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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第5章 XENOVIA暗躍編
200/226

●第112話【人気】

新年明けましておめでとうございます。


新年一発目の更新ということで、今回はちょっとした息抜き(ギャグ)回となります。

今年もよろしくお願いいたします。


「おおっと?! 意外に順位高いぞ! 三位だって」


「ぐえっへっへっへっ、どどど、どぉだぁ~♪」


「凄いですね、ありささん!

 えっと、私は……ひぃ、ににに、二位?!」


「ぬわっ、いきなり負けたぁ!」


「凄いね二人とも。

 どんだけ好感度高めたんだよ」


「こここ、好感度って何ですか、今川さん?」


「アンナローグ、結構でかでかとテレビに映ってたらしいしなあ」


「そそそ、そうなんですか?!」


「HEY、マナミ!

 すっかり人気者じゃないの!

 アリサも最下位から一気に上がったネ!」


「そう言われると、あまり嬉しくないなぁ……」



 ここは、SVアークプレイスのミーティングルーム。

 リビングのテーブルには、愛美とありさ、今川とティノが集まり、ノートPCを覗き込んでいる。

 そこに、相模姉妹と未来がやって来た。


「はろー♪

 あれぇ? みんな何してんのぉ?」


「おはようございます、皆さん。

 どうかされたんですか?」


「また何か怪しいサイトでも見てるんでしょ、どうせ」


「OH! みんなもこっち来なよ!

 アンナセイヴァーの人気投票結果見よう!」


「「「 人気投票??? 」」」 



 

 




 美神戦隊アンナセイヴァー


 第112話【人気】

 





 先の渋谷ぱるるで発生した崩壊事件では、アンナセイヴァーの活躍が一般に広く認知される結果となった。

 XENOの発見・特定が遅れた影響で、パワージグラットが使えなかった事が要因だが、崩壊に巻き込まれた被害者を放置出来ないという各人の想いから、救助活動支援を行った事も大きかった。

 途中、警察の介入を避けるため姿を消しての活動とはなったが、それでも彼女達の一生懸命な様子は、多くの人々に見られている。


 その結果、以前より“謎のコスプレ集団”に関する話題はSNS上で沸騰し、衰退傾向にあったネットコミュニティが再び息を吹き返し始める程に至っていた。


 彼女達が見ているのは、“謎のコスプレ集団”のコアなファン達が作成したアンケートサイトだ。

 愛美がネット上でやりとりをしている“師匠”なる人物から教わったもので、そこには変動式で六人のメンバーの投票結果が表示されるようになっていた。


 未来が、物凄いジト目で画面を覗き込む。


「何コレ」


「アンナパラディン……プププ、“胸が一番デカいオレンジちゃん”だってw」


「いちいち声に出さなくていい!

 まったく、誰よこんなの作ったのは!」


「ミキはぁ、あららら、五位だね」


 ティノの呟きに、一瞬ムッとした顔をする。


「この投票で上位になっても、別に何も変わらないでしょう」


「そりゃそうだけど。

 あ、でも見てよコメント面白いよ?」


 今川が画面を切り替えて、アンナパラディンに投票した人のコメントを表示する。


“力強い! パワフル! カッコイイ!”

“パワー系だったんやな 凛々しくてカッコええんやな”

“ほんっとに胸デカかった! あれいったい何カップなんや?”

“↑GやJのレベルじゃ済まないよな絶対”

“挟まれたい”

“一人黙々と真面目に瓦礫撤去作業やってる姿に感動しました”

“今まであんまり好きじゃなかったけど 今回観た動画で好きになっちゃった”

“ケツがでかいのも俺好み”

“話し声初めて聞いたけど 凛々しくて素敵だった 純粋にカッコいいよ惚れる”


 未来は顔を真っ赤に染め、沈黙する。


「ええやんええやん、めっちゃ褒められてるじゃん!」


「茶化さない!

 こ、こんなの全然嬉しくないわよ……それに、半分くらいセクハラ発言じゃない!」


「ねぇ、この、挟まれたいってどういう意味なのぉ?」


 突然隙間に割り込んで来た恵が、未来に抱き着きながら尋ねる。


「え? あ、え~と……」


「私もよくわかりません。

 どういうことですか? 今川さん」


「ええっ?! そ、それを俺に聞く?!」


「あの、私も意味がわからなくて」


 同じく疑問を呈する愛美と舞衣に、今川は激しく狼狽し、未来はものっそい怖い顔で睨みつける。

 見かねたありさが、コホンを咳払いをする。

 

「三人とも、ちょっと顔寄せて。

 あのな、挟むってのはだな、つまり――ゴニョゴニョ」


 三人を集めると、何やらコショコショと話し始める。

 その瞬間、ボンッ! と音がして三人の顔が真っ赤に染まった。


「ひ、ひ、ひ、ひえぇぇぇぇ?!?!」

「にゃ、にゃあぁぁぁ?! 何それ何それ何ソレェェェェ?!」

「い、いけません! いけません!! そ、そんな破廉恥な事ぉ!」


「破廉恥って言葉リアルで言う人、初めて見た」


「え、だ、だって!」


「お、男の人って、そーいう事するのが好きなの?!

 やぁ~ん!」


「まったく……これだからネットの発言は嫌なのよ」


 未来は、呆れた顔で壁に手をつく。


「う、うわぁ、オレ、すっごく居心地悪くなってきたぁ」


「マイは四位ね、メグは――見てごらん!」


 場の空気を全く読まず、ティノは赤面しているガールズに呼びかける。

 

「うにゃ? メグの順位は――えっ?! い、一位?!」


 なんとアンナミスティックが、堂々の第一位。

 コメントの数もダントツで多く、二位のローグを大きく引き離している。


「私は、四位ですか。なんだかホッとしました」


「舞衣さん、元気出してください」


「あの、えっと、別に落ち込んでいる訳では……」


「これ、どうやらあの時外に出て活動していた時間が長い人が、ポイント稼いでるみたいね」 


「メグ、そんなに外に出てたかなあ?」


 嬉しい反面、どこか納得が出来なさそうな恵に、今川は画面を切り替えてコメントを見せる。



“救助してもらった! すげぇ可愛くてしかも胸でっかい! 最高だ!” 

“あの見た目でまさかのょぅじょ系キャラなのは意外だった”

“誰だよ、高ビーでワガママキャラだとか言ってた奴は 全然違ったじゃねーか”

“声カワイイ! 笑顔イイ! 優しい! なのにコスが際どい! 俺にとことんツボる!”

“スカートの中めっちゃ際どい下着やなこれ タンガっていうのか? 最高過ぎんだろ”

“↑しかもつるつるだもんな”

“↑詳細”

“↑お前あの動画観てないのか? 俺はもう三回ヌいたぞ”

“むっちむちボディで人懐っこい笑顔が素晴らしい。お嫁さんに欲しい”

“無断撮影ゴメンナサイ”

“キズ治してもらったところ もったいなくてもう洗えません”



「うわぁ……こっちもひっでぇセクハラ発言の嵐」


「まだまだあるけど、えらい人気やなあ」


「これ読むと、ミスティックの動画がどこかに上がってるみたいだね。

 それで一位になったのか」


「誰なんだよ上げた奴は」


 今川とありさが、どうでもいいコメントを付加する。

 一方で、当の本人は真っ青な顔をしている。


「にゃああ! えっ? えっ? それ、もしかしてあの時助けた人達がアップしたの?

 いやぁ~ん、撮っちゃダメって言ったのにぃ!」


「褒められてはいるけど、これは女の子には嬉しくないよねぇ」


「ひぇ~ん! お姉ちゃぁ~ん! え~んえ~ん!!」


「よしよし」


 舞衣に抱き着いて頬ずりする恵を見て、愛美は、自分のコメントだけは絶対に見ないようにしようと心に誓った。


「んで、ドベは誰?」


「ドベって何」


「ゲッポの事」


「益々わからないヨ!」


「最下位は、アンナチェイサーですね」


 ティノの質問に、全員の視線が集中する。

 どうやら今回、彼女の姿を視認出来た者は殆どいなかったようで、それが票に影響しているようだ。


「さもありなん」


「えーっ、なんでぇ? 霞ちゃん可哀想だよぉ!」


「霞さん、こちらに来られましたか?」


「いんや、今日は見かけてないねぇ」


「でも、熱狂的なファンの方はおられるみたいですねー。

 “今日も見つけられなくって残念”ってコメントがいっぱいです」


 フォローのつもりなのか、愛美はちゃっかりコメントを開いて説明する。

 舞衣と恵がウンウンと頷く。


「霞さん、可愛いですからね」


「うんそうそう! 霞ちゃんカワイイから、ちゃんと出てくればもっと人気出るよー」


「見た感じ、一番まともな内容のコメントよね、彼女の」


 未来がしみじみと呟く。

 

「それにしても、やっぱアンナセイヴァーってやらしい目線で見られてるんやな。

 あんな恰好だし、これはしょうがない、いわば宿命なんやな」


 腕組みをしながら、まるで他人事のように呟くありさに、未来はキラーンと眼鏡を輝かせた。


「ちょっと、あんたのコメントも見せなさいよ」


「え?! あ、いやいやいやいや、あたしのは大したこと書かれてないよぉお?」


「コメント数、1138……アンナローグより多いですね」


「だぁ~、舞衣! 余計なことを!」


「ちょ、マウス貸しなさいって」


「きゃー、止めて未来~!」


 無理矢理マウスを奪い取って、画面を切り返る。

 


“貧乳! たまらん貧乳!”

“ちゃんとそっち方面の需要にも対応しているのが素晴らしい”

“みんな評価してないけど この娘いっちゃん美人じゃね? 凛々しい顔してるし”

“純粋にかっこいいよね”

“単なるボーイッシュキャラだと思ってたら、メチャクチャ美人だったって意外性がイイ!”

“あの引き締まって程好くむっちりした下半身がたまらん 一番エロい”

“一番の美人がひんぬー枠ってご褒美ですか”

“姉御口調”

“↑会話データ聞いた? トークも旨いんだぜ彼女”

“M気質の俺には最高の存在です 踏みつけて乱暴な言葉で辱しめて欲しい”

“遠慮なくバンバン見せてくれるのがいいのじゃ”

“↑どういうこと? 詳しく”

“良く言えばサービス旺盛 悪く言えば恥じらいがない”

“↑何それ最高じゃないか”

“結局公式アカウントってどれだよ! 全然見つかんねーよ!”



 未来の眼鏡が、ピシッと音を立てて割れた。


「あの……えっと、その」

「ねぇ、これどーいう意味なのぉ?」

「ありささんがとっても美人なのを、しっかり把握されているのは流石ですねぇ」

「あ、ありささん……これは堪えますね」


「うわあぁぁぁぁぁぁん! みんなであたしのことをバカにしてぇぇぇぇ!!

 未来なんか嫌いだぁ! みんな大嫌いだぁ~!!」


 滝のように大量の涙を流しながら、ありさは猛スピードで走り去ってしまった。


「あ~あ、ありさちゃん、暴かれちゃった」


「ミキ、結構残酷なことするネ」


「ししし、知らなかったんです! まさかあんな事書かれてるなんて!」


「あの、わ、私のコメントは……絶対見ないでくださいね?」

「あ、わ、私もです!」


 舞衣と愛美の必死の否定に、今川とティノは思わず顔を見合わせて、ほくそ笑んだ。


「いやぁ」


「もうその、遅いっていうか」


「え?!」


「ま、まさかもう、読まれたのですか?!」


 動揺する二人に、今川とティノは再びニヤリと微笑む。


「アンナローグは、カワイイってコメントが多かったよぉ♪」


「アンナウィザードはねぇ、大人の色気とか、アダルトで色っぽいとか、そんな感じのことがいっぱい♪」


「ひ、ひえぇぇぇ!」


「や、やぁ~ん! 言わないでください!」


「あ、でも今川っち、アレのことは……さすがに言えないよねぇ?」


「ああそう、ちょっと本人達に伝えるのは酷ですね」


「え? ちょ、な、何が書かれてたんですか?!」


「気になっちゃいます!」


「いやぁ」


「さすがにねぇ」


「「 お二人とも~!! 」」


「にゃあぁ~! メグのばっかり見てずるい~!

 おねーちゃんのも見せて! 愛美ちゃんのもぉ!」


「め、メグちゃん、落ち着いてえ!」


「かかか、勘弁してください、メグさぁ~ん!!」


 その後、楽し気な会話が昼近くまで続いた。





 ここは、都内にある商社・大菊輪株式会社の本社屋。

 そこの営業部では、ちょっとした波紋が起きていた。


 澪と共に渋谷ぱるるの事件に巻き込まれた新崎未央が、無事に出社して来た。

 しかし、その恰好は女性物のスーツを纏い、長い髪を結ばずにそのまま伸ばし、完全な女性のスタイルだ。

 そんな姿で出社してきた彼の存在は、あらゆる方面で影響を及ぼしていた。


「あ、あの、新崎……さん?」


「どうしたんですか、西崎さん?

 いつもは呼び捨てなのに」


「あ、う、うん……あの、この資料なんだけど」


「はい」


 先輩同僚の資料を受け取らず、わざわざすぐ横に移動して顔を寄せる。

 西崎と呼ばれた男は、そんな未央の仕草にドキリとした。


「あ、これですね」


 資料を取ろうとして、未央は西崎の手に自分の手を重ねる。

 

「あ、あああ」


「どうしたんですか? お顔が真っ赤ですよ?」


「あああ、あ、い、いや……その」


「うふふ♪ 先輩、なんだかカワイイ」


「……」


 その後、西崎はろくに仕事の説明も出来なくなり、それどころか終始未央の方をチラチラと窺うようになってしまった。


 同じように、同班の男性社員達も奇妙な行動を取り始める。

 仕事も上の空、電話が鳴っても取ろうともせず、未央を見る事に気が向いてしまっている。

 一方で、女性社員達はその光景を冷めた目で眺めている。


(どういうことなん? 男共、みんな新崎の方しか見てへんやん)

(新崎さん、ソッチの人なんかぁ。まぁ、元からそういう雰囲気だったけどさ)

(それにしてもさ、みんなおかしいよ?)

(実はうちの課の男、全員ホモだったりして♪)


 同じ課だけではない。

 通りすがりの他の課の者達も、社内にやって来た来客も、通いの業者も、男性は例外なく未央に目を奪われてしまう。

 それはもはや「魅了」の領域。

 未央自身はいつも通りに仕事をこなしてはいるが、男性社員に接する時のみ、何故か異常に接近したりスキンシップを取る。


 昼休みが近付く頃になると、未央の許に大勢の男達が集まって来た。


「な、なあ新崎。飯一緒に行かね?」

「おい何言ってんだ、俺の方が先に並んでたんだぞ」

「ちょっと話があるんだが、少しだけいいかね新崎君?」

「か、課長! 抜け駆けしないでくださいよ!」


 必死で言い寄ろうとする男共の様子を、未央は満足そうに眺めている。


「ね、ねえ」


 突然、未央の向かいに座っている女性社員が隣の者に囁き掛けた。


「どうしたん?」


「な、なんか今、新崎さんの目が、さっき光ったような」


「何言うてん、疲れとんちゃうか?」


「そうかな……そうかも」


 首を傾げながら席を立つ女性社員達。

 そんな彼女達が背中越しに聞いたのは、


「すみません、今日は食欲がないので、昼食は摂らないつもりなんですぅ」


 という甘ったるい声と、落胆する大勢の男共の溜息だった。





 同じ頃、新宿署。

 自分の机にどっかと座り込んだ司は、買って来たコーヒーを一口飲むと重い溜息を吐き出した。


 思い返すのは、無論渋谷ぱるるの事件のこと。

 だがそれよりも、もう一つ気になっている事が脳裏にこびりついていた。


 事件が佳境に入る直前に高輪が持ち込んだ、USBメモリの件だ。



『――人造育成生体?』


『そうです。

 あのUSBメモリの中には、開発者自身がまとめた“人造育成生体”というものの各種データをまとめたものでした』


『その人造育成生体というのは、具体的に何だ?』


『どうやら、クローン人間を指すようです』


『クローン人間?

 どうしてそんなものの研究が、あの場所で?』


『それなんですが――』


 高輪は、身を縮めるようにしながら、青ざめた顔で語り出す。


 “人造育成生体”というのは、元になる人間から細胞を摂取し、これを培養することで“胚”と呼ばれる物を作成し、それを核にして新しく作り出された人工の人体を指しているようだ。

 これは、当初吉祥寺研究所がメインで研究を進めていたもので、最終的にはこれに“胚の提供主の精神を写し込む”事で人体のバックアップとする目的だったようだ。


 その“精神を写し込む”という点に於いては資料上での言及はなかったそうだが、いわばそれで実質的に半永久的な生命維持が図られるのでは、という目論見があるようで、その第一段階として肉体の安定供給の流れを明確化させたのが、USBメモリ内にあった資料の内容だったようだ。


『正直な話、正気を疑いました。

 これは、明らかに倫理を無視した、人命を軽んじた行いだと思います』


『同感だな。

 しかし、人造育成生体の実物は何処にも見当たらなかったようだが――』


 そこまで話して、司は思わず言葉を詰まらせる。

 吉祥寺研究所の地下深く、井村大玄が案内した巨大な部屋の中にあった“大樹”。

 そこから生み出されたXENO達は、どこかイメージがダブる。


『課長、“千葉真莉亜”という人物に心当たりはありますか?』


『なに?』


 思わず、顔に出してしまう。


『やっぱりご存じで?』


『ああ、いや。

 以前別系列で調査した時に名前だけ浮上したんだが、詳細はわかってない。

 それが何か?』


『ええ、実はその人造育成生体の研究主任で、私が閲覧した資料をまとめたのが――』


『その、千葉真莉亜自身だと』


『はい。

 しかもこの人物は、自ら“胚”を提供したらしくて』


『なんだと?!』


 思わず席から立ち上がる。

 その迫力に圧され、高輪は目を剥いてのけぞった。


『か、課長?!』


『あ、す、すまん!』


『どうかされたんですか? 顔色が悪いですよ?』


『なんでもない。

 脅かしてすまなかった』


『い、いえ』


『すまないが、その資料と、簡単でいいから概要をまとめたレポートを提出してくれないか?

 今渋谷で起こっている件に関しては、俺が動くから君は関わらなくていい』


『わ、わかりました。

 でも、あの』


『どうした?』


『もう一人、資料上に気になる人物とその名前の記述がありまして』


『聞こう』


『はい、その千葉真莉亜が提供した胚から誕生した人造育成生体がいるようなのですが、それが非常に特殊な個体だということで、研究所内で注目を集めていたそうです』


『名前とは、その人造育成生体のか?』


『は、はい。

 ――まなみ、という仮称が付けられていたそうです』


『……』





 渋谷ぱるるの現場には、この後向かわなければならない。

 だがそれより前、現場の状況を伝える映像を確認し、そこにアンナセイヴァーがフルメンバーで姿を現していたことを確認している。

 当然、その中にアンナローグもいたのだが。


 自然に、表情が苦々しくなる。


(――歯車が噛み合って来たな)


 司は、自分のスマホに保存されている“千葉真莉亜”の写真を開き、見つめる。


(千葉愛美が千葉真莉亜とそっくりなのは、そういうことだったか。

 だとすると、あの娘の正体は……)


 司は、“SAVE.”のタブレットを小脇に抱えると、周囲を見渡して人目を避けるように部屋を退出した。




 ――その日の晩。


「ねぇ、お兄ちゃん?」


 不意に、恵が尋ねて来る。


「ん、どうした?」


 自分と向かい合うように座る恵の腰を手で支えながら、優しい声で応える。

 室温や湿気のせいか、恵は顔を真っ赤に火照らせながら、何処か恥ずかしそうに俯く。


「あ、あのね?

 変なこと、聞いていい?」


「変な事? なんだろ」


「あ、あのね?

 その……ちょっと、恥ずかしい」


「なんだよ、いったい」


 温かな湯に身を浸しながら、妹の言葉を待つ。

 しばらくの間を置いて、恵は意を決したような表情で顔を上げた。


「お、男の人ってね。

 その……挟みたいって、思うの?」


「挟む?

 どういうことだ?」


「え、えっとね……」


 恵は、凱の耳に顔を寄せ、小声で囁く。

 その途端、凱は顔を真っ赤に染めた。


「な! ば、ばばば、馬鹿ぁ!!

 お前、何てこと言い出すんだぁ!!」


「きゃあっ!

 だ、だってぇ!」


「そんな話、いったい誰から聞いた?!

 ありさか? またありさの奴なのかぁ?!」


「う、うん……ありさちゃんが、そう言ってたの。

 男の人って、そうすると喜ぶんだって。

 でもぉ……メグ、そんなの信じられなくって」


「あ、あのアホがぁ~!」


「お兄ちゃんも……そうなの?

 挟んで欲しいとか、思うの?」


 恥ずかし気に、しかして真剣に尋ねる恵に、凱は全力で首を横に振る。


「んな訳あるか!

 そんなことはないから!

 メグ、アイツのくだらない言葉に惑わされるなよ」


「う、うん」


「ありさには、今度あったらガツンと言っとく!

 まったく、うちの大事な妹に何つうこと教えてんだブツブツ」


「うふ♪ おにぃちゃ~ん♪」


 突然、恵が甘え声を上げながら抱きついてくる。

 生の乳房の感触が自身の胸を圧迫し、一瞬声が詰まる。


「わ、ちょ! 湯舟の中でくっつくなっての!」


「え~、だぁってぇ♪

 メグ嬉しいんだもん♪」


「ななな、何が?」


「なぁんでもなぁい♪

 うふふ、お兄ちゃん大好きぃ☆」


「ぐあああ」


 湯煙の中、容赦なく抱き着いてくる妹のボディを受け止めながら、凱は心頭滅却の心意気で膨れ上がろうとするナニかを必死で押さえ込んでいた。



(ってか! そんなん挟んで欲しいに決まってんだろ!!

 だけどぉ! 言えないんだよ俺はぁ!

 こっちには立場っつうもんがあるんだよぉ!)



 子供の時と全く変わらない態度で甘えて来る最愛の妹を抱き締めながら、悲哀の兄は顔に出さずに心の中で激しく慟哭した。



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