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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第6章 アンナスレイヴァー編
213/226

●第124話【死者】



「「「 仙 川 博 士 !! 」」」 



 摩耶、勇次、ティノの声がハモる。

 そして今川をはじめとするオペレーターチームの面々は、目をひん剥いて注目する。


 肩にかかるほどの長い白髪、豊富に蓄えた口髭、太い眉、そして妙に人懐っこそうな笑顔。

 勇次の肩よりも低いくらいの身長で、着古した白衣と少々ボロついた革靴を履くその姿。


 唐突に現れたその老人――仙川は、皆のリアクションが一段落したのを見計らい、


「ぅエッホン! ほ~、これが完成した地下迷宮ダンジョンかい!

 設計しといて言うのもなんじゃが、なんかこう、悪の秘密基地みたいな雰囲気じゃの♪」


 と、一発かます。

 そんな彼の肩を、勇次が力一杯掴み上げた。


「せ、仙川lぁ!

 アンタまで出て来たのか!」


「おいおい、老人にはもうちょい優しくせんかい」


「ふざけるな! 山ほど課題を残したままとっととくたばりおって!

 今更どの面を下げて戻って来たんだ!!」


「なんちゅう言いぐさじゃい。

 それが仮にも師に対する態度かいのぉ」


「うるさい! アンタには言いたい事が――」

「ちょ、ユージ! 落ち着いて!」

「これが落ち着いt――あがががが!!」


 興奮した勇次をなだめようと、ティノが背後より卍固めをかける。

 信じられないくらいスムーズに決まった技に、思わずその場の全員が見とれてしまった。

 みしみしと、物騒な音がする。


「ハカセ! アンタも死人還りなの?」


 と、その体勢に不似合いな程冷静な声で尋ねる。

 あまりの違和感に、一瞬気圧された仙川だったが、


「あ、ああ、そうじゃ。

 それより、蛭田を放してやってくれ。

 そいつは打たれ弱いんでな。ホレ、もう白目剥いとる」


 と、なんとか返した。


「え? あ、はい」


 ぼてっ。

 哀れ勇次は、悲鳴を漏らすこともなく撃沈した。


「博士! お久しぶりです!

 あなたも亡くなられていたんですか?」


 今度は、頭を下げながら摩耶が声をかけて来る。

 それに頷くと、仙川は勇次の頭をポカリと殴りつけ、喝を入れた。


「うぐ」


「やぁ摩耶さん、久しいのう。

 こんな所でとんだ同窓会になったもんじゃな。

 ――て、そんな悠長に挨拶しとる場合じゃないんじゃ」


 仙川は、その場に居る全員に集まるよう手招きをすると、コホンと咳払いをして語り始めた。


「いいか、良く聞くんじゃ。

 この死人還り、もう気付いておるじゃろうがXENOVIA共の仕業じゃ。

 奴らは、この死人還りの能力で、とんでもない事を行っておる」


「とんでもないこと?」


「ああ、そうじゃ。

 それはな――」

 

 




 美神戦隊アンナセイヴァー


 第124話【死者】

 





 死人還りにより、既に亡くなった人々が帰って来る。

 それは感動の再会をもたらす――だけではなかった。



「お、お前! 死んだ筈じゃなかったのか?!」


『良く言うぜ。お前が俺を殺したんじゃねぇか。

 お~いみんな、聞いてくれぇ!

 コイツは俺を殴り殺して山に遺棄して、俺の名義の金を全部かっぱらってこの会社を立ち上げたんだ!』


「う、嘘だあ! みんな信じるな! コイツの言う事を信じるな!!」


『嘘だと思うなら、俺の死体が埋まってる場所を教えるから警察に通報してくれ!

 場所は――』


「うあああ! 言うな、言うなぁ!!」




『ワシに毒を与えて衰弱死させ、遺書を偽造してまで全財産を独り占めしたのがこの女狐だ。

 絶対に許さんぞ……しかるべき報いを与えてやる!』



『どうして私を捨てて、その女を選んだの?!

 私、死んでも死に切れないよ――』



『ママぁ……どうして……僕を見殺しにしたのぉ?』




 死者の復讐が、始まっている。

 感動の再会の裏側では、騙されて死に追いやられた者、不条理に殺された者、裏切られた者等も復活し、死のきっかけを与えた者を断罪し追い詰め始めていた。

 また復讐だけでなく、権利者が亡くなったことで丸く治まったトラブルが再発したり、酷い時にはそれがまた新たな陰惨な事件を起こす引き金となる場面もあった。


 特に、難事件・未解決事件の被害者が直接裏事情を訴えるケースは多岐に上り、警察や司法機関は酷く混乱に陥っていた。

 また生き返ったとはいえ、死者の発言に信憑性があるのか、証拠となりうるのかという点が各方面で争点となり、これによる混乱も各地各所で多発した。


 当然、SNSなど一般の人々の声が即座に反映される媒体上では様々な議論、陰謀論、主義主張が唱えられ、過去に例を見ない程荒れているといった状況だ。


 こういった事が同時多発的に発生した為、短期間とはいえあらゆる情報メディア過剰なニュースソースの嵐に振り回され、本来の機能を充分に果たせない事態に陥った。


 ほんの数日足らずで。



「――で、これが第二段階ということなの? ネクロマンサー」


 京子が、薄暗い廃工場の事務所で腕組みをしながら呟く。

 不気味な黒いローブを纏った男・ネクロマンサーは、その問いかけに右手を挙げて応えた。


『左様。

 警察内で組織された捜査本部もこれで解体、我々XENOの調査はごく限られた小さな一部門だけが受け持つことになった』


「確かに、たった一月足らずでこれだけの成果を上げるのは大したものね」


『これで我々の動きを追おうとする者共はいなくなった。

 ――きゃつらを除いて、はな』


「アンナセイヴァー、だったかしら?

 気取った名前をつけたものね、贋作の癖に」


 吐き捨てるように呟く京子に、ネクロマンサーは更に続ける。


『吾輩の導いた死者共は、本人の意志に関係なく、見聞きした情報を我々に送って来る。

 警察の動きも、きゃつらの内情も、それで分かるのである』


「そういうことなのね、呆れる程とんでもない能力だわ。

 で、これからどうするの?

 あんたはアンナスレイヴァーと組んで動くらしいけど、具体的には?」



『あの小娘共を、一人ずつなぶり殺しにしてしんぜよう』



 ネクロマンサーの右目が、ギラリと光る。

 その悍ましさに一瞬身震いするも、京子はすぐに満足そうに微笑んだ。


「そう、わかったわ。

 あの贋作共を片付けたら、その後は――」


『無論“SAVE.”の殲滅である』


 ネクロマンサーは、右眉の辺りを指先でコリコリ掻きながら、静かに囁いた。



 ――これが、愛美達が渋谷ヒカリエに向かう前日の夜のやりとりである。





「――というわけでな。

 残念だが摩耶さんや。

 今回の件は恐らく、アンタを通じてあの子達の活動状況が奴らに知れたんじゃろう」


「そ、そんな! 私が敵の手助けをしていたんですか?!

 そんなつもり全然ないのに!」


 青ざめた顔で、摩耶がその場に崩れ落ちる。

 そんな彼女の肩に手を置きながら、仙川は優しい声で続けた。

 

「わかっておるよ、それはやむを得ないことじゃ。

 こうしている間にも、ワシも含めここで交わされている話は全て奴らに筒抜けとなる。

 ワシらの意志とは関係なくな」


「だったら! 益々ここにアンタらを居させるわけには行かないだろうが!」


 憤る勇次を制し、仙川は尚も続ける。


「愚かもんが。

 こういう事もあろうかと、この地下迷宮ダンジョンには思考波を遮断する設備が盛り込まれているんじゃろうが。

 お前も知っとる筈じゃろがい」


 今川が、その言葉に反応して目をパチクリさせる。


「えっ? そんなものがあったの?」


「うん、ここの外装にはなまりの層もあってな」


「えぇ……」


「安直じゃが、効果は抜群じゃぞ?」


 あんぐりする今川にニタリと微笑むと、仙川は摩耶を立たせ、改めて勇次に向き直る。


「蛭田、お前の睨んだ通り、この件は二体の……いや、実際はそれ以上のXENOVIAが関わっている。

 お前達がワシら死人の姿を見ているのも、実態があるように感じているのも、全ては夢乃の与える錯覚のせいじゃ」


「夢乃……元町夢乃が?」


「そう、“絶対幻覚”という能力でな。

 あやつは視覚だけでなく、五感全てを狂わせ実在しない物の感触を感じさせたり、鳴りもしない音を聞かせたり出来る。

 たとえコンピューターが表示した分析結果でも、違った内容に知覚させる。

 術中に嵌ったら最後、自分の意志では決して逃れることは出来ん」


 その言葉に、“SAVE.”のスタッフは冷水を浴びせられたような気分になる。

 だが同時に、勇次の疑問は氷解した。

 死人について多方面で囁かれていた事象は、全てそれに結びついているのだ。


「じゃあ、アンタも」


「そう、今こうして話しているワシの声も姿も、いやさ摩耶さんも、全てはお前達が絶対幻覚で見せられている“幻”なんじゃ」


「そ、そうなの?! 仙川博士!

 でも、舞衣や恵や、凱くんは……」


 仙川の言葉が信じられないのか、摩耶が悲しそうな表情で食い下がる。

 だが、それ以上言葉が続かない。

 

「じゃあ俺達は、ただの幻に教えられているのか?

 ではアンタが言うその情報の信憑性は?」


「そこに、XENOVIAの新幹部・ネクロマンサーという奴の能力が加わっておるんじゃ。

 奴は死者の魂を、現世に呼び戻す事が出来る。

 だからワシらの意志や言葉は、絶対幻覚に関係なく発信出来るわけじゃよ」


「そっかぁ、じゃあ話してる内容自体は本人が喋ってるものなのね?」


「その通りじゃ。

 だからそこは安心せぇ」


「……何故、奴らはそこまで手の込んだことをする必要があるんだ?」


 勇次達の抱く疑問に、仙川は腕組みをしながら妙にテンションの高い口調で応える。


「結論から言うと、“SAVE.”の殲滅じゃな」


「おい!」

「ちょ!!」

「せ、仙川博士ぇ!」


「いやマジじゃよ?

 あやつらはこの混乱に乗じてアンナセイヴァーの討伐、ひいては“SAVE.”の殲滅を狙っとるんじゃて。

 だから、その対策のためにワシがここに来たんじゃないか」


「お爺ちゃん、どゆこと?」


 いまいち主旨が理解出来ていない今川が、仙川に顔を寄せて尋ねる。

 何気なくスッと差し出したチーズバーガーは、笑顔で受け取られた。


「もぐもぐ……なんか昔より小さくなりおったなこれ」


「食べちゃうのかよ、幻の癖に」


「固いこと言いっこなしじゃ。うほぉ、ピクルスたまらんのぉ♪」


「仙川博士、続きを!」


「おおそうか、すまんすまん。

 ――せっかくなんでな、ワシが生前に伝え切れていなかった事を、今ここで伝えておこうと思ってな」


 そこまで話したところで、今までずっと黙っていたナオトが反応する。


「おい仙川、それは――」


「いいんじゃ、ナオト。

 どのみち、いずれは彼らも知っておかなければならない重要なことだ」


「まぁ、お前がそういうなら……」


 随分年齢差がある筈なのに、タメ口で会話する二人に違和感を覚えながらも、勇次は成り行きを見守ることにする。

 そしてティノも今川も、摩耶すらも、黙って先の展開を待つことにした。


「ANNA-SYSTEMの最終アップデートが実行されれば、アンナセイヴァーは最終段階の力を手に入れる事が出来る」


「最強の力だと?」


「ああそうじゃ。

 だが残念ながら、ANNA-SYSTEM自体は、まだその段階に入ろうとせんじゃろう」


「それはどういうことだ?」


「わからんか。

 つまりシステムの判断に関係なく、こちらから強制的にアップデートを行おうって腹じゃわい」


 首を傾げる勇次を一瞥すると、仙川は一瞬ニヤリと微笑んだ。


「今からプロセスを説明する。

 まずは、現時点で未実装のアンナウィザードとミスティックが対象じゃ。

 二人の機体が起動するのと同時に、そこを媒介にしてアップデートマネージャーを組み込む。

 ナイトウィングは現場におるのじゃな? ならばナイトシェイドを通じてこちらから働きかける。

 ……何をしとるか! お前達がやるんじゃ!

 実体のないワシに端末の操作は無理じゃからな!!」


「わ、わかった!」


 途端に、慌ただしくなる。

 仙川の指示に追われ走り出した勇次達を眺めながら、摩耶はただ一人で狼狽えるしかない。

 罪の意識に苛まれ黙りこくっている彼女に、ナオトが声をかけた。


「申し訳ありません、摩耶さん」


「ナオトさん、いったい何が始まろうとしているんですか?

 舞衣や恵や、凱くんは……いったいどうなってしまうんでしょう?」


「それについて、これから詳しく説明します。

 ――かなりショックなお話もしなければなりませんが、お覚悟戴けますか」 


 ナオトの穏やかな、それでいて厳しさの含まれる声に、摩耶は黙って頷きを返した。






 再び、ここは渋谷。



「しょうがないなあ。

 愛美が起きて来るまで、オヤツの時間にしちゃおうかな♪」


 壁が破壊された会議室に、突風が渦巻く。

 するとそこには、実装を解除したアンナデリンジャー……ではなく、搭乗者パイロットの立川もえぎが立ち尽くしていた。


 彼女の背後から、自身の身長をも越えるほどの巨大な“尾”が伸びて来る。

 その先端には、長さが三十センチは悠にありそうな棘が無数に生えており、まるで得物を見定めるかのように怪しく蠢き始めた。


 何が起きているのか事態が呑み込めず、破壊された壁やドアの向こうから窺っている社員達を一瞥すると、もえぎはべろりと長い舌を伸ばした。


「悪く思わないでねぇ♪

 アンナローグがだらしないのが悪いんよ♪」


 そう言うが早いか、頭上まで掲げられた尾の先端から棘がミサイルのように射出された。


 と同時に、眩い閃光が迸る。

 金属の塊が連続で衝突するような音が響き、棘ミサイルは全て打ち払われた。


 もえぎと社員達の間に割り込んだアンナローグが、全て叩き落したのだ。


 アンナローグが、信じられないものを見るような目で、もえぎの姿を見つめる。

 それは、以前一度見たことがあるものだった。


 西新宿で闘った、二体の巨大なXENO。

 アンナセイヴァーが唯一仕留め損ねた敵。

 そのうちの一体“UC-15 マンティコア”……その特徴的な「尾」と同じものが、彼女の背後から生えている。


「愛美ぃ~何よ、その姿♪

 ボロボロじゃないの、そんな姿でど~するつもり?」


 もえぎが指摘する通り、アンナローグの破損状況はあまりにも酷過ぎた。

 左半分の外装が砕け、内部のメカが露出している頭部と顔。

 右前腕を失い、ひび割れが肩まで及んでいる右腕。

 背中の推進装置が剥き出しになり、更に破損によるスパークが飛び散っている後ろ姿。

 そして、自重を支えるのもやっとという状態の、ぶるぶる震えている両脚。

 身体のあちこちの装甲が剥がれ落ちており、もはやその姿はピンク色のメイドではなく壊れかけた機械人形。

 頭から伸びているエンジェルライナーも二本まで減少し、しかしてそれの支持でなんとか立っていられるようだ。

 これ以上戦闘を行うことなど、誰が見ても不可能だ。


 その上でアンナローグは信じ難い現実を突きつけられ、受け入れられずにいた。


「もえぎさん……その姿は……」


「ああこれ? 今更隠す必要もないでしょ」


「もう……取返しのつかないことに……なってしまったんですね」


「そうだよ。

 どう、これで諦めついた?」


 ボロボロな状態のアンナローグを満足そうに眺めると、もえぎは再びブレスレットを掲げる。


「さ、第二ラウンド行こうか。

 チャージアップ!」


 またも光の嵐が巻き起こり、まばゆい閃光に満たされる。

 その迫力に圧されたか、会議室の外に居た連中は蜘蛛の子を散らすように退散していった。

 イエローのコスチュームをまとった少女の姿が映る。

 半分以上ブラックアウトした上、ブレまくった視界に。


「そういえばさ、愛美」


「なんでしょう?」


「こんな時に言うのもアレだけどさ。

 あたしね、あんたの事が大好きだったんだよ」


「もえぎ……さん」


 顔を赤らめ、頬を手で押さえながら、アンナデリンジャーが恥ずかしそうに呟く。


「いつかね、あんたを手に入れたいって、ずっと思ってた」


「え?」


「いつか、あんたをめちゃめちゃに犯して……嬲って、辱しめて。

 あたしなしではいられない身体にしてやりたい。

 そんなことを、毎日思ってた」


「な……?」


「でも、勇気が出なかった。

 あんたの部屋の前まで行ったのに、どうしてもドアをノック出来なくて逃げ帰ったり。

 そんなこと、何度もしてた」


「……」


 もえぎの思わぬ告白に、アンナローグは……否、愛美は心底驚き、身震いした。

 言葉を失い、驚愕の眼差しを向けて硬直する。

 尊敬していた先輩が、苦しく辛いメイド生活での支えになってくれた存在が、まさかそんな事を考えていたなんて。


 エンジェルライナーに支えられていなければ、恐らく気を失って倒れてしまっていただろう。

 だが皮肉にも、こんな限界ともいえる状況が、かえって彼女の意識を持ちこたえさせた。


「でもね、諦めたんだ。

 あの日、あんたと離れ離れになってから」


「もえぎさん、あの……」


 一瞬悲しそうな表情をするアンナデリンジャーに、アンナローグは思わず声をかけようとする。

 だが、



「だから、考え直したんだ。

 必ずあんたを食うって!」



「え?」


「あんたのアンナユニットを破壊して、中身を引きずり出してね!

 それにむしゃぶりつこうって!

 うん、肉も内臓も、骨も血も、ぜぇんぶ残らず噛み砕いて吸い取って♪

 そうすれば、あたしとあんたはずうっと一緒ってことじゃん☆」


「な……」


「じゃあね、愛美♪

 ――もう我慢出来ないから、ここであんたを食いつくしてやるわぁ!!」


 ドンっ! という激しい音と共に、アンナデリンジャーが突進する。

 もうアンナローグには、それを受け止めることも、避けることも出来ない。


 ほんの一瞬、ゼロコンマ数秒の時間。

 右手から炎を噴き出し、加速するアンナデリンジャーを目の当たりにしながら、アンナローグは最後の掛けに打って出た。



「――ボルテック・チャージ!!」



 激しい激突音が鳴り、ビルの一角が爆風と共に吹き飛んだ。


 




 新宿副都心・東京都庁屋上ヘリポート。


 凱と恵、そして夢乃……アンナイリュージョナーと舞衣が対峙する。

 元々は家族だった四人。

 だが今はもう。

 


「夢乃。舞衣を解放しろ」


 ハンドブラスターを構え、眉一つ動かさずに、凱が命令する。

 弾が命中した部分を手でサッと払うと、イリュージョナーは少し困った表情で向き直った。


「凱……一年ぶりの再会なのに、それはないんじゃない?」


「夢乃の姿と声で、馴れ馴れしく話しかけるな」


「冷たいのね。

 妹達の方に気が移っちゃったから?」


 からかうようなその言葉に、凱は躊躇わず発砲する。

 バスンという重苦しい音が二回立て続けに鳴り響き、舞衣は思わず耳を押さえてうずくまった。


「これは――コーキングパンチャー?」


 ダメージは受けていないようだが、アンナイリュージョナーの両腕はグレーの樹脂の塊のようなものに包まれ、上半身ごと固着化しているようだ。

 身じろぎするが、外れる様子はない。

 その隙を突いて、恵が間髪入れずに詠唱し走り出した。


「コードシフト!

 お姉ちゃん!!」


 左薬指のリングが展開し、待機音がリンクする。

 顔を上げた舞衣は、急いで立ち上がった。



「「 クロス・チャージング!! 」」



 姉妹の声が、綺麗に重なる。

 途端に、凄まじい光の竜巻が発生し、凱やアンナイリュージョナーを巻き込む。


「くっ!!」

「ぬうっ!!」


 やがて光が拡散し、その中からブルーとグリーンのコスチュームをまとった二人の少女の姿が現れた。

 即座に、アンナミスティックが左手を掲げる。


「パワージグr」

『待てミスティック! パワージグラットはまだだ!!』


「ええっ!? な、なんで?!」


 突然飛び込んで来た地下迷宮ダンジョンからの通信に、動きが止まる。

 少し焦り気味の勇次の声が、更に補足する。


『アンナセイヴァー全員が、渋谷を中心に戦闘中だ。

 しかも、敵は全てアンナユニットだ。

 ミスティック、これを全員まとめてパワージグラットで送り込め。

 出来るか?』


「え、ええ~?!

 そ、そんなのここからじゃ無茶だよぉ!」


『ナイトウィングに付いて飛ぶんだ!

 ユーティリティが使える場所まで誘導する。

 凱、行けるか?!』


「夢乃が目の前に居る」


『……なんてことだ』


「お任せください。

 ――インヴィジブルビジョン!」



“Completeion of pilot's glottal certification.

I confirmed that it is not XENO.

Science Magic construction is ready.MAGIC-POD status is normal.

Execute science magic number M-005 "invisible-vision" from UNIT-LIBRARY.”



 アンナウィザードが科学魔法を使用した途端、三人の姿がかき消えるように消滅する。

 ようやく拘束を解いたアンナイリュージョナーは、何も言わずに、その場から飛び立っていくナイトウィングを見上げた。

 その表情に、悔しさや憤りの感情はない。


「そんなので逃げ切れるつもりなのかしら」


 フッと鼻で笑い、ふわりと空中に浮かび上がる。

 背中と腰から光の粒子を噴き出し、いざ飛翔――という時点て、突然ブーストが停止した。

 と同時に、凄まじい頭痛が襲い掛かる。

 思わず頭を抱え、アンナイリュージョナーはその場で動きを止めてしまった。


「くっ――また、邪魔を!!」


 空中に浮いたまま、顔をしかめて舌打ちをする。

 もうナイトウィングは、遥か上空に消えて行ってしまった。




 パワージグラットが施行されたのは、それからおおよそ五分後のことだった。



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