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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第6章 アンナスレイヴァー編
204/226

●第115話【再会】


 ここは有楽町線・豊洲駅。

 連絡通路階段の下にナイトシェイドを停めていた凱は、たった一人でやって来た卓也を見て首を傾げた。

 

「あれ? 澪さんは?」


「いやそれがその。

 アイツ、土壇場で急に“やっぱり帰る!”って言い出して」


「どうしたんだ、ケンカでもしたのか?

 それとも、あの話をしちゃったとか」


「まさかまさか!

 なんでも、物凄く嫌な予感がするって言い出して」


「嫌な予感?」


「ええ、実は――」


 卓也は、先程までの澪との会話内容をかいつまんで説明する。

 凱は表情を引き締め、しばし無言になる。


(澪さんに、同行者が居た?

 だとすると、そいつにも同じ条件が当て嵌まるかもしれんな)


「そうか、わかった。

 なるほど、そういう可能性もあるのか」


 不思議そうに横顔を眺めて来る卓也をよそに、凱は一人で小さく頷く。

 続けて、ナイトシェイドに指示をし始めた。


「ナイトシェイド、地下迷宮ダンジョン経由でパラディンに伝えてくれ。

 荒川の現場確認完了後、すぐに四ツ谷方面へ向かってくれと」


「え、今のなんで?」


「ああ、こっちの都合なんで気にしないでくれ」

 

 




 美神戦隊アンナセイヴァー


 第115話【再会】

 





 ドォンっ!!


 突然、玄関の方から激しくドアが開かれる音がした。


 一瞬、恐怖感が途切れる。

 老け卓也は、ようやく動かせるようになった視線で音の正体を確かめようとして――目を剥いた。




「未央! あなた、やっぱり……!!」



 そこに居たのは、澪だった。




「えっ?! えっ?! な、なんで?」


 いきなりの乱入者に、老け卓也も未央も動揺する。

 そして玄関に佇む澪も、目の前の異様な様子に口をパクパクさせている。


「まさかこんなド派手なコスプレで挑むなんて、ボク想像もしなかった」



 澪さん! コスプレじゃないですよ!



「みみみ、澪! た、助けてぇ!」


 思わず反応する未央と、その隙を突いて澪へ駆け寄る老け卓也。

 その行為が、未央の怒りに火を点けた。



 澪さん……やっぱり、先輩とも……



「い、いやそれは違うしぃ!

 そ、それよりねぇ未央? あなた、いったいどうしてしまったの?

 その姿は何? い、今、その翼……動いた様に見えじゃなくって! 動いてるしぃ!!」


「ばばば、化け物だぁ!

 コスプレ集団が闘ってるようなバケモノになっちまったんだよ、新崎はぁ!!」


「ええっ?! って、まさか?」



 澪さん、あなたにも逢いたかったの。

 僕、あなたを食って――あなたの美しさと女らしさも、ぜぇんぶ貰いたい♪



「な、ちょ、ほ、本気で言ってる?!」



 うん。

 ホ・ン・キ♪



 異常な程長い紫色の舌が、ベロリと口周りを舐め上げる。


「ひえぇ~っ! じじじ、冗談じゃないわよぉ!!」



 冗談じゃないですよぉ、澪さぁん。

 今こうしていても、あなたからとっても美味しそうな、濃厚なスメルが漂ってくるんですよぉ~



「ぼぼぼ、ボク、ちゃんとお風呂入ってるしデオドラントだって気を遣ってるわよ?!」



 そういう話じゃないんですよぉ~?

 というか澪さん、そうやって無理矢理時間稼ごうとしてません?



「あ、アハハ、バレたぁ?」



 そりゃあもう、澪さんのことはもうすっかり理解しましたから♪



「そ、それはとても光栄だわね!

 ――じゃあ、そういうことで!」



 澪はそう言ってシュタッ! と右手を挙げると、老け卓也の腕を掴んで最速スピードで部屋を飛び出した。


 一瞬呆気に取られた未央は、慌ててその後を追いかけ出す。

 





「蛭田リーダー!

 四谷一丁目付近で、XENOと思われる存在を発見しました。

 シェイドIIIからの映像を転送します!」


 ここは、地下迷宮ダンジョン

 女性オペレーターの一人が声を上げる。

 勇次は報告を受けて、即座に空間投影モニタに映像を表示した。


「なんだこれは……?

 お、女? いや、男……なのか?」


 人間の裸体に異様な形状の四肢、巨大な翼というスタイルに困惑する。

 だがその股間を見た瞬間、赤らんだ顔が瞬時に青ざめた。


「XENOは誰かを追いかけているようです。

 アンナパラディンに連絡を行います」


「よし、頼む。

 ナオトとアンナチェイサーにも連絡を!

 以降、このXENOはUC-23“インキュバス”と認定呼称する!」


「ナイトシェイドには、連絡をしますか?」


 オペレーターの質問に、思わず一瞬詰まってしまう。


「……そうだな」


 しかし勇次は、インキュバスの姿を改めて眺め、目を見開いた。


「そうか、これはもしかすると。

 ――いや、ナイトシェイドや凱にはまだ連絡しなくていい」


「ですが……」


「今のあいつらの時間は、出来るだけ無駄にしたくはない。

 それにこれは――思ったより早く決着が着くかもしれんぞ」


「?」


 小首を傾げるオペレーターに、勇次は更に付け加える。


「状況が想定を越える状況になりそうな場合、おって指示する。

 それまでは、現状の三名での対応とする!」


 勇次の目が、細められた。






 ドスゥン!!


 激しい落下音と、アスファルトが砕かれる音が響き渡る。

 突然の轟音に、周囲を行き交う人々や車を運転する人も、思わず視線を向ける。


 閑静な住宅街に、突然現れた異形の巨体。

 僅かな間を起き、つんざくような悲鳴が合唱のように木霊した。


 その中には当然、澪と老け卓也の声も混じる。


「ぎゃあ! さ、先回りして来たぁ!!」

「ひええええ! そんなんありかぁ!」


 必死で駆け下りた階段の出口には、未央が待ち構えている。

 いつの間にか全高三メートルほどの巨体となった未央――インキュバスは、金色の眼差しで二人を見下ろす。

 周囲を行き交う人々が悲鳴を上げ、逃走していくのが横目に見えた。






 豊洲駅から北東方向に進み、豊洲運河を渡り変型四叉路に入ると、大きく右折して枝川方面へ向かう。

 周囲を走る車もバイクも自転車も、歩行者も居ない。

 ナイトシェイドは既にパワージグラットの圏内に入り込んでおり、その上空にはピンクと青、緑の光が並んで飛翔している。

 助手席に座る卓也は、物珍し気に異世界デュプリケイトエリアの様子を見回していた。


「俺達、前に居た世界がこんな感じのとこだったんですよ」


「誰もいない並行世界?」


「そう、まあ実際はかなたちゃんみたいに、迷い込んだ人も少しは居たんですけどね。

 本当に人気が全くない、寂しい世界で」


「へぇ、それすごく興味深いな。

 ちょっとその頃の話を聞いてもいい?」


「ええ、喜んで」


 車内の会話のネタに困っていた卓也は、喜んでとばかりに“誰も居ない世界”での経験を語り出した。


 彼と澪、そしてもう一人の同行者“沙貴”の三人は、ライフラインと食料が安定的に入手出来るものの、一切の生物が居ない世界で一年以上に渡り生活をしていたという。

 そこではごく僅かながら、同じように生活している人々がおり、卓也達はそんな人々と知り合って時には生活に疲れ挫折した者、或いは精神を冒された者達等とも出会い、危険な目にも遭って来たらしい。


「凄いな、そんな経験をして来たのか」


「信じて貰えます?」


「ああ、信じるよ。

 特に“誰にも会わずにいておかしくなった奴”の話とか、宗教の話がやけにリアルで。

 あと、池袋の地下五階の話は現実にもあるからな」


「あ、あれってやっぱり普通の世界にもあるんですか!」


「あるぞ。

 俺が昔聞いた話だと――」


 そんなこんなで話に華を咲かせていると、猪原家が近付いて来た。

 ついこの前訪れたばかりなのに、何故か妙に懐かしい気がする。

 ナイトシェイドを降りると、二人の傍に三つの光が降り立った。


「うわ?!」


「心配ない、アンナセイヴァーだ」


「こ、こんばんは!」


「わぁ~☆ 初めましてぇ!」

「こんばんは、初めまして」


 光が人型に変わり、中から三人の少女が現れる。

 アンナローグ、ミスティック、ウィザードの煌びやかな姿に、卓也は目をキョロキョロさせている。

 すぐ目の前に美少女が三人、いずれも結構過激な恰好な上、そのうち二人はグラドル級の美人でしかも超がつくナイスバディ。

 そりゃあそうもなるよなぁと、凱は一人納得しながらウンウン頷いていた。

 ジト目で。


「あ、ど、ども……神代卓也って言います。よろしく」


「あなたが、かなたちゃんの事を助けてくれた人なのぉ?

 本当にありがとう~! とぉっても嬉しい!!」


 そういうと、アンナミスティックは卓也の両手を取り、顔を赤らめてはしゃぎ出す。

 その無邪気な笑顔とバインバイン弾みまくる巨乳に圧倒され、同時に金属のように冷たい手の感触に戸惑う。


「あ、お役に立てたならよかったっす」


「うん、ホントにホントにありがと~!

 メグね、もう二度とかなたちゃんと逢えないと思ってたのぉ! だからホントに嬉しくってぇ!」


「そ、そこまで」


「あの、そういえば澪さんはご一緒ではないんですか?」


 不安そうに尋ねて来るアンナローグに、卓也は簡単に事情を説明する。

 無論、嫌な予感が云々という部分は適当に誤魔化して。


「そうなんですね、残念ですけど仕方ないですね」


「なんかすみませんです。

 それで北条さん、これからどうするんです?

 この世界には、猪原さん達居ないんでしょ?」


「そうだが、その為に彼女がいる。

 ――ローグ、頼むよ。許可は取ってるから」


「はい、かしこまりました」


 凱の指示を受け、アンナローグは右上腕からリングを取り出し、それを変型させて左前腕に装着する。

 転送兵器の一つ「ロックアナライザー」 だ。

 アンナローグは手甲型のそれを入口のドアに当て、スイッチやダイヤルを操作する。

 しばらくすると音が鳴り、ドアが静かに開かれた。


「鍵、開けちゃったんですか?」


 卓也の質問に、凱は小さく頷く。


「ああ、猪原さんには事前に説明してある。

 だから何も躊躇うことはない。

 さぁみんな、中に入ろう」


「はぁ~い! お邪魔しま~す♪」


 ぴょんぴょん飛び跳ねながら、アンナミスティックが真っ先に中に入って行く。

 その手に大事に抱えられている手提げ袋に、卓也は興味を抱いた。


「もしかして、皆さんもお土産を?」


「ええ、みんなで頑張ってお菓子を作りまして」


「時間がギリギリだったんですけど、なんとかなりました。

 結局、あの子が殆ど一人で作ったんですけどね」


「へぇ~」


 卓也は妙に感心しながら、自分が持ち寄った紙袋を抱えた。





 約束の時刻になった。

 前に通して貰ったことのあるリビングに入り込むと、部屋の中心に集合する。

 凱の合図を受けて、アンナミスティックは印を結んだ左手を高々と掲げた。


「ジグラットオープンっ!」


 一瞬、周囲が青白くなり、空気が変わったような気配に捉われる。

 すると、今まで誰も居なかった筈のテーブルに、三人の姿が現れた。


 驚きの眼差しでこちらを見つめる男性と女性、そして小さな女の子。

 

「あーっ! メグお姉ちゃん! マイお姉ちゃんだぁ!!」


「かなた……ちゃん……?」


「お邪魔しております、猪原さん」


 大きな声を上げるかなたと、潤んだ目で彼女を見つめるミスティック。

 そして夫妻に深々と頭を下げる凱と、つられる卓也とローグ、ウィザード。


「ようこそいらっしゃいました!

 お待ちしていましたよ!」


「狭い所ですが、どうぞおくつろぎくださいね」


「ありがとうございます。

 それでは早速ですが、並行世界の方へ」


「はい、お願いします」


「ミスティック、パワージグラットを……って、おいおい」


 振り返った凱の視界には、抱き合ってオイオイ泣き合っているミスティックとかなたの姿が映った。


「お姉ちゃあ~ん! 逢いたかったよぉ!! ふえぇ~ん!」


「かなたちゃん、かなたちゃん!!

 良かった、本当に良かったね! おうちに帰って来られて、本当に良かったねぇ!」


 あの日、涙ながらに再会を諦めたミスティック――恵の悲痛な姿を知っているだけに、二人の再会を喜び合う姿は涙を誘う。

 だが、ぐずぐずはしていられない。


「ミスティック、さぁ」


「う、うん……ごめんね、お姉ちゃん」


 ウィザードが促し、ようやく次のプロセスに移ることになった。

 ぐすっと鼻をすすると、アンナミスティックは全員を見回して再度左手を掲げる。

 左前腕の金色の装飾物が、展開する。


「パワージグラット!」



“Power ziggurat, success.  

Areas within a radius of 8,400 meters have been isolated in Phase-shifted dimensions.


Checking the moving body reaction in the specified range.

--done.

Motion response outside the utility specification was not detected.”



 再び周囲が一瞬青白くなり、ふわっと浮かび上がるような感覚を覚える。


「うわっ」


「大丈夫ですよ、今、並行世界に移動しました」


 アンナローグの説明を受け、卓也はまたも周囲をキョロキョロと見回す。

 

「皆様、どうぞお座りください。

 北条さん、神代さん、それに皆様、本日はようこそおいで下さいました」


 猪原の言葉に、全員の表情がようやく安らいだ。





 アンナパラディンとブレイザーが、四谷の現場に飛来する。

 インキュバスは誰かを追い回しているようで、それ以外の人間には一切目も暮れていない。

 

「あ、いたいた!

 って、なんだありゃ?!」


 その姿を見たパラディンは、思わず顔を赤面させた。


「今回のは……えっと、その、なんていったらいいのかしら」


「オポンチン、ブ~ラブラ」


「やめなさい、ブレイザー」


 制止はしても、実際はブレイザーの言う通りだ。

 ほぼ全裸の男性が、奇妙な四肢と羽根を生やして街中を走り回る。

 さすがの二人も、そんな珍奇な光景は想定外だった。

 ふぅ、と息を吐いて、パラディンはいつもの冷静な声で呟く。


「パワージグラットは使えないわ。

 私達だけで仕留めるわよ」


「そりゃあいいけど、ここだと狭すぎて迂闊に攻撃できねーぞ?

 どうすりゃいいんだ?」


「なんとか上空に!

 その後で、どこか広い場所へ――」


「それより先に、あの追われてる二人を助けなきゃな!」


「そ、そうね!」


 赤い光を巻き散らしながら、アンナブレイザーが高速で飛翔する。

 一瞬出遅れたパラディンよりも先に降り立つと、インキュバスの前に立ち塞がる。


「おらぁっ! ファイヤーウォールっ!!」


 ブレイザーが左手を足下から上に挙げると、突然路面から激しい炎の壁が噴き上がった。

 ここは非常に細い路地で、車が二台すれ違うのもギリギリな幅しかなく、おまけに脇の敷地から生えた木々や植え込み、看板代わりののぼり等があり、その両端を人が歩いているような状況だ。

 しかしアンナブレイザーの生み出したファイヤーウォールは、そういった可燃物を器用に避け、中心部だけに屹立する「柱」のような形状となった。

 高さ三メートルほどの炎は、インキュバスの進行を食い止めるには充分だった。



 ぐあぁぁっ! な、なんで火がぁ!

 放火は犯罪よぉ!!



「うっせぇ! てめぇの方が犯罪だろうが!

 この公然猥褻犯か!」



 な、なんですってぇ! この洗練された美しい身体の何処が……って、もしかしてあなたも男?!

 なぁんだ、だったら僕達、仲間じゃないのよ♪

 そんな邪険にしないでぇ☆



 インキュバスの、身を捩りながらの呟きに、ブレイザーの額の青筋がブツッとキレた。


「あ、あ、あ、あたしはぁ!! お・ん・な・だぁ~っ!!」



 ええっ?! うっそぉ!

 そんなに胸もぺったんこなのに?!



 さらに、ブッツンと大きな音がした。


「う、う、う、うるせぇぇぇ!! この野郎ぉ!

 言っちゃいけないことを言いやがったなぁああ!!

 この場で丸焼きにしてくれらぁ~~!!」


「何を楽しそうに会話してるのよ」


 今にも炎を突き破って殴りかかろうとするブレイザーを止めると、アンナパラディンはどこか冷めた口調で呟く。

 

「ブレイザー、あの二人を保護するわよ!」


「お、おう!

 あっぶねぇ、うっかり忘れるとこだったぁ!」


 二人は即座に踵を返すと、低空飛行で澪達を追いかけた。



 あ、ちょ、待ってよぉ!!



 ブレイザーが去ったと同時に炎の壁が消滅する。

 インキュバスも、それを合図にするように再び走り出した。

 だが――



 えっ? そ、空ぁ?



 アンナパラディンとブレイザーは、澪と老け卓也を抱きかかえると、空高く上昇していった。






 突然、後ろから抱き着かれて空へと持ち上げられた澪と老け卓也は、眼下に広がる街並みを見て身を震わせた。


「そ、そ、そ、そそそ、空飛んでるぅ?!?! なんでぇ?!」


「そそそ、空飛ぶとか、マジ危ないしぃ!」


「悪い! あんたらちょっと協力してくれ」


 背後から聞き覚えのあるようなないような声で話しかけられ、澪は思わず肩越しに振り返る。

 視界の端に、赤い髪が映る。


「あなたは、アンナセイヴァーの!!」


「ちょ、今それ言うな!」


「ななな、何? アンナセイヴァーって?!」


「ほらぁ!」


「ひぃぃ、ご、ごめんなさぁい!!」


 ブレイザーが澪を、そしてパラディンが老け卓也を抱いて南東の方角に移動する。

 その状況に、老け卓也は激しく興奮し始めた。


「おお! 俺、謎のコスプレ軍団とリアル接触してるんだぁ!!

 すげぇ! これ絶対万バズするぜぇ!」


「こんな時に何言ってんのよ、卓也さん!」


「ブレイザー、後ろから追いかけて来るわ。気を付けて」


「あいよ!」


 パラディンの言葉に背後の様子を窺おうとすると、確かに羽音のようなものが聞こえて来る。


「み、未央……しつこい!」


「あんた、アイツの知り合いなのか?!」


「ええ、そうなんです!

 いつの間にか、あんな姿になってしまって」


「そうか……だが、ああなっちまった以上、もう倒すしかない。

 あんた、恨まないでくれよな」


「え、ええ……それは……」


「ブレイザー、そこのグラウンドに!」


「おっけ!」



 南東方向に進むと、すぐそこに中学校の大きなグラウンドがある。

 どうやら部活動などは行われていないようで、そこには誰もいない。


「ちょっくら借りるぜ! ごめんよ!」


「きゃあっ?!」

「うわわぁっ?!」


 急速加工して、4人はグラウンドの中央に降り立つ。

 やがてその後を追って、インキュバスもやって来た。


「誘導成功、って奴かな」


「ここまでは、上手く行った感じね。

 それよりも――チェイサーの方は大丈夫かしら?」


「ここまで来たら、もう任せるしかないな!

 ――よっしゃあ行くぜ!

 あんたら、安全なとこまで下がって見てな!!」


「は、はい!」


「うおおおおすげぇぇ!!

 コスプレ集団……じゃなかった、アンナセイヴァーの闘いを間近で見られるなんてぇ!」


「ちょ! た、卓也さぁん! もっと下がってよぉ!」


 澪は更に興奮の真っ只中にいる老け卓也を引きずるように後退する。


 目の前には、背を向けて立つアンナパラディンとブレイザー、そしてその向こうにはインキュバスの姿が。

 気のせいか、先程よりも凶暴なデザインに変貌したようにも見えるインキュバスに、澪は思わずゴクリと唾を呑み込んだ。


(未央……ここでアンナセイヴァーに倒されてしまうの?

 ボク達、本当に、ここでお別れなの……?)


 澪の目に、光るものが宿った。

 




 ここは、荒川河川敷。

 アンナチェイサーは、警察が現場検証を進めている状況を上空から観察し、分析していた。


「――これは」


 広範囲に焼かれた草木、抉り取られたように陥没したグラウンド、そして大きく損壊した堤防の一部。

 

「明らかに……XENOだけの破壊活動じゃない。

 “兵器”が使われている」


 様々な破壊の痕跡に目を細めながら、アンナチェイサーは改めて周囲に注意を払った。


『――転送兵器、だな』


 ナオトからの通信に、大きく頷く。


「間違いない。

 あいつら、とうとう転送兵器まで装備したわけか」


『仙川の予言通りになったな。

 ――チェイサー、恐らく“奴ら”はすぐに現れる。

 最大の注意を払ってくれ』


「了解」


 通信を切ると、アンナチェイサーは高速上昇し、夜空に消えた。




(まずい、想定以上に早い――あいつらとの闘いが始まるのが!)





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