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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第6章 アンナスレイヴァー編
207/225

●第118話【久闊】


 今から十一年前。


 都内某所・閑静な住宅街にて連続殺人事件が発生した。

 深夜に家に侵入し、就寝中の家族を無残な方法で殺害した上で家屋内を物色、金品を強奪するという内容で、後に犯人は予め被害者宅の詳細な状況を調査した上で犯行に及んでいた事が分かった。


 抵抗力の弱い女性や子供、高齢者だけが居る時間帯を狙い、たとえその家に金品がなくても殺人だけは実行するという余りにも残虐極まりない犯行内容。

 被害者数は多く、一時はその住宅街だけでなく全国を恐怖に陥れた。


 この事件の調査で最も活躍し、遂には犯人を捕えることに成功したのが、司の同期だったたき

 彼は本件最大の功労者であると同時に、事件の被害者でもあった。

 ――妻と息子を、殺害されていたのだ。


 しかし、滝は本件にあたり私情を一切挟まず、沈着冷静な態度を崩さなかった。

 犯人との面会時に彼を罵倒することもなく、憎悪の言葉を投げかけるわけでもなく、あくまで一人の刑事としての態度を維持し続けた。


 犯人が拘置所に送られて間もなく、滝は突然警察を辞め、行方を眩ませた。


 あくまで刑事として、警察組織の一員として事件に関り続けた彼の中で、何かがふっ切れたのだろう。

 彼を知る者は皆そう考え、一個人となり新たな道を進もうとするだろう滝のその後を探ろうとはしなかった。


 彼の同期であり、最も親しかった司ですら、当時はそう思っていた。


 もしや、家族の後を追ったのではないか――


 そんな憶測が流れたこともあったが、司はそれを認めなかった。

 必ず何処かで生きている、過去を振り切って。

 そう、固く信じていた。


 

 




 美神戦隊アンナセイヴァー


 第118話【久闊きゅうかつ

 





 待ち合わせの時間より少々早く、約束していた店に着く。

 JR新宿駅西口の近く、ヨドバシカメラ等が並ぶ繁華街。

 その傍らに、当時良く二人で通っていた馴染みの店がある。


 懐かしい入口をくぐり、脇のカウンターで滝の名前を告げると、どうやら既に来店しているようだ。

 店員の案内で奥の半個室に向かうと、そこにはすっかり白くなった髪をオールバックにまとめた紳士が笑顔を浮かべていた。


「滝……久しぶりだな」


「司、良く来てくれたな。

 逢えて嬉しいよ」


 十一年ぶりに逢う同僚の顔は、想像していたよりも遥かに深い皺を刻み込んでいた。

 だが、生真面目そうなのにどこか人懐っこさも感じさせる顔つきは、変わっていない。

 司は、安堵の気持ちと懐かしさ、そして悲しみの入り混じった、複雑な表情を浮かべた。


「まったく、心配させやがって。

 生きてるなら生きてるって、そう報告してくれ」


「ははは、相変わらず言い方きついな。

 んで、何飲むんだ?

 最初は生でいいのか?」


「そうだな」


「相変わらず、日本酒党なのか」


「そうだが、最近はなんでも飲むぞ。

 ブランデー、ジン、焼酎、ワインなら白だな」


「そうか、俺はあの時から変わらずだ。これ一本だよ」


 そう言いながら、滝は嬉しそうにジョッキを煽る真似をして見せる。

 そんな会話を始めた瞬間、二人の時間が遡った。


「今日は、少し良いことがあってな。

 それで、久しぶりにお前の顔が見たくなった」


 今日はいったいどうして……と話を振ろうとしたが、先手を取られる。

 良い事があったなら、と、司は真っ先に尋ねようと思っていた言葉を呑み込んだ。


「そうか、何があったんだ?」


「いやぁ、ちょっとな」


「そこまで言って説明なしかよ」


「まぁ、所謂ヤボな要件って奴さ」


「ふっ、お前らしいな」


「ああ、何も変わってはいないさ。

 俺も……たぶん、お前も」


 滝がそう呟いた直後、飲み物のオーダーを聞きに来た店員が入口を開けた。


「「 すみません、生を大ジョッキで 」」


 二人の声が綺麗にハモり、思わず爆笑してしまった。





 ここは、相模邸。

 時計は午後十時を回り、舞衣と恵は就寝の準備をしていた。


「ねぇお姉ちゃん、一緒に寝よ?」


 パジャマを着込んだ恵が、愛用の大きな枕を抱えて近付いてくる。

 自室のドアの前で少し呆れた顔をすると、舞衣は微笑んで頷いた。


「もうメグちゃんったら、甘えん坊さんなんだから」


「だってぇ」


「いいわよ、一緒に寝ましょう♪」


「わ~い☆ お姉ちゃん大好き!」


 枕ごと抱き着いてくる恵の頭を撫でてやると、舞衣は静かにドアを開ける。

 白い壁紙で覆われた十五畳フローリングの大きな部屋には、無数の本棚とショーケースがぎっしり詰め込まれており、その一番奥に大きなダブルベッドがある。

 数え切れない程のロボット玩具が並べられたショーケースを不思議そうに眺めながら、恵は小首を傾げてみせる。


「お姉ちゃん、またロボットのおもちゃ、数増えた?」


「ええ、この前、奇跡戦隊の五台目ロボが出たから」


「もうショーケース、足りなくなっちゃいそうだよ?

 大丈夫?」


「うん、お父様にお願いして、物置を保管用に使わせて頂くことにしたの」


「ふえぇ、あのおっきな物置?」


「そう!」


 嬉しそうに微笑む舞衣を、何とも言えない表情で見つめる恵は、彼女より先にベッドにダイブした。


「わーい、一番乗り~♪」


「こら、メグちゃん! 寝る前にはしゃいじゃいけませんよ?」


「あはは♪ お姉ちゃんママみたいな事言ってる~」


「もしママが本当に居たら、もっと怒られちゃうと思うわよ?」


「そっかな。

 ねえお姉ちゃん、ママってどんな感じの人だったと思う?」


「お母さま? そうねえ」


 二人はベッドに入ると、揃って天井を見上げながら呟く。

 カーテンの隙間から僅かに差し込む月光に照らされ、室内が青白く輝いている。


「きっと、とても優しくて、明るい方だったと思うわ」


「どして?」


「だって、メグちゃんを見ているとわかるもの」


「そっかなぁ。

 メグはね、ママは静かで大人しい人だと思ってるんだ」


「そうなの?」


「うん、きっとお姉ちゃんとそっくりだと思うの」


「まぁ、メグちゃんったら」


 少し身体を傾けると、舞衣は左側に居る恵の胸の辺りを、掛け布団の上から軽くポンポンと叩く。

 まるで、子供をあやすように。

 それが、昔から彼女のお気に入りであり、今でもずっと行っている寝かしつけ方。

 これをやる度に、昔に凱から教わった時のことを思い出す。


「ねえ、お姉ちゃん」


「なぁに?」


 少し眠たそうな声で囁く恵に、優しく応える。


「ママに、逢いたいね」


「そうね」


「メグね、あとね、お爺ちゃんにも逢いたいの」


「……そう、ね」


「夢乃お姉ちゃん、元気にしてるかな」


「お姉さま……いつか連絡してくれると信じてるわ」


「うん、そうだよね」


 やがて、恵が微かな寝息を立て始める。

 

 舞衣は彼女のあどけない寝顔を見つめながら、名前の挙がった人達のことを思い返した。



 舞衣と恵には、母親が居ない。

 母は自分の命を引き換えにする形で、二人を産み落したという。

 その為、舞衣と恵は古い写真と、父・鉄蔵や凱から聞いた話でしか、母を知らない。

 自分達はとても母に似ているとよく云われるが、正直なところピンとは来ない。


 祖父・虎徹こてつは四年前に亡くなっている、相模重工の創始者だ。

 とても厳しい人物で、婿養子である鉄蔵を鍛え上げたが、自分達にとってはとても優しいお爺ちゃんだった。

 二人もとても懐いており、彼が亡くなった時は心底悲しみ、しばらく人に逢う事が出来なくなった程のショックを受けた。


 そして、夢乃は――


(お姉さま……きっと、きっとご無事でいらっしゃる筈。

 帰って来て下さい。私達、待っていますから)


 いつしか、舞衣にも程良い眠気が訪れる。

 ゆっくり瞼を下ろし、深い眠りに包まれていく。

 

(おやすみなさい、お兄様……)


 今はここに居ない最愛の兄を想い、舞衣はまどろみに身を委ねた。







「舞衣お嬢様! た、大変でございますぅ!!」


 バン! と大きな音を立ててドアが開き、何者かが息を荒げて飛び込んで来る。

 さすがの舞衣も、その突然の事態に目を覚ましてしまった。


「え? え? さ、さいかちさん?!」


「ちゅちゅ~! さ、左様でございます~。

 お嬢様、おやすみの所誠に申し訳ありません!」


「何があったのですか?」


 舞衣の質問に、相模邸の執事・槐通洋さいかち みちひろは、月明りでもわかるくらい青ざめた顔で、恐縮しながらも力強く答える。


「そ、それが、先程急に、ある方が」


「ある方? どなたですか?」


「は、はい~、それが……」


 槐がそこまで言ったところで、廊下の方から騒がしい声が響いてくる。

 複数の人間が何か言い争っているようで、恵もとうとう目を覚ましてしまった。


「んん~、何ぃ? なにかあったのぉ? モグラおじいちゃん」


「メグちゃん、何かあったみたいなの。起きれる?」


「ん~、起きるぅ」


 目をこすりながら、恵はベッドから降り立つ。

 槐と共に廊下に出てみると、住み込みのメイド達数名が、誰かを取り囲んでいるようだ。


「本郷さぁ~ん、一文字さぁん! 何かあったのぉ?」


「恵お嬢様!」


「い、いや、それがですね」




「恵? 今、恵って言った?」




 メイド達の声を遮るように、少し甲高い女性の声が聞こえて来た。

 聞き覚えは、全くない。


「あ、ちょ! な、何をするんですか?!」


「待ってくださいよぉ! そんな、いくらなんでも……」


 同じく古株メイドの風見と結城、神が食い下がる。

 だがその人物は、何喰わぬ顔で彼女達の間をすり抜け、二人の方へ近付いて来た。


 自分達と同じくらいの背丈、髪の長さ。

 切れ長の目、整った顔立ちと、スーツを押し上げる大きな胸。

 その姿は、自分達とよく似ているように思えた。


「恵、ちゃん?」


「ふぇ?」


「じゃあ、こっちが舞衣ちゃん?」


「は、はい……あの」


「槐さん! 本当に? マジで?

 この二人が――」


「は、はぁ、左様で……」


「そっかぁ~……二人とも、こぉんなにおっきくなったのねぇ♪」


 そう言うと、女性は長い黒髪を振り乱しながら跪き、いきなり二人を強く抱き締めた。


「きゃ?」


「あっ、あ、あの?!」


「うわあ~、感激ぃ!

 こんなに大きくなったんだぁ~! 良かったぁ! 頑張って産んで本当に良かったぁ!!」


「「 え? 」」


「こんなに嬉しいことはないよぉ! 良かったぁ! 還って来れて本当に良かったぁ~!

 うわぁ~ん!!」


 いつしか、女性は声を上げて泣き始めてしまった。

 困惑して硬直する二人の視線に、女性の後ろに立っているメイド長・本郷が、どすの効いたハスキーボイスで応える。


「お嬢様方、驚かないで聞いてください」


「ふえ?」


「な、なんでしょう?」


「その女性なんですが」


「は、はい」


「実は、その――」

「はーい! 摩耶まやちゃんでーす!!

 みんなご無沙汰ぁ! 元気してたぁ? イエーイ!!」


 本郷の声を遮って、今度はいきなりとても明るい口調で叫び出す。

 その変わり身の速さに付いて行けず、姉妹は口を開けてキョトンとするしかない。


「相模、摩耶まや様」


「え?」


「そ、その名前は! ええっ?!」


「そう、このお方は――」



「初めまして、MY娘達ぃ♪

 私、あなた達のママよっ☆」



「「 え、ええええええ~~っ?!?! 」」



 今度は、姉妹の叫び声が廊下に響き渡った。





 同じ頃、相模重工株式会社本社屋・最上階。

 社長室にただ一人籠り、パソコンで膨大な量の資料を読んでいた相模鉄蔵は、ふぅと息を吐いて背もたれによりかかった。




「――相変わらず、遅くまで頑張っているようじゃな」




 突然、何者かの声が響く。

 はっとした鉄蔵は、デスクの引き出しに手を伸ばし、部屋の奥を凝視した。

 自分以外誰も居ない筈の部屋に、誰か居る気配がする。


「誰です?」


 冷静な声で、尋ねる。

 すると、隣のフロアへ繋がる仕切りから、小柄な影がひょいと飛び出した。

 咄嗟に、引き出しからハンドブラスターを取り出す。


「心配には及ばん。

 その物騒な物を仕舞え」


「――その声は、まさか」


「久しぶりじゃな、鉄蔵」


「あ、あなたは?!」


 ブラスターを持つ手が震える。

 銃口の先には、和服を着た小柄な老人男性が、杖を突きつつ佇んでいた。

 皺の多い顔を歪め、不敵に笑っている。


 鉄蔵は、その姿に見覚えがあった。

 否、忘れよう筈がない。


 かつての大恩人が、そこに佇んでいた。


「――お義父さん?!」


「そうじゃ。

 安心せい、幽霊じゃないし、XENOでもない」


「そんな……どうして。

 あなたは、四年前に亡くなられたではありませんか?!」


 驚愕の表情を浮かべながら硬直する鉄蔵に、老人は銃を下ろすように手を下げる。


 部屋の中央に置かれたソファに腰かけると、杖を振って座るように指示する。

 それは、彼が生前良くやっていた仕草だ。

 どうやら、何者かによる成り代わりなどではないらしい。

 そう判断した鉄蔵は、そっとハンドブラスターを机の上に置いた。


「どういうことだ? と言いたげだな。

 いやな、実は当のワシもよくわからんのじゃよ。

 気付いたらここにおってな」


「まさか、今噂されている“死人還り”というものですか?」


「恐らくそうじゃろうな。

 それにしても、まさかこうしてまた、この部屋を訪れるなんて思いもせんかったわい」


「そうですか……お懐かしゅうございます」


「ふむ。

 それでどうじゃ、“SAVE.”の連中は旨くやっとるか?」


「ええ、一年ほど前から本格的に活動を開始しています。

 最近は何も起きていませんが――」


「本当に、そうかの?」


「え?」


 老人は、ゴホンと咳払いをすると、上目遣いに鉄蔵を睨みつけた。


「こうして、死んだはずのワシが生きてお前と話している。

 この状況自体が、ありえない程異常じゃわいなぁ」


「そ、それはそうですが」


「XENOの被害は出ていない。

 じゃが、異常事態は起きている。

 ということは」


「まさか、これもXENOの仕業だと?」


「そうじゃ。

 そもそも死んだ人間が普通に出歩いとるなんて、自然現象であるわきゃあない。

 それにこの件について、仙川の手記にも記載がある筈じゃ」


「仙川博士の――予言書ですか?!」


 驚く鉄蔵に、老人はふっと鼻で笑い、首を振る。


「あんなもの、予言書でもなんでもないわい。

 単なるアイツの覚え書きじゃ」


「以前もそう仰ってましたね。

 しかし、相変わらずあの不思議な言語は解読が進まないようで」


「じゃろうなあ。

 あれが読めるのは、ワシと仙川……そしてナオトと、霞だけじゃからな」


「昔伺った、あの不思議なお話ですか」


「ああそうじゃ。

 って、ワシは昔話をしに来たわけじゃない。

 お前に、伝え忘れていたことを言いに来た」


「伝え忘れた事?」


 老人はゆっくりと立ち上がると、鉄蔵を手招きして奥の別室へ向かう。

 そこには無数の書籍が詰め込まれた本棚がある。

 老人は、そのうちの一つから赤い背表紙の本を取り出し、開いて見せた。


「この本の、このページじゃ。覚えておけ」


「これは、お義父さんの大事にしていた……なんですか?」


「この本のこのページには、人間には視認出来ないインビジブルインクで記されたコードがある。

 んでの、この奥にある隠しセンサーにそのコードを読み取らせると……」


 ゴゥン、という鈍い音が一瞬鳴り、隣の部屋への仕切りが壁で塞がれる。

 次に本棚の一部が大きく展開し、その向こうから大きなモニタが現れた。

 その下にはいくつかのスイッチが並んだパネルが付いている。

 それを見た鉄蔵は、またも目を見開き、驚愕した。


「こ、こんな仕掛けが?!

 全く知りませんでした!」


「すまんのぅ。

 これを伝える前に、わしが倒れてしまったもんでな」


「いえ、そのことはもう……

 それで、これは何ですか?」


「“賢者セージ”」


「え?」


迷宮園ラビリンスに置かれている、“SAVE.”のメインコンピューターにアクセス出来る専用端末じゃ。

 今までは、たぶんナオトからの一方的な連絡待ちじゃったろう?

 これを使えば、賢者セージを通じてと直接連絡が出来るし、奴らがまとめたデータも閲覧出来る。

 恐らく、蛭田達も知らない情報も頂けるじゃろう」


「こんなものが……何時の間に?」


「ホッホッホッ、まぁ良いじゃあないか。

 死人還りが起きた以上、今後の戦況はより過酷になる。

 お前はこれで賢者セージを使い、今後は状況により直接“SAVE.”を指揮するのじゃ」


「私が、直接……」


「オーナーなんじゃろ、当然じゃ」


 老人は、そう呟くと鉄蔵の尻をバンと叩く。

 これも、昔鍛え上げられた時に良く食らったものだ。

 思わず、目頭が熱くなる。


「お義父さん、ありがとうございます。

 そうだ、これから家に戻りませんか?

 娘達に――舞衣とメグにも逢ってやってください。

 槐も皆も、きっと喜びますよ」


「ああ、それなんじゃが」


 一瞬嬉しそうな表情を浮かべるも、老人はすぐに真顔に戻り、首を振った。


「ワシは遠慮しとくよ」


「ええっ、何故ですか?」


「ワシは、もうとっくにくたばった人間じゃ。

 ワシの意志ではないとはいえ、XENOの力で蘇った者が、いつまでも現世に居座って良い影響を与える訳がない」


「で、ですが……」


「それにの。

 いずれまた死人達も無に還るじゃろう。

 そうしたらワシは、またあの娘達を悲しませてしまうことになるからなあ」


「……」


「もうワシは、あの娘達が泣いている姿を見たくないのじゃ」


「お義父さん……」


「じゃあな、鉄蔵。

 ワシの後継者として、今後もしっかりやれよ」


「お義父さん……せめて、もう少しお話を!」


「お前と話せて、嬉しかったぞ。

 ――アンナセイヴァーを、よろしく頼む」


「な、何故あなたがその名前を……あっ!」


 老人はくるりと背を向けると、まるで空気に溶け込むように姿を消してしまった。

 まるで、いままでの事が全て夢だったように。


 しかし、大きく展開したモニタが、現実であることを証明している。



「お義父さん……ありがとうございました。

 必ず、この世界をXENOから護り抜いてみせましょう」



 決意の言葉を、改めて口にする。



 誰もいなくなった部屋で、鉄蔵は深々と頭を下げた。




 相模重工株式会社創立者・相模虎徹さがみこてつに向かって――



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