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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第6章 アンナスレイヴァー編
211/226

●第122話【幻惑】


「ふふ♪ やっと逢えた、アンナローグに」


「もえぎさん……どうして……」


挿絵(By みてみん)


 ピンク色と黄色のアンナユニットが、渋谷の上空で対峙する。


 猫耳を思わせる、頭部側面に大きく張り出した機器、肩の裏側から伸びている四本の長いリボン。

 そして、不釣り合いな程無骨でごつごつとしたメカニカルな右腕。

 これまでのアンナユニットとは全く異なるアンナデリンジャーの姿に、アンナローグは大いに戸惑っていた。


 そしてそれを身に着けているのが、心の底から尊敬している人物だという現実にも。


「さぁ行くよ、愛美! 覚悟しな!」


「待ってください、もえぎさん! どうして私達が――」


 言い終わらないうちに、激しい衝撃が身体を貫く。

 重い鋼鉄の塊同士が、高速で激突するような轟音を響かせ、アンナローグはあっさりと吹っ飛ばされてしまった。


「くぅっ!!」


 肩のアクティブバインダーと、腰部のヴォルシューターを全力で噴射し、なんとか耐え忍ぶ。

 だがようやく反動を制御したアンナローグに、再び攻撃が炸裂する。

 インパクトの瞬間、満面の笑顔を浮かべているアンナデリンジャーの顔が目に映った。


「うりゃあっ!!」


「きゃあっ?!」


 またも激しく殴打され、横一直線に吹っ飛ぶ。

 ヒカリエの高さが幸いしてか、今のところ周辺のビルに被害が及ぶ様子はない。

 しかし、一瞬で距離を詰めて息をつかせぬ連続攻撃を仕掛けるデリンジャー相手では、被害拡大は時間の問題だ。

 アンナローグは、かろうじて三撃目をかわして体勢を整えると、エンジェルライナーを伸ばして前面にシールドを形成した。

 そこに、アンナデリンジャーの右パンチが命中する。

 エンジェルライナーは、その衝撃で解除されてしまった。


「くうぅっ!!」

(そんな……シールドを貫通して衝撃波が?!)


「甘いよ愛美!

 そんなもんで、このデリンジャーハンマーは防げないよぉっ!!」


「えっ?!」


 アンナデリンジャーの右腕、黒くごつごつした手甲の側面が展開し、炎が噴き上がる。

 それを視認した次の瞬間、先程とは比較にならない速度のパンチが襲い掛かって来た。


「ま、間に合わな――」


 エンジェルライナーが再度シールドを形成するよりも早く、アンナデリンジャーは懐に飛び込み、アンナローグの頭にストレートパンチを命中させた。

 

「きゃあぁぁぁっ!!」


 爆発音と共に、装甲が激しく損傷する音が聞こえる。


 アンナローグの身体が路面に叩きつけられたのは、その僅か一秒後だった。

 

 




 美神戦隊アンナセイヴァー


 第122話【幻惑】

 





 舞衣と夢乃が喫茶店に入った頃、急に店内が騒がしくなった。

 多くの客が、窓の外を見て何か騒いでいる。

 一部の店員すらも、仕事の手を止めて観に行っている程だ。

 小首を傾げながら席に座ろうとした舞衣は、一瞬、窓の外を高速で横切る物体を見止め、声を上げた。


「あれは……アンナユニット?」


「あの子、先走ったわね」


「お姉さま?」


「舞衣、場所を変えましょう」


「えっ? で、でも」


「大丈夫よ、すぐだから」


 そう言うと、夢乃は右手を上げて指を鳴らす。

 その瞬間、舞衣の周辺の景色が、突然変化した。

 強烈な突風が、横から叩きつけられる。


「きゃあっ!! ――えっ? こ、ここは?!」


 舞衣が立っているのは、どうやらどこかのビルの屋上のようだ。

 足元にはグリーン地に黄色いラインが施されたヘリポートがあり、彼方にはもう一つ同じような形のビルが隣接しているようだ。

 舞衣は、即座にそこが何処かを理解した。


「ここは……まさか、都庁?!」


「そうよ、よくわかったわね」


「どういうことですか?! 私達は、さっきまでヒカリエに居た筈なのに!」


「そうよ。

 私が連れて来たの。一瞬でね♪」


 少し離れた位置で佇みながら、夢乃は優しく微笑む。

 しかし舞衣には、その微笑みがすこぶる不気味に感じられた。


「いったい、何をなさったのですか、お姉さま!」


「テ・レ・ポ・ー・ト」


「テレ……えっ?」


 人差し指を振りながら、夢乃がどこかふざけた態度で答える。


「ほら舞衣、あなたが吉祥寺研究所の地下から脱出した時に使ったアレと同じよ。

 もっとも、私達の方がもっと気軽で便利に使えるんだけどね」


「意味がわかりません……それに、どうしてそのことを?」


「だって私、あの時あそこに居たんだもの」


「え?」


 突風が吹く中、バサバサと強烈に靡くスカートを必死で抑えながら、舞衣は必死で冷静さを取り戻そうとしていた。

 だが、気付いた。

 何故、この風の中で、離れた場所に居る夢乃の声が明確に聞こえて来るのかという違和感に。


「どういう……意味なのですか?」


「舞衣が、たった一人で一生懸命に闘ったXENOが居たでしょう?」


「え……」


 夢乃が言っているのは、井村大玄が変態したというXENO「UC-16:ベヒーモス」のことだ。

 アンナローグに倒されたにも関わらず、何故か復活して襲い掛かって来た存在。

 舞衣はアンナウィザードとして、単身これを撃破したのだが。

 (→第四章75話【流星】参照)


「どうして、お姉さまがその事を?

 あの場に居たというのは、どういうことですか?」


「あなたがあの時闘ったXENO、倒したら消えちゃったでしょ?

 どうしてかわかる?」


「いえ……」


「アレはね、私が生み出した“幻覚”なの♪」


「?!」


「あれで、アンナウィザードの能力や性能、闘い方はだいたいわかったわ。

 ありがとうね、舞衣。

 あなたのくれたデータのおかげで、私は新たな力を手に入れることが出来たのよ」


「仰ってる意味がわかりません!

 どうしてお姉さまが、あんな場所におられたんですか?

 それに、幻覚って……それに、どうして私がアンナウィザードだって――」


 狼狽える舞衣に向かって、夢乃は突然高笑いをし始めた。

 とても愉快そうに。


「あはははははは♪」


「お姉さま?!」


「ごめんごめん、舞衣があんまりにも素直過ぎるから、思わず笑っちゃって♪」


「……」


「ちゃんと種明かしするわね。

 今の私の名前は“イリュージョナー”。

 能力は、五感全てを惑わすことが出来る“絶対幻覚”を操るもの。

 ――こんなとこかしらね」


「絶対……幻覚?!

 お姉さま、それはいったい……」


「もしここが、私の見せている幻覚だったとして」


「!!」


「舞衣には、これを打ち消す方法はない。

 たとえアンナウィザードになれたとしても、ね」


「そんな……それじゃあ、まるでお姉さまは……」


 舞衣の顔に、絶望の色が宿る。

 そんな事が出来る存在は……間違いない。

 夢乃は、もう――


「もっとも、今の舞衣は実装も出来ないわけだけど」


「!!」


 その言葉に、ハッとする。

 舞衣は、咄嗟に左薬指のリングに手を触れた。


「その指輪、凱に着けてもらったの?」


「―-はい」


「この、泥棒猫」


「そ、それは!!」


 突然、夢乃の表情が険しくなる。

 右足を一歩踏み出すと、彼女のパンツの裾から金色のアンクレットが覗く。

 妙にアンバランスな、大きなストーンを着けたアンクレットが。


「もうわかったでしょ?

 私が舞衣に接触を図った理由」


「私に、実装をさせないため、でしょうか?」


「そうよ♪ ご名答!

 本当に舞衣って頭いいわよね。

 そういうところ、大好きだったわよ――昔はね」


「お姉さま……」



「――コードシフト」



 夢乃が、ぼそりと呟く。

 と同時にアンクレットのストーンが展開し、不気味な待機音が鳴り響いた。

 舞衣の顔が、青ざめる。


「!! ま、まさかお姉さままで?!」


「今から素敵なものを見せてあげるわね」


「こ、コードシフト!」


「メグがいないのに無駄じゃない?

 ――チャージアップ」


 夢乃が、髪に手を当てながら囁く。

 すると、彼女を中心に猛烈な光の竜巻が発生した。


「きゃあっ?!」


挿絵(By みてみん)


 先程までの突風とは比較にならない、嵐のような風。

 目も眩むような閃光が幾重にも重なり、やがて天空を突く柱のように屹立する。

 それが徐々に細く弱まって行くと、一人のシルエットを浮かび上がらせた。


挿絵(By みてみん)


 濃緑色のスーツにパンツ、パンプス。


挿絵(By みてみん)


 すらりとした体躯を包むブラウスに、両手首に嵌め込まれた黄金のブレスレット。


挿絵(By みてみん)


 そして、側頭部に装着されたインカムのような機器。


 豊満な胸の下に装着された小さな機械を見て、舞衣は確信し、同時に戦慄した。



“Switch the system to fully release the original specifications.

 Each part functions normally, and the support AI system is all green.

 Reboot the system.


 ANEX-03I ANNA-ILLUSIONER, READY.”


挿絵(By みてみん)


「アンナ……ユニット……?」


「そうよ、これが私の新しい姿。

 ――アンナイリュージョナー」


「アンナ……イリュージョナー……?」


「もっと面白いものを見せてあげる」


 そう言うと、夢乃――否、いまやアンナイリュージョナーとなってしまった彼女は、ゆっくりと右腕を前にかざす。

 シャキン! と鋭い金属音が鳴り響き、手首に畳まれていたブレード状のパーツが展開する。



「マジカルショット」


“Completeion of pilot's glottal certification.

Science Magic construction is ready.MAGIC-POD status is normal.

Execute science magic number M-001 "Magical-shot" from UNIT-LIBRARY.”



 聞き覚えのある詠唱が木霊する。

 と同時に、アンナイリュージョナーの右掌の上に光の珠が発生する。

 それを見た舞衣は、反射的に身を伏せた。

 光の珠から、無数の“光の矢”が射出された。


「きゃあぁぁぁぁぁっ!!」


 舞衣の悲鳴は、何度も重なる爆発音にかき消された。


(そんな……あれは、科学魔法……!!)





 一方その頃、都内上空を二体の光が飛翔していた。

 赤い光と、オレンジの光。

 

「くそ、また渋谷かよ!」


「どういう事なの?! まるで舞衣達が出かけることが事前に分かっていたような」


「あ~、もうどうだっていいや!

 行くぞパラディン! 早く愛美達を助けなきゃ!」


「ええ!」


 渋谷ヒカリエの姿がはっきりと見え始めたその頃、突然、目の前に眩い閃光が迸った。


「何ッ?!」


「攻撃?! どこから?!」


 直撃は免れたものの、一瞬で凄まじい攻撃を仕掛けられた事はわかる。

 辺りをきょろきょろと見回していると、上の方から何者かが声を掛けて来た。


 否、正しくは――二人の通信に、割り込んで来た。



『こちらでございます』



「えっ?!」


「まさか……待ち伏せされた?!」


 

 二人の上空およそ二十メートル程の高さに、誰かが立っている。

 というよりも、空中に浮かびこちらを見下ろしているようだ。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


 赤い髪、スーツ、 青い手甲、そして右前腕に固定されたシールドとそこから伸びる刃。


 アンナブレイザーと同じ、真っ赤なアンナユニットが、そこに居た。


「アンナユニット……だと?!」


「まさか、新たなXENOの――!!」



『お久しぶりですね。

 いつぞやの西新宿の時以来でしょうか』



 優しく丁寧な物腰で囁きかける声。

 二人には、それがかえって気味悪く感じられた。


「こちらには、あなたに見覚えはないのだけど?」


『そうですね、当然かと存じます。

 あの時、私はこのような姿ではありませんでしたので』


「どっちにしろ、XENOなんだろてめぇ!

 あたし達の邪魔しに来たのか!!」


『うふふ』


 赤いアンナユニットの女性は、不敵に微笑む。

 それと同時に、アンナパラディンとブレイザーに、凄まじい圧力のようなものが襲い掛かって来た。


「ぬ……!!」


「くぅ……っ?!」


 それは、攻撃ではない。

 巨大な翼を広げた“竜”のようなものが、真っすぐこちらに突進してくるようなイメージ。

 それが圧倒的な殺気となり、二人は気圧されてしまったのだ。


「あの時の……ワイバーン?!」


「えっ?! こいつが?!」


『はい、私は“アンナジャスティスソード”と申します。

 いつも愛美がお世話になっております』


挿絵(By みてみん)


「な、なんだって?!」


「まさかあなたは、愛美の――」


 アンナパラディンの呟きに、アンナジャスティスソードは、不気味な程穏やかな微笑みを浮かべて頷く。


 その次の瞬間、彼女は突如急降下して、二人に襲い掛かって来た。




「うわぁ~♪ 美味しそう!

 司さん、ありがとう♪」


 目の前に提供されたホットサンドを見て、恵は目を輝かせた。

 それを見つめながら、香り高いコーヒーとアールグレイティーを啜る司と滝。

 二人の笑顔は、多少ひきつっているが。


「ああどうぞ、遠慮なく」


「いただきまぁす♪」


「メグちゃん、と言ったね。

 お昼まだだったんだ」


「うん♪

 でもぉ、ごめんなさい! メグわがまま言っちゃったから……」


「気にしなくていいんだよ。

 この司って男は、太っ腹なんだから」


「おい、滝」


「お代わりもいいぞ」


「ホント?

 でも、次はメグが自分で払うねー。

 ん~、美味しい♪」


「次って、お代わりいけるのか」


 恵の胃袋の秘密を知らない司は、呆然とした表情で美味しそうにホットサンドを食べる彼女の様子を見つめる。

 本来、彼女に追求するつもりだった“SAVE.”の詳細と、相模家の関りに関しては、部外者・滝の同席によって不可能となった。

 代わりに、今の状況でも何か聞き出せるものはないものかと、司は腕組みをしtながら熟考する。

 その間、滝が恵と親しげに会話をし始めた。


「おじさんにも子供が居てね。本当なら今頃、君と同じくらいの年齢だった」


「だった、って?」


「ああ、死んじゃってね」


「えぇ……そ、そんなぁ」


 途端に、恵の明るい表情が曇り、みるみるうちに目に涙が溢れる。

 その変化に慌てたのか、滝は両手を振ってうろたえた。


「ごめん、いきなり変な話をしちゃったね。

 君を泣かせるつもりじゃなかったんだけど」


「でも、可哀想だよぉ……おじさん、寂しかったでしょ?」


「うん、そうだね。

 でも、もう――終わったんだ、全てが終わった」


「そうなの?」


「ああ、そうさ。

 もう、今は気持ちの整理がついてる」


 慌ててフォローするも、恵は食べる手を止め、とても悲しそうな目で滝を見つめる。

 司は、二人のやりとりを見つめながら、思い返していた。

 滝の捕えた犯人は、先日獄中で自死しているが、これはまだ公にはされていない情報だ。

 もし、この話を滝が知ったら、どう思うだろうか。


「あのね、おじさん?」


「なんだい?」


「あのね、もしもの話ね?

 もし、亡くなられたお子さんが逢いに来てくれたら、やっぱり嬉しい?」


 恵が言いたいのは、死人還りのことだろう。

 その質問に、滝は短い嗚咽を漏らし、言葉を止める。


「あ、ご、ごめんなさい!

 メグ、変なことを聞いちゃって!」


「いや、いい……いいんだ。

 そうだね、逢いたいよ、とっても。

 息子と妻に、とてもね……」


「え、奥さんも?」


「メグちゃん、それ以上は」


 司が、唇に人差し指を当てて制止する。

 それに反応して言葉を止めた恵に、滝は手を軽く振って見せた。


「構わないよ。

 でもね、私のところには……来てくれないんだ」


「そうなの? どうしてだろう」


「色々理由があってね」


「でも、そんなの可哀想!

 じゃあメグ、おじさんの所に奥さんとお子さんが来てくれるように、お祈りしてあげるね!」


 そう言うと、恵は滝の手を両手で包み込み、そっと目を閉じる。

 その光景に、二人は思わず目を奪われた。


「――滝のおじさんが、ご家族に逢えますように」


 恵の頬に、涙が一筋零れる。

 それを見た滝は、ハッとして顔を上げた。


「ねえ、メグちゃん」


「はい?」


「君にも、逢いたいと思う人はいるかい?」


「うん! ママとおじいちゃん!

 でもね、実はママはもう帰って来てるの!

 今ね、おうちにいるんだよ」


「そうなのか。それは良かったね」


 零れた涙を拭きながら、懸命に笑顔を作って答える。

 そんな彼女の姿に、司は何とも言い難い感情を抱いた。

 そして、滝も。


「あ、でもね。

 もう一人いるんだぁ」


「誰だい?」


「こずえちゃん!

 村越こずえちゃん! 小学生の時のお友達なの」


「お友達?」


「うん、あのね――」


 恵は、語り出す。




 相模姉妹がまだ小学校に入学したばかりの頃。


 恵の同級生に、村越こずえという、いつも一人ぼっちの少女が居た。

 大人しく引っ込み思案なせいか、自分から旨く話しかけられず友達が作れないようだった。


 だがこずえは、恵にだけは何度も懸命に話しかけてくれた。

 しかし当時の恵は、彼女にそこまでの親しみは感じておらず、誘われても家に遊びに行くことなどはなかった。

 決して嫌いではなく、学校では仲良く遊んだりもしたが、ある程度以上踏む込むことはなかった。


 そんなある日、突然、こずえが転校することになった。

 一緒に遊んでくれた数少ない友達ということで、その子は恵にお礼を言い、ずっと忘れないでねとお願いをして来た。

 そして恵も、その願いに頷いた。

 きっといつか、また逢える日が来ると信じて。



 だが、後日。

 恵は、こずえの訃報を知らされた。

 

 生徒達達には知らされていなかったが、彼女は不治の病に冒されていた。

 余命もあと僅かと診断されていたが、本人の希望で、出来る限り学校生活を楽しんでいたのだ。

 しかしそれも限界が近づいたことで、最後の手術を受けるために、長期入院を余儀なくされたのだ。


 もしかしたら、恵を一番の友達と思っていたかもしれない彼女は、もう二度と逢えない存在となってしまった。

 恵は大きなショックを受け、それから数日の間、ひたすら泣き続けた。


 もっと、仲良くしてあげれば良かった。

 おうちに遊びに行って、楽しい時間を過ごせば良かった。

 自分も、大事なお友達だと思ってあげるべきだった。


 子供を失ったご両親は、どれだけ悲しんだだろうか。


 そんな事を何度も思い返し、そして後悔した。

 心の中で、こずえに幾度も詫びた。

 拙いコミュニケーション能力を精一杯に駆使して、勇気を振り絞って誘ってくれた彼女の気持ちを、踏みにじった自分が憎かった。

 どうして彼女を友達と認めてあげなかったのか、己の我が侭、傲慢さが許せなかった。


 恵が積極的に友達を作るようになったのは、それからしばらく経ってからだった。



 いつしかまた、恵の目に大粒の涙が溢れた。


「逢いたい……こずえちゃんに、また逢いたいよ。

 逢って、ごめんなさいって謝りたいの。

 メグ、本当に悪い事しちゃったから……だから……」


 涙の雫が、ぽたぽたとテーブルに落ちる。

 それを黙って見つめている二人の男は、どう言葉を掛けてやるべきかと戸惑った。


「なあ、メグちゃん。

 君もその友達に逢えるように、私が――」


 滝がそこまで話した時、急に店内が騒がしくなった。


「なんだ、どうしたんだ?」


 客も店員も、窓の外に注目している。

 中にはスマホで何かを撮影している者までいる。

 その様子に、司は閃いた。


「メグちゃん、もしや――」


「えっ? えっ?」


 急に声を掛けられて戸惑う恵のハンドバッグに、振動が迸る。

 慌ててスマホを見ると、それは凱からの連絡だった。


「もしも――」


『メグ! 今何処にいる?!』


「え? え? ひ、ヒカリエの11階だよ?」


『無事か、何事も起きてないんだな?』


「う、うん! どうかしたの?」


『XENOのアンナユニットが現れた!』


「ええっ?!」


『それで、舞衣は何故か都庁の屋上に居るようだ!

 向かえに行く! 屋上に出られるか?!』


「え? え? なんで? なんで新宿に居るのお姉ちゃん?!」


『急げ! 屋上に行くんだ!』


「は、はい!」


 電話を切ると、恵は司の袖を引っ張り、無言で頷く。

 その仕草から察したのか、司も黙って彼女を見送る。


「これは……最近話題の女の子達か?」


「ああ、そのようだ」


 窓に近付くと、二人は上空で展開する状況を眺めた。

 無意識に、息を呑む。

 階下で激しい衝突音が鳴り響き、アスファルトの道路が陥没したのは、その直後だった。


「今のは――」


「まずいなこりゃあ。

 司、巻き込まれないうちに早く避難した方が良い」


 そう言いながら、滝は右眉の辺りをコリコリと掻く。



 そして司は、眉間に皺を寄せた。




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