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美神戦隊アンナセイヴァー  作者: 敷金
第5章 XENOVIA暗躍編
198/226

●第110話【動揺】



「プハッ!! あたたたた……

 び、びっくりしましたぁ!」


 瓦礫の一部がボカン! と破裂し、その下からピンク色の髪の少女が顔を覗かせる。

 髪から伸びている四枚のリボンが、まるで意志を持っているように動き、瓦礫を器用に除去していく。


「ウィザード、大丈夫ですか?!」


「は、はい! でも、これは……」


「大変な状況になっています! 皆さん大丈夫でしょうか?!」


「階段が埋まってしまっています!

 これでは……」



 ここは、渋谷ぱるるの一階と二階を繋ぐ階段――だった場所。

 だが、先に発生した建物崩壊のため、今はもう階層という概念自体がなくなってしまっている。

 アンナローグとアンナウィザードは、崩れ落ちて完全に塞がってしまった階段スペースを見つめ、途方に暮れる。

 しかしすぐに表情を引き締めたウィザードが、両手を前方に翳した。


 しばらくすると、両肩のバタフライスリーブがパタパタとはためき出す。


「な、何をなさるおつもりですか、ウィザード?」


「ヴォル・グラヴィティを使います」


「ヴォル……グラビティ?」


「私達に装備されている反重力制御装置です。

 見ていてください」


 アンナウィザードが両腕を交差させると、途端に周辺の瓦礫が振動し始め、浮かび上がる。

 そこだけ重力がなくなってしまったかのように。


「な、なんですかこれ?!」


「ローグ、あなたにも出来ます。

 ご協力お願いします!」


「え? えっと……は、はい!」


 ウィザードの見様見真似で、両腕を前方に翳して交差させる。

 アンナローグのバタフライスリーブもはためき始め、より多くの瓦礫が浮かび上がった。


「うわわ! アンナユニットってこんなことも出来るんですね!」


「これで突破口を作ります!」


「ちちち、力業ですねっ! 了解です!」


 たった二人の撤去作業が開始された。


 

 




 美神戦隊アンナセイヴァー


 第110話【動揺】

 






『――状況は以上だ。

 移動出来るのは、速やかに北東部へ向かってくれ。

 ただし、瓦礫の下に生存者が埋もれている可能性もある。

 出来るだけ周辺を乱さず、ドライアードを補足次第現場から遠ざけるんだ!』


 凱の通信が、アンナパラディン、ローグ、ウィザードに届く。

 どうやら地下迷宮ダンジョン側でも状況の判断が困難のようで、凱の声もどこか不安げだ。

 それでもアンナセイヴァー各人は、瓦礫を除去或いは破壊しながら、北東部を目指す。


 しかし、そんな彼女達の前に立ち塞がる者達がいた。

 人型をした植物の怪物――後に「UC-22ex:エント」と認定呼称されることになるこの存在は、明らかにバックヤードまでの路を塞ぐ目的で蠢いている。


 木の根や蔓、葉が複雑に絡み合った、全高三メートルはある異形の姿。

 一切の声を立てず、数体に増えたそれはアンナセイヴァーに襲い掛かって来た。


「こんな闘い難い場所で!

 ――ホイールブレードっ!」


 即座に剣を抜き、斬りつけるパラディン。

 刃に電光が迸る。


「マジカルショット!」


 完全誘導弾の科学魔法を唱え反撃するウィザードと、


「たぁっ!!」


 エントの頭上まで飛び上がって急襲するローグ。

 アサルトダガーをエンジェルライナーが掴み、まるで曲芸のようにエントを攻撃し、翻弄する。

 そうして注意を引き付けながらも、離脱を並行する。

 目的地までの直線距離はさほど大したものではないのに、次々に集まって来るエント達が無駄に時間を費やさせる。


「これじゃ、きりがないわね!」


 アンナパラディンが二人に合流し、背中越しに呟く。


「ローグ、ここは私達に任せて、早くバックヤードへ!」


「は、はい!」


 ウィザードの指示に従い、アンナローグは高々と飛翔すると、エントの群れを飛び越えていった。





 地下迷宮ダンジョンとの通信を一方的に切断すると、アンナチェイサーは器用に身体を浮かせると、狭い通風孔の中をまるでロケットの様に突き進んだ。

 くねくねと曲がりくねった管の中を器用に通り抜け、やがて見えて来るフィルターを突き破る。

 ガシャアン! という派手な音を立てながら、アンナチェイサーはバックヤードに飛び降りた。


「ぬ?!」


 想像を越える、悍ましい光景に一瞬意識を奪われる。

 禍々しいまでに増殖した蔓と、それが降りなす緑の地獄。

 避難者達を蔓で捉え、今にも捕食してしまいそうなその光景を見て、アンナチェイサーは右人差し指と中指のスイッチを入れる。

 手の中に、漆黒の刀身を持つ片刃剣が出現する。


「ブラックブレード!!」


 ドライアードがこちらに意識を向けるよりも早く、アンナチェイサーは勢い良く飛び掛かった。


 黒い刃が、突然伸びて来た太い幹によって遮られる。

 しかし、刃は高熱を帯びておりその幹を焼き切ってしまう。

 一直線に、ドライアード本体を狙って飛ぶ。


「たぁっ!」


“なんだ、コイツは?!”


 突然の急襲に驚き戸惑うドライアードに向かって、目にも止まらぬ動きで襲い掛かるチェイサー。

 四方八方から迫りくる攻撃に翻弄されるが、それでも蔓や幹の防御は容易に突き抜けられない。


(このままだと重火器は使えない!

 どうすれば――)


 やむなくアンナチェイサーは、ブラックブレードをブラックキャノンに切り替える。

 ハンドガンの銃口から、大きな銃弾が撃ち出され、ドライアードの顔に命中する。

 弾は瞬時に炸裂し、薄グレーの溶剤のようなものを巻き散らした。


“……!!”


 パキパキ、と耳障りな音がして、ドライアードの身体がみるみる硬直する。

 やがて溶剤は硬化を始め、彼女の動きを封じてしまった。


(コーキングパンチャー。

 これで少しの間大人しくなってくれればいいが)


 樹の上の石造を一瞥すると、チェイサーは急いで避難者達のところへ向かう。


「脱出するぞ!」


「待ってください! 大ケガをした人が!」


「私が連れて行く! 皆はここから――」


 そう言ってブラックキャノンを壁に向かって構えたところで、避難者の数人が悲鳴を上げる。

 なんと、硬化したドライアードの樹から、触手のような蔓が迫って来ていたのだ。

 その動きから、なりふり構わず動かしているだろうことが判る。


「くっ! 厄介な!!」


 アンナチェイサーはブラックキャノンをくるくると回し、更に変型させる。


「ブラックトンファー!!」


 中指と薬指のスイッチを押し、銃から長さ二メートル程のロッド状の武器に変型させる。

 それを棒術使いのように激しく回転させると、チェイサーは様々な角度から襲い来る蔓を叩き伏せ始めた。

 しかし、攻撃の回数が尋常じゃない。


(まずい、このままでは圧される!)


 だが、その時――



「アンナキィック!!」 


 鋭い気合の声と共に、ドカッ! という激しい激突音が鳴り響く。

 と同時に、突然噴き上がる炎が蔓を焼き尽くしていく。

 更に――


「フォトンディフェンサー!!」


 半球状のシールドが突如出現し、ドライアードを包み込んだ。


 駆け付けたアンナローグと、並行世界から戻ったミスティック、ブレイザーが合流したのだ。


「ミスティック、パワージグラットで皆を避難させるんだ!」


「うん、わかった!

 ――パワージグラットぉ!」


 アンナブレイザーの指示で、ミスティックと避難者達が一斉に姿を消す。

 コーキングを振りほどき、ようやくまともに動けるようになったドライアードは、自身を取り囲む透明な膜に驚き、激しく動揺していた。


“くそぉ! なんだこれはぁ?!

 お前達も、私の邪魔をするのかぁ!”


「このXENO、喋るのか?!」


「それより、これからどうしましょう?!」


『チームを二つに分ける!

 ローグ、ミスティック、ブレイザー、そしてチェイサーは、この後パワージグラットでドライアードを並行世界デュプリケイトエリアへ飛ばして、そこで決着をつけろ!

 ウィザードとパラディンは、そのまま残って被害者の救助とレスキュー隊のフォローを頼む!』


 再び、凱の指示が通信で届く。

 余計なことを考えている余裕はない。

 ミスティックが、並行世界を経由して戻って来るまでの間に、エントを片付けなければならない。


 幸い、科学魔法のフォトンディフェンサーはドライアードには破る術がないようだ。

 これなら時間が稼げる。


 誰もが、そう思っていたのだが――


“おのれぇぇぇえええ!!

 お前達も、全員吊るしてやるぅ!!”


 なんとドライアードは、一瞬で外に飛び出して来た。

 その背後には、誰もいない空っぽのフォトンディフェンサーが残されている。


「なっ?!」


「えっ?! えっ?! な、なんでですか?!」


「テレポートだ!」


「え……うわあっ?!」


「きゃあっ!!」


 一瞬の隙を突き、ドライアードの蔓がアンナブレイザーとローグを捕縛する。

 危ういところで攻撃を避けたチェイサーは、天井に貼り付くように退避すると、逆さまの状態でドライアードを睨んだ。


“ぐ……?! お、重い?!”


 ローグとブレイザーを捕えたのはいいが、二人の重量は合わせて約3.8トン。

 ちょっとした小型トラック並の重さで、さすがのXENOでもこの大きさのままでは厳しいようだ。


「くっ!!」


 アンナチェイサーが、右人差し指と小指を曲げてスイッチを入れる。

 イクイップメントコンソールがまたも作動し、彼女の手の中に“クナイ”のようなものが出現する。

 

「てぇっ!!」


 アンナチェイサーは、クナイ型の手裏剣を投げつける。

 それは正確にローグ達を捕える蔓に命中する。

 両手から次々に投げられるクナイ。

 それはぶれる事なく一点集中――否、二点集中で命中して行き、やがて蔓の拘束力を奪い取る。


「おわっぷ! 脱出ぅ!!」


「ありがとうございます! チェイサー」


“くっそぉ! 肝心な時に助けもしない癖に! 私の邪魔ばかりしやがってぇ!!”


 怒り狂い、更に触手を振り回すドライアード。

 だがアンナローグは、そんな彼女の言葉に耳を貸してしまった。


「助け? どういうことですか?」


「ローグ! 構うな!!」


“お前達はいつもそうだ!

 苦しんでいるのに、悩んでるのに! 絶対に助けに来ない!

 手を差し伸べようともしない!

 同情するのも、助けようとするのも、全部手遅れになってからじゃないか!!”


「い、いったい何を?」


「ローグ! 耳を貸すな!

 それは惑わす為の罠だ!」


「ちぃっ!!」


 チェイサーの警告も耳に届かず、思わずドライアードの言葉に聞き入ろうとするローグ。

 そんな彼女に迫る、極太の鞭のような触手。

 間一髪で、バトラーがローグを引き離した。

 さっきまでローグが居た場所が、ボコッと大きな音を立てて陥没する。


「バカ! 何やってんだ!」


「で、ですが、あの人――何か言おうとしていて」


「アイツは人じゃねぇ! XENOだ!

 間違えるな!」


「は、はい……」


“私の、私の恨みを晴らす邪魔をするなあぁぁぁぁああああ!!!”


 ドライアードが、慟哭する。

 と同時に、その身体が、座っていた樹がみるみる巨大化を始める。

 バックヤードの天井を破り、更に崩壊を始める建物の瓦礫も無視していく。


巨大化現象ガルガンチュアか!! こんな所で!」


 アンナチェイサーは舌打ちをすると、破壊に巻き込まれないように素早く離脱する。


「ブラックキャノン!」

 

 詠唱し、クナイを再びハンドガンに切り替える。

 そしてアンナブレイザーは、ローグを連れたまま一旦上空へ避難した。



 推定全長、約二十メートル。

 根や蔓の占有面積、おおよそ二千五百平方メートル。

 この空間が、瞬時に植物に満たされる。

 更に、瓦礫の中から次々に発生するエント。


 とうとうその姿を現したドライアードとエントに、さすがの野次馬達も悲鳴を上げた。


「ば、ば、化け物だぁ――ッ!!」

「逃げろぉ!」

「う、うわあぁぁぁぁあああ!!!」


 渋谷の中心街は、瞬時にパニックに陥る。

 スクランブル交差点に面した一角、そこにそびえ立つ商業ビルが半倒壊しただけでも充分パニック状態なのに、そこに加えて巨大な未知の化け物まで出現したのだ。

 入口が瓦礫て埋もれた渋谷センター街、公園通りを跨いだビル、道玄坂、旧大山街道。

 渋谷ハチ公口周辺は、もはや通常ではありえないような異常な光景と変貌し、いくらかの野次馬達や警察を巻き込んでしまう。

 

 渋谷の街のど真ん中に立つ、巨大な樹木。

 それは、もはや隠す事など不可能な程、完全な形で人目に触れた。

 渋谷に集まっていたのは、一般人と警察だけではない。

 当然のように、各種メディアの報道陣も集結していた。

 空にはヘリコプターまで飛来しており、ライトアップされた渋谷の惨状を空撮している。


 それを遠目に観察しながら、場違いなチャイナドレス姿の美女は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。


「あらあら、想像以上にド派手な展開になっちゃったわねぇ」


 それは、デリュ―ジョンリング。

 サンドラッグの入口の辺りに立ちながら、逃げ惑う人々やどんどん拡大していく惨状を愉快そうに見つめる。

 スマホを取り出し、その様子を撮影しようとした途端、変化が起きた。


「――?!」


 スクランブル交差点に屹立していた巨大樹木が、突如消滅した。

 樹だけでなく、そこから伸び拡がっていた触手のような蔓や根も、一斉に。

 また、渋谷ぱるるの瓦礫の中から出現したエント達も。

 そこに残ったのは、ただの瓦礫の山だけだった。


「――あいつらか」


 デリュージョンリングは、悔しそうに一言呟くと、たまたま肩にぶつかった若い男性の腕を掴んだ。


「んな? は、話せよぉ!!」


 いきなり見知らぬ女性に腕を掴まれた男性は、戸惑いながらも必至で振り切ろうとする。

 だが……


「んげ?! げ、げ、げ……」


 奇妙な呻き声を上げ、男性はまるで空気を抜かれた風船のように萎み、デリュージョンリングの手に吸い込まれてしまった。

 それは、僅か数秒間の出来事。

 

「あまり美味しくないわね」


 誰にも聞こえないような声で呟くと、デリュージョンリングは人の流れに沿って移動し始めた。


 



「おまたせぇ!!

 もっかい行くよぉ! マジカルロッドぉ!

 んでもって、パワージグラットぉっ!」



“Power ziggurat, success.  

Areas within a radius of 500 meters have been isolated in Phase-shifted dimensions.”


 突然空間から現れたアンナミスティックが、転送兵器を取り出し、ぐるりと周囲を見回してから詠唱する。

 アンナローグ、ブレイザー、チェイサー、そしてエントやドライアードが対象となり、一瞬で並行世界へ飛ばされる。

 渋谷の街並みを脅かしていた化け物は、人々の前から、まるで煙のように消滅してしまった。




“あ、あれ?! 人が消えた?! なんでぇ?!”


 自分の置かれた状況が理解出来ず、ドライアードは辺りをキョロキョロ見回す。

 その仕草が妙に人間味溢れており、いささか可愛くも思えたが、そんな感情を無理矢理押し流す。

 アンナローグは、グッと表情を引き締めた。


「よっしゃあ! これで存分に闘えるぜぇ!」


「は、はい! 頑張ります!」


「気をつけろ!

 ナイトシェイドもパラディンも居ないから、転送兵器は使えないぞ!」


「ひえっ?! そ、そうなんですか?」


「あの沢山居るXENOは、メグにまかせてねっ!」


「ミスティック、実装中は言動に気を付けて」


「え? メグなんかしt……って、ああっ!

 わ、わわわ、私、にね!」


 チェイサーに嗜められ、ミスティックは恥ずかしそうに頭を掻きながらマジカルロッドを構える。


「よぉし、行くぜぇ!! 一気に決めるぞ!」


「「「 おぅっ!! 」」」


 四人の声が、誰も居ない渋谷の街に響き渡る。

 

“くそぉ! お前達、いったい私に何をしたぁ?!”


「え、えっと……」


「ローグ! 戸惑うな! 行くぞ!」


「え、あ、はい!」


 アンナブレイザーに煽られて、ローグは彼女と共に空高く飛翔する。

 空中で一回転すると、同時に飛び蹴りの体勢で突入する。

 両肩の背面から、光の粒子が迸る。


「「 アンナキィック!! 」」


 二人の気合の声が轟き、ドライアードの頭部に激しい蹴りが同時に命中した。

 ドライアードの頭が、あっさりと粉砕される。


 同時に、ドライアードに炸裂弾が命中し、爆発した。

 アンナチェイサーの猛攻だ。

 その銃撃は凄まじく、連爆により樹が半分程折れ曲がる。

 しかし、ドライアードは頭部を粉砕されたにも関わらず、まだ倒れない。


 みるみるうちに頭部を再生すると、鬼のような形相を浮かべる。


“くそおぉぉぉ!! 皆殺しにしてやるぅ!

 お前ら全員だあぁぁぁ!!”


 叫び声と同時に、突然路面がベコンと大きくへこむ。

 その数秒後、今まで見たこともないような巨大な「根」が道路を突き破って飛び出し、アンナセイヴァーに襲い掛かって来た。


「うわ! なんだこれぇ?!」


「つ、追跡してきます!

 逃げられません!」


「くっ! ブラックキャノン!!」


 ハンドガンを取り出すと、アンナチェイサーは根に向かって発射する。

 銃口からは猛烈な炎が噴き出し、いくつかの根を焼き払う。

 それを横目に見たアンナブレイザーも、両拳から炎を噴き上がらせた。


「そうだなぁ! 樹は燃えるからなぁ!

 ファイヤー・パァンチ!!」


 炎をまとった強烈なパンチ連打で、次々に根を破壊する。

 一方のアンナローグは、アサルトダガーにエンジェルライナーも併用して斬撃で必至に抵抗していたが、尽きることのない猛攻にだんだん追い詰められ始めていた。


「こ、このままだと追い付かない!

 ――ボルテック・チャージっ!!」


 両拳を合わせて、唱える。

 その途端、アンナローグの全身は激しく発光し、全身の色が銀色に変化する。


 両手を広げると、それに沿って銀の光が胸の前に現われ、真横へ伸びていく。

 それは幅広の大きな剣の形へと変化、実体化する。

 刃渡り1.5メートル程のブロードソード型の武器を生み出したアンナローグは、半透明の刃越しにドライアードを睨みつけた。


“ヒィッ?!”


 アンナローグの、それまでと違う鋭い眼光に、ドライアードが怯える。

 次の瞬間、光の塊となったローグが超高速で突進した。


「てやあぁぁぁああ!!」


 いつもと違う、気合に満ち溢れたローグの叫び。

 ドライアードは、もはや単なる光の帯のようになったローグの連続斬撃を四方八方から受け続け、みるみるうちにその身体を削り取られていく。


 一方、アンナミスティックは。


「とああぁ――っ! よいしょおっとぉ!!」


 自身の倍以上もある背丈の、植物の巨人達相手に奮闘していた。

 扱い慣れているマジカルロッド・スティックモードを豪快に振り回し、周辺の瓦礫をものともせず、むしろそれを弾き飛ばしながら闘う。

 エントは必至で捕まえようとするも、高速回転し続けるロッドに手や腕を破壊されていく。

 一瞬怯んだ隙を突くように、ミスティックは


「グラヴィティジュエルっ!!」


 右手で印を象り、前方に翳す。

 前腕から超重力弾が発射され、それが着弾、エント達を一斉に捕えた。

 メキメキ、バキバキという耳障りな音と共に、エントはあっという間に押しつぶされる。


「みんなぁ! こっちはOKだよぉ!」


「よっしゃ、全員で一斉に決めるぞ!」


「うん!」


「了解」


「はい!」


 全員の意志が、一つにまとまる。

 現場からの被害者救出作業があるので、これ以上時間をかけているわけにはいかない。


 四人の鋭い視線が、ボロボロになりつつあるドライアードに向けられる。


“な、舐めるなぁ!

 せっかく手に入れたこの力ぁ! もっと、もっともっと使ってぇ!

 許せない奴らを皆殺しにぃぇえええええええ!!!”


「ローグ! 行くぜ!」


「はい!」


 銀色のローグと、真っ赤な炎を全身にまとったブレイザーが、再び同時にジャンプする。

 巨大な炎の矢のように、高速で飛翔するブレイザーと、剣を構えて特攻するローグ。


 だが攻撃が命中する直前、突如、ドライアードと樹がその場から消えた?!


「んな?!」


「大丈夫です!」


 目標を見失い、そのまま路面に大穴を開けてしまうブレイザーだったが、一方のローグは、六本のエンジェルライナーを街灯の柱に巻き付け、急速反転した。


 ドライアードは、二人を圧し潰そうとするように、上空に出現していた。

 だが、それを見越していたアンナローグの攻撃が、真向から衝突する。


“な、なにぃぃぃ?! な、なんでぇぇぇぇえええ?!”


「たあぁぁぁああああああっ!!」


 分厚い鋼鉄の塊をレーザー光線が撃ち抜くような、鋭い衝撃音。

 半透明の刃が、深々とドライアードの身体と樹を貫いた。

 上空で爆発、そこにアンナチェイサーが追い打ちをかける。


「ブラックキャノン! ワイドブラスター!!」


 ブラックキャノンの銃身がが八つに割れ、口径が肥大化する。

 光のエネルギーが集約し、銃身の内部が白色化していく。

 アンナチェイサーの視界に照準が発生し、ドライアード本体を捉える。


 トリガーを引いた瞬間、ブラックキャノンの銃身から巨大なビームが発射された。


“ぎゃあああああああああ!!!”


 巨大化したドライアードの全身を包む程の高火力攻撃。

 避けることもなく直撃を受けたドライアードは、全身を炎に包みながら落下する。

 そこに、更に炎の矢が突っ込んで来る。


「今度は外さねぇ! ファイヤーキィ―――ック!!」


 超低空飛行で突進するアンナブレイザーの攻撃で、ドライアードは避ける暇もなく大破する。

 信じられないものを見るようなその目が捉えたのは、彼方で右手を翳しているアンナミスティックの姿だった。


「――グラヴィティジュエルっ!!」


 最後の追撃。

 超重力弾をまともに食らい、スクランブル交差点のど真ん中で押し潰されていくドライアードは、悔しそうな表情を浮かべながらアンナセイヴァーを睨みつけた。


“うご……う、嘘で……しょ。

 こんなとこで……じゃあ、あたし……何のために死んだのよぉぉぉおおお!!!”


「えっ?!」


 ドライアードの悲痛な叫びは、断末魔となった。

 半球状にへこんだ路面と共に、ドライアードと彼女を載せていた巨木は、信じられない程薄っぺらい物体となり、やがて粉々に砕けて消滅した。



「やった、な」


「よっしゃあ! 思ってたよりは手こずらなかったな」


「うん! じゃあ早速戻って、救助活動しようよ!」


「……」


 全身の銀色の光が消え、手の中の剣も消滅したアンナローグは、喜ぶ三人をよそに一人だけ複雑な表情を浮かべていた。





“じゃあ、あたし……何のために死んだのよぉぉぉおおお!!!”





(何のために、死んだ?

 死んだって、どういうこと……?)



 三人に声をかけられている事にも気付かず、アンナローグは、呆然と陥没した路面を見つめ続けた。




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