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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第6章 アンナスレイヴァー編
202/226

●第113話【土曜】


 ここは、とある工場の廃墟。

 果てしなく広がる廃屋の群れの一角、不自然に明かりが灯っている一角がある。

 かなり大きな加工機械が収められていたと思われるその廃屋の二階、簡易な会議室のようになっている部屋の中に、その者達は佇んでいた。


 影の数は、三つ。




「XENOの数が増えている?」


 眼鏡の端を指先で押さえながら、駒沢京子は驚きの声を上げる。

 部屋の対面に佇む、麦わら帽子と青いワンピースを纏った少女は、彼女に対して静かに頷きを返した。


「確認するけど、それはXENOVIAのことではなくて?」


「はい。

 ご存じの通り、私達XENOVIAは奇跡的な確率で、理性と知性を維持したまま進化を遂げ選ばれた個体です。

 一般的なXENOは、私達の領域には辿り着けません」


「らしいわね。

 だからこそ、あれだけ多くのXENOをばら撒いて、新しいXENOVIAの誕生をもくろんだのだし」


「それが前実験の目的でした。

 吉祥寺博士はXENOVIAに至らなかった、大半のXENOの処分を指示されました。

 具体的な数はわかりませんが、デリンジャー達がかなりの数を処理したので、もう殆ど残っていない筈です。

 ですが――」


 麦わら帽子の少女・トレインは、少し俯きながら小声で続ける。


「XENOの数は、いまだに減る兆しがありません」


「それは、キリエやデリュージョンリング達がばら撒いているからじゃなくて?」


「あの二人は、選りすぐった人材にのみ、残り僅かな幼体を投与しています。

 なので、増えたにしても劇的にではない筈です」


「それ以上の、出自不明のXENOが増えているということなのね?」


「そうです。

 恐らくですが、私達以外の何者かが、どこかでXENOの幼体を入手してばら撒いているのではないかと」


 トレインの発言に、京子は顔をしかめる。


「でもXENOは、生殖が出来ない筈でしょ?

 だとしたら個体数はどのみち限られている筈だけど」


 小首を傾げる京子に、もう一人の影・サイクロプスが話しかける。


「仮定ですが、もしも幼体を産み出せるXENOが誕生していたとするなら、どうでしょう?」


「何ですって?! そんな事がありうるの?」


「いえ、ありえません。

 ですが、そういうものが存在するのであれば、一番納得が行くかと」


「……」


 サイクロプスとトランスの感情がこもらない報告に、額の冷や汗を拭う。

 ふぅ、と一息つくと、京子はキッと表情を引き締めた。


「それより、どうして今そんな話を私に?」


 先程から感じていた疑問を口にする。

 何かを言いかけたサイクロプスを手を挙げて制すると、トランスは気味悪い程冷静な口調で応えた。

 

「先日の渋谷の件ですが。

 あの現場に、複数のXENOの存在が確認されました」


「複数……?」


「私の感覚でサーチしたので、間違いありません。

 キリエがターゲットに投与したものを含め、あの現場には少なくとも十体以上――」


「十体以上?! そんなに?!」


 トランスの補足に、京子は目を細め唸る。


(そうか。彼女達は、他のXENOVIAに疑惑を抱いているということね)


「わかったわ――この話は、今はこの三人だけの間で留めましょう。

 他の皆には、秘密にしておいて頂戴」


「「 はい 」」


 素直に承諾する二人も、恐らく何か思う事があるのだろう。

 京子は、机の上に置かれたLEDランタンに手を伸ばすと、酷く複雑な表情を浮かべ、天井を睨んだ。



 

 




 美神戦隊アンナセイヴァー


 第113話【土曜】

 






「ちょ、ほ、本気なのか新崎?!」


 田島は、激しく狼狽する。

 そんな彼の右腕に両腕を絡めながら、すがるような眼差しで新崎未央は囁いた。


「もちろんです。

 それに田所さんも、そのおつもりだったんでしょ?」


「え、あ、いや、俺は……そ、その、食事だけで……」


「嘘ついてもわかるんですよ♪

 だって、さっきから前が……」


「あっ!」


 未央に指摘され、田所は反射的に前屈みになる。

 そんな彼の下半身に手を伸ばし、未央は、耳元に唇を寄せる。


「あっ」


「大丈夫、誰にも言いませんから」


「ほ、本当?!」


「はい♪

 だ・か・ら……二人で楽しみましょう♪」


「……」


 顔を真っ赤に染めて、未央に引っ張られながら近くのラブホテルの中へ消えて行く。

 抗い難いまでの強烈な誘惑。

 今まで同性愛なんて考えた事もなかったのに、田島はもう未央の誘いを断ることが出来なくなっていた。




 ――その一時間後。




「お待たせしました、三田内さん♪」


 メールで指定された待ち合わせ場所に、時間通りに現れた未央を見て、三田内は飛び上がらん程に驚いた。

 なんと彼は、先程までのスーツ姿ではなく、白基調のカジュアルなブラウスとロングスカートに身を包んでいた。

 アップにまとめられた髪は大人の“女性”そのもので、しかも三田内の性癖にどストライクなビジュアルだ。


「に、に、に、新崎……さん?!」


「ええ、そうですよ?」


「あ、あの……す、凄く似合いますね」


「やだ、どうしたんですか?

 いきなり他人行儀で」


「あ、は、いやその」


「それより、時間も遅くなっちゃいましたから、僕のオススメの所に行きませんか?」


 上目遣いで見つめられ、三田内は一瞬で未央の圧倒的な――否、もはや悪魔的とも云える程の魅力に瞬時に堕ちた。




 ――その更に一時間後。



「あ、新崎さん……だよね?」


「やだなぁ、二本柳さん。

 そうですよぉ、僕です♪」


「えっと、あの……き、着替えて来たの?」


「そうですよ。

 二本柳さん、こういう服好きかなって思って」


「あ、う、うん……」


「さぁ、行きましょう♪」


 親し気に腕を絡め、頭を肩に寄せる。

 未央の姿は、まるで女子高生の私服のような恰好だ。

 モスグレーのジャケットを黒の白いブラウスの上にまとい、スカートは膝上二十センチ以上はあるミニ。

 足首までの黒いソックスと可愛らしいシューズが、二本柳の好みにあまりにもドンピシャ過ぎた。


 長い髪をワンレン風に分け、上目遣いに見つめて来る。

 その仕草や雰囲気に、男性っぽさはまるで感じられない。

 それどころか、違和感すら全く感じられない。

 二本柳は、相手が同僚の男性社員であるという事を、完全に頭から飛ばしてしまっていた。


 しばらく歩いた後、


「え、こ、ここは……まさか、ここに、お、俺と?」


「だって、そういうつもりだったんでしょ?

 そういうの分かるんですから」


「え、あ、いや」


「二本柳さんは、止めるんですか?」


「え、それってどういう――」


 ラブホテル街の一角、戸惑う二本柳の肩に両手をかけると、未央は真正面から視線を絡めて来る。

 一瞬、彼の目が金色に輝く。

 途端に、二本柳の身体の中で何か激しい情熱のようなものが渦巻着始めた。

 否、これは情熱というよりは――


「さ、行きましょう♪

 二本柳さんは、僕のこと何処まで楽しませてくれるかなぁ、楽しみ♪」


「……うぅ……」


 まるで自意識を喪失したような表情で、二本柳は未央に手を引かれてホテルへと姿を消した。






 翌日、土曜日。

 新宿署は、早朝からどよめいていた。


「これは……殺人事件なのか?」


「さぁな。

 だが状況的に、事件性なしと断ずるのは難しいだろ」


「そりゃそうだ!

 こんなけったいな事、自然に起きてたまるかってんだ」


 島浦は、まだどこか眠たそうな顔つきで吠える。

 朝のコーヒーを苦々しい表情であおる司は、出勤早々飛び込んで来た通報内容に顔をしかめた。

 

 新宿区歌舞伎町三丁目――所謂、歌舞伎町ラブホテル街。

 翌日早朝、ここのラブホテルで、男性の変死体が発見された。

 後の司法解剖で判明するのだが、死体はまるでミイラのように水分が失われており、体内の保有水分は十パーセント以下にまで低下していた。

 外傷もなく、明確な死因は特定出来なかったものの、本来であればこのような状態になるまでには二~三か月はかかるとされているのに対し、この死体は僅か数時間でミイラ化したらしき事が判明した。


 それだけではない。

 なんと、更にもう二体、同様の死体が別々のホテルで発見されたのだ。

 所持品から被害者の身元はすぐに判明し、いずれも大菊輪株式会社の営業部に勤務している男性社員だ。


(同じ会社の、しかも同じ部署の者が近隣で同時に三人、同じような状況で死んでいる、か。

 明らかに人間の手によるものでも、自然死でもないだろう。

 ――だとすると)


 司は、周囲の様子を一瞥すると、“SAVE.”のタブレットを小脇に抱えて部屋を飛び出した。





「ナオト、連絡だよ」


 朝食の皿をキッチンに運ぼうとしていたナオトを、霞が呼び止める。

 アラームが軽い音を鳴らしているタブレットを取ると、無言で鳴動するアイコンをクリックする。


『――鷹風君か?

 おはよう、早朝からすまない』


「おはよう、司警部。

 いったいどうした?」


『夕べ、怪しい事件が起きたのでな。

 情報を共有しようと思って』


「わかった、伺おう」


 目で緊急事態であることを霞に伝えると、彼女が代わりに皿を運んでいく。

 霞と入れ替わるようにフロアに入って来た愛美は、神妙な面持ちでタブレットに向かい合うナオトの姿を見止めた。


「――そんな非現実的なことが出来るのは、XENOしかいないだろうな」


『俺もそんな気がする。

 昨日の今日で申し訳ないが、そちらでも動いて見て欲しい。

 こちらも動きはするが、なんせ渋谷の件もあるからなぁ』


「わかった、情報提供感謝する」


『こちらもこれから調査開始だ。

 送れそうな資料が出来たら、後で転送する。

 よろしく頼む』 


「ああ」


 ナオトがタブレットを閉じた頃合いを見計らい、愛美は背後に接近する。

 声をかけようとした瞬間、睨みつけるような表情でナオトが振り返った。


「きゃっ!」


「愛美?! いつからそこに居た?」


「あの、今さっきです!

 司さんですよね、今のは?

 何か、あったんですか?」


「ああ、ちょっとな。

 もしかしたら、またXENO絡みの事件が起きたかもしれない」


「ええっ? 連続ですか?」


 驚く愛美に、ナオトは深く頷く。


「最悪の場合、そうなる。

 片付けをしたら、地下迷宮ダンジョンに向かおう」


「はい、わかりました。

 ところで、霞さんは?」


「あいつは、さっき皿を持ってキッチンに――」


 そう言い終わらないうちに、キッチンの方から短い悲鳴と、食器が割れるような音が響いて来た。


「な、ナオトぉ~!」


 情けない呼び声が続けて聞こえて来る。

 その様子にほくそ笑みながら、愛美とナオトはキッチンに急いだ。





 一方その頃、神代卓也のマンション。


「おかしいなぁ~、どうしたんだろう?」


 受話器を戻しながら、澪は困り顔で天井を見つめる。


「まだ、連絡つかないの?」


 卓也が声をかけると、澪は両肩をすぼめながらコクコク頷く。


「夕べから全っ然よ。

 未央、今まではすぐに電話出てくれたのに」


「何か急に忙しくなったんじゃないか?

 携帯に連絡したなら、後で折り返し来るだろ」


「うん、そうだといいんだけど。

 もし、何か身体に異常が起きてたりしたらって心配で」


「おう、そうかその可能性もあるのか」


 渋谷ぱるるでの被災で、頭にダメージを受けていたりしたら大変だ。

 だんだん心配になってきた澪は、卓也と相談して、なんとか未央の無事を確認したいと思うようになってきた。

 しかし、今日は大事な予定もある。


「ねぇ卓也、猪原さんのお宅にはいつ伺うの?」


「え? あ、そうだな」


 大雑把に夕方五時くらいに着くようにと考えていた卓也は、そこから色々逆算する。

 手ぶらで訪問するわけにも行かないし、途中で寄り道することも考えたら、遅くても三時にはここを出ていたい。

 その旨を澪に伝えると、彼はポカンとした顔で尋ねて来た。


「ねえ卓也、この世界から脱出するのは、今夜の予定じゃなかった?」


「え? ああ、そのつもりだけど」


「じゃあ、どうやってそれまでに疲れるの?」


「え?」


「だってホラ、世界移動の時は思いっ切り疲れた上で酔っぱらう必要があるでしょ?」


「……あ、あああああああ!!!」


「やっぱり、忘れてたのね……」


 卓也は、肝心なことを思い出して激しく狼狽した。

 彼は異世界間を移動する能力を持ってはいるが、その発動には条件がある。

 前回居た世界でほぼ確定したその条件とは「極限まで疲労した状態で酔っ払い眠る」というものだ。

 どちらの条件が欠けていても駄目で、実際過去に何度か失敗している。


「い、今から思いっ切り疲れる方法ってなんかある?!」


「ないわねぇ。

 それに、そんなボロボロの状態で猪原さんのお宅に上がるわけにもいかないわよ?」


「ってことは、俺達は猪原さんとこから帰って来てから疲れる必要があるのか?!」


「そうなっちゃうわね。

 ――ねえ真面目に、ボクと限界までしてみる?」


 急に色っぽい視線を向けられ、ドキリとする。


「でも、最近は澪の方が先に失神するじゃん」


「え、あ、そっか。

 卓也、本当に絶倫になっちゃったもんね♪」


「絶倫言うな!

 で、でも、どうしようか!

 誰もいない世界だったらいくらでもムチャな事出来ただろうけど、この世界だと難しいぞ!」


「それに、卓也さんにも家を空けてもらう必要が出て来るし、綿密に計画立てないと駄目じゃない?」


「そうだなあ……しょうがない、世界移動の予定を見直すか」


 老け卓也には、土曜日にこの世界を出て行く話は既にしており理解は得られているものの、詳しい段取りまでは伝えていない。

 色々相談した結果、世界移動は一日遅らせる方向で調整し直すことになった。




「おう、わかった!

 遠慮しないで一日なんて言わずに、もう一週間くらい居ればいいのに」


「なかなかそういうわけにも行かねぇんだよ。

 でも、ありがとうな」


 事情を話すと、老け卓也はあっさりと快諾してくれた。

 世界移動を始める時、巻き込まれないように自宅から離れることにも承諾し、協力を約束してくれた。


「さすがに来週も休むってわけには行かないからな」


「そうだよ、結局今週一週間丸々休んだんだもんな」


「ああ、でも新崎には会いたくない……」


「まだ言ってんのかよ」


「そこは我慢しなくちゃ。

 でもそれより、あの子の無事を確認して来たいの。

 ねえ卓也さん、澪の住んでいるところ、知らない?」


「うっ」


「あ、これは知ってる顔だ」


 老け卓也は、卓也達がこの世界に来た初日にマンションを追い出され、未央のマンションに退避しようとしたことがある。

 その時の出来事を思い出したのか、物凄く嫌そうな表情を浮かべながらも行き方をメモしてくれた。


「ありがとう! じゃあ、早速様子を見に行ってみるわ」


「おっと、俺も行くよ」


「そうなの? おうちでゆっくりしてればいいのに」


「いやまあ、色々と事情があってな」


「?」


 小首を傾げる澪を見て、卓也は昨日、凱に呼び出されて言われたことを思い出す。




『重ねて言うが、澪さんがXENOであるとは断定できないが、違うとも言い切れない。

 だがどちらであれ、正体を見抜くのは至難の業だ。

 そういう意味でも、君にこれを渡しておくんだ』


『この……フォトンなんちゃらって奴、っすか?』


『フォトン・ディスチャージャーな。

 まあ、使わないに越したことはないが、もし君の目の前で澪さんに明らかな変化が生じたその時は』


『そ、その時は?』


『君が、その銃で彼を撃つんだ』




 卓也は、凱から渡されたガラケー携帯……に偽装した秘密兵器をポケットの中で握り締めた。


(澪がXENOなんて、絶対にありえない!

 普段と全然変わってないし、もしそうなら、俺も老け卓也もとっくに食い殺されてる筈だろ!)


「知った事かよ」


「え? 何か言った?」


「あ、いや何でもない」


「?」


「なぁ澪、今日は絶対に猪原さんとこに行くぞ」


「どうしたの突然?

 当たり前じゃないの」


 不思議そうに小首を傾げる澪を見て、卓也は確信した。

 澪は、絶対に大丈夫、問題ない。

 

 出かける準備を整えると、卓也は澪と共に、颯爽とマンションを出た。






 同じ頃、ここはSVアークプレイス。

 先程、地下迷宮ダンジョンに出向いた凱の部屋を掃除していた恵は、部屋の隅に置かれた紙袋に目が留まった。


「あれぇ? これ何だろう?

 ――お土産? お兄ちゃん、これ持ってくのかな?」


 紙袋の中には、かなり大きめなお菓子の箱のようなものが入っている。

 今日の夕方、凱が何処かに出かけるという話は聞いていたが、行先は知らない。

 恵は、きっとその時に持っていくものだろうと考えて、玄関に移そうと思い立った。


「よっこらしょっと。

 え~と、この辺に置けば忘れないかな?」


 既に掃除を終えた玄関の脇に紙袋を立てかけると、恵はキッチンの掃除に移ろうとする。

 だがその時、スマホが鳴動した。

 

 相手は、向ヶ丘未来だ。


「は~い、メグで~す♪

 未来ちゃん? どうしたの?」


『メグ、今何処にいるの?』


「ん~? お兄ちゃんのお部屋だよ?

 どうしたの、何かあったの?」


 心なしか、珍しく未来は少々興奮気味のようだ。

 口調が普段より早い。


『何があったの、どころじゃないわ。

 とんでもないことが起きたのよ!』


「えっ? まさかまたXENOが出たの?」


『XENOじゃないわ。

 皆にも声をかけたから、あなたも急いでミーティングルームに来て』


「あ、うん! わかったぁ!」


(なんだろう? 未来ちゃんにしては珍しいなぁ)


 要件を言わないで呼び出す事なんて、滅多にない筈。

 頭の上にハテナマークを浮かべながら、恵は凱の部屋を飛び出してミーティングルームへ向かった。


 部屋に辿り着くと、そこには舞衣、ありさ、未来が待っていた。

 愛美はまだ来ていないようだ。

 未来は、リビングの中央にあるテーブルの上にタブレットを起き、物凄く真剣な表情を浮かべている。


「どうしたの、みんな?」


「来たわね、メグ。

 愛美がまだだけど、迷宮園ラビリンスにいるみたいだから……ひとまず始めるわ」


「いったい、なんだよ。

 せっかくドラクエ3やってたのにぃ」


「ありささん、この前クリアしたって仰ってませんでしたか?」


「うん、七回目始めたんだ!」


「な、なな……」


「メグ、お掃除途中だから早く戻らないといけないの。

 未来ちゃん、いったい何があったの?」


 心配そうに尋ねる恵に、未来は手招きしてタブレットの画面を覗かせる。

 それにつられて、舞衣とありさも後ろから覗き込む。


「さっきレポートのまとめをしてる最中、休憩のつもりでニュースサイト見たら」


「うんうん」


「――あったわ、これよ」


「えっと……えっ、行方不明だった少女、無事発見される?」


「へぇ、十一年前に行方不明になってた子供が見つかったんだって!

 凄いな、いいお話じゃないか」


「神隠しに遭ったように、って書いてますね」


「問題は、その“帰って来た子”の名前よ。

 よく読んで」


 そう言いながら、未来は画面の下の方を指差す。

 そのニュース記事は最後の方に画像を掲載しており、それは行方不明事件発生当時に公開された捜索依頼の呼びかけポスターのようだった。


 そこには、衝撃的な名前が記されていた。



 ――猪原いのはらかなた




「かな……た、ちゃん……?

 え、これ……どういうこと?」


「い、猪原かなたって! おい、もしかしてあの子か?!」


「パワージグラットで逢いに行っていた、あのかなたさんですか?!」


「そうよ。

 どういうことか全然わからないけど、あの子がこの世界に帰って来たのよ」



「「「 えええ~っ!! 」」」



 SVアークプレイスの一角に、三人の少女の驚きの声が響き渡った。



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