに虚空を見上げる。


「ねえ、お姉ちゃん」


「ミスティック、今は」


「うん、分かってる。

 でもね、聞いて」


「……はい」


「もしもね。

 もしもあの日、お姉ちゃんが……お家を出て行かなかったら。

 ナントカ研究所ってとこに行かなかったら。

 メグ達、今もみんな仲良く暮らしていられたのかなあ?」


「それは……」


 アンナウィザードには、答えられない。

 舞衣は、以前父・鉄蔵から聞かされた衝撃の事実を思い出す。

 妹の恵にはとても言えない話を。



 元町夢乃と、北条凱。


 二人は、祖父・虎徹の意志の下“SAVE.”の特殊情報工作員チームを編成する幹部候補となるべく、相模家に招かれた。

 相模家が……“SAVE.”が追い求めていたXENO研究の中心人物・吉祥寺龍利きちじょうじたつとしの所在が突き止められ、凱と夢乃に潜入調査命令が下される。

 しかし、当時吉祥寺の許へ忍び込むには女性の方が有利だった。

 その為、夢乃は単身で吉祥寺に近付くため作戦を遂行。

 凱は、そのサポートとして外部での連絡を待ち続けたが――


 舞衣がその話を聞かされたのは、夢乃の生存が確認された後、アンナローグが起動に成功した頃だった。


(全ては、私達の知らないところで話が進んで。

 私達の知らないところで事態が急変してしまった……)


 自分では結局何も出来ず、ただ過ぎ去った出来事を伝えられるだけの生活。

 それが、舞衣にはとてもせつなく、悲しかった。

 アンナユニットを操縦する為の搭乗者パイロットとしての訓練に明け暮れ、それ以外の情報はシャットされていたから。

 

 そして今もこうして、もうどうしようもなくなった事態を知り、それに翻弄される。



 ――夢乃を助けることすらも、出来なかった。



 アンナウィザードは、そっと自分の手を見つめる。


「いつも私達は――手遅れになってから動くことしか出来ないのですね」


「えっ?」


「いいえ、何でもないわ……」


「お姉ちゃん……」



 その時突然、周囲の景色が変化した。



「これは?!」


「おね……ウィザード?!」


「気を付けて! 私から離れないで!

 お兄様! 今――」


 言葉が、そこで止まる。


 アンナウィザードとミスティックの目の前に拡がっている光景は、相模邸……自宅の中庭だった。

 いつもの見慣れた、幼き頃から大好きな庭園。

 いっぱい遊んだ想い出、ゆっくりくつろいだ記憶が、たくさん詰まっている大切なところ。


 いつの間にか、二人はその真ん中に立ち尽くしていた。


「幻覚……?

 これが、アンナイリュージョナーの能力?」


「そんな!

 本当に、お庭に居るみたい……ここ、新宿の筈なのに」


「AIの検索も役に立ちません。

 完全に、術中に陥っているみたいですね」



『そうよ。

 あなた達はもう、完全に私の術に捕らわれているの』

 



 どこからともなく、聞き馴染みのある声が響く。

 それはとても優しく、皮肉にも思える程に、懐かしく。


『私達の懐かしい想い出が沢山詰まっている、この中庭。

 そこで、あなた達は最期を向かえるのよ。

 どう? 素敵なことだと思わない?』


 数メートル向こうに、アンナイリュージョナーの姿が徐々に浮かび上がる。

 

 姉妹の胸に緊張感、そして悲しみが拡がっていく。







「パワージグラットの効果範囲に、アンナチェイサーと敵アンナユニットが含まれていません!」


 地下迷宮ダンジョンのオペレーターの声が、スタッフらの間に衝撃を走らせる。


「なんだと?!」

「どういうことじゃ?!」


「戦闘エリアが大きく外れていた為、アンナミスティックのユーティリティで捕捉出来なかったものと思われます!

 シェイドIIIより映像が送られて来ました!」


 映像が、空間投影モニタに表示される。

 それは丁度、大きな水飛沫を上げてアンナチェイサーが着水する瞬間だった。


 身体から煙を噴き上げながら落下する姿が一瞬映り、ナオトが声を上げた。


「霞ぃ!!」


 すかさず踵を返し、駆け出していく。


「鷹風! 何処へ行く?!」


「良い! 奴は放っておけ!」


「しかし!!」


 焦る勇次に、仙川は額の冷や汗を拭いながら、無理矢理冷静な声色を作って呟いた。


「アンナスレイヴァー……重力波の使い手・アンナヘヴィズームじゃな」


「アンナ……スレイヴァー?」


「蛭田、現地に行くぞ。

 ハウントはもう完成しとるんじゃな?

 乗り込むぞ!!」


「ハウントを?!」


 思わず吃驚する勇次に、仙川は表情を引き締めて向き直った。


「幸い、ミスト……いや、アンナチェイサーの落下地点は、ぎりぎりパワージグラットの効果範囲内じゃ。

 今から、アンナヘヴィズームだけをパワージグラットの並行世界へ叩き込む!」


「そんな事が可能なのか?!」


 目をひん剥く勇次に、仙川は肩にかかる長い髪を払いながら、キメ顔で唱えた。


「その為の新装備じゃろうが。

 ビジョンに搭載されている“ジグラットハンマー”を使う!」


 その言葉に、ティノと今川が顔を上げて反応した。




 “SAVE.”の闘いが始まる――


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