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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第6章 アンナスレイヴァー編
209/227

●第120話【露見】

 

 机の上に無造作に置かれた茶封筒。

 司は、その中に収められていたとある資料に目を通していた。


 以前、情報屋に依頼した調査の報告書だ。

 (→第五章104話【復讐】参照)



 情報屋の名前は、クインビー。


 以前一度だけ、新宿中央公園で合ったことがある女子高生風の恰好をした女情報屋。

 合間に仲介を挟んだため、費用が思った以上に高くなってはしまったものの、その分緻密な情報が届いた。

 随分時間がかかっているなとは思ったが、それも納得の内容だった。


(あの子、見た目の印象に反してかなり丁寧な仕事をするな)





『調べて欲しいことがある。

 北条凱、という人物の情報が欲しい。

 特に家族関係や交友関係とか、出来るだけ細かく。

 ――わかってる、依頼料は次回までツケといてくれ』





 以前、“SAVE.”との打ち合わせで並行世界に移動した際、同席したアンナミスティックの些細な発言に注目した司は、井村邸探索時に接触した人物・北条凱を手掛かりにある事を調査することを思いついた。


 郵送されて来た資料は非常に分かりやすくまとめられ、司が欲しいと思っていた情報の殆どが組み込まれており、内容構成としては完璧に近い。

 しかし、情報内容そのものには、いくつかの疑問点があった。


 調査報告書によると、同性同名の人物は幾人か居るものの、司が提示した条件に合致する「北条凱」という人物は三名。

 だが該当者の年齢や居住地、生没年などを見る限り、いずれも司の知る「彼」と合致しそうなものはなかった。

 クインビーも、この三名が司の云う人物と異なる事を察していたようで、それ以上の突っ込んだ調査は行っていない。


 代わりに、もう一点興味深い「北条凱」の存在をキャッチしていた。


(二十四年前から、消息不明?)


 四人目の北条凱は、今から二十四年前、十二歳以降の記録が途絶えている。

 この五年前に唯一の肉親だった父を失い、遠い親戚の間をたらい回しにされていたようだ。

 北条凱少年の生死を含めた消息はここで途切れ、以後は不自然なまでに情報がない。


 その一方で、気になる人物の情報が追記されている。



 ――相模凱さがみ がい



 こちらは二十四年前、突然湧いて出た存在。

 この人物は北条凱とは逆に、十二歳以前の記録が全くない。

 ある日突然、とあるタイムラインにいきなり登場するのだ。

 以降、この人物はとある大企業を営む名家の一員として存在し、現在に至っている。

 だが現在の職業・経歴・活動情報などは一切不明。


(なるほどな、恐らく養子として引き取られたというところか

 良く突き止めたな、クインビー)


 北条凱の父は亡くなっており、その交友関係上に挙がった“相模”の名に目を付け、情報を導き出したようだ。

 その手際と情報収取能力に舌を巻きながら、司は更に資料を読み進めて行く。


 そして資料の最後のページには、北条凱→相模凱と深く関りがあると思われる、相模家のおおまかな情報も記されていた。


 世界的大企業・相模重工株式会社を運営する、相模グループの長・相模鉄蔵。

 これが、恐らくは二十四年前に北条凱を養子として引き取った人物。

 その家族一覧の中に、司は気になる名前を発見した。



相模恵さがみ めぐみ……めぐ、メグ……か」




『あとね、このシフォンケーキはメグが作ったんだよ』


『君のお手製のケーキかい? それは嬉しいね』


『うん♪ そうだよぉ、いっぱい食べてね!』




「繋がったな」


 ニヤリと微笑むと、司は読んでいた資料を伏せ、封筒に押し戻した。


 

 




 美神戦隊アンナセイヴァー


 第120話【露見】

 





 ここは、相模家。

 突如蘇った“相模摩耶”の登場で大慌て気味だった邸宅も、一日経過すると落ち着きを取り戻しつつあった。


「奥様、本当にご不要なのですか?」


「ええ、やっぱり普通に生きてる人と違うのかしらね。

 お腹とか全然空かないし、夜に眠たくなったりもしないのよ」


「そうですか、残念です」


「ごめんなさいね、せっかく用意してくれたのに」


 ベテランメイド・一文字の持って来た朝食を断ると、摩耶は凱に用意してもらったタブレットを眺めながらうっとりしている。

 それは、相模姉妹が生まれた直後から現在に至るまで撮影した写真や動画をまとめたものだ。

 指先で画面を撫で、新しい写真が映し出される度に、摩耶の表情がほころぶ。


「これは卒園式の写真?」


「うん、そーだよぉ!」


「この時は、お父様や槐さんもいらしてくださったんですよ。

 私、よく覚えてるんです」


「凄いわ、舞衣ちゃん。記憶力いいのね」


「う~メグも覚えてるもん!

 あ、それでね、これが先生に撮ってもらった写真で、お兄ちゃんも一緒に写ってるんだよぉ」


「まぁ、みんな若い♪

 ――あら、この子は?」


 集合写真の一番端に写っている、黒いスーツ姿の女性に注目する。

 不思議そうな顔をする摩耶に、舞衣が説明する。


「お母様、これは夢乃お姉さまです」


「夢乃……えっ? あの夢乃ちゃんなの?

 うっわ、すっごく大人っぽくなってる!

 この時、高校生くらいなのかな?」


「うんそーだよ! 今のメグ達と同じくらいかな」


「そうなんだ。

 で、夢乃ちゃんは今どこにいるの?」


「そ、それは……」


 摩耶は、知らない。

 この時期、凱と共に専門的な特殊訓練を重ねていた夢乃は、数年後に潜入工作員として井村大玄の息のかかった研究施設へ潜入することになるのを。

 そして、それから今に至るまで、帰還していないことも。


「今ね、お仕事で遠くに行ってるんだよ。

 きっと、もうすぐ帰って来ると思うの」


「そうなのね。

 私がいなくなってから、みんなそれぞれ環境が変わってしまったのね」


 恵の報告を聞き、摩耶はどこか寂しそうな表情を浮かべる。

 その横顔を、舞衣はせつない顔で眺めた。



「皆様、旦那様がお戻りです」



 槐が、報告に現れる。

 三人は椅子から立ち上がると、少し小走りで部屋に入って来た鉄蔵を迎えた。


「摩耶……ほ、本当に、摩耶なのか?!」


「あなた」


「信じられない……あの時のままだ……」


「お帰りなさい。

 それと――ただいま♪」


 照れくさそうに、少し舌を出しておどける。

 そんな彼女を、鉄蔵は無言で抱き締めた。


「逢いたかった……ずっと、ずっと逢いたかった……っ!!」


「あ、あなた……」


「本当に、本当に……ずっと逢いたかったんだ……摩耶」


「ごめんなさい……あなただけ残していってしまって」


 抱き合いながら、二人は熱い涙を流す。

 その光景に、娘達も、使用人達も皆目に涙を溜める。


 十八年ぶりの、夫婦の再会。

 それは、本来ありえないこと。

 だがしかし、奇跡が起き、それは叶えられた。

 

 ここに、永遠に失われてしまった筈の相模一家の、本来の姿があった。






「本当に良かったですね、舞衣さん、メグさん!

 お母様がお戻りになられて♪」


 まるで自分のことのように喜ぶ愛美に、姉妹は顔を赤らめて笑顔を返した。


 それから数時間後。

 三人は久しぶりに渋谷へショッピングに出かけていた。

 摩耶が帰って来たので、彼女のために必要なものを買い揃えるのが目的だ。


 ナイトシェイドに送られて渋谷に降り立った三人の目に真っ先に飛び込んで来たのは、崩壊した渋谷ぱるるの跡地の様子だった。

 建物のあった場所には大きなネットが張られ、解体工事をする音が響く。

 ニュースか何かで、一旦敷地を平地にするらしいことは聞いている。

 一瞬何か言いかけたが、相模姉妹の表情を見て、愛美は言葉を引っ込めた。


「さぁ、早く行きましょう」


「う、うん、そうだね!

 愛美ちゃん、こっちだよー」


「あ、はい!」


 三人は、以前と同様にヒカリエ方面へ向かって移動する。

 以前と違い、人が大勢行き交う街を歩くことへの抵抗感が減った愛美は、一旦渋谷ぱるるのことは頭から切り離し、ショッピングに集中することにした。


「今日は土曜日なせいか、人が多いですねぇ!」


「そうですね。

 はぐれないように気を付けましょう」


「わぁ~ん、お姉ちゃん、愛美ちゃん、手ぇ繋いでぇ」


「はぁい♪」

「もう、メグちゃんったら」


 恵の手を取りながら、反対側に立つ舞衣と目が合い、微笑み合う。

 すぐ近くに惨劇の痕跡がまだ残っているとはいえ、今この瞬間はとても平和だ。

 行き交う人々は皆、笑顔を浮かべて楽しそうに話し、歩いている。

 中には一人だけなのに、まるで見えない誰かと話しているような者も居るが、それでもどこか幸せそうで、愛美はそれが何よりも嬉しかった。


(こうやって、平和に暮らせている人達が居るって、とても素晴らしいことね。

 私達の活動は、ここに居る人達に、きちんと貢献出来ているのかな……)


 ヒカリエの中に入り、エスカレーターに乗ろうとした所で、愛美はふと視線を上げる。

 その瞬間、彼女の身体が硬直した。



「あれぇ? 愛美ちゃん、どうしたの?」


「愛美さん、どうかされましたか?」


 エレベーターに足を載せようとした直前、愛美の様子に気付いた姉妹が呼びかける。

 だが愛美は、上の階に視線を向けたまま、呆然とした顔で立ち尽くしていた。


「ねえ、愛美ちゃん?」


「す、すみませんお二人とも!」


「え?」


 心配して近付いて来た舞衣と恵の間を突っ切って、愛美は突然、エスカレーターを駆け上がり始めた。


「にゃ?! ちょ、どこ行くの愛美ちゃあん?!」


「どうしたんでしょう? 急に」


「お姉ちゃん、メグ追っかけてみる!

 後で連絡するから先に行っててね」


「は、はい!」


 恵も、愛美の後を追ってエスカレーターを駆け上がって行く。

 舞衣もその後を追おうとしたが、走っちゃいけないことを思い出し、困り顔のまま上まで着くのを待ち続けた。




(さっき見たのは、間違いない……あの人は!!)


 愛美が先程二階のバルコニーで見かけた者。

 それは、かつてとても世話になった人物だった。


 他人の空似かもしれないし、たまたまそう見えただけかもしれない。

 だけど、どうしても確認しない訳には行かなかった。

 

 エスカレーターを降り、二階のフロアに入り通路を駆けて行く。

 通り過ぎる人々が、いぶかしげな視線を向けて来るが、構いはしない。

 息を切らせながら、それでも愛美は必死であの姿を捜し回る。

 

 二階のフロアをほぼ全て走り回った愛美は、戸惑いながらもエスカレーターの方に戻ろうとする。

 だがその時、ふと視線を向けたエレベーターホールに、その姿を見止めた。


「あっ!」


 急いでエレベーターホールに飛び込むが、その人物はゴンドラに乗り込んでしまう。

 あと少しというところで、ドアが閉じられてしまった。


「ああっ!?」


 見ると、エレベーターは上の階に向かっているようだ。

 愛美は、躊躇うことなく次にやって来たエレベーターに飛び乗った。




「ふにゃあ、愛美ちゃあん、何処行っちゃったのぉ?」


 二階を捜し回ったものの、全然見つけることが出来なかった恵は、困り果ててイベントステージの付近で立ち止まった。

 

(迷子のお知らせをお願いしようかな~。でもでも、愛美ちゃん子供じゃないし、恥ずかしがっちゃうかなぁ)


 愛美がいまだにスマホを持っていないことを思い返し、恵は途方に暮れる。

 だがいきなり、その頭に猫耳がピン! と立った。


「あ、そーだぁ!

 “お知らせしたことがあるので”って呼び出しをかけてもらえばいいんだぁ♪」


 そう思い立った恵は、急いてサービスカウンターに飛び込んだ。

 無論、彼女はそれが「関係者間への特殊な連絡を伝える隠語」であることなど、知る由もない。



 数分後、ヒカリエ内に女性の声が響いた。



“お客様のお呼び出しを申し上げます。

 千葉愛美様、千葉愛美様。

 お連れの方がお待ちですので、至急二階インフォメーションカウンターまでご連絡をお願いします。

 繰り返します―― ”



「えっへん、どうだぁ♪」


 放送を聞き、何故か得意げに胸を張る恵は、サービスカウンターの前で辺りをきょろきょろと見回し始めた。




「――千葉愛美?」


 その名前に、反応した者が居た。

 



 数分後、スマホで通話をしていた恵の傍に、誰かが近付いて来た。

 驚いて顔を上げると、それは愛美ではなく。


 薄手のグレーのジャケットを羽織り、サングラスをかけた背の高い男。

 一瞬ぎょっとする恵に向かって、男はサングラスを外して話しかけた。


「やぁ」


「あ~!」


 そこに立っていたのは、司警部だった。

 恵は笑顔と元気な声で挨拶をして頭を下げた。


「こんにちは~♪」


 自身のスマホで何かを確認しながら、司は少し首を傾げながら話しかける。

 それを真似するように、恵も同じ向きに小首を傾げた。


「先日のケーキ、とても美味しかったよ。ありがとう」


「あ、はい☆ 良かったあ、喜んで貰えて嬉しい♪」


 ニコニコしながら楽しそうに話す恵に、司は酷く冷静な表情と態度で呟いた。



「君とは初対面の筈なんだがな」



「えー? 何でですか?

 たった今ケーキの話をs――あ」


 恵の笑顔が強張る。

 背後に、タテ線が何本も走った。


「私が過去に逢ったのは、君じゃなくてアンナミスティックの筈でね」


「あ、わわわ!」


 いつもの人懐っこさと積極性が、裏目に出た。

 即座に口を抑えるが、もう遅い。

 司は、まっすぐに恵の顔を見下ろし、そして彼女も視線を逸らせなくなってしまった。


「相模恵さん、の方だね。

 君がアンナミスティックの正体、という解釈でいいのかな」


「あ、そ、それは~あ、あははははは♪」


 笑ゴマしようとするも、通用しない。

 司は、全く表情を変えずに、穏やかな口調で静かに囁いた。


「すまないが、少しだけ時間を拝借出来るかな?」


「あ、あうう……」


 笑顔と驚きと後悔の気持ちが入り混じった、なんとも言い難い表情のまま頷く。

 なんとなく、そうするしかないと思った。


 二人の様子を、サービスカウンターの係が不思議そうに見つめていた。


 


 一方の愛美は、ヒカリエの屋上展望施設まで上がって来ていた。

 地上二百二十九メートルから見下ろす街の眺めは最高だったが、今の彼女にはそんなことは重要ではない。


(何処? 何処にいるの?

 気のせい……じゃないと思いたい! だって、あの横顔は絶対に――)


 屋上スカイステージには、何人もの客が風景を眺めに訪れている。

 その人々を片っ端から確認していく。

 だが、求めている姿はなかなか見つからない。


(やっぱり、気のせいだったのかなぁ)


 もう十数分も走り回り、息も切れ始めた頃、




「おーい、愛美ぃ――!」




 突然、愛美の耳に声が届いた。

 懐かしい、耳に馴染む優しい声。


「え?」


 幻聴だろうか?

 そう思って顔を上げた愛美の視線の彼方で、誰かが手を振っている。

 幻ではない。


 そしてその姿を、愛美が見間違える筈はなかった。


「もえ、ぎ……さん?」


 ショートカットの髪型、どこかボーイッシュさを感じさせる立ち姿。

 それでいて凛とした雰囲気、あどけなく元気いっぱいの笑顔。

 見慣れたメイド服ではなく私服ではあったが、それは紛れもなく、井村邸で自分を支えてくれた先輩メイド・立川たちかわもえぎだった。


 愛美の頬に、涙が一筋零れる。

 あの、炎に包まれる井村邸の光景が、不意に脳裏に蘇った。


「もえぎさん……本当に、もえぎさん、なんですか……?」


「こっちこっちー! おいでよぉ!」


「もえぎさん……もえぎさぁん!!」


 なりふり構わず、愛美は涙を流しながら、もえぎの居る方へ駆け寄って行った。





「どうしよう……メグちゃん、どこに行ったんだろう?」


 二階のサービスカウンターにやって来た舞衣は、二人の姿が何処にもないことに気付き、途方に暮れた。

 カウンターの係に尋ねてみるが、恵と思われる少女が中年男性に連れられて何処かへ行ってしまったということで、益々動揺が大きくなる。


(携帯にも出てくれないし、メグちゃん、いったい誰と逢ってるの?)


 愛美を呼び出している以上、舞衣もここから動くことが出来ない。

 そわそわしながら待っている最中、ひとまず凱に相談してみようと思い立ち、スマホアプリを立ち上げる。

 だが番号を入力しようとしたその瞬間。



「舞衣ちゃん? 舞衣ちゃんなの?」



 不意に横から声をかけられた。

 女性の声だ。

 とても懐かしい、聞き覚えのある……否、あり過ぎる声。


「え?」


 顔を上げると、そこには凛々しい顔つきの大人の女性が佇んでいた。

 切れ長の目、整った鼻筋、カールのかかった長い髪、そして大人びた仕草。


 その姿を見た途端、舞衣は、思わず目を剥いた。



「夢乃……お姉さま?」


  

 舞衣の呟きに、女性は、優しく微笑み頷いた。







 ここは、地下迷宮ダンジョン

 相模家に、亡くなった筈の相模摩耶が現れたという情報は、当然のように勇次達にも伝えられていた。

 彼女が現れてから早や二日が経過しているが、特に変わった事は起きておらず、また摩耶自身もおかしな行動を取ったりはしていない。

 まるで普通に生きて生活しているように、娘達や相模家に勤務する者達と仲良く接している。


 しかし、勇次はそんな報告に対して、思い切り不満そうな表情を浮かべていた。


「おかしい。

 どう考えても、おかしい」


 勇次の呟きに、相変わらずハンバーガーをもしゃついている今川が、少し呆れた口調で反応する。


「そりゃそうっしょ。

 死んだ人間が生き返ってるってだけで充分おかしいんだし」


『そうっすよねぇ、あっきーさん!

 メカやロボットじゃないんだからねぇ』


 今川に相槌を打つのは、スピーカーから聞こえて来るナイトクローラーのAIの声だ。

 二人? の言葉に一瞬しかめっ面をすると、勇次は頭を軽く振った。


「違う、そうじゃない」


「うわ、古っ」


「何がだ」


「いえ、続きどーぞ」


『昔流行ったネットミームかと思っちゃいましたよぉ』


「茶化すな!

 俺がおかしいと言ったのは、蘇った死者の身体のことだ」


「身体? はて?」


『どこかの研究施設では、人間の身体と変わらないって結果が出たって言ってましたねぇ』


 ナイトクローラーの言葉に、勇次はピクリと眉を動かす。


「そこだ。

 お前達、おかしいとは思わないか?」


「ん? 何がっすか?」

『すか?』


「ナイトクローラーは今川に馴染み過ぎだ!

 もうちょっと論理的に考えてみろ。

 いいか、今回の事件がXENO絡みだったとして、奴らの特殊能力が本当に死者を呼び起すものだと仮定してもだ」


「ふんふん」

『ふむふむ』


「科学的な根拠はともかくとして、死んだ人間の霊やら魂やらは物質ではあるまい。

 突然現れるという話が本当なら、それは実体のある存在ではないと考えるのが普通だろう」


 勇次の発言の主旨がなんとなく分かって来たのか、今川はハンバーガーを食べる手を止め、眉間に皺を寄せる。


「あれ? そうか。

 待てよぉ、なんかだんだんおかしい気がして来たっすよ~?」 


『でで、でも、研究結果は普通の人間と同じって云われてるんですよね?

 それじゃあやっぱり、蘇った人達はちゃんと実体があるってことじゃないっすか?』


 ナイトクローラーの言葉に耳を傾けながらも、勇次は更に深刻な顔つきになる。



「そこが解せんのだ。

 そもそも、人間と変わらぬ身体で蘇ったというなら、彼らは何処からその肉体の“質量”を持って来たんだ?」



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